彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦最終ラウンド ⑤

「む」

 

 空閑遊真は、ハウンドの軌跡を追いかけた先にあったトリオン反応の正体を見る。

 ダミービーコンであった。

 

 すぐさま空閑遊真はバッグワームを解き、シールドを装着する。

 釣りだされた後に来るは、狙撃か、はたまた襲撃か──。

 身構えたものの、それは来なかった。

 

「──もうしわけない。釣りにひっ掛かった」

「ごめん! 冷静に見ればダミービーコンだと解ったのに....!」

「いやいや。あの短時間で見分けろというのは無茶だよしおりちゃん。──多分カヤマだろうね」

 

 ビーコンの発動のタイミングとハウンドの射出タイミングを合わせ、いかにもそこに弓場がいるかのように見せかけた。

 点数を一点でも取りたい玉狛の心情まで考慮に入れた見事なブラフ。歴戦の遊真も、このからくりを見抜くには時間が短すぎた。

 

「とはいえ、これでカヤマのある程度の位置は絞り込めた。──ゆばさんは仕留め損ねたけど、そっちを狩りに行く」

 

 加山は雨取千佳を仕留め、そして遊真へのハウンドの射出と合わせてその位置を晒した。加山のもとに他の部隊の人間も集まってくるだろう。

 

 加山に釣りだされた隊員も含めて──乱戦になるなら、ここで多く点を取りたいところだ。

 

「──さあ。狩りに行かせてもらうよ」

 

 

 加山は北で雨取千佳を倒したのちに、そのまま──東が作っていたダミービーコン地帯の方向へと向かう

 ──このまま東に向かえば、東隊とかち合う事になる。

 

 加山の目的は、東隊の攻撃手二人。奥寺と小荒井だ。

 彼等は上位部隊の攻撃手の中では、個人戦闘能力では劣るものの──攻撃手同士の連携を非常に高度なレベルで行うことが出来る駒である。

 あの二人は、揃うと非常に強く厄介。

 逆説的に言えば──基本的には彼等は合流したうえでツーマンセルで行動する事が多いという事。

 

 彼ら二人で、狙撃地点まで追い込みをかけて東に狙撃させるのが、基本的な東隊の点の取り方だ。

 

 そして。

 

「あの二人を排除すれば──東さんはより慎重に、隠形に徹して動く事になる」

 

 加山の目的は、それであった。

 奥寺小荒井の二枚を排除したうえで、東を戦場に残す。

 これが出来れば──東は隠形に徹することになるだろう。

 

 そうなるとどうなるか。

 隠形に徹した東春秋を──玉狛は必死になり探さなければならない事態となる。

 そうなると最早イタチごっこも同然。玉狛は索敵にその力を振るわねばならず、その分点を奪う為の余力が削られる事となる。

 

 雨取千佳がいない現在、生存点なしで6点を奪うのは至難となった。

 その為に玉狛としては必死になって東春秋を討伐しなければならない。

 

 ──まあさすがに個人的な感情で戦いの目的を捻じ曲げる事はしないが、現状最も弓場隊にとって脅威となるのは玉狛だ。

 その一番の脅威が、隠れた東春秋を探すというあまりにも無為な作業に徹させることが出来るのならば。こちらの勝利を大きく手繰り寄せることが出来るだろう。

 

 加山は東に移動し終えると、広い敷地内に入る。

 そこは、中学校の跡地であった。

 

 

「待ち構えるならここがベストかね」

 

 木造三階建てのこの建物は、外周部分が全てガラス張りになっており狙撃手が攻撃を通しやすい。しかし建物そのものが巨大なため、狙撃手が別角度から撃つために移動するのにかなり時間がかかる。その為、狙撃を通すには部隊で狙撃地点に引っ張り出すというやり方が最善となる。

 よって──ここは東隊の戦術が通りやすい場所でもあり

 東隊がどう動くかが加山側からすれば読みやすい場所である。

 

「こういう時にエスクードがあれば便利なんだけどな。まあ言っても仕方ない」

 

