彼方のボーダーライン   作:丸米

151 / 166
ランク戦最終ROUND ⑪

 加山は思考する。

 

 己の手数の最大値を考える。

 

 ──俺が取れる最大手は、五手だ。

 

 ハウンドの置き弾をフルアタックで使用。これで二手。

 置き弾を撃ち出した後に追加で放つフルアタックのハウンド。これで四手。

 

 その後の、五手。

 ここに二択が存在する。

 

 四手分のハウンドで足を止めさせたヒュース相手に──肉薄してのスコーピオンでの襲撃か。もしくは合成弾か。

 どちらも可能だ。

 

 ハウンドで足を止めさせている状況ならば。ヒュースに肉薄するも、合成弾を作成して撃ち出すのも。どちらも選択できる。

 

 今──集合住宅の中。ダミービーコンで自らの位置をバッグワーム抜きで隠せているという状況下だからこそ出来る手だ。

 

 フルアタックを隠れながら行えるこの状況。

 自らが静止し隠れる──という条件が必要だが。それでも追尾機能があるハウンドだからこそ、それが可能となる。

 

 どうするか。

 スコーピオンを使っての襲撃は──ハイリスクハイリターンの択だ。

 肉薄できる分、ヒュースを仕留められる可能性は高くなる。

 されど、仕留め切れなかった場合一気に窮地に落とし込まれる。

 

 合成弾の襲撃を仕掛ければ、ローリスクで、ややリターンが高い択であろうか。

 その択で仕留め切れる可能性は極めて低い。ハウンドの連射で削れども、ヒュースのトリオンを考えればシールドを削り切れる程ではないはずだ。しかしフルガードを誘発させ、その状態でヒュースの足を動かす事は出来る。その動かした地点へ、更なる追撃を行う事を含めた行動になるであろう。

 

 今までならば迷うことなく後者を選んでいただろう。

 後者ならば、追撃の択が潰されたら、今度は逃走というカードを切る事も出来る。加山本来の思考であれば、必ず逃げ道を用意したうえで挑む。

 

 

 とはいえ。

 容易に前者を選ぶことも出来ない。

 

 ヒュースは、以前までの加山も、そして今の状態の加山も知っている。

 故に──加山がリスキーな行動を取るという行動そのものが楔にならない。

 

「──ここで必要なのは、第三の方策だ」

 

 二択に捉われるな。

 まだ。

 まだまだ。

 

 

 

 ──やれるはずだ。

 ──別に俺は俺を信じている訳じゃない。そんなものに自信なんざ得られる程立派な人間じゃない。

 ──ただ、俺が積み上げてきたものの価値を信じているだけだ。

 

 ──解ってるんだよ。

 ──何をやってんだって思っているよ。

 ──ガラじゃないって認識してんだよ。

 ──本当に、みっともない。俺を頼ってくれた女の子の弱味を利用してまで、みっともなく目的を果たそうとした浅ましさだって。理解している。

 

 ──それでも。それでも、俺は。一回信じてみたくなってしまったんだ。

 

 この勝負だけは。合理性という基準でもって戦う加山雄吾ではなくて。

 感情を基盤とした戦い方を選択した加山雄吾として。

 

 大規模侵攻でエネドラという異物を自らの中に受け入れた人間として。

 ランク戦で弓場隊の隊員として戦ってきた人間として。

 エネドラの記憶に苦しみ受け入れ変化した人間として。

 そして。

 

 紛うことなき、玉狛第二の敵である加山雄吾として。

 

 

 ある種の意地だ。

 合理性で考えれば切り捨てるべきで。

 でも切り捨てることが出来なくなった、これまでの変化の象徴で。

 

 

 張った意地に協力してくれた人間もいて。

 意地が生まれるほどのしみったれた人間性が出来上がっていた。

 

 

 粛々とこれまでの勝負をして。

 その結果を粛々と受け入れる。

 その結果に付随する感情は、脇に置いて。

 

 それが──この期に及んで選択できなかった。

 

 このしみったれた人間性と、しみったれた意地を。

 掴む必要があったんだ。

 拘る必要があったんだ。

 この意地が生まれたのは、これまで関わってきた人間すべてが因果となって変化が生まれたからだ。

 

