彼方のボーダーライン 作:丸米
「──上位に上がれたのは嬉しいけど....」
「最終戦で、玉狛が入っているのか....」
東隊の奥寺と小荒井はそれぞれ一つ溜息を吐いた。
中位戦を潜り抜け、いざ上位戦に入ると。
──前ROUNDにて圧殺の様相を見せていた玉狛第二が対戦相手に入っている。
「二宮隊とか弓場隊とかも強いんだけどさ~。まだ今までのランク戦の土俵に立って戦ってくれる部隊じゃん。玉狛は絨毯爆撃されたらどうにもならない感じがあるし....」
「取り敢えず、序盤隊がばらけている間に雨取さん見つけ出さないといけないな.....隠れて時間かけてしまうと、前回のラウンドみたいになるし」
うんうんと唸る奥寺と小荒井は──主に玉狛の対策に頭を抱えていた。
前提となる純粋な火力が違いすぎて、戦術どうこうで覆せる範囲を超えている。
「奥寺。小荒井。こういう時は、全てを自分たちの部隊で解決する必要はないんだ」
「.....どういう事っすか?」
東は微笑みながら、一つアドバイス。
「玉狛のおチビちゃんに頭を悩ませているのは他の部隊と同じだ。言うなれば、アレは玉狛以外の三部隊にとって共通の敵だ。──共通の敵がある時にできるメリットとは何だと思う?」
「.....一時的でも、敵が協力してくれる事っすかね?」
「協力、とはちょっと違うな。──利害が一致しやすい、というのが答えだな。前回ラウンドで弓場隊が村上を利用していた時のように」
「ああ。あの試合っすか。アレは凄かったっすね」
二宮隊の戦力をローリスクで削りたい弓場隊。
一ポイントでも多く稼ぎたい鈴鳴第一。
あの時、村上は弓場隊に利用されていることを理解しつつも──利害関係の一致により、利用される事を選んだ。
「前回のラウンドで雨取一人に壊滅させられた生駒隊も、そして玉狛対策に事前から取り組んでいた弓場隊も。──まずまともに戦う上で”雨取を仕留める”必要があるというのは共通認識のはずだ」
「....そう、ですね」
東はにこやかに二人を見つめる。
アドバイスはここまで。
後は──この二人が、どう東春秋という駒を利用してくるのか。
「お前等も新しいトリガーを積んだんだ。──雨取は強敵だが、それでも攻略不可能なほどではない。思考停止になるのが一番いけない」
「....はい!」
※
そうして。
東隊の序盤の作戦が決まった。
それは、「序盤に雨取千佳の所在を炙り出す」事。
まずはそこに着眼し行動を行う。自部隊が「雨取千佳を仕留める」所に関しては、まずは考えない。
なぜなら雨取千佳を倒したいと思っているのは、どの部隊も同じ。
それ故に炙り出しさえ出来れば──各部隊が血相を変えて仕留めにかかってくれる。
雨取千佳を倒して一点を取る部隊は、自部隊でなくてもいい。
ならば。
その炙り出しはどうすればいいのか。
そのヒントは、弓場隊と玉狛第二とぶつかった第一ラウンドにあると。そう東隊は判断した。
ダミービーコン及びエスクードの乱立により、雨取千佳の砲撃を誘い出した加山雄吾の戦術。
あの時。弓場隊は雨取千佳が撃てる事を前提とした戦術を組んでいた。
それ故に──実際に躊躇なく「撃てる」と判断された現段階において、再度同じ戦術を弓場隊は打ち出してくる可能性が高い。
「──でも。玉狛は多分、それで前回痛い目を見ているから誘いには乗らないと思う。だったら」
──東隊もまた。
──弓場隊が戦術を繰り出すと同時に、それに被せてビーコンを発動させる。
意地でも、序盤の内にあの爆撃を放たせる。
「今まで雨取さんが攻撃を仕掛けた時に行っていたのは──常に味方を援護する時だった。だったら」
──玉狛を釣りだす餌を用意し。
──そこに前衛二枚のうち一枚でもいい。おびき寄せた上で雨取の攻撃を引き出させる。
「──見つけたぜぇ!」
