彼方のボーダーライン   作:丸米

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礼節の理由を述べよ

「次の相手.....解ってはいましたが玉狛ですね」

 

 玉狛第二。

 二宮隊を倒し、そして影浦隊・生駒隊・香取隊のマッチングの中で九ポイントを稼いだ──現B級において最強の部隊。

 弓場隊作戦室内。加山は一つ溜息を吐く。

 

「今のところ、玉狛は38点で弓場隊は41点。3点差か.....。前回九得点もぎ取っている相手だから、安心できる点差ではないね」

 外岡もまた、どうしようかと頭を悩ませていた。

「何にせよ──雨取さんへの対策打っとかなきゃお話にならない。玉狛だけミサイル持ってるようなもんでしょアレ」

「倒すにしても、序盤のうちに片付けておかないと。点を取られてからどうにかしようとしても遅いからね」

 

 効果範囲の大きい爆撃と、必殺のフルアタックを併せ持つ怪物。

 それを擁したうえで──空閑遊真とヒュースがいる。

 

「雨取さんとあの二枚の駒を引きはがせれば勝てる──ってほど単純な話でもないのがね」

 

 前回のラウンド。

 影浦以外全員がバッグワームで隠れた上で潜伏戦を挑んだ結果がどうだったのか。

 

 結局の所、ヒュース・空閑との遭遇戦に乗じた爆撃と砲撃で壊滅状態に陥った。

 

「雨取さんとあの二枚が引き剥がされた()()()、倒さなきゃならない。引き剥がしただけだと更地にされて終わり」

 

 バッグワームで全員が潜伏するところまではいい。

 点を稼がなければいけない玉狛は、自身に不利な遭遇戦であろうとも仕掛けなければいけない。

 

 しかし──仕掛けられ居場所が割れた瞬間、あの砲撃と爆撃で壊滅させられた。

 

「そして下手に近付けばハウンドとアステロイドでぶっ殺される。──近付くにせよ、絶対に気付かれるわけには行けない」

 

 つまるところ。

 雨取千佳を序盤にて仕留めるにあたっては二つの条件をクリアせねばならないのだ。     

 

 ①ヒュース及び空閑遊真との分断。

 ②分断のタイミングと合わせての、雨取千佳への襲撃。

 

「....きっつい」

「本当にね」

 

 加山と外岡は、両者とも一つ溜息を吐いた。

 

「取り敢えず。やれることは全部やっておかなきゃいけないっすね。俺は一旦、今までの戦い方を忘れます」

「へぇ。何をするつもりなの?」

「ちょいと隊長と相談はしますが──今回、大幅にトリガー構成変えます」

「....本当に? 最終戦だよ?」

「最終戦だからこそですよ。ある程度賭けをしなきゃ勝てる相手じゃない。──それに最終戦だからこそ、出来る備えもある。明日からも大忙しだ」

「そうだね。明日から頑張らないとね。──あ、そうだ。加山君」

「ん?」

「隊長がね、ランク戦最終戦終わった後にお店予約してるって」

「おお。それはいいですね」

「王子隊と──それと、神田さんが参加するみたい」

「....」

 

 神田。

 加山が弓場隊に入隊する前の部隊員。

 

 面識、それほどなし。

 

「いい報告できるように気張れよ、って弓場さんから」

「了解でーす」

 ここで三位に転落して顔合わせ──なんて結末で顔合わせするのは御免だ。

 頑張ろう。

 

 

 その後。

 

 加山は訓練室に籠り、ひたすらに反復練習を繰り返していた。

 

 トリガー構成を変えるに辺り、万が一にもトリガーの取り換えミスが発生しないように。帯島や弓場との実戦も交えて──新しい構成が頭と身体に染み付くまで、繰り返した。

 

 ──今回の戦い方は、自分が培った戦い方より、エネドラの戦い方に寄せたものだ。

 

 今までの戦い方を研究し対策すればするほど。

 今回の戦い方はより刺さってくれるだろう。

 

 最後は──自分自身の楔を打ち破る。

 

 

「疲れた」

 

