彼方のボーダーライン   作:丸米

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今回ちょい少ないです。すまぬぅ。


ランク戦最終ROUND ③

 加山雄吾と雨取千佳が対峙する。

 加山は対峙した瞬間に即座に攻撃をすることなく──空手のまま全力で詰める。

 ──ここで硬いシールドを盾に逃げ回られると、もれなく空閑君かヒュースが来る。仕留めるなら、短時間で行わなければならない。

 

 雨取千佳は。

 こういう場合の対応に慣れていない。

 

 手が空いているという事は。

 加山の今までの戦い方からして、ハウンドかエスクードか。そう雨取千佳は判断する。

 

「──ハウンド!」

 雨取千佳は巨大なキューブを生成し、加山と向き合う。

 正面にはシールドを張り、後方へと引きつつ。

 

 ──そう来ると思った。

 

 雨取千佳に肉薄した際に、使ってくると想定していたのは──前方にシールドを固めつつのハウンドであろうと。

 

 ──あのトリオンが籠められたハウンドを食らってしまえばひとたまりもあるまい。だから射出させるわけにはいかない。

 

 

 加山は。

 雨取千佳が引く動きをした瞬間──大きく距離を詰めた上で、左足で大きく踏み込んだ。

 

 そして左足で踏み込み体軸を横にずらした上で──右手を腰先に持って行く。

 

 雨取千佳の視線の配点は。

 踏み込んだ加山の身体全体と──腰先に向かった右手。

 

 加山は拳銃を使う。

 体軸を斜めにした、という事は──たった今右手に生成している拳銃を身体に隠すために行っているのではないのかと。

 

 ──弾丸が来る! 

 

 その意識故に。

 雨取千佳は正面のシールドを大きく拡張した。

 

 弾丸であるならば、自身が放つハウンドよりも早い時間で放つことが出来るかもしれない。

 ならばシールドで防ぐ。

 

 防ぎながら──ハウンドを撃つ。

 

 ハウンドの射出を行おうとした、その瞬間。

 加山の口先が──機先を奪うように、動く。

 

 それは。

 三雲修の声だった。

 

 加山雄吾の声帯模写によって響きまで似通ったその声は──。

 

 

「撃つのか? ──この化物めぇ!」

 

 その言葉は。

 雨取千佳が最も恐れていた言葉。

 そして──恐れていると自覚し、乗り越えた言葉。

 

 誰かを責めるような声音で発せられる、自身を糾弾する声。

 そして。

 その声は──三雲修の声として自らの耳を通り過ぎ、脳天に刺さった。

 

「あ...」

 

 その瞬間。

 一瞬。

 一瞬だけ──ハウンドの射出が、遅れてしまった。

 

 

 加山にとっては。

 その一瞬で──十分。

 

 

 加山は踏み込んだ左足から右手を動かす──フリをしつつ。

 踏み込んだ左足によって長く伸ばせるようになった左手で、雨取千佳の胸元を強く突いた。

 

 押され、体勢を崩され背後に倒れ込む雨取千佳は──。

 

 

 

 仮に。

 この状況に陥っていたのが空閑遊真やヒュースであれば。

 気付けていただろう。

 

 

 加山の踏み込んだ左足。

 そこから──地面が少しだけ、ひび割れていることに。

 

 

 踏み込んだ左足からは、蛇のようにうねりをあげるスコーピオンが地中を潜り。

 雨取千佳の背中目掛けて突き出される凶刃として顕現した。

 

 

 供給器官が突き刺される事実を、雨取千佳は驚愕の表情で受け止めた。

 

「う....ああ」

 

 全てが終わった瞬間に。

 加山の行動すべてが──自らを打倒すべく綿密に作られた策謀が背景にあった事を知り。

 

 ──自身の浅はかさを強く責めながら、雨取千佳は自らの表情を強く、強く歪めていった。

 

 

「すまねぇっすね雨取さん」

 

 崩れていく雨取千佳の身体を見下ろしながら。

 加山は、ただこう言った。

 

「──お前等を遠征に行かせはしない」

 

 かくして。

 怪物は──最終ROUNDにて、ポイントを奪う事叶わず、緊急脱出。

 

 

「ここで弓場隊加山隊員が、雨取隊員を撃破──!」

 

 前回ROUNDにてまさしく戦術兵器の如き活躍を見せた雨取千佳であったが。

 最終戦にて──序盤の内に退場する運びになった。

 

「──恐らく弓場隊も東隊も、かなり綿密に玉狛の対策をするうちに。東隊は弓場隊を、弓場隊は東隊を。それぞれ研究する事にもなったのだと思いますね」

「本当。気持ち悪いくらい弓場隊も東隊も息が合っていたわね」

 

「えーと....」

「弓場隊は初動でダミービーコンとエスクードをマップ中央に撒く作戦を行ったわけだけど──。この作戦、結構危ないのよね。特に序盤でやるにしては」

「基本的に転送はマップ全体に散らばるようにして行われますからね。マップ中央で自分の位置を知らしめるという事は、全部隊に自分の位置を知らしめることにもなる訳です。普通なら、敵を排除してある程度の安全が保障されてからこの行動を取るはず」