東隊は、かなり転送運がよかった。
東側に東がいて、南側に奥寺と小荒井が固まって転送された関係上。
東南の住居区画で合流するのは実に容易く、合流路に向かう中で東がダミービーコンの設置にかかる時間を稼ぐ事にも成功した。
ダミービーコンが敷かれると同時。
そのダミービーコン周辺の開けた地帯を奥寺と小荒井が順繰りに動いていく。
その区画から狙撃が通る場所は──東の位置が割れるまでは、奥寺と小荒井が比較的安全に動ける範囲。
回っているうちに、見つけた。
「──うお! コアラ! こっち来てたのか!」
当然。
そこから射線が途切れそうな背の高い建造物を回っていけば──敵と相敵する可能性は高い。
会敵するは、南沢海。
加山が転送されたマップ中央地帯に転送されたが、形成されていくビーコン地帯を目の当たりにし、「ここにいると爆撃に巻き込まれて死ぬ」という実に真っ当な発想に至り、部隊員の水上と合流すべく南下していたその途中。小荒井に見つかり、襲撃を受けた──という次第であった。
空中から斬りかかる小荒井に、南沢が受ける。
ギリギリと鍔競り、互いに剣先を弾き、引く。
「すんません! コアラに捕まりました~!」
「了解。まあしゃーない。コアラ相手にしてるんなら、暫くすれば奥寺も来るやろ。粘りつつこっちに移動せぇ。──こっちも、南側の経路は確保しとくから。背後は気にせんで、ひたすら後ろに回っていけ」
その動きから──小荒井と奥寺で南沢を挟撃せんとする意思を感じた水上は、自らはハウンドを装着しながら建物の中に入り、進行路に目を光らせる。
奥寺の姿が見えたのならばハウンドで牽制をしつつ南沢側に移動し合流する腹積もりであった。奥寺も小荒井も、射撃トリガーはもっていない。近づけさせなければ、合流するまでの時間稼ぎは出来る。
そして、水上は幾つかの弾丸を分割し、小荒井に走らせる。
威力も弾速も遅い、射程のみにパラメータを振った弾丸。
それでも──時々訪れるその弾丸は、小荒井の足を止めるには十分なもの。
その間に、南沢は南側へと向かって行く。
その時。
新たなダミービーコンのトリオン反応が三つほど生まれる。
そのうちの一つは──南沢からほど近い場所。
奥寺か、と南沢は一瞬思った。
だが。別にそれならそれで問題はない。
近いとは言えど、この距離ならばブレードトリガーは届かない。あの場所から近づいてくるなら、奥寺を警戒して南側で目付をしている水上をこちら側に移動させればいい。
そう思っていた──が。
南沢の目に飛び込んでくるは──まだ小さく映る奥寺の輪郭と、その掌に浮かばせたトリオンキューブ。
「な」
そして。
伸び上がるように襲い来る──真っすぐな弾道。
シールドを敷きそれを防ぐ。
しかし正面には──斬り込んでくる奥寺の姿。
そこには──シールド斬り裂く、伸び上がる斬撃の軌跡が。
「やられた~」
上半身と下半身がバイバイされた南沢海は──泣きっ面のままそう言葉を吐き出し、緊急脱出した。
※
東隊が南沢を撃破し1ポイントを獲得した──。
その報告が上がると同時。
玉狛第二にとっての確定事項が、二つ出来上がる。
一つ。
東南にあるダミービーコンは東隊により形成されたもの。
そして二つ。
あの地域内で生駒隊がやられたため──少なくとも生駒隊は東隊の攻撃手二枚の位置取りがつかめたという事。
ダミービーコンの効能の一つに、その影響力が及ぶ地域内の敵の居所が、当事者以外理解できなくなる──というものがある。
今回。
生駒隊の南沢を、恐らくは小荒井と奥寺で仕留めた形であるのであろうが。
この両者は南沢を仕留めると同時すぐさまバッグワームで身を隠し、南沢と戦闘が行われた周辺を新たなビーコンで目くらましを行った。