 この意地を張る事に。弓場隊は肯定してくれた。染井華が背中を押してくれた。香取葉子と影浦雅人は協力してくれた。

 

 ──価値がないと思っていた自分という存在に。

 ──付随した価値が存在することを、知った。

 ──教えてくれたのは、自分以外の全てだ。

 ──味方も敵も。喜びも憎しみも。全てだ。

 

 

 玉狛第二は、そうして自分を変えた存在の一つだ。

 憎しみと苦痛を与え、人間性の萌芽の源泉となった──自らの中の大いなる存在。

 

 だからこそ。

 ──萌芽し、花開き、遂にその存在を認めてしまった。このしみったれた人間性を。そこから生まれた感情を。

 ぶつけたかったのだ。

 

 

 

 加山が潜伏する集合住宅の向かい側。

 そこにヒュースが入っていくのを確認した瞬間──加山は動いた。

 

 置き弾を打ち上げると同時に。

 自らの両手にハウンド弾を二つ生み出す。

 

 置き弾は空高く打ち上げる軌道からヒュースに向かう軌道に設定し打ち上げ。

 その直後に加山が生成し放つフルアタックのハウンドは、ヒュースの左右から挟み込む形で。

 

 高所からの置き弾のハウンド。

 左右から挟み込むハウンド。

 

 両枠を使った置き弾からの、更なるフルアタック。

 この攻撃を行使している間。加山は当然防御はできない。

 

 しかし。

 ダミービーコンとハウンドの組み合わせが、この二連のフルアタックを可能としていた。

 

 ダミーのトリオン反応と。追尾を可能とするハウンドの組み合わせだからこそ、可能となった二連続のフルアタック。

 

 それを行使した。

 

 

「....」

 

 ヒュースも、この攻撃自体は読んでいた。

 だからこそ。

 発射点に着眼し、弾丸の行方を見ていた。

 

 

 左右から。頭上から。

 叩きつけられてくるハウンドの弾雨をシールドで防ぎながら。

 

 

 足を踏み入れた集合住宅の壁が無惨に破砕されていく。足元も同様だ。

 

 ──ここから下手に動くのは悪手だ。

 

 集合住宅から出れば。

 障害物もない状態からまたもやハウンドの猛攻を受けることになる。

 ──シールドが削られようが、ここは動かずに対応する。

 されどフルガードにて身を守れば、結局その後の追撃で削り切られてしまう。

 

 

 その思考の結果としてヒュースが選択したのは。

 フルガードではなく──バイパーの置き弾を自らの左方に設置しての、固定シールド。

 

 弾雨に晒されながらも、ヒュースはバイパーを放つ。

 ハウンドの軌跡を瞬時に脳裏に浮かべ、辿るべき軌道を頭の中に浮かべ。

 オペレーターの宇佐美栞が即座に割り出した弾道計測も併せて。

 弾き出し、導き出した答えは。

 

 

 ──完全なる正当を選び出す。

 

 

 加山の潜伏場所をピタリ当て、向かいの集合住宅の一室に向かうバイパー弾は。

 複数の個所へ分割し放つ”炙り出す”軌道から、加山の潜伏場所の一点に向かう軌道で。

 那須玲の鳥籠の変則版とでも言おうか。

 加山が潜伏しているであろう箇所に雨のように降り注ぐ軌道から、加山の居所一点に収束するバイパー弾を

 

 

 現在加山はフルアタックを行使していて、シールドを装着していない。

 この一撃で仕留められたか──と思ったものの。

 

 緊急脱出の音声は聞こえてこない。

 

 

 

 ──四手を終えた。

 

 

 加山は潜伏場所からバッグワームを装着し、その場より離れていた。

 

 

 ──リアルタイムで弾道を引けるのは、実際とんでもない性能だ。

 

 しかし。

 バイパーは事前に設定した軌道から修正することはできない。

 

 

 加山は。

 察知していた。

 

 そのバイパーの軌道を。

 

 それ故に。バイパーの軌道が曲がってきたのを察知した瞬間には、潜伏場所から逃れていた。

 

 

 ──だが。読まれてしまえば避けるのは容易い。

 

 

