彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦最終ROUND ⑥

 攻撃手同士の連携というのは、非常に難しい。

 常に敵対する相手と密着しながらの攻防の中、味方の動きにも気を配りつつ攻撃の組み立てを行わなければならない。

 

 攻撃手同士の連携において、最も高度な技術を持つ隊が風間隊であり。

 それに次ぐ形で──奥寺・小荒井の連携の練度は高い。

 

 ──まあ、連携したら強いというなら、連携させなければいいだけの話だ。

 

 加山は奥寺小荒井が校内に入ってきたのを確認すると──踊り場より階段を上り、横幅の狭い廊下へと移動する。

 

「ハウンド」

 

 そして。

 射程と速度を切り詰め威力を底上げしたハウンドを細かく刻み、──廊下にばら撒く。

 

「なんだこりゃ」

 

 弧月を構え一歩前に出た小荒井が、思わずそう呟く。

 眼前には──低速で飛び交い、こちらにゆっくりと近づくハウンドがばら撒かれている。

 

「低速弾道のハウンドだ。速度が落ちた分威力が底上げされているから、近づくなよ」

「近づくな、って言っても……。あ、でも」

 

 横幅が狭く、移動経路も一本道。

 攻撃手である二人ならば、易々とは近寄れない状態だ。

 

 が。

 

 ──今の彼等には、これがある。

 

「アステロイド」

「ハウンド」

 

 二人は。

 加山の眼前にて──最近解禁された、サブトリガーを出す。

 奥寺はアステロイド。

 小荒井はハウンド。

 

 へえ、と加山は呟く。

 

「サブトリガー入れたんですね」

「おう! ──それじゃあ、くらえ」

 

 二人分の弾帯が、加山に飛び交っていく。

 加山は──横手にある教室のドアを蹴り開け、中に入る。

 アステロイドの射線からは逃れることができたものの──ハウンドは加山を追っていく。

 それでも加山はシールドを張らず、スコーピオンを生成する。

 横手に入り、円輪刀の形に拵えたスコーピオンを──奥寺に向け、投げる。

 

「は? スコーピオン!?」

 

 加山がここに来て出してきた新たなトリガーに驚愕の表情を浮かべつつ──ガラスを砕きながら向かうそれを上体を反らし、避ける。

 

 しかし、それでも胸元をざっくりと切り裂かれ、トリオンが噴出する。

 

「なんでこの期に及んでトリガー変えてるんだよ.....!」

「加山は──!」

 

 そして。

 加山は、窓ガラスが砕かれる音と共に──教室内から消えていた。

 

「外に逃げた! 待て!」

 

 小荒井がその後を追いかけんと、教室内に入ると

 ──血相を変えて、奥寺が小荒井の襟を掴み、引っ張り倒す。

 

 そこには。

 ──小荒井目掛けて放たれた、ハウンド弾があった。

 

 奥寺は引っ張り込んだ小荒井の眼前に、フルガードにてその弾丸を防ぐ。

 

「た、助かった……」

「気を付けろ! まだアイツは....!」

 

 そして。

 

 ──奥寺と小荒井の背後の天井部。

 そこに刃が入り込み、そして蹴り壊される。

 

 その穴から。

 

 

 降り落ちる──ハウンド弾。

 

「....マジかよ!」

 

 今度のハウンド弾は、先程のような低速ではないものの、それなりに速度が落とされ、そして大きく射程が削られた──高威力のハウンドであった。

 加山は教室の外に飛び出た後、スコーピオンを鈎爪代わりに上階へと昇り──天井を斬り裂き、上を取った。

 そうして距離は短くも──大きく角度で差がつく場所を手に入れ、加山はハウンドを放っていた。

 

「ぐ....!」

 

 奥寺も小荒井も、双方ともそのハウンド弾にシールドを以て防ぐものの。

 

 身体全体を覆う程に──シールドを拡張してしまう。

 

 そこに。

 

「.....あ、クソ!」

 

 蹴り壊された穴から加山が降り落ち。

 拡張され、ひび割れたシールド目掛けて──スコーピオンの円輪刀を投擲した。

 

 狙いは──先程ダメージを与えた奥寺ではなく、小荒井。

 

 ぐるぐる回りながら投げ込まれたスコーピオンの円輪刀は──小荒井の供給器官に突き刺さる。

 

 ──小荒井、緊急脱出。

 

 

「小荒井....!」

 

 一瞬のうちに相棒である小荒井を仕留められた奥寺は、苦々しく加山を見る。

 ──これで、東隊の最も大きな武器の一つである攻撃手同士の連携という択が潰される形となった。

 

 

「これで二点目。──取り敢えず、さっさと二位以上の条件を確定しときますかね」

 