「そ。でも弓場隊は最初からそれをやったのよ。──何故かと言うと。マップ中央はどこからでも攻撃が仕掛けられる可能性の高い場所であると同時に──どの場所に雨取ちゃんがいたとしても攻撃が飛んでくる可能性が高い場所でもあるから」

 

 玉狛第二が雨取千佳を使うシチュエーションは二つ。

 一つは、点が多く取れる好機が訪れた時。

 二つは、味方が危機に陥った時の援護。

 逆にいえばーーこれ以外の時に無分別に爆撃を放ち、位置を晒すリスクを、単独行動中にさせることはない。

 

「ただでさえ全員が全員バッグワーム着ていてシールドも張れない。どの部隊にも狙撃手がいるっていう警戒状態が続く中で──ビーコンの中で合成弾が降ってくる危険性の高いマップに敵が来るわけがないわ」

「ですね」

「な....成程。──そして、多分この場にいる皆さんが一番気にかかっているのはあの東さんの狙撃ですが....まるで、雨取さんの位置が解っているかのような位置取りをしていましたが..」

「解っていたのよ。東さんには」

 

 ふ、と笑みを浮かべて。加古は言う。

 

「今回。玉狛の空閑君とヒュース君は、最初からバッグワームを付けていなかったわ。あれは敵を炙り出すためであるけど。逆にそれが東さんにとって、雨取ちゃんの位置を絞り込むための情報となったんでしょ」

 

 今回、東は東側の地点に転送された。

 そこから南側によってダミービーコンを仕掛けた訳だが──。

 

 

 その時東は一連の情報を受け取っている。

 

 ①東側に転送された空閑遊真及び西側にいたヒュースのトリオン反応(転送直後のトリオン反応はこの二つのみ)

 ②東側にいたトリオン反応(恐らく空閑かヒュース)が中央に向かう動きをしていた事。

 ③マップ中央に作成されたダミービーコン地帯の釣りに反応しなかった、という事実。

 

「東側にいた空閑君が、そこを離れて中央に向かうという行動をしている時点で、まず東さんは東側に雨取ちゃんがいるという可能性をまず消すわね。じゃあ西側にいるかと言えばそれもあり得ない。雨取ちゃんが西側にいて、西側の誰かと合流できているなら、②であからさまに邪魔な地帯が出来上がった時点で、爆撃すればいいもの。あの邪魔な地帯が出来た時点で爆撃や砲撃が来なかった、という事から──その時点で西の線も消えて、雨取ちゃんはまだ単独でいるのだという仮説が出来る」

 

 そして。

 その後──南側は、転送された奥寺・小荒井のコンビが索敵をしまわり。

 生駒隊の南沢と実際に戦ってもなお、攻撃されることもなくなった。

 ここで南側にいる可能性も除外できた。

 

 

 あの短い時間の行動で。

 東春秋は──雨取千佳の位置を北側に絞り込んでいたのだ。

 

 

 それ故に、雨取千佳が爆撃を敢行しようとした際に既に北側を警戒していた東春秋は──雨取千佳のメテオラをライトニングで撃ち落す事が可能となった。

 

 

「そして。加山隊員は雨取隊員の位置が判明した瞬間から迷いなく北側に向かって行きましたね。──彼もまたやや北よりに身を隠して、即座に雨取隊員を狩りに行きました」

「多分、加山君も東さんがダミービーコンを作る事は予想していて──その位置によって、南か北かを判断しようとしたんだと思うわね」

 

 加山もまた、東側と西側の反応。そして自らが作ったダミービーコン地帯への反応を見て──北か、南かまでは絞り込めていたのだ。

 しかしそこで東が、東に位置しながらも──南側にビーコン地帯を作った事で、加山にも雨取千佳の位置が解ったのだろう。

 それ故に。加山もまた北側に移動し──雨取千佳の爆撃を待っていた。

 加山と東。

 あの時点において――両者は雨取千佳を倒す、という共通の目的を持ったことで互いに利用できる関係を意識的に持っていたのだろう。

 

 

「恐らく──玉狛側も加山が北側に移動していたのは予想外だったでしょうね。なにせあの中央地帯には加山がいる、という前提があったでしょうから」

「ええ。でも実際にあの地帯で、ダミービーコンを撒いていたのは加山君だったけど──」

 

 画面が切り替わる。

 そこには──

 

「エスクードを使っていたのは、弓場君だったものね」

 

 地面に手をつきながら、壁を作り上げている弓場拓磨の姿があった──。

 

 

「──隊長。雨取さんを仕留めました」

「了解。──よーやくここから、まともに戦えるってもんだ」

 

 そうして。

 前ROUNDで猛威を振るった雨取千佳が消え去った事により──ぽつぽつとトリオン反応が浮かび上がっていく。

 

「とはいえ油断すんじゃぇぞ。ようやくスタートラインに立てた、ってだけだ。──ここからあと二点。しっかり取っていくぞ」

 

 そう。

 ここからが全てのスタート。

 

 共通の脅威であった雨取千佳という怪物がいなくなったことで、ここまで互いにそれとなしに続けられていた東隊との情報共有も出来なくなる。

 

「ここからは俺達の普段の戦いをしましょう。──さあ首を洗って待ってやがれ、玉狛め」

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