 外から聞こえてくるバイパーの射出音。そして向かう軌道。障害物を砕く音も含め。

 

 加山は自らの副作用と、経験則からバイパー弾の軌道を読み──逃れた。

 

 さあ。

 次の五手目。

 

 

 

 加山は──ハウンドの弾雨からシールドにて身を守るヒュースの居所に向け走り出す。

 

 追撃のハウンドを散らせ、足を止めさせて。

 向かいの建造物にいるヒュースの下へと。

 

 

 

 ──やはり、ここで近付いてきたか。

 

 

 加山らしくないその選択に。

 ヒュースは特に違和感を覚えることなく、想定通りであると判断する。

 

 

 集合住宅地へハウンドを振りまきつつ。

 加山はヒュースの視線をハウンド弾に向けつつ、集合住宅の背後に回る。

 

 その瞬間。

 バッグワームにて反応が消える。

 

 

 背後。

 反応が消える。

 加山がバッグワームを着込み、がしゃがしゃと壁が破壊される音が響く。

 恐らく──自らの足音を消すために、ダミーの音を立てているのだろう。

 

 

 瞬間。

 

 四つのトリオン反応が生まれる。

 

 

 

 ──来た。

 

 

 

 ヒュースの視界から逃れ。

 自らのトリオン反応をバッグワームにて消し。

 そして──バッグワームを解くと同時に、ダミービーコンを同時に起動させる。

 

 

 これにより。

 この四つの内どれが──加山の位置なのかを隠す。

 

 

 先程と同じだ。

 これにてヒュースから自らの身を隠し、フルアタックを行使する。

 

 

 

 行使するは。

 

 

 

「──合成弾」

 

 

 ヒュースがいる地点に向けうねるように。

 ハウンドを重ね作り上げた──ホーネットが放たれる。

 

 

 ヒュースは。

 ダミービーコンにより加山の位置を瞬時に判断が不可能と理解した瞬間より。

 

 加山の狙いに確信を持った。

 

 ホーネットでガードを固めさせて。

 次に打つ手は──。

 

 

「ここだな」

 

 

 ヒュースは、加山が弾丸を撃ってくる状況下で。

 手にしたのは──迎撃用のバイパーではなく。

 

 弧月であった。

 

 

 そして。

 

 

 旋空をセットし──斬撃を放つ。

 左右の壁を斬り裂き。

 そして自らの足下もまた。

 

 その瞬間。

 足元から、何かを叩き壊す手応えを感じる。

 

 

 

「.....そうか」

 

 

 斬り裂かれた壁の向こう側。

 そこから──スコーピオンを繋げ、足元よりヒュースへ刺突をせんとしたものの──旋空の一撃にて肩が斬り裂かれた加山の姿が現れる。

 

 

 

「これでも、駄目か」

 

 

 

 加山は。

 当初予定していた五手の戦術ではなく。

 六手をつぎ込む立ち回りを行った。

 

 

 ビーコンを起動してのハウンドの四連撃を浴びせ五手目に合成弾か肉薄してのスコーピオンの斬撃。──という二択ではなく。

 二つをつぎ込む。

 

 

 ハウンドの置き弾とフルアタックの射出

 →ヒュースがいる集合住宅に入ると同時にバッグワームで身を隠し、ビーコンで紛れつつ合成弾の射出。

 →その対応の為にシールドを張らせ、バイパーで迎撃を誘いつつ足元よりマンティスによる攻撃。

 

 合成弾からの、足元へのマンティス。

 

 五手からの、六手。

 それでも。

 それでも──加山はヒュースを打倒することが出来なかった。

 

 

 

「──クソッタレ」

 

 

 結局。

 ヒュースに直接引導を渡すという、勝ち方を選ぶことが出来なかった。

 

 己の意地を張ってみたものの。

 ヒュースの壁は、何処までも高かった。

 

 

 

「だが──まだだ。まだ、俺が有利だ」

 

 

 

 残り時間。

 あと五分。

 

 

 加山は集合住宅から出て、砂利が敷き詰められた公園へと出る。

 

 

 ──五分。逃げ回ってやるさ。

 

 

 今加山が仕掛けた大仕掛けは失敗に終わった。

 だがヒュースを取り巻く状況は変わっていない。

 

