彼方のボーダーライン   作:丸米

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ようやく決着.....


ランク戦ROUND7 ⑧ 〜総評も添えて〜

 ──もう、勝負のつけ方は決めている。

 

 この戦い。

 最後まで──自らが信じた方針に殉じよう。

 

 二宮隊に、もう一点もくれてやらない。

 

 

 二宮のアステロイドが、分割し弓場と加山に放たれる。

 

 ──そうだろう。そうするしかないだろう。

 

 加山も弓場も。

 双方とも、重い威力の拳銃を持っている。

 

 どちらの駒も無視できない。

 どちらか一方を倒したところで──どちらかに肉薄されれば、早撃ちで仕留められる可能性がある。一方に意識を集中させる事がどうしてもできない。

 

 

 だから──これが出来る。

 経験はしていない。──しかし、脳味噌の奥底で息づく自分のものとなった誰かの記憶が、呼び起こされる。

 

「エスクード」

 加山は、エスクードを二宮を中心に四方に張っていく。

 

 ──張り方は。

 

 ──黒トリガーを中心に、四方均等に円を作るように。

 

 

 

 四枚。

 

 八枚。

 

 十二枚。

 

 十六枚。

 

 

 外周を巡るように。多くの壁で二宮を囲い込む。

 

 

「.....ふん」

 

 二宮はその光景に、一つそう呟いた。

 この戦い方を。この光景を。二宮は克明に覚えていた。

 

 そう。

 これは──大規模侵攻でエネドラと対峙した際に、加山が用いた戦術。

 

「あの時は二宮さんが援護してくれましたけど──今度やられるのはアンタだ」

 

 エスクードを張りつつ、加山は移動を始める。

 

「....」

 

 二宮は──加山の位置に向かいハウンドを放出する。

 レーダー上に移るトリオン反応に向けて。

 

 エスクードごと吹き飛ばしたその視線の先。

 存在するは、──壁の残骸の下敷きとなったダミービーコン。

 

 

 破壊しても。

 まだまだエスクードは作られていく。

 

 散らされていくダミービーコンの先に弾丸を放つたびに。

 そのダミービーコンと並列して置かれた置きメテオラが爆発するたび。

 

 代わりのエスクードが増設されていく。

 

 

 

 ──さあ。この状況、二宮さんはどう思うだろう。

 

 

 自分が不利であることは承知しているだろう。

 自身が有利に取られている状況であるが故に──ここでリスクを取った行動も行使してくるに違いない。

 

 恐らく。

 何処かのタイミングで、フルアタックを解禁する。それは間違いない。

 

 ここまで、弓場の急襲を警戒したうえでシールドを解かなかった二宮。

 しかし。

 エスクードで常に視線を塞がれ、位置もビーコンで攪乱されている状況下。片側だけのアステロイドとハウンドだけでは、ジリ貧であると気付くはずだ。

 

 

 そして。

 こちらは──有利を取っているものの、それは二宮の前において薄氷の代物。

 この有利は縋れるものではない。

 このエスクード群も、脇二人が消え、防御に意識を割かねばならない状況下故に作られているもの。

 

 片側だけのアステロイド弾にも、木綿豆腐の如く砕けていくエスクード。フルアタックを行使されれば、エスクードによる防御は間に合わないだろう。

 

 

 当然。その瞬間は弓場が攻撃を仕掛ける好機でもある。

 

 

 フルアタックを誘い、弓場に撃たせる。

 しかし当然二宮はそれを警戒している。

 二宮は──弓場がこちらに襲撃できないタイミングを作ったうえで、こちらにフルアタックを叩き込むはずだ。

 

 

 警戒されて尚──二宮の懐に、弓場を送り込む。

 

 その為に何をするべきか。

 

 

 ──僅かでも有利な状況が存在するならば、当然それを活かすべきだろう。

 

 相手は二宮隊。

 総合力において比類なき存在として君臨する部隊に対して有利を取れている状況にあることこそが、まずもって奇跡。

 

 この奇跡は。

 事前の想定と備えと運。そして──外岡と帯島が繋いできた故に、形成されたもの。

 

 だからだ。

 だからこそ。

 

 ──楔を、打ち破る。

 

