彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦ROUND7 ③

 ──脅威に思考を委縮させてはならない。

 

 上層から二宮が現れた瞬間。

 あくまで冷静になるために、そう加山は頭で唱えた。

 

 一階にいる加山と村上を吹き抜けから見下げる形で、二宮は三階にいた。

 

 迎撃の為に、更にキューブを作成している。

 

 ──二宮隊はここまで潜伏をしていて、そして分電盤の破壊まで行った。全員合流をして動き出していると考えるのが自然だ。

 

 それ故に。

 加山は左右の扉を見回した。

 

 いるはずだ。

 二宮のド派手な登場に意識を割かせている間に──側面から攻撃を仕掛けようとしている何者かが。

 

 足音が聞こえる。

 その足音の音色から──加山はその正体を看破する。

 

「こんちゃす辻先輩」

 

 東側の非常階段から奇襲をかけんとする辻の姿を見咎め、その出入り口付近をエスクードで固める。

 扉を叩き斬り旋空での初撃を与えんとする辻の前に──エスクードと、その上を通るハウンドが見える。

 辻は特に慌てることなく、シールドでハウンドを防ぎつつ、加山の右手側へ移動していく。

 

「俺が副作用持ちなの忘れてたんですか? この距離で襲い掛かっても意味は無いですよ」

「君が目的じゃないからね」

 

 エスクードを斬り裂く辻と加山は対峙する。

 

 ──実のところ、この狙いは加山も理解している。

 ここで二宮隊が仕留めんとしているのは、加山ではなく

 

「チッ..... 」

 

 村上だ。

 

 モール内の戦闘において、攻撃手は非常に有利となる。閉所空間故に身を隠しつつ距離を詰める事が容易だから。

 特に村上は、図抜けた防御能力を持つが故に二宮の猛攻をしのぎ仕留められる可能性もある。

 

 一階にいる加山を止めに向かう村上の動きを見つつ。

 二宮は射角が取れる上の位置を確保しつつ、辻を動かし加山を村上から引き剥がした。

 

 ──俺と村上先輩が連携することも頭に入れていた訳ね。

 

 前回の戦いで、加山は敵部隊の駒同士をぶつける立ち回りを行使していた。

 この状況に追い込まれたなら、高確率で村上と連携を取ると想定したのだろう。

 

 ──というか。ここで村上先輩に死なれると高確率で俺も死ぬんだよなぁ。

 

 頭上の二宮と、自らに襲撃をかける辻。

 加山が一人生き残ったところで仕留められるのは必定。

 

 ──当然、二宮隊の横槍の可能性は常にこちらも想定していた。逃走経路は用意している。しかし、

 

 加山がこの一階エリアから逃れる為に用意した逃げ道は、電気室からモールの外へと出る為の経路だ。

 仮に自身が電気室付近で襲撃を受けた場合に備え──電気室の壁を事前に破壊しエスクードで隠した逃げ道を加山は用意していた。

 

 しかし。

 現在加山は辻への対処の為に電気室とは反対側の位置にいる。

 ここから辻を振り払い、二宮が頭上に存在している道を横切り、電気室に入ってエスクードを破壊するか引っ込めるかする──というおおよそ三段階の手続きを経なければ逃走経路を辿ることが出来ない。

 

 ──仕方ない。ここは全力で村上先輩を援護しなければ。じゃなきゃ共倒れだ。

 

 二宮と村上の戦いを見ると、.....まあ想定はしていたが、村上が防戦一方の風情だ。

 

 二宮の攻撃に、ひたすらにレイガストで防護を行っている。

 攻撃手でかつ、相手は頭上にいるともなれば、攻撃の手段は限られているだろう。

 

 とはいうものの。

 辻が抑えているとはいえ、加山には中距離による攻撃手段がある。

 加山が仕留められるまではフルアタックは不可能なはずだ。

 

 ──ならば。

 

「村上先輩!」

 

 二宮のアステロイドが村上に放たれた瞬間。

 加山はその弾丸の一部をシールドで防ぎつつ、作成したエスクードの裏に回る。

 

 追撃しようとする辻は──その足を止める。

 

 なぜならば。

 加山の防御によって、スラスターの射出が間に合った村上が向かってきているのが見えたから。

 

「く....!」

 

 レイガストによる突撃をまともに受けた辻は、村上と共に壁際に追いやられる。

 

 村上と辻が密着している状況下。

 二宮は辻を巻き込む事を危惧し、村上へ弾丸を撃つことが出来ない。

 

 ならば、と。

 加山に視線をやる。

 

 村上から、加山へと視線を変える──ほんの数秒の間。

 その数秒の間で、十分。

 

「──サラマンダー」

 

 加山雄吾は。

 高速での合成弾の作成が行える。

 

