彼方のボーダーライン 作:丸米
「ふんふむ。――これならばどうだ」
現在。
加山雄吾は個人戦ブース内で様々な実験を行っていた。
場所は、市街地B
「よし。――黒江! そろそろ見れるぞ!」
「いいですから、早く済ませてくれませんか」
「ちぇ。クールなことで。まあいいや。――メテオラ!」
そう加山が呟くと。
八階建てのビルディングが、複数の階層で爆破した。
中階から小規模な爆破が同時に鳴り響き――そして、最下層から大きく、そして篭った音が響き渡る。
がらがらと鳴り響く音。
みしみしと建物全体が軋む音。
そして。
「-------」
ばきばきと、ビルディングが崩れていく音。
中階の爆発と共に上階部分との接続が途絶え崩壊するとともに、最下層の地盤にメテオラを仕込み地下からの支えを同時に破壊する。
すると。
建物は上階の崩壊によるプレスと、地下から鳴り響く爆撃による揺れ、そして地盤の支えを失う事により――上下からの揺さぶりに耐えられず、建物は一瞬にして崩壊した。
その様は、圧巻だった。
爆破と共に上下が揺さぶられ、自重の支えが全て崩壊の為に使われ、一気に崩れていくその様。
表面上は冷めた態度でそれを見ていた黒江も――目を離すことが出来なかった。
「実験完了。これで爆破による解体ができる建物の分別が出来るようになった。わははは」
「-----分別?」
「そう。――縦に広ければ広いほど、横に狭ければ狭いほど、爆破による解体は簡単だ。上からの圧力をかけやすく、地盤の支えも狭い。その分、地盤の奥深くまで支えがあるのだが、メテオラでその支えを切っちまえば意味なんかないからな。だから自然に、高層ビルとかが解体は簡単になる」
「------」
「本当はあの規模の爆発起こそうと思ったら入念な準備が必要になるんだけどな。まあこれもトリオン体とトリガーが為せる業だ。細かい鉄骨は予めアステロイドでぶっ壊せるし、地盤に爆破の衝撃を効率よく伝えるためにメテオラキューブの周囲をエスクードで囲めばいいし。――これで俺も一つ武器が増えた」
「------」
加山雄吾は、実験を行っていた。
メテオラその他トリガーを用いた、建築物の爆破解体の実験であった。
加山は、上階と下階を結ぶ地点の鉄骨を拳銃で破壊していき、破壊した地点に細かいメテオラキューブを仕込んでいき、――そして、地盤にメテオラを仕込み、爆破させる事により建物を倒壊させた。
「あとミソはあれだな。上階層に一定量のエスクードを生やすことで上からのプレスを跳ね上げる事だな。地盤を揺らして、下からの支えをなくして、重い上階から下に向けて力を加えるんだ。そうすれば、建物は解体できる」
「あの」
「うん? どうした黒江」
「------もう一回、別の建物で見せてもらってもいいですか?」
「いいぜ黒江。俺の方も段々とコツが掴めてきた!」
黒江双葉。
まだまだ中学一年生に上がりたて。
まだまだ――派手な爆発シーンが好きなお年頃。
※
「――よし」
メテオラによる爆破解体を三回ほど行った後。
加山は一息つく。
「どうする、黒江? 個人戦やるか?」
「やります」
「よし」
黒江双葉。12歳
現在、ボーダー最年少のA級隊員である。
A級加古隊に所属し、攻撃手としてその辣腕を存分に発揮している。
「今日は付き合ってくれてありがとう。その分、今日は好きなだけ付き合ってやる」
「よろしくお願いします」
互いに一礼すると、それぞれが動き出す。
黒江は背中より刀を抜き、加山は地面に手を当てる。
黒江が構えを取った瞬間には、幾つもの壁が眼前に現れる。
「-----」
黒江の代名詞ともいえる言えるトリガーが、”韋駄天”だ。
韋駄天は、瞬間的な高速移動を可能とするそのトリガーで、瞬時に攻撃手の間合いに入り込む。
故に。
加山はその直線上にエスクードを生やす。
エスクードで視界と行動を制限させたうえで、