 加山は校内を駆け回りながらダミービーコンを撒き、狙撃地点をチェックしていく。

 

 ──今のところこの学校内で狙撃の心配がないのは、窓ガラスが設置されていない階段と踊り場。そして校内端にあって射線を通しにくい化学室やら音楽室みたいな特別教室。ここは壁抜きの狙撃をされる心配が薄い。

 よって加山は。校内中央に位置する、二階と三階を繋ぐ踊り場に立ち、ダミービーコンの起動タイミングと合わせバッグワームを解く。

 

「さっさとあと二点取ろう」

 

 

 一方その頃──。

 マップ西側では、生駒とヒュースの差し合いが続いていた。

 

「お、お、おお.....!」

 

 生駒は斬り合いの間合いの中──明らかにヒュースに追い込まれていた。

 ──なんやこの太刀筋。見た事ないわ。

 

 太刀を合わせようとすると、微妙にそこからすり抜けていく。

 斬撃の軌道が独特故に、刀身を合わせる事が難しい。

 

 ──あかんな。微妙な太刀筋の違いやから、ここで簡単に修正できるもんでもない。

 

 そして。

 ヒュースとの差し合いの中──小さなトリオンキューブを出しながら側面へと移動してくる三雲修の姿も見える。

 微力ではあるものの、アレで更に意識が散らされるとなると、こちらの形勢が一気に不利となる。

 

 生駒は確信を覚える。

 この距離感のまま戦っていれば──いずれ倒されるのは自分の方であると。

 

「まずいわ隠岐。このままやと俺、落ちるわ」

「落ちるんすか」

「落ちるわ。俺イケメンに落とされるのだけはいやや。隠岐。イケメンらしく助けてくれ」

「イケメンやないすけど、助けますね~」

 

 刀身同士が合わさる瞬間。生駒は逆刃に手を置き、ヒュースを全体重を以て押しのける。

 そこから後方へたたらを踏むと同時。

 ──イーグレットの弾丸が放たれる。

 

 

「チ」

 ヒュースは一つ舌打ちをして、その弾丸をシールドで防ぐ。

 生駒はその瞬間ヒュースから距離を取るべく、背後へと飛ぶ。

 

「げ」

 

 しかし。

 背後へ飛んだ先に放たれるは──三雲修の弾丸。

 

「あぶな」

 その微弱な弾丸にシールドを張ると同時。

 

 ──ヒュースのバイパー弾が生成されていた。

 

 分割し、放たれる──生駒の身体全体に向かう軌道の弾丸。

 生駒は修の弾丸を処理し終えると同時。自身の上体全てを覆う形でシールドを展開する。

 

 そして。

 ヒュースの弾丸は──そのまま生駒の足下へと途中で軌道が変化する。

 

「げげ」

 

 その軌道変化に気づき、即座に背後へとステップを踏むものの──そのまま片足が削れる。

 

 

「──逃がさん。オサム。カバーに入れ」

「ああ!」

 

 ヒュースがその瞬間、突撃銃を生成すると同時。

 隠岐の第二射が放たれる。

 

 放たれた弾丸は──ヒュースと弾丸との間に身を割り込ませたレイガストごと修の左手を吹き飛ばした。

 

 修にその身を守らせ。

 ヒュースは──フルアタックの行使に入る。

 

 生駒の退路をバイパー弾で塞ぎつつ。

 足が削られた生駒に向け──機関銃の掃射が叩き込まれる。

 

「──隠岐。後は頼んだ」

「頼まれました。──てなわけで、トンズラこきますわ」

 

 バイパーで拡張されたシールドを真正面からの掃射によって削り取られ。

 生駒達人のトリオン体は散々に削り取られ──そのまま緊急脱出と相成った。

 

 

 その間。

 

 隠岐はグラスホッパーを展開し、瞬時にその場より離れていった。

 

「....ようやく一点か。オサム。まだ動けるか」

「さっきので多分三分の一くらいはトリオンが消し飛んだと思うけど....まだ大丈夫だ」

「よし。ならこのまま中央を突っ切って──ユウマと合流するぞ」

 