こうなると、レーダーの情報のみしか与えられておらず、この戦闘において蚊帳の外であった玉狛第二は東隊の居所が解らないが。
実際に戦った生駒隊には東隊の詳細な情報を持っているため──あの地区に集まってくる。
つまり。
東隊と生駒隊があの地帯に移動していく可能性が高いという事である。
「──千佳!」
──玉狛は得点を取っていかなければいけない。
──だからこそ、得点機会を奪われるわけにはいかないのだ。
「──ダミービーコン区画の爆撃を頼む」
東が敷いたダミービーコンにより、実際に敵が釣られてしまったことにより。
その周辺区画を爆撃する必要性が生まれた。
千佳はそのオーダーに一つ頷き、メテオラを形成し、射出する。
巨大なキューブが。
マップ中央地帯と東南の地帯に降り注ぐ。
「やはり──北側にいたか」
ビーコン地帯──やや北側に身を潜めていた東春秋は。
そうぼそり呟き──宙をまっすぐに進んで行く巨大なメテオラキューブを照準内に収めた。
最初から。何なら、東側の空閑のトリオン反応が中央へと向かって行く動きを見た瞬間には。
東春秋は理解していた。
おおよその、雨取千佳の位置を。
だからそれが出来た。
誰よりも早く、その天に浮かぶような巨大なキューブを誰よりも早く観測し、北側の射線がよく通る建造物に入り込んだ
その手に握るは、ライトニング。
威力も射程も低いものの──トリオンに応じて弾丸の速度を跳ね上げる、狙撃銃トリガー。
──雨取千佳の爆撃は、地に落ちることは無く。
空に浮かんだまま、東の弾丸により爆ぜていった。
※
「──ごめんなさい、修君!」
「いや。アレはぼくの判断ミスだ.....!」
その危険性を、甘く見積もっていたわけではなかった。
東春秋。
──ボーダー最初の狙撃手であり、またボーダー有数の戦略・戦術家。
その生存能力の高さ、狙撃手としての腕前も。最大限警戒していたつもりであった。
しかし。
まだ姿も現していない千佳の位置を把握していたのは──どういう思考を回せば出来るのか。
あれだけ巨大なキューブとは言えど、発射点が事前に想定できていなければ狙撃銃で撃ち落すことなど出来ないはずだ。それは狙撃手としての腕前どうこうではない。未来予知にも等しい先読みも行使して行える、まさしく神業。
まだ姿を現していない敵の位置を把握できる戦術力と。
高速で落とされるメテオラを空で撃ち落す狙撃能力。
だがその代償に。
東春秋の位置を知ることが出来た。
「千佳! 今から指定する場所に移動するんだ!」
その後。
千佳は──位置が炙り出されたその位置を離れ、別の場所へと移動する。
マップ中央は──更に雨取を煽るように、エスクードが作られ、ダミービーコンの反応が入れ替わっていく。
「──すぐに加山君の合成弾が飛んでくる! その前に早く逃げるんだ」
あのマップ中央の地帯が加山のものだと仮定するなら。
千佳の位置が割り出されたとなれば、次に当然あの場所から攻撃が飛んでくるだろう。
千佳はマンションから降りると、周辺をエスクードで塗り固めつつ、ハウンドを中央地帯に飛ばしていく。
そうして加山が合成弾を撃ち出す事を抑制しながら──必死になって、逃げる。
「やあ」
が。
その、道の途中。
存在したのは。
「久しぶりですねぇ、雨取さん」
にこやかに笑みを浮かべる──加山雄吾の姿であった。
何故。
何故彼がここにいるのだろう。
彼は今マップ中央地帯でエスクードとダミービーコンを生成しているのではないのか。
「──いい感じにこれまで暴れ回ってくれていたみたいなんで、ここでぶっ殺します」
にこやかに宣言し。
加山は──雨取千佳を見た。
その眼は。
加山の眼でありながら――また別の、何者かの狂気を孕んだものであった。
東さん書くの楽しいなぁ。
楽しいなぁ...
........。
どうしよう.....。