「ハウンド」
ハウンドを、その隙間と上空から放っていく。
黒江は張られていくエスクードを斬り裂きながら、前進していく。
加山との勝負は、我慢を強いられる。
高機動で瞬時に近付きたい黒江。
エスクードで機動に制限をかけていく加山。
黒江の得意戦法に対して、それを潰す手段を加山は持っている。
------ハウンドも、そう簡単に受けられる威力じゃない。
加山はトリオンが高い。
それ故にエスクードと共に放たれるハウンドも、易々とシールドでの防御の選択を取れない。トリオンが高い分、その威力も段違いだ。
誘導半径内で移動しようにも、その中はエスクードで塞がれている。
「------」
加山雄吾は、よく自らの隊長である加古の炒飯に殺されている人物だった。
変人奇人が珍しくもないボーダー内。
そのうちの一人なのは間違いないだろう。
しかし――。
「ぐ-----!」
移動するたびに生えてくる壁。
間隙から放たれていくハウンド。
迂回先に置かれるメテオラ。
加山はとことんまで黒江双葉の手札を潰す手段を持っていた。
機動力の高い攻撃手に対しての方策が出来上がっている。
黒江にとって不可解なのが――高速移動のタイミングとベクトルが完全に見抜かれている事だ。
どのタイミング、どの方向に韋駄天を使おうと加山はそれを見抜き、対策を打つ。
――音に色を感じるという加山雄吾は、相手の挙動から生まれる微妙な動作の違いから動きを読んでいる。
彼は近接戦でのセンスは然程ない。それ故近づかれれば倒すのは容易であるが、近付くまでのプロセスを的確に潰してくる。
そのプロセスを踏むためには、風間のようなエスクードの制限をものともしない技巧を持つか、木虎のように飛び道具が無ければならない。
今のところ、黒江には両方ない。
「ぐ-----う------!」
最終的に。
ハウンドで削られていく。
この四方から増えていくエスクード。
ハウンドで足止めされる動き。
時間が過ぎるにつれて、エスクードは増え、ハウンドによるダメージも蓄積され、――最終的に、削り殺される。
ハウンドで完全に足が止まった瞬間を見透かされ、唐突に消えるエスクードの向こうから放たれるアステロイドによって、撃ち抜かれる。
第一ラウンド。
加山雄吾の勝利であった。
※
――ならば。
エスクードの上へ、飛ぶ。
飛びながら、エスクードの上から韋駄天を使用する。
エスクードの制限のない空中から、加山に向かって行く。
「それはあんまり意味がないぜぇ、黒江」
だが、いざ加山に近付くその間にエスクードが足元から生え出て、ぶつかる。
ぶつかるその壁ごとアステロイドで撃ち抜かれ緊急脱出。
「空中から襲い掛かろうが、結局俺は地上にいるんだからな。軌道上にエスクード生やせば一発よ」
二本、三本と繰り返す。
しかし加山に近付く事も出来ない。
「------」
――双葉には、知ってもらいたかったの。
最初。
加山との個人戦を提案したのは、加古であった。
――自分の力が良くも悪くも尖っている、って事に。
瞬間的な高機動能力で、相手との距離を詰め、戦う。
それは弱点も多いが、非常に尖り、突出した強みがある。
その強みがあるからこそ、ここまででマスターランクまで上り詰めた。
だが。
その強みを完全に潰せる人間がいると言う事に。
加山雄吾。
まだどのトリガーでもマスターランクにもいっていない。B級に昇格し半年ばかり。個人戦での戦績は良くも悪くもない。例えば、彼の同期の村上鋼との戦績など九割がた加山は敗北している。
しかし、ビックリするほど黒江は勝てない。
そのまま十本勝負は――加山が十勝で終わる。
「------」
「まあ、相性というものはどうしようもなくある」
「解っています」
黒江は、負けず嫌いだ。
それ故、やられっ放しというのは性に合わない。