「ほんっとうに上にいると偉そうですね。精々慌てふためけ黒スーツ」

 

 放たれた追尾弾は、爆雷を宿して放たれる。

 それは二宮が佇む上階へと殺到し──爆砕の火花を打ち上げた。

 

 

 爆撃が、二宮がいる二階部分を吹き飛ばした瞬間。

 来馬を仕留めた弓場と帯島は、戦闘に入った加山を援護せんと吹き抜けを一段ずつ飛び降りながら向かおうとしていた。

 

「──ド派手にやったな、加山」

「うっす。俺は外に逃げましたんでよろしく」

「了解」

 

 加山は爆撃により二宮の追撃をとめる間に、そのまま外への逃亡を果たしていた。

 

「.....ちぇ。両方生き残ったか」

 

 加山はそう舌打ちしつつレーダーを眺めていた。

 村上及び辻も、双方とも生き残っている。

 

 さて。

 逃げたのはいいが──ここからどうしたものか。

 

 現在、モールは電気が遮断され暗黒状態となっている。

 暗視を入れる事で敵の姿を見る事には問題は無いが、戦いにくい事この上ない。

 

 とはいえ。

 全員がその条件下で戦えるのならば、弓場隊としては格好の条件だ。

 

 加山は副作用で足音の判別が出来る。帯島は暗所での戦いを想定し鉛玉を付けており、なにより──モール内での遭遇戦であれば、弓場と二宮とぶつけた際にこちらが勝つ可能性がグッと高くなる。

 

 弓場と二宮。普通にタイマンをしたと想定するならば弓場が勝つ可能性は低い。

 しかし──弓場の早撃ちが活かせる距離感での戦いならば、弓場は十分に二宮に勝つことが可能となる。

 

 弓場側から二宮に対し急襲をかけられる状況に持ち込めたならば──仕留められる可能性は十分にある。

 

 障害物が多く、バッグワームでの潜伏がしやすいモールという地形条件。

 分電盤が破壊された事で作られた暗闇という環境条件。

 

 有利に働くのは、弓場隊の方だ。

 

「──当然。それは二宮隊も解っているはず」

 

 どう動くか。

 

 ──何より気味悪いのが、一階での戦いの際に顔も出さず、さりとて弓場にちょっかいをかける訳もなく、バッグワームで隠れて行動している犬飼澄晴。

 

 何が狙いなのか。

 一切解らない。

 

 

「やあ」

 

 外へ脱出し、モール内に戻ろうとしていた加山の眼前。

 

「──待ち伏せ成功」

 

 犬飼澄晴が、突撃銃片手にこちらに笑いかけていた。

 

 

 タタタタ、という乾いた銃声と共に。

 犬飼が加山の周囲をぐるり回り弾丸を撃ち込んでいく。

 

 もうこの時点において──加山の脳内にアラートがガンガン響き渡っていた。

 

 単独での撃退が難しいであろう力量の加山に対して、わざわざ姿を晒して攻撃を行った意図。

 そして、あからさまに時間稼ぎと誘導の意図が見える戦い方。

 

 理解できる。

 恐らくは──二宮がこちらに来ている。

 

「──クソッタレ」

 

 頭上から落ちてくるは。

 円弧を描いてこちらに降り注ぐ──ハウンドの豪雨。

 モールの中層辺りから放たれたそれは、加山のいる位置と反対側。二宮が放ったのだろう。

 

 そして

 犬飼の銃口は、こちらの足元。ハウンドにシールドを張らせておいて、がら空きの足を削るつもりだろう。

 

 そうはさせるか。

 加山はトリガーを変更する。

 

 そして。

 

 ハウンドをシールドで処理しつつ、犬飼の射線上にエスクードを生やす。

 

 足元へ向けられ放たれた弾丸はエスクードに弾かれる。

 

「ぐえ」

 

 そして。

 今度は犬飼の足元からエスクードを生やす。

 

 犬飼は顎にしたたかその壁を打ち付けられ、背後へと少々のけ反る。

 

 のけ反りつつ、射撃。

 

「.....クソが」

 

 犬飼は、加山がエスクードとシールドを装着している事を知った瞬間、トリガー構成を変更する。

 

 突撃銃向けつつ、キューブを生成。

 どちらも──ハウンド。

 

 エスクードを無力化する武器を二つ構え、加山に向け撃ち放つ。

 

 両脇。

 そして頭上。

 

 ハウンドの弾雨が降り注ぐ。

 

「──まだまだ」

 

 手持ちの防御手段は二つ。

 エスクード。そしてシールド。

 

 こちらのトリオン反応で自動追尾してくるハウンドに対してエスクードは無力。とはいえシールドのみでこれらの弾丸を処理することも難しい。

 