 ランク戦夜の部が終わった次の日もひたすら訓練を繰り返していた加山は、そう呟いた。

 肉体的な疲れは、トリオン体ゆえに存在しないが。慣れないことを繰り返すのは普通に脳味噌に来るものがある。

 

 とはいえ、そのおかげか──ひとまずトリガーの切り替えミスはしなくなった。後は少しずつ練度を上げていくだけ。

 

「お疲れ様ッス」

「はいお疲れ、帯島。悪いねぇ。遅くまで付き合わせてしまって」

「いえ。こっちとしてもとてもいい特訓になったので。礼には及ばないッス」

「飯はまだか? よければ奢るぞ」

「いえ、それは...」

 

 一旦は断ろうとしていた帯島であったが。

 

「....あ、いえ。やっぱりご馳走になるッス」

 

 と。すぐさま誘いに乗ってくれたのであった。

 

 

 ボーダーの食堂で──とも思ったが、流石にそれは味気ないよなぁと思い。この間王子先輩に奢ってもらった焼き肉屋に行こうとしたが。

 焼肉を奢るという文面だけで、帯島が拒否。それならば割り勘をすると聞かなかったのでさてどうするかと悩んだところ。

 

 ──そういえば、影浦先輩のとこお好み焼き屋だって言ってたな。

 

 そう思い付きお好み焼き屋を提案したところ、一発でOKを貰ったため。そちらに向かう事になりました。

 

 

「へぇ。ここが影浦先輩の店なのか」

 

 その後。

 店に辿り着き、席に着く。

 

「自分は何回か来たことがあるッスね。攻撃手の先輩方によく連れていってもらってました」

「攻撃手というと、個人戦狂い勢か? 米屋先輩とかあのあたり」

「あのあたりッス」

「成程。──あ、すみません。注文いいですか?」

 

 その後。

 各自ドリンクを頼み、帯島は豚玉を、加山はちびたとん平焼きを注文する。

 もっと食べて下さいと帯島につつかれ、仕方なしに焼きそばを追加注文。食いきれなかったら帯島に食わせればいいやと言う実に簡単な考えであった。

 

「それじゃあ──7ラウンド目終了お疲れ様と暫定1位おめでとうという事で。乾杯」

「乾杯ッス」

 

 互いにグラスを合わせ、烏龍茶を飲む。

 

「こうして二人で飯を食うってのははじめてかね」

「ボーダーの食堂で何度かご一緒したくらいッスね」

「まあ、俺が基本外食しないからなぁ。隊長が音頭かけないと家でぽりぽり野菜かじってる」

「.....いつも思うんですけど、加山先輩ちゃんとご飯食べてますか?」

「食べてる食べてる。流石に野草食ってた非文明人からは脱したよ。体重も一キロ増えた」

「....ちなみに体重って何キロですか?」

「38キロだが?」

「もっと食べてください....!」

 

 身長150程度だと適正体重はおおよそ47キロ位だという。30キロ台だと、最早あばらが浮き出しているレベルの肉付きのなさだ。身長体重共に恐らく帯島以下であろう。何度でも言うが、やろうと思えば帯島は十二分に加山を絞め殺せる。

 

「まあ、なんだ。今更かもしれんが」

「何ですか」

「ありがとな」

「へ?」

 

 帯島は──突如として加山から礼を言われ、思わずそうこぼしていた。

 

「弓場先輩や藤丸先輩は色々織り込み済みだっただろうけど。その当時のお前や外岡先輩にとっちゃ──俺は隊長の個人ポイントと隊の順位を最下位に叩き落した原因でしかなかったろ」

「そんな事はないッスよ」

「まあ、ほら。そう思ってくれることも汲んで隊長もあの時俺に力を貸してくれたんだろうけどさ。俺個人としては、以前のランクよりかは上に行かなきゃならねぇ、って思っていたのよ。──今回暫定とはいえ一位とれて、少しホッとしたのよ。礼を言えるくらいには余裕が出来たから、言わせてもらった」

