彼方のボーダーライン   作:丸米

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最終戦突入


ランク戦最終ROUND ①

「──今回はいい感じだったな」

 

 弓場隊作戦室。

 訓練ルーム内には──瓦礫の山が積み重なっていた。

 

「それじゃあ。もう一回やりますか。──藤丸さん。お願いします」

 

 瓦礫の山が消え、元の光景が回帰する。

 それは市街地Bの中央地点。高層ビルが多く集まるオフィス街地点であった。

 

「──もう一度確認しますよ。三分。爆撃とアイビスの雨あられに耐えますよ。それじゃあもう一回」

 

 六十メートル程の距離を置いて。

 外岡一斗はアイビスを構える。

 

 そこから放たれるは。

 太い光塵から放たれる──砲台の如きトリオンの暴力。

 

 周囲のビルを薙ぎ払うそれらから、虫が散るように加山・弓場・帯島が避けていく。

 

 地盤ごと貫き、クレーターを生み出すアイビスの弾丸が更地にするそのタイミングで。

 巨大なメテオラの爆撃が降り落ちていく。

 

 三人はその攻撃に対して、ひたすらに逃げを繰り返していく。

 

 

「割と対策すれば生き残る時間を稼ぐ事は出来そうですね」

 

 今回、外岡のトリオンを雨取千佳と同じ量に設定し、ひたすらに爆撃と砲撃を繰り返しそれから逃れる訓練を行った。

 その結果理解した事は。

 

 爆撃然り、砲撃然り、──直撃すれば死に直結するが、その余波によるダメージは最小限に抑えることが出来るという事だ。

 建物の背後に向かい、その上でシールドを張れば──割と余裕をもって防げる。

 

 とはいえ。

 それは周囲に建造物が残っている場合だけ。

 

 集中砲火を長時間受けたら結局瓦解する。

 そして

 

「ここで足を止めてしまえば──結局の所玉狛の他の駒がやってくるんですよね」

 

 結局、あの爆撃で足を止められていくうちに空閑とヒュースという二枚看板がすっ飛んでくるという仕様である。

 

 何というズル。

 

「ただ。──だからこそ、その瞬間だけは雨取さんを倒せる隙を作ることが出来る」

 

 砲撃と爆撃。

 それを行使する中で雨取千佳の居所を掴み、空閑とヒュースの二枚を引き離す。

 その瞬間であれば。

 玉狛の隙をつくことが出来る。

 

「俺達にあって、玉狛にないのは──待ちの戦術です。あっちはB級2位に入らなければ遠征に入れないから前のめりで点を取らなければいけないけど──俺達は現時点で1位ですので、ある程度余裕はあります」

 

 その前のめりな姿勢というのがあまりにも恐ろしい訳だが。

 それでも、あの強烈な破壊力で待ち構える戦術も選択にはいってしまうともう打つ手がなくなってしまう。

 

「.....そこに賭けるほかないですね」

 

 間違いなく玉狛第二は、B級最強の部隊だ。

 確実に勝てる保証も、確実に通る戦術もない。

 

 どれだけ準備したところで──出たとこ勝負になるのは仕方がない。

 

 次の戦い。

 全てを賭ける。

 

 それ位しか──結局できることは無いのだ。

 

 

 そして。

 

 来る日は、3月5日。

 

 ──ランク戦夜の部がスタートする事となった。

 

 

 

「ボーダーのみなさんこんばんは! 海老名隊オペレーター武富桜子です!」

 

 にこやかな声が木霊する。

 

「ついにランク戦も最終戦となりました! 最後を飾る運命の一戦──戦うは、弓場隊、玉狛第二、生駒隊、東隊の四部隊です! ではでは、最終戦に相応しい解説陣をご紹介いたします!」

 

 興奮気味かつ、実に騒がしく──実況の武富が捲し立てると解説陣の紹介へ移っていく。

 

「A級加古隊、隊長の加古望隊長と、玉狛の元S級隊員、迅悠一さんです!」

 

 その隣。

 にこやかな流し目で周りを見渡す加古望と。

 バリボリとぼんち揚げを食べている迅悠一の姿があった。

 

「よろしく」

「よろしく~」

 

 二人は軽い調子で、そう呟いた。

 

「さて! これで正真正銘最後のランク戦となる訳ですが──ランク戦昼の部における得点の推移をまず見てみましょう!」

 

 ランク戦昼の部の上位戦。

 二宮隊、影浦隊、鈴鳴第一の戦いは──二宮隊が四得点、影浦隊が三得点、鈴鳴第一が一得点という結果に終わった。

 

 結果。

 

 二宮隊の今季得点が確定し43点となった。

 