 

 ヒュースはフルアタックを使えない。

 加山の相打ち覚悟の攻撃を警戒しなければならない。

 ならば簡単だ。先程と同じ行動を繰り返せばいい。近づかれればハウンドで足止めし、また逃げる。どのような手段を取ろうとも──フルアタックなしのヒュースの攻撃で崩される程甘くはない。

 

 

 ヒュースもまた当然加山を追い。

 バイパー弾を撃ちながら加山を追い詰めんとする。

 

 

 しかし。

「那須さん程の機動力で飛び跳ねられるならともかく──単なるリアルタイム軌道のバイパーは俺には効かない」

 

 放たれたバイパー弾を。

 既に軌道を読んでいるのか。加山は極細シールドにて一部のバイパー弾を消し去り、消し去った方向にステップを踏み避ける。

 

 加山は読んでいる。

 バイパーの射出音と、そこから曲がる際の音を。その際に感じる、微細な音の変化を。

 

 

 ヒュースが頭の中で描いた軌道を。

 加山は色彩にて判断する。

 

「.....」

 

 バイパーは通じない。

 

 そして。

 周囲に飛び交う低速弾道のハウンド。

 これにて──弧月が届く距離までヒュースが近付く事を否定する。

 

 

 相打ちでも。

 生き残っても。

 ヒュースは負ける。

 

 

 それが解っているからこその、立ち回りであった。

 

 

 ぶしゅ、と肩が斬り裂かれる。

 

 

 旋空を放たれた。

 構わない。

 この程度の手傷であれば。

 

 

 加山が現在気を付けているのは足元への攻撃と急所への攻撃。

 足が削られれば肉薄されて負ける。

 ──あと、二分。

 

 

 攻撃は、猛威を振るい始める。

 バイパーの射出から突撃銃に変え、足元への掃射まで行ってきた。だがそれでも足だけは死守だ。

 

 足元を意識させてからの射撃で、脇腹が吹き飛ばされる。

 構わない。

 この程度の削りで死ぬことは無い。

 こちらもギリギリのギリだ。

 一つ間違えれば死ぬ。

 だがまあ、仕方がない。

 肉薄して仕留める事をミスったから陥った状況だ。甘んじて受け入れる。

 

 ──あと一分。

 

 

 

 ここで。

 ここで耐えきれば──! 

 

 

 

「....」

 

 

 ヒュースは。

 それでも焦りはしない。

 

 残り三十秒。

 

 左手が吹き飛ぶ。

 

 残り十秒。

 更に脇腹が削られる。

 

 

 

 その時だった。

 

 

「──ここだ」

 

 

 残り五秒。

 

 

 ヒュースは弧月を手に──加山へと突っ込んでいく。

 背後に──バイパーの置き弾を置いて。

 

 

「──時間ギリで勝負にかけるか。判断が遅いんじゃないの」

 

 ──粘り勝った。

 

 ヒュースがここで、イチかバチかの勝負に出た。

 だから加山は──自らもまたハウンドの置き弾を設置し、ヒュースに肉薄する。

 

 

 スコーピオンの斬撃を。

 ヒュースは、

 

 

「.....あ」

 

 弧月を持つ、右腕で受ける。

 振りかぶるフリをして、右腕を前に出し、肩で心臓をカバーする動き。

 

 

 スコーピオンの刺突は。

 急所からズレる。

 

 

 そして。

 背後から放たれる加山のハウンドに対し。

 

 

 

 ──シールドが分割し、ヒュースから守る。

 

 

 

「この弧月は、トリオンが通っていない。ただのオフ状態の棒だ」

 

 

 

 時間ギリギリで。

 イチかバチかの勝負に出た──とヒュースはブラフをかけ。

 

 

 

 実際は。

 シールドを装着し、加山の相打ち覚悟の攻撃を防ぎ。

 

 

 

「──意趣返しだ。これまでのお前と同じやり方で勝たせてもらう」

 

 

 背後のバイパーの置き弾が。

 加山の左右を挟み込み──全身を貫く。

 

 

 

 残り、一秒。

 

 

 ──加山雄吾、緊急脱出。

 

 

 

 

 

 その音声が、静かに響いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。