 弓場隊の上位二位以上残留の条件は、3点以上。

 眼前の奥寺を狩れば、──念願であった、上位入りと遠征行きの条件がそろう。

 

「──ほいじゃあ、さようならです奥寺先輩」

 

 その上。

 ここで奥寺を仕留めることが出来れば、東の今後の動きを抑制する事にも繋がる。

 

 加山はハウンドを再生成し、奥寺に叩き込もうとして。

 

 

 ──感じ取った”色”の変化に気が付き、そのまま横にステップ。

 

 

 それは。

 教室の外側から放たれた、──手裏剣状のスコーピオン。

 

 加山が割った教室の窓から侵入したそれは、加山の横側へと突き刺さる。

 窓に一瞬映った影は、窓の下に消え──窓枠の縁に着地する音が、加山の耳に届く。

 それと同時。

 自らの足下──床面から。

 異なる振動が足元からほんの微かに伝わり、その情報が色となって加山の脳内に伝わる。

 

 そして。

 加山の横手に突き刺さった手裏剣の形状が変化し──伸び上がっていく。

 

「──!」

 

 加山は即座に背後へと飛び去るものの、脇腹から胸元にかけて斬り裂かれる。

 ──手元から離れたスコーピオンの形状変化? これはどういうことだ? 

 加山が襲撃を受ける隙を見て、奥寺は弧月で壁を斬り裂き、撤退していく。

 逃した獲物を追いかけんとする本能を、理性が必死になって留める。

 その隙を突かんとする獣の気配が──薫り立つように感じ取ってしまったから。

 

「外したか」

 

 窓を叩き割り、侵入してくるは。

 

「.....空閑君か」

 

 空閑遊真であった。

 

「やぁカヤマ。──チカの仇、取らせてもらうよ」

 

 彼は無表情のまま、加山を見据えていた。

 

 

「──それで。オサム。お前はアズマを倒す手立てがあると言ったな。考えを聞かせてもらおう」

 

 ヒュースと修の二人は、──生駒達人を倒した後、東へと向かっていた。

 その道中。ヒュースは修に尋ねる。

 

 この勝負における最も重い障害──東春秋の打倒について。

 

「.....東さんの生存率の高さは、逃走術の上手さにある。多分、あの人はどの駒がどの位置にいるのか。どの位置からなら自分を視線に映らせないかを熟知している」

「それで?」

「あの人は誰よりも盤面を理解できているし、そして盤面の敵がどういう思考で動いているのかも──多分見透かしている。だから、逃げに徹されると探しようがなくなってしまう。なら、逃げに徹される前に東さんを見つけ出して仕留めるしかない。逃げに徹させない条件を、こちら側が揃えるんだ」

「.....どうやって?」

「東隊が一番やってはいけないのが、中位落ち。今回の東隊はぼく達と同じ弱みを抱えている。──上位残留の為に一点でも多くの点を取らなければいけない」

 

 現在の東隊は、前回の中位戦で点を稼ぎ香取隊と交代で上位に這い上がったものの──現状ギリギリの立ち位置であり、出来る限りの点数を取らなければいけない立場でもある。

 

「──点を取れる好機があれば、東さんは積極的に撃ってくるはずで、そして得点を奪う為の立ち回りも徹底してくる。その分だけ東さんを仕留められるチャンスが生まれる」

「そうか? 今までのアズマの立ち回りを見る限り──正直な所上位に残る残らないを然程意識していないように見える。その場その場の最善を選んでいるだけだろう。そこは徹底している」

 

 そう。

 東隊の攻撃手二人はともかく。東春秋に関しては──上位残留の為に無理な動きをしてでも点数を稼ぐタイプの人間ではない。

 無理だと思えば徹底して隠れる。僅かな可能性に賭けて自身の身を晒すことは無い。

 

「そう。無茶をする事は東さんはしない。──でも、この状況下なら確実に点を取れると判断すれば、動くはずだ。撃って、点を取る事が”最善”だと判断させればいい」

「どうやって?」

「ぼくだ」

 

 修は。

 そう言い切った。

 

「ぼくはこの盤面の中で最弱の駒だ。ぼくを撃ち殺す事を東さんは”無茶”だと判断することは絶対に無い。──ぼくを使って、東さんの位置をあくまで合理的に晒させるんだ」

 

 釣りの対象がヒュースや遊真ならば。

 きっと東は撃っては来ないだろう。

 

 だが、修ならば。

 B級全体を見渡しても最弱に位置するであろう三雲修という駒ならば。

 ──東春秋にとって、撃ち殺す事に躊躇いを覚えることは無い。

 

「最弱だからこそ──やれることが、きっとある」

 

