彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦最終ROUND ⑨

「ここで東隊長が落とされた事で東隊は全滅となりましたが──終盤で東隊長が怒涛の三得点。四得点を奪いゲームを終えました。解説のお二人はこの動きをどう見ますか?」

「そりゃあもう、流石は東さん以外の言葉はないわよ」

 

 東春秋が緊急脱出した後。

 笑みを浮かべて、加古望はそう言った。

 

「玉狛はここで東さんを討っておかないと遠征の条件である6得点を奪えなくなる。だから、どんなに不利な状況でも東さんを仕留めなくちゃいけなかった。──その心理を逆手にとって、あの距離間で空閑君を出し抜いて1ポイントを取ったのだから」

「あの時の東隊長の動きを見てみると。バッグワームを解いたのはオフィスビルに入った一瞬のみで、そこからは起動したダミービーコンを小脇に抱えて移動しているんですよね。最初からこの動きも想定して動いていたのだと思います」

 

 東春秋は。

 修のハウンドによって足が削られたのちに、オフィスビルに入りバッグワームを解いた。

 

 その後の動きを列挙すると。

 ダミービーコンの生成・起動。それを小脇に抱えてバッグワームの再生成。

 上階に向かいながら消火器を複数個手に取り、三階会議室を煙まみれにし、自らの姿を隠しつつ部屋に複数個のダミービーコンを設置。

 そして──自身を追ってきた空閑に対し、窓から投げ捨てたダミービーコンを囮に、狙撃銃にて仕留めた。

 

「部屋の周囲に固定されたままのダミービーコンの反応を置く事で、部屋に入ってきた空閑隊員の思考を一瞬混乱させている。このダミービーコンの中に紛れる形で東隊長はいるのか。それともここを囮に別の区画に逃げているのか。──消火器の煙で見えにくくなっているとはいえ、冷静に見渡せば何処に東隊長が潜んでいるのかは見えるはずです。しかし、ここは珍しく空閑隊員は焦っていたのでしょう」

 

 視界が奪われ。

 レーダーではダミービーコンの反応が点滅している。

 

 だからこそ。

 窓ガラスが割れる音、という要素に──飛びつかざるを得なかった。

 

 その結果。

 ダミービーコンを投げ込んだ東は、空閑遊真の背後へと回り込み──事前にグラスホッパーを使わせ、空中で回避方法の無い空閑遊真の背中を撃つ事が可能となった。

 

「三雲君の偽装ハウンドで足が削れても冷静に取れる点を取って脱出したのは本当に流石だし、あのタイミングまでちゃんと隠せていた三雲君もいいわね。あそこで足が削れていなければ、取り逃がす可能性も十分にあり得た訳だもの」

「ですね」

 

「後残っているのは──生駒隊の隠岐隊員、弓場隊の加山隊員、そして玉狛第二の三雲隊長とヒュース隊員....となりましたが。ここで隠岐隊員と加山隊員が動き出しました」

 

「...」

 

 残りは、四人。

 もうラストスパートまで入っている。

 

 その結末に至るまで。

 その全てを見通しつつ──迅は画面を見つめ続けていた。

 

 

「....空閑がやられたか」

「スマン、オサム。おれが慌ててしまったせいだ」

「いや。東さんの意図を読み切れずに慌てて指示を出してしまったのはぼくだ。空閑の責任じゃない」

「...」

 

 ヒュースの内心は──悔恨に満ちていた。

 

 修の指示は間違っていない。

 あの時に東を追わせる判断を下したことそのものは間違っていないのだ。

 

 ──急げユーマ! お前の方がアズマとの距離は近い! 外からの攻撃でアズマが仕留められる前に! 

 

 ただ。

 あの時に──東の思考誘導を見抜くことが出来ず、慌てるままに空閑遊真を先導させてしまったこと。

 追う役割を負った自身の指示にこそ、責任がある。

 

 あの時。

 遊真と合流したうえで東を向かえたら。

 それでも確実に犠牲なく仕留められた、とは言い切れないが。それでもよっぽどマシな状況で戦えていたはずだ。

 

「....」

 

 ヒュースは、冷静で、かつ真面目だ。

 遊真が落ちたのは自身の責任であり──それ故に、その責任は自分で取らなければいけない。

 

 

「オサム」

「ああ」

 

 ヒュースからの通信に。

 修は一つ頷く。

 

 

 現在。

 ヒュースは修の傍から離れている。

 現在修は──片腕が捥がれ、トリオンもロクに残っていない状況で。

 

 浮いていて、取られやすい駒だ。

 

 

「──ごめん。後は任せた、ヒュース」

「任せろ」

 

 最後の役割。

 

 それは──残った敵をおびき寄せる餌となる事。

 

 

 その瞬間──修の頭部は消し飛ぶ。

 

 

「....これで二点目。はぁ~しぶっ」

 

 イーグレットによる狙撃を敢行し、修の頭部を吹き飛ばした隠岐孝二は──はぁ、と一つ息を吐く。

 

 

「お疲れ様です」

 

 して。

 その背後。

 

「....何となく、つけられてる気はしてたわ」

 

 加山雄吾の姿がいた。

 

「イケメンの勘ですか?」

「イケメンやないから」

 

 その会話を最後に。

 隠岐孝二の心臓に、スコーピオンの刃が突きつけられる。

 

 

 これにて。

 

 

 現在残っているのは──加山雄吾と、ヒュースのみとなった。

 

 

 加山が、隠岐の狙撃地点のビルから飛び降りた時。

 視界に映っていたのは──ヒュースの姿であった。

 