 加山は。

 バッグワームを解く。

 

 加山は賭ける。

 

 ここで──二宮が即断で攻勢をかける事はしないと。

 

 

 ここまで幾度もダミービーコンによる偽トリオン反応を見せつけてきたのだ。

 そして──以前のラウンドでビーコンの反応に釣りだされ、部下の犬飼が若村に仕留められた記憶もある。

 

 ここで──自身の位置を隠しながら二宮を囲えている有利を、自ら投げ捨てるとは考えないはずだ。

 不利になってから賭けに出ても遅い。

 賭けに出るなら──有利を守ろうとする思考の楔をぶち破った上でだ。

 

 だから数秒。

 

 エスクードの増設が、トリオン反応が生まれた瞬間にピタリ止まったと気付くまでの数秒までの間。

 

 二宮は──エスクード越しに発生したその反応が加山であることに、気付く。

 

 即座に迎撃を仕掛けんと動き出すが。

 

 

 その数秒で、十分。

 

「──サラマンダー」

 

 バッグワームを解き、トリガーを切り替え──メテオラとハウンドを合成する。

 

 

 同じだ。

 あの時と同じ。

 

 あの時──サラマンダーを放ったのは、二宮だった。

 

 

 放った爆撃弾は、二宮に直接当てるのではなく、その周辺に撒く。

 

 

 あの時。

 こんな土煙が巻き起こる中で、エネドラは敗れた。

 

 太刀川と風間の挟撃によって。

 

 

 今この時。

 太刀川と風間はいないが──必殺の銃手が、ここにいる。

 

 巻きあがる土煙が周囲に撒きあがり、更に視界が悪くなる。

 

 その時であった。

 

 

「よゥ、二宮サン」

 

 

 煙の中反射するメガネのレンズ。

 その姿を二宮は捉えた。

 

 テレポーターにより移動したのだろう。

 その手には、拳銃が一つ。

 

 相対距離、およそ十五メートル。

 

 

 そして──たった今、更に生成される拳銃も見える。

 

 

「ここは、俺の距離だ」

 

 

 ひゅ、と一つ息を吐く音と共に。

 二宮が形成するシールドよりも速く、弓場の拳銃が──二宮の胴体を撃ち抜いた。

 

 

「....」

 

 

 二宮は──眼前に捉えた弓場と加山の姿を一瞥し、そのまま瞠目した。

 

 

 かくして。

 ランク戦ROUND7は終わった。

 

 弓場隊4点+生存点2点。

 鈴鳴第一3点

 二宮隊1点

 

 これにて。

 

 

 弓場隊は41ポイントで、二宮隊は39ポイント

 

 7ROUNDにして──弓場隊は暫定一位の座を勝ち取った。

 

 

「試合終了! 最後の最後で大逆転! ──弓場隊が勝利しました!」

 

 この結果に、客席が大きくざわめく音が聞こえた。

 ここに来て、二戦連続で二宮隊が敗北する事もそうであるが。

 

 何より、──観客席から見れば、最後の村上が関わる弓場隊の立ち回りが理解しきれていない部分が多いのだろう。

 

「えーと.....最後の展開がとにかく怒涛の展開でしたね。観覧席の人たちもかなり気になっている事でしょうし、総評をよろしくお願いします!」

 

 そうして実況の宇井からバトンを渡された二人は、互いに視線を合わせる。その視線から「初陣を任せる」という意図を東は出水から感じ取った。

 

「この試合は、二宮隊と弓場隊の戦術志向の違いがかなり浮き彫りになった試合だったと個人的には思いますね」

「戦術志向ですか?」

「はい。──まず、前提ですが。部隊にはそれぞれ戦術レベルの高低があります」

 

 ランク戦において、各部隊それぞれの戦術レベルがある。

 

 それは部隊が運用できる戦術構築のレベルであり、戦いの場でいち早く情報を察知し対応できる能力であり、──自らの戦術を行使し、そして相手の戦術に対応できるレベル。

 東春秋は──相手がどの程度の戦術レベルにあるのか、それを知ることが重要であると常に言い続けてきた人間である。

 