 ならば。

 エスクードを防御の手段ではなく、

 

 ──自らの肉体を逃す手法として用いる。

 

 加山はシールドで頭上の弾丸を事前に処理し。

 自らの足元にエスクードを発生させ──その勢いをもって自らの身体を跳ね飛ばす。

 

「おー。成程、そう来たかー」

 

 犬飼はそう感心しつつ、されど容赦なく追撃の弾丸を撃ち込んでいく。

 

 跳ね飛ばされた加山は、モールの壁に腰を打ち付ける。

 打ち付けた腰から、自らの足元のモールからエスクードを発生させる。

 

 弾丸が迫る直前。

 加山は何とか、足元を作りシールドでもって防ぐ。

 

「──背後ががら空きですぜ、犬飼先輩」

 

 ぼそり、加山が呟くと同時。

 

 犬飼の脳天に、照準を合わせる者がいる。

 

 ──全隊員の中、唯一外で待機を行っていた外岡一斗である。

 

「ごめん、加山君! 移動に少し時間食っちゃった」

「問題ないっすトノ先輩。そのまま撃っちゃえ」

 そう。

 問題ない。

 先程放たれたハウンドからしても、二宮がこちらに来るまでまだ時間はかかるはずだ。その前に犬飼を処理し、外岡が逃亡する時間も稼ぐ。ここで撃つのが、ベストタイミングだ。

 

 そうして。

 犬飼の脳天に寸分たがわず合わせられた照準から、イーグレットの弾丸が放たれる。

 

 しかし。

 

 シールドが、当然の如くそこに挟み込まれていた。

 

「....」

 

 加山も、外岡も、

 

 共に──苦虫を噛み砕きその体液を飲み下した際の表情に変わる。

 

 シールドが展開される瞬間に、モールの窓ガラスを破砕し現れた──二宮の姿に。

 

 

「.....これで、外岡の所在は判明したな」

「ですね」

「犬飼。お前は外岡を狩ってこい。──加山は俺が相手する」

 

 加山は、思考が追い付かなかった。

 

 何故だ、と思考する。

 あの位置からハウンドを撃っておいて──何故このスピードでこの位置まで二宮が来ることが出来たのだ、と。

 

 

 あ、と。

 加山は呟いた。

 

「置き弾か.....!」

 

 恐らく二宮は。

 ハウンドの置き弾をセットし、有効射程ギリギリまでこちらに近付き放ったのだ。

 建物の反対側から放ったのは、自らの姿が見えない事が不自然にならないため。そして、こちらと二宮との距離を自然に錯覚させるため。

 

 同じだ。

 加山がラウンド4で香取隊に使った手法と同じ。

 置き弾という手法を用いて時間差を生み出し自身の位置を隠蔽するやり口。

 

 その同じ方法を。

 そのまま二宮はやり返したのだ。

 

 この戦術によって──加山は二宮の位置を完全に読み違え、そしてその目的まで読み違えた。

 二宮隊の目的は、加山ではない。

 ──この戦場で唯一の狙撃手となった、外岡。こちらが目的だったのだ。

 だから自身の位置を隠蔽し、モールの

 

「さあ」

 

 犬飼は外岡を釣る為の餌だった。

 釣り糸たる二宮は置き弾によるカモフラージュによりその姿を完全に隠しきり。

 

 むざむざ──こちらが持つ最大のアドバンテージを、手放す事となった。

 

「──撃ち堕としてやる。かかってこい」

 

 一つ。

 息を吐く。

 

 ──やはり。二宮隊は強力だ。部隊の練度や能力もそうだが。こちらの狙いや動きの一歩先を普通に見据えて動いている。戦術レベルも、今まで戦ったどの部隊よりも高い。

 

 だが。

 このシチュエーションは──これまで訓練を重ねてきた構図と同じ。

 

 加山と二宮のタイマン。

 離れた位置に弓場と帯島。

 

 ──ここからは持久戦だ。勝つんじゃなく、耐える。耐えて、引いて、あの二人と合流する。

 

 大丈夫だ。

 その為の訓練は、ここまで重ねてきた。

 

「──さっきも言ったけど....本当に偉そうですねぇ」

 

 そして。

 生来の加山とは別の部分が──滲みだす感情が、言っている。

 

 あの──強者としての自負と尊厳を湛えた佇まいを、撃ち砕いてみたい、と。

 精々──狼狽して、這いつくばれ。

 

 自身の中に生まれた別の側面。そのあまりにもあまりな性格の悪さに心のどこかではドン引きしつつ、心のどこかではげらげら笑って。

 

 その結果──笑みの形に釣りあがった自らの表情を自覚しないまま。

 加山は──射手の王に向け拳銃を構えた。

 

 ――ぶっ潰してやる

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