どうしようもなく相性が悪いことは自覚しつつも――どうしても、勝ちたい。
加山は黒江に対して完璧な対策を打ってくる。
その対策の対策を考えるものの、思いつかない。
――負けず嫌いが負け続ける程イライラする事はない。
だが黒江は眼前の先輩である加山を無視する事が何故かできなかった。
この理由だけで嫌ってしまうのはあまりにも子供っぽいと言う事もあるが、
「――お、木虎じゃないか」
個人戦ブースを出ると、――そこにはしかめっ面した木虎の姿があった。
そう。
何よりも。
――加山との関係性を、木虎とダブらせたくないというのが大いなる理由なのかもしれない。
木虎が嫌う人間を、黒江も嫌う。
そこから生まれる共通項。
それを作る事すらも嫌なのだ。黒江は。
「げ」
「げ、とは何だ、げ、とは。数少ない――訳じゃないが同期だろ。もう少し親愛を見せてくれ」
「ごめんなさい。無い袖は振れないの」
「だろうな。――ちなみに俺は割とない袖を振るってお前に挨拶をする程度の信愛を見せているのだが」
「要らないわそんなもの」
そして、木虎はその隣に立つ黒江に気づき、声をかける。
「あ、こんにちわ黒江ちゃ――」
「------加山先輩。お昼ごはん早く食べましょう」
無視。
その存在も、その言葉も目にも耳にも入らないとばかりにぷぃ、と身体ごとその姿を背けると――黒江はスタスタと歩き去っていった。
「-----」
木虎は、ただ茫然とそこに立っていた。
加山はその左肩に手を乗せ、
「まあ。人徳の差だな。精進せぃ」
と慰めにもならない台詞を呟き、思い切り睨みつけられた。
※
「木虎は割と後輩に弱いのな。――ふん。こればかりは俺の勝利だな」
加山は黒江と食堂まで移動すると、ふんふんと弁当箱から昼飯を取り出し、口に運ぶ。
ふん。舐めるな。
加山の対人欲求は、
年上→舐められてもいいからいつでも情報を得られるようにしておきたい
同い年→勝とうが負けようが仲良くしておきたい
年下→とにかく皆可愛いので慕われたい
と。
恐らくは――年下への対人欲求に関しては木虎と大きく被っているものだと思う。
――ふん。
――だが、木虎よ。
お前は足りない。
年下から年上にコミュニケーションを取る事は大きなハードルがある。
木虎は山よりも高いプライドがある。そしてそのプライドに負けない実力がある。
そんな人間に、中々年下の人間は近づき難いのだ。
それに比べて自分はどうか。
プライドなんぞドブに捨てた。舐められんのも上等。奇人変人扱いされようが知った事ではない(最近本部ロビーにたむろする変人が自分の事だと知った)。
対人関係のハードルを下げに下げて、この位置にいる。
その努力をせずに、年下だけには慕われていたいと思うなど笑止千万。
「まあ、でも多分黒江は俺の事慕ってるわけじゃないわな」
「はい」
「ですねー」
巴辺りは純粋に慕ってくれているのが解るが、黒江の場合対抗心がマシマシで積み重なっているのが見えている。
いいんだけどね。それもそれで可愛いし。
「で」
「うん?」
「そのお昼ご飯、何ですか?」
そこには。
キャベツの千切りともやしの炒め物――だけが。
だけが、敷き詰められていた。
「自作だぞ。俺は女子力高め男子だからな」
「見るからに低いんですけど-----」
「キャベツにもやし。ふっ。野菜だ!」
「野菜しかないじゃないですか------」
「うまいぞ?」
「要らないです」
いや。
本当。
たいして美味しそうでもないし、それ以上に何だか貰うのさえも憚られる。あまりにも貧相な弁当箱の中身だった。
「俺は糖分が必要でな」
「はぁ」
「夜の修羅場を超える為には、エナドリとチョコが欠かせんのだ」
「------」
「その分、昼飯は貧相になる。致し方なし」
「馬鹿なんですか?」
何というか。
本当に。
この人は真正のバカなんじゃないかな、と思った黒江でした。