「....余裕ッスか」

「そう。まだ上位にも入れない状態で礼なんか言ったら予防線みたいじゃない。ロクに力にもならなかった時に責められないように先んじて礼を言いやがったなこの野郎──って思われない為に。まあひとまず以前の順位よりかは落ちなさそうなこのタイミングだからこそ素直な気持ちを言えたわけデス。ごめんね面倒な先輩で」

「....」

 

 帯島から見た加山は、飄げてはいるものの──根底の気質は何処までも真面目なのだと、そう判断していた。

 そして。

 その真面目さの裏側には、どうしようもない責任感もあるのだと。

 

 加山が弓場隊に入った経緯を、弓場は取引だと言っていた。あの時、黒トリガー争奪戦の際に加山に手を貸す代わりに、加山には弓場隊に入ってもらう。そういう取引であったと。

 

 取引と言うならば、それ以上の責任は発生しないはずだ。弓場は加山に手を貸し、加山は隊に入った。その結果として弓場隊が下位に沈んだとしても、その責任は加山だけに負わせるものではないはずだ。

 それでも。

 加山はその責任を感じていて──その責任の果たし方として、必ず弓場隊を上位に浮上させることを決意していたのだと。

 

 だから。こうして上位に浮上するまでは、礼すらも言うことが出来なかった。その礼が、後々の責任逃れの理由にしたくなかったから。

 

 

「──自分は、先輩に感謝しているッス」

 

 だから。

 帯島もまた──自分の気持ちを、この場に乗じてしっかり伝えることにした。

 

「正直。神田先輩が抜けた後に──ウチが上位残留できるのか。本当にギリギリだと感じていたんです」

 

 弓場隊における神田忠臣という存在は、本当に大きかった。

 弓場というエースを活かすうえでも。隊のバランスを取るうえでも。

 

 現場指揮を行えて、オールラウンドな場面に対応できる神田が抜けて──今まで通りに戦うことが出来るのか、と。

 

「神田先輩が抜けたから。自分の力が及ばなかったから。だから上位から脱落するんじゃないかって──そう言われるかもしれない、って。ずっと不安だったんです」

 

 でも。

 弓場はすぐにその穴埋めを行うべく──自身のポイントを犠牲にしてでも、加山を連れてきた。

 

「あの隊長が、自分だけならともかく──隊全体の順位を落としてまで連れてきたのが加山先輩なんです。自分は隊長の目を信じているッス。勿論それは、外岡先輩も同じことを思っているはずです」

 

 だから疑念なんて生まれなかった。

 

「そして。こうして結果まで出してくれて。今A級に上がれるかどうかの瀬戸際まで押し上げてくれた。加山先輩抜きでここまで来ることはできなかったのは、確かな事なんです。──だから、礼を言うのは先輩じゃなくて、自分の方です。ありがとうございます、加山先輩」

 

 そう言って、一つ頭を下げる帯島を見て。

 加山はそうか、と一つ呟いた。

 

 

 そして。

 

「──お」

 

 注文物が来て、さて食べようかとした瞬間。

 ぞろぞろと店の中に顔見知りが続々入ってくる。

 

「おう加山。そんで帯島。お前もこっちに来てたか」

「どもども荒船パイセン。おひさです~」

 荒船哲次が帽子を取りながら入店すると同時。

 

「お。来てやがったのかよオイ」

「お邪魔しています~」

 影浦雅人。

 

「あ、帯島ちゃんに加山君だ~。──加山君食べる量すくなっ」

「ゾエさんにゃ一口でしょうねこの量だと」

 北添尋

 

「....よう。この前のランク戦はいいように使ってくれたな?」

「ふっふっふ。恨みっこなしですよ村上先輩」

 村上鋼。

 

「いえ~い。最近個人戦バリバリ勢の加山じゃ~ん」

「いえ~い。この前赤点6つの大記録達成と共に本部長に呼び出されてたよねやん先輩じゃ~ん」

「おいこら」

 米屋陽介。

 

 更なる客の大入りと共に、まだまだ夜の時間は続いていく。

 

 

 




ドラフト....!
ランク戦終わらせるモチベがとんでもなく湧いてきました。頑張ります。
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