「戦術レベルが低く、常に同じ行動を取り続ける相手に対して複雑な搦手を取ろうとしても意味がない。逆に高度な戦術眼を持つ相手に対して安易な戦術に頼ると対応されカウンターを食らう場合もある。戦術で相手に対抗する時は、常にそのレベルを推し測らなければいけないのです」

 

 相手はどの程度の戦術レベルを持っているのか。そこを把握しないまま戦術を運用すれば、その策が自らにしっぺ返しされる事もありうる。策士策に溺れるではないが、常に戦術は「相手に対応する/させる」の思考を持っておかなければならない。

 

「そして。今回の二宮隊と弓場隊は、互いに正確な戦術レベルを把握できていたと思います。──だな、出水」

「ですね。試合中にも言ったと思うっすけど、加山の戦術も犬飼先輩はかなり読んでいて、二宮さんも途中まで加山の策をかなり潰して追い込んでいた。そして加山も所々対応されつつも、肝心な部分ではしっかり相手の動きを読んで危機を脱出していた。お互い、相手の考えを把握していたからこそああいうやり合いが出来ていたんだと。そう俺は思いますね」

「そう。──しかし。互いの戦術レベルを把握しているという事を前提に、弓場隊はここでもう一手踏み込んだ。それが、終盤での逆転に繋がったと思いますね」

 

 それは、

 

「弓場隊は──敢えて最善の戦術を取らず、それよりも遥かにリスクの高い戦術をここで持ち込むことで、二宮隊の想定を裏切る方向に舵を取った。それの一番象徴的なのが、村上の利用でしょう」

 

 弓場隊は──外岡を落とされ、加山が二宮隊に囲まれ、そして弓場が村上に仕掛けられた事で、一気に不利に陥る。

 

 あの場面。二宮隊は三人で加山を落としにかかった上で、弓場と村上のタイマンが始まった事で──二宮隊三人が健在な中、弓場隊が壊滅する可能性も十分にあり得た。

 

「しかし。帯島の機転によって弓場をタイマンから逃し、村上を浮かし二宮隊の側に動かしたことで──弓場隊は部隊全体で”村上が二宮隊を仕留められる”状況を作り出し、村上に点を取らせた。辻は加山が。犬飼は帯島が。それぞれ援護を入れる事で村上を動かし──辻と犬飼という、二宮を仕留めるにあたって一番邪魔になるカードを排除した」

「多分──二宮さんは村上先輩の気まぐれで状況が左右されるような不安定な策だ、って否定すると思いますね」

「そう。実際不安定には違いない。仮に村上が、弓場隊が作ったその状況を、罠と警戒して踏み込んでこなければ。そもそも弓場隊の意図が村上に伝わってなかったら。全てが瓦解する不安定な策ではある。──今までのランク戦でならば、こんな不安定な策を取る事はしなかっただろうし、そんな策を取ると二宮隊も踏んでいなかった。これまで弓場隊が積み重ねてきたものがあったからこそ、刺さった戦術だったと思いますね」

 

 これが仮に、今までずっと不安定な戦術運用をしてきた部隊が仕掛けてきたものであれば、如何様にも対応できたかもしれない。

 しかし。

 今まで弓場隊が最下位から戦い続け──二位まで上り詰めてきた積み重ねがあり、それに相応しい戦術レベルを見せてきたからこそ。

 この最終局面において──唐突に採用した不安定で、最善には程遠い戦術が、二宮隊の対応能力を超えて彼等の喉笛を貫いた。

 

「ただ。不安定と言っても、ちゃんとその策が通るように種を撒いてきたことは事実だ。村上の行動に大きな制限をかける来馬を先んじて暗闇戦術で排除し、鈴鳴第一に得点機会を与えず、積極的にポイントを取らせに行く布石も打った。中位から昇格したばかりで、上位残留を果たしたい鈴鳴第一の状況も加味して、十分に村上が乗ってくる根拠を積み上げた上で、実行した戦術。常に最善の行動を取り続ける二宮隊に対して──自身の戦術レベルの想定を裏切る事で打ち破った。こういった、戦術志向の違いがあり──今回は、弓場隊の策が実った。そういった戦いだったと思います。──さて、出水。お前の方も総評を頼む」