「成程なぁ。──最初から三雲君を餌に俺を釣りだすのが目的だった訳か」

「そうでもしなければ、お前は生駒隊の狙撃手を狩ることが出来たら、即逃げを選択していただろう?」

「よく解っているじゃないか」

「ああ。よく解っているつもりだ。──最初から読めていた」

 

 その物言いに。

 何故だか──加山の脳内を、違和感が満たしていく。

 

「オレは──お前がどう動いてくるか。読めていた。なぜなら、お前と、お前の中にあるエネドラの記憶は──オレもまた持っているからな」

 

 加山と。

 加山の中にあるエネドラの記憶を──持っている。

 

「.....ガロプラの襲撃の時か」

「そう。あの時──エネドラから作られた黒トリガーを装着したお前に、直接電流を流し込まれた事で。恐らく──生体データを収集する機能を持つトリガー角に、その記憶が流れ込んだのだろう」

 

 ヒュースは。

 わざと、この話題を提示した。

 

 この話題を出せば、加山は会話に付き合わざるを得なくなるから。

 ──前回のラウンドで、近界民である事を引き合いに出し香取がヒュースに思考誘導したのと、同じ。

 

 関心を持たざるを得ない話題を提示し。

 ヒュースは──少しでもこの戦いでの有利を得ようとしている。

 

 

「そこでの記憶から。お前と、お前の中にあるエネドラの事も少しだけ知ることが出来た。──最初からお前の事は知っていた」

 

 その発言を聞き。

 加山は──怪訝そうに顔を顰める。

 

「だからこそ。お前の意図も読めた。──前回までの戦いとはうって変わったお前の戦い方も、納得できた」

「へぇ」

「──お前はそれ故に負ける」

 

 ヒュースは突撃銃を投げ捨て。

 弧月を生成する。

 

「お前は合理的な戦いをする人間で、そしてあくまでボーダー隊員としての戦い方を遵守する人間だった。戦術や立ち回りを想定した戦い方をしたとしても──そこに感情を入れ込む人間ではなかった」

 

 ヒュースは。

 加山という存在を規定する本質部分までも、ある程度の推測を行っていた。

 

 加山は──近界を滅ぼすためにボーダーを利用しようとしている人間で。

 それ故にボーダーという存在を強化する為には手段を選ばない。

 

 その為に──近界民である空閑遊真をボーダーに引き入れる協力までも行った。

 

 感情を脇に置き、合理性を重んじ、目的の為に動ける人間で。

 

「だが。──チカの精神的動揺を利用する姿を見て。オレは確信した。お前はこの戦いにおいては、お前の本来的な姿を捨てたのだなと」

「....捨ててはいない。ただ目的が、お前等を遠征から引き摺り下ろす事に変わっているだけで」

 

 そう。

 加山は──この戦い。先まで見据えた目的ではなく、目先にある”遠征選抜”にヒュースを連れていかないという目的に変えてランク戦を進めてきた。

 だから──。

 

「いや。捨てている。──お前は、チカに化物と言葉を吐く事に対して、全てを合理的な判断の下で行った事だと言い切れるか? ほんの少しでも、オレを受け入れ利用し遠征に向かおうとしている玉狛への怒りや憎悪が入り混じっていないと──そう言い切れるか?」

「.....」

「少なくとも。俺はこの状況が読めていた。──以前のお前ならば、この状況に陥ったならば。生駒隊の狙撃手をオレに仕留めさせ、生存点を稼がせない為に時間内まで徹底した潜伏を行う方向に舵を切ったはずだ。しかしそうはしないだろうと、オレは読んでいた。狙撃手を仕留め、オレと正面から戦う方法で立ち向かうだろうと。何故だか解るか?」

 

 弧月の切っ先を。

 ヒュースは──加山に向けていた。

 

「チカをあの方法で倒した瞬間から──お前は玉狛への感情を押し隠さずにぶつける方面に舵を切ったのだと判断できた。今のお前は本来のお前ではない。合理性ではなく、感情で動く人間になってしまっている」

 

 だから。

 

「オレは──お前に負ける事はない」

 

 前回のラウンド。

 弓場隊は──自らの楔を断ち切った事で、他部隊の思惑を裏切り勝利を収めた。

 

 今回も、その延長線上だと。そう加山は思っていた。

 

 自らの戦い方や思考をエネドラに寄せ。

 そして雨取千佳に精神的動揺を誘って倒したのも。

 

 楔を断ち切ったのだと。

 

 

 しかし。

 実際の所──加山の内側にある感情を発露させただけのもので。

 それが新たな楔となって。

 その楔をヒュースは読み切り。

 

 現在──加山とヒュースは対面している。

 

 

「お前は、お前の感情の為に最善を逃したのだから」

 

 そのヒュースの発言に。

 加山の内側が──燃え盛る炎に炙られたかの如く、熱気に満ちた。

 

 

「──いいや。ここでお前をぶっ殺すことが出来れば、結局は全てが上手くいく」

 

 

 やはりな、とヒュースは思った。

 

 今の会話で。ヒュースは加山に一つの楔を刻んだ。

 

 ──ヒュースに対する感情を更に焚き付け、勝負から逃れられないように。

 

 これで加山雄吾は。

 決着をつけるまで──ヒュースとの戦いから逃げることは無い。

 

 加山が感情を基に動いていると見抜けたからこそ。

 焚きつければ──勝負に更に乗ってくれると踏んだのだ。

 

 ──さあ。ここからは勝つだけだ。

 

 ランク戦、最終ROUND。

 最後の戦いを飾るは──因縁同士の、ぶつかり合い。

 

 

 生き残った者が、勝者だ。

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