 その為──現在41得点の弓場隊が首位を維持するに必要な点数は三得点で

 現在38得点の玉狛第二が二位に上がるには──六得点を取るか、もしくは弓場隊の得点を抑えつつ弓場隊の総得点を超える必要がある。

 

「ランク戦の最終順位は、同点時は昨季の順位が優先されますので──二位以内に残留できるかは二宮隊を超える”44得点”に達することが出来るかに焦点が当たる事となります!」

 

「六点ね」

 加古がそう呟くと。

「はい。六点ですね」

 と、迅が呟いた。

 

 六点──。

 口に出すほど、簡単に取れる点数ではない。

 

 

「前回九得点も取れたから大丈夫でしょ、って言ってやりたいけど──今回は中々条件が厳しいわね」

「ですね。生存点を取る条件がかなりしんどい」

「今季ランク戦──中位戦が中心だったとはいえ、まだ一度も落とされていない東さんがいるわ」

「上位戦中心で前線にバリバリ出てたのにまだ二回しか落とされていない加山もいますね」

 

 玉駒の上位進出をはかる上での目の上のたん瘤。

 それは──東春秋と加山雄吾。

 

 共に、生存率が非常に高いという性質を持った駒であり──東に至っては一度たりとも倒されていない。

 六得点を取るにあたって、生存点を取る事も必須の作業となるであろう。それ故に──この二人をどう盤上から消すかが最も重要になってくる。

 

「今回──マップ選択権のある東隊は市街地Bを選びましたね。やはりこれは、雨取隊員の砲撃を警戒しての事でしょうか?」

「それはそうでしょうね。──狭い場所、障害物の少ない所での戦いだとあの砲撃と爆撃だけで完封もあり得ます。広く移動できるマップを選択するのは必須作業となるでしょうからね」

 

 さて、と加古は呟く。

 

「まあ普通に考えれば玉狛が優勢なんでしょうけど。──私は弓場隊に期待をかけておくわね」

 

 ふふ、と笑って加古は言う。

 

「お。加古さんがそういう事を言うとは珍しい」

「珍しいでしょ。でもまあ、ちょっと嬉しいのよ」

「何がですか?」

「色々よ。色々」

 

 加古はそう言うと、少しだけ目を細めた。

 まるで何かを思い出しているかのように。

 

 

 

 

「──いいか、お前等」

 

 弓場隊作戦室。

 

 弓場拓磨が壁に腰かけながら──言う。

 

「飯屋はもう予約した。神田の野郎にも連絡を付けた。──後は俺達が一位になって、堂々と美味いもん食いに行くだけだ」

 

 そして、笑む。

 その笑みは──獣の笑みだった。

 

「玉狛の連中にデカい顔はさせねぇ。これまでしっかり準備してきたんだ。最後の最後に連中をカタつけて、打ち上げに行くぞ!」

 

 いつものように。

 空気の振動のような「ッス!!」という返事が返ってくる。

 

 転送まで残り十秒。

 

 

 さあ。

 泣こうが喚こうが笑おうが何だろうが──これが最後だ。

 

 刻み付けられた因縁の清算とまではいかないが。

 この勝敗で──ある程度の決着がつけられるだろう。

 

 

 ──このまま楽に遠征に行けると思ったら大間違いだぜこの野郎共。

 

 

 準備はした。

 新しい戦術も用意した。

 できうる限りの訓練も、使える限りの繋がりも使って。

 

 

 ここまで来た。

 

 

 ──ぶっ殺す。

 

 

 そう加山の中で一つスイッチを切り替えた瞬間。

 

 転送が開始された。

 

 

 

 

「さあ、試合が開始されました!」

 

 各部隊転送を終える。

 

「──やはりといいますか。前回のラウンドと同様、玉狛第二以外の部隊は、全員がバッグワームで姿を消しています」

 

 転送位置は。

 南側に、奥寺・水上・外岡・小荒井

 東側に、弓場・空閑・東・帯島

 西側に、ヒュース・三雲・生駒

 北側に、雨取・隠岐

 中央に、加山・南沢

 

「このばらけ方だと──序盤の配置的には、玉狛がちょっと悪いかもしれないですね」

「空閑君とヒュース君が、それぞれ反対方向。このまま単独で遊撃部隊として点取りをするには近くに強い駒がしっかり配置されているわね」

 

 東側には、弓場と東がそれぞれいて。

 西側には生駒がいる。

 空閑にヒュースと言えど──単独で仕掛けるには相応のリスクがある駒だ。

 

「特にメガネ君──三雲隊員の程近くに生駒隊長がいるのが大きな不安要素ですね。序盤で動き回りつつスパイダーを張る動きが見られたら、即座に仕留めにかかられる可能性がある」

「じゃあ合流目的で雨取ちゃんの所にあの二枚を引かせたら──それはそれでリスクがあるわね。東と西両方から北に上がっていくとなると、その間に南側で他部隊同士で食い合う可能性がある──ん?」