 西区画での生駒達人との戦いを終え。

 ヒュースと修はそのまま東に向け走っていった。

 

 

「──さて」

 

 現在空閑遊真は、東へ移動した加山を追っている。

 やはり、以前までの加山と違うものを遊真は感じていた。

 

 今までならば、自身の位置を晒した上で釣りを図るような駒ではなかった。十分な準備が整うまでは息をひそめ仕掛けに奔走するタイプの隊員であったのに。

 現在は──エースである空閑遊真に対しても、恐れることなく誘い込むような動きをしている。

 

 個人の戦闘能力が大きく変化したのは感じていた。

 とはいえ──今回は、戦い方の根幹の部分まで何か変わっている。そう感じるだけの違和感が遊真の中にあった。

 

「チカ。──カヤマはスコーピオンを使っていたんだよな」

「うん」

 

 ここも大きな変化だと遊真は感じる。

 最終戦において、ここまで大幅なトリガーの変更を行うとは──あまりにも大胆だ。

 前回ラウンドにおいても、今までの積み重ねからくる先入観を利用した戦術を多用してきている弓場隊であるが──唐突にメイントリガーに攻撃手トリガーを組み込むなど誰が予想出来ていたであろうか。

 

「....」

 

 ヒュースは、一連の情報を整理し、少しばかり考えて

 

「チカ」

「うん?」

「カヤマと対峙して、何でもいい。何かしらの違和感があったりはしなかったか?」

 そう、千佳に尋ねた。

「....」

 

 千佳は、言うべきか言うまいか迷った。

 加山が──千佳の動きを止める為に放ったあの一言を。

 

 しかし。

 ──加山先輩は勝つために、ああやったんだ。

 

 あの言葉が本心からの言葉だとは思わない。三雲修の声を真似てまで行ったあの露悪的な行為は、千佳の精神を動揺させる為に行ったことだろう。

 手段を選ばずに、勝ちに来ている。

 ならば──その部分もしっかりと仲間に伝えなければ。

 

 だから伝えた。

 加山が──千佳に対して「化物」と呼ばれた事を。

 

 場が凍り付くような一瞬が、あった気がした。

 

 修は驚愕の表情を浮かべ、遊真は表情を強張らせ、栞は今にも泣きそうな顔をして──

 

 ヒュースは。

「成程な」

 

 と。

 そう呟いた。

 

「──チカ。そのカヤマの発言の根底の部分には、オレに原因がある。お前は気にするな」

「.....ヒュース君?」

「お前の情報は後々必ず役立てる。──だからそこで待っていろ」

 

 ヒュースは。

 

 

 ──己の中に刻まれた、己とは異なる記憶と向き合う。

 

 

「俺は──お前を知っているぞ。カヤマユウゴ」

 

 

 それは。

 あの時。ガロプラの襲撃があったあの日。

 別人格に支配されていた加山雄吾の黒トリガーから、攻撃を受け──その記憶を脳内に植えつけられた。

 

 ヒュースもまた。

 記憶を持っている。

 

 

 だからこそ理解できる。

 今──加山がどう自らを変化させているのか。その正体らしきものを。

 

「だから。──次こそはお前を倒す」

 

 

 そうして。

 

「東さん──仕掛けます!」

「よっしゃ! このまま加山ぶっ潰すぜ」

 

 東隊攻撃手、奥寺と小荒井が到着するとともに。

 

 

 続々と、敵が東に向かい移動していく。

 

 

 続々と集まってくるレーダー反応を見つつ。

 恐らく──この中学校跡地での戦いの結果が戦況を大きく変えてくると。

 そう加山は想定していた。

 

「──さあて。ここからは大乱闘だ」

 

 弓場隊も、東隊も、生駒隊も──そして玉狛も。

 続々と集まってくる。

 

 思う存分喰い争え。

 その中であと二点を取ればこちらの勝利だ。

 

「──まずはアンタ等二人で前哨戦だ。精々胸を貸してくださいな先輩方」

 

 眼前に迫りくる東隊が二振りを前に。

 加山は笑みを浮かべていた。

 

 

 

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