彼方のボーダーライン 作:丸米
「試合終了です! この試合、6得点を奪った玉狛第二の勝利となりました! よって──!」
これにて。
今期の全試合が終了し──順位が決まる。
1位は弓場隊。
そして──2位は玉狛第二。
「今期のランク戦戦績は──1位、2位共に入れ替わる事となりました!」
元A級部隊二つが、共に上位二つの枠を譲り。別の部隊がその枠に入り込む事となる。
弓場隊と、玉狛第二。
「それでは。総評をよろしくお願いします!」
「今回の戦い。正直な所玉狛は終始追い込まれている形になっていたわね。それはやっぱり、序盤も序盤に雨取ちゃんが落とされた事に起因するでしょうね」
加古は微笑みながら、そう言った。
「雨取隊員を落とすまでの流れは本当にスムーズでしたね。加山隊員、東隊長がダミービーコン地帯を敷き、雨取ちゃんの爆撃を誘い位置を割り出し、そして加山隊員による雨取隊員への襲撃。あの動きは──弓場隊と東隊で意思疎通が出来ていたのか、って思ってしまいましたね。とにかくこの二部隊の連携が非常に素晴らしかった」
「そう。玉狛も雨取ちゃんが真っ先に狙われる事までは想定していたんでしょうけど。あの序盤も序盤の内に加山君と東さんが連携して炙り出そうとしているところまでは予想外だったんでしょうね」
序盤。
加山がマップ中央にダミービーコン地帯を敷いたことで、玉狛第二のそれぞれの位置情報を東に伝達し。
東が敷いたダミービーコン地帯により実際に敵を集めて、雨取千佳の爆撃を誘い──それを東が狙撃により撃ち落とすという過程を経て雨取千佳は落とされた。
「弓場隊は加山君がトリガー構成を変えて今までの動きからより点を取る為の動きにシフトチェンジして、東隊もまた点を取る為に積極的に動いていた。生駒隊は不運と言えば不運でしたね。生駒隊長が序盤の内に落ちて、南沢隊員が奥寺隊員の新トリガーにやられてしまった」
「生駒君も、本来なら隠岐君と合同でヒュース君を落とす算段だったんでしょうけどね。その動きまで想定されたうえでヒュース君に対処された。