 

 そして。

 それぞれの部隊が動いていく中。

 

「これは...」

 

 弓場隊の動き。

 

 加古の目は、自然とそちらに向かって行った。

 

 

 試合開始から、一分。

 

 玉狛は同じ状況にあった。

 敵部隊が全員姿をくらましている。

 

 

「オサム。俺とお前の距離が近い。どうする?」

「合流しよう。──ヒュースはぼくで釣りだされた敵の背後を取ってくれ」

「了解だ。ならば一旦バッグワームで紛れるぞ」

 

 ヒュースは姿を消しつつ、修の背後側に迂回する。

 高所を通りつつ、円周上に辺りを見渡しつつ索敵を行う。

 

 

「千佳。敵の姿は見えるか?」

「ううん。今のところ何も見えない」

「今回は、どの部隊も狙撃手がいる。射線の警戒も怠らないでくれ」

「うん」

 

「隊長。オレはぐるっと回ってみたけどそれっぽい影は見えないな。ここまで見えないとなると、多分こっちに狙撃手が潜んでいると思う」

「了解。空閑は中央を経由しつつ北上して千佳と合流してくれ」

「ふむん。中央を経由してか」

「ああ。──中央側に敵を集められたら、千佳の攻撃範囲に敵を呼び寄せられる」

 

 雨取千佳は、現在北の高層マンション屋上に潜んでいる。

 東側から真っすぐに北に向かうのではなく、一度中央側に寄りながら北に向かう事で──”中央に合流できる仲間がいるかもしれない”という意識を相手側に植え付けさせ、現在バッグワームで潜んでいる敵を炙り出せるかもしれない。

 

「潜んでいる敵も爆撃を浴びせればシールドを張る為にバッグワームの解除をせざるを得なくなる。──多少リスクはあるが、今はとにかく得点が欲しい」

「了解」

 

 

 玉狛の序盤の方針は、これにて決まった。

 

 ヒュースと修は一旦合流に向かう。

 遊真は千佳と合流を目指しつつも、中央を経由する事で敵の炙り出しも同時に図る。

 

 

 

 ──その時であった。

 

 一つ。

 トリオン反応が生まれた。

 

 

 それはマップ中央。オフィス街のど真ん中。

 

 

 ぽつねんと浮かぶそれが発生した瞬間。

 

 

 

 

 ──周囲が、壁に囲まれていく。

 

 

 

「──加山君か....!」

 

 

 ここで動いてきたか、と修は思った。

 正直な所──この玉狛の構成に対して、どの時点で加山が勝負をかけてくるか修は測りかねていた。

 

 そもそも、どういう立場でこのランク戦を戦うのかさえも明瞭ではなかった。

 弓場隊は、六点を取らなければならない玉狛と異なり、三点さえとれば上位に残留できる。その為、玉狛に大暴れさせた漁夫の利を取り三点を奪い、後はそのまま隠れ続ける──といった戦術も可能となるし、そう言うことが出来るのが加山という駒だ。

 

 だが。

 ここで勝負にかけてきてくれたならば、実際の所ありがたい。

 懸念していたのは──加山が終盤まで隠蔽中心に動き、生存点の確保が難しくなること。

 

 あの一つ浮かんだ反応が、加山の反応か、それともダミービーコンの反応か。それは定かではない、が。──あの中央地帯に加山がいるのだろう。

 

 その後。

 マップ中央地帯で次第に偽のトリオン反応が急浮上してくる。

 

 

 マップ中央ということは──加山の狙いは明確。

 初戦で当たった時と同じ。

 狙いは──雨取千佳の砲撃の行使によって、その居所を判明させる事。

 

 

 千佳が何処にいようとも。

 マップ中央であるのならば、千佳の砲撃がどの位置からでも放つことが容易となる。

 

 あれは釣りだ。

 

 あそこに加山は──千佳の砲撃を撃たせたがっている。

 

 

「千佳。アレは釣りだ。無視しろ」

 

 修はそう指示を出す。

 もう何度もやってきた、加山のお馴染みの手口だ。

 

 

 中央のビーコン地帯を釣りに、千佳の位置を割ろうとしている。

 

 だから、その手には乗らない。

 そう判断を下したが。

 

 

 

 

 その時であった。

 

 マップ中央から、東南にズレた地域。

 

 

 

 

 

 そこに。

 ──更なるダミービーコン地帯が生まれてゆく。

 

 

 

 

 

 そう。

 この戦場において、ダミービーコンを使う部隊は、弓場隊だけではない。

 

 

 

 

「.....では。こちらも動くぞ。準備はいいな」

 狙撃銃を掲げながら。冷静沈着な声が通信から聞こえてくる。

 

 

 

 この戦場には、東隊もいる。

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