「もう東さんにほとんど言われてしまいましたよ」

「最初に俺に喋らせるからだ。──まあ、なんだ。お前も二宮の師匠だろう。何か気付く事もあったんじゃないか?」

 東がそう促すと。出水は少しだけ考えて、口を開く。

「あー。なんか、すんごくふんわりした話になるんですけど」

「なんだ?」

「これも戦術志向の話に近いとは思うんですけど。──二宮さんはどっちかというと、戦術を詰め将棋みたいな感じに捉えているところはあるのかなー、と思うんすよね」

「ほうほう、詰め将棋ですか」

「そう。──二宮さん自身がそもそも太刀川さんに次ぐ戦闘力2位の化物で。その上マスタークラスの攻撃手と銃手がいる。誰よりも強い駒があるからこそ、”部隊が倒される可能性を排除する”方向で戦術を構築してきたと思うんですよ」

 

 二宮隊は、B級においてまさしく鬼門と呼ばれるほど強力な部隊であった。

 

 射手の王であり、出会えば即死のギミックである二宮と。

 そのギミックを運用するにあたって最高クラスのサポーター二人。

 

 自身の強力さを前提として。

 相手がこちらに抵抗できる手段を、最善の戦術と最高の実行力を以て奪っていく。

 

「戦術力って、基本的にその状況に刺さるかどうかって部分と、実行するのにどれだけのリスクがあるかの二つの要素がブレンドされていると思っていて。基本的に、二宮隊は実行するにあたってのリスクを排除しつつ戦うのが基本にあるんです。それは、どの部隊よりも遥かに強力な総合力を持っている部隊だから、リスクなんて取る必要ないですから」

 

 そして、

 

「逆に、今回の弓場隊は──何というか、何処までも不安定な綱渡りを敢えて行った感じがあって。大きなリスクがある事を承知の上で、二宮隊の詰め将棋を壊すための策を打っていたと思うんですよね」

 

 最善の行動、というのは。

 次第に択が狭まっていく。

 

「さっきも言ったんですけど。多分二宮さんは、相手の心持ち一つで簡単に行使できなくなる策が大嫌いなんだと思うんです。多分二宮さんが加山と同じ立場になっても、絶対に採用しない戦術だと思います。そして、加山はその最善を理解しつつも、勝つために簡単に捨てられる強さがあるんだと思うんです」

 

 最善を理解できる強さを持ちつつ。

 それを簡単に捨てて、不安定でリスクのある策を採用し実行する強さ。

 

「最善策同士でぶつかりあったら、より総合力が高い方が勝つ。その基本が理解できているから二宮さんは最善を取り続けるし、同時に加山も理解できているから最善を捨てられた。──どっちが高度か、って話じゃなくて。東さんが言ったように戦術志向でしかない。そして、今回は弓場隊が──分の悪い賭けに勝った。それだけの話だと思いますね」

 

 最善を取り続け、勝つ可能性を百パーセントに近付けていく二宮と。

 最善を捨て、僅かな可能性が残る道を補強していく加山。

 

 今回はその二つがぶつかり合った戦いで。

 二転三転と状況が転がる中で──制したのは、弓場隊であった。

 

 

 そういう戦いだったのだ。

 

 

「....」

 

 試合が終わり。

 皆が皆──ぐったりと作戦室で座り込んでいた。

 

「....勝ったんですよね?」

「勝ったぞ。──そして一位だ」

 

 

 弓場は変わらず壁に腰かけたまま立っているが──顔面にはやはり緊張が解け、緩和した表情筋が少々見える。

 そして──作戦室を見渡しつつ、言う。

 

「──お前等、よくやった。俺達は、俺達の楔をここでぶち破れた」

 

 楔。

 弓場も。帯島も。外岡も。──そして、加山自身も。

 

 自分たちを繋ぎとめてきた楔を破り、二宮隊を打倒しえた。

 

 

「これが出来るなら──もう俺達は負けねェ。次のランク戦も、全力をぶつけるぞ!」

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 次の対戦カードが発表される。

 ランク戦最終ROUND。

 

 

 

 弓場隊 東隊 生駒隊

 

 

 

 そして。

 

 

 ──玉狛第二。

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