 最弱ゆえに。

 三雲修という存在には価値があるのだと。そう──三雲修自身が、躊躇いなく言った。

 

 

 その言葉に。

 成程、とヒュースは呟いた。

 

 

「おーい。もう生き残ってんのお前とオレだけや。どないすんねん本当。まだ点とれてないっちゅうに、攻撃手二枚がはよ落ちて~」

「すまんな」

「ごめんなさい~」

 

 はぁ~、と。

 生駒隊水上が溜息を吐く。

 現在生駒隊は東に移動しつつも──どうにも動き出しが出来ずにいた。

 

「射手と狙撃手残されてどうやって点とれっちゅうねん。──隠岐~。お前大丈夫やろうな。イコさんと合流するにもヒュースから逃げるのにも結構派手に動いてたやろ?」

「多分大丈夫やと思いますけどね。今東側のビルまで来ているんですけど、東隊も弓場隊もここから百メートル先の学校に集まってきているんすよね。どうします。このままあちらさんまで動きますかね」

「もうこの期に及んで大量得点は無理やろし。2~3点稼いでパパっと撤退する方針でいこか。あの学校から逃げ出した連中を仕留めていこう」

「はい了解~。──今のところ姿が見えないのは、外岡君と東さんの二枚ですかね。東さんの位置取り解ります?」

「解る訳あるかい。雨取ちゃんの爆撃撃ち落としてから尻尾すらつかめへん」

「そりゃそうですわね。──お」

 

 そして。

 隠岐孝二は──東側に更に向かってくる影を発見する。

 

「──弓場隊長と帯島ちゃん発見。東の校舎の方に向かっていますね」

「了解。──取り敢えず様子見とこか」

 

 

 空閑遊真が入ってきた瞬間。

 加山はハウンドを遊真に浴びせ、そのまま教室から逃げ出す。

 

 ──学校みたいな敷地自体は広いが、横幅の狭い通路が多い場所は。

 

 加山にとっても。

 遊真にとっても。

 

 どちらにとっても──優位の取れる場所である。

 

「ハウンド」

 

 加山がそう呟くと同時。

 生成されるキューブを眼前に遊真は片手を開け、スコーピオンを片手に突っ込んでいく。

 

 ──加山が放つは、速度・射程を切り詰めた低速弾道のハウンド。

 

「──かざま先輩にオサムがやったのと同じ手か」

 

 そうぽつり呟き。

 遊真は即座に横手の教室に飛び込む。

 

 あの低速弾道が廊下を満たしている間。

 正面からの攻撃は不可能。

 

 それ故に──側面からの攻撃を行使するほかない。

 

 遊真は廊下から横手の教室に移動し、グラスホッパーを生成しようとして──

 

「.....!」

 

 即座にそれを取り止め、シールドを展開。

 何故なら──加山が円輪刀の形をしたスコーピオンを手に、こちらに振りかぶる姿が見えたから。

 

「──側面からの攻撃は流石に見抜かれているか」

 

 ガギ、という鈍い音と共に。シールドはスコーピオンの投擲に砕かれる。

 砕かれはしたものの大きく速度は落ち、その後に遊真は自らのスコーピオンによりそれを弾く。

 

 弾き、足を止めるその一瞬。

 加山の姿は──廊下より消える。

 

 このまま廊下に出れば──出会い頭のハウンドが襲い来るかもしれない。

 その予感と共に遊真は廊下に即座に出て追いかけんとする行動を咎め、ゆっくりとした歩調で様子を伺おうとして。

 

 自らの足下。

 そして死角。

 

 そこから──飛び出てくる刃の気配を感じ取った。

 

「おっと」

 

 身体の軸を反転させ受け止めたその刃は。

 恐らくは──影浦や自らも使う技巧である”マンティス”

 それを地面に忍ばせ足元より発生させたものだろう。

 

「──ここ。多分カヤマは直接見てはいないよな」

 

 加山は、廊下より姿を消した。

 そこ意外に、視線を通せる場所は一見する限り存在しない。

 別区画から攻撃するにせよ──レーダー頼みの攻撃にしてはあまりにも攻撃が正確すぎる。

 

「──そうか。副作用か」

 

 加山は音に色を感じる副作用があると。そう言っていた。

 遊真が発する微弱な足音。

 そこから判別して──色を辿って位置を把握しているのではないか。

 

 確信はできないが、そう仮定はできる。

 

「──成程。これは厄介だ」

 

 そして。

 

 窓枠から向かってくる──うねる様な軌道のハウンド弾が見える。

 

「──合成弾」

 

 それが窓をぶち抜き叩き込まれる瞬間。

 遊真は──即座に教室から廊下へと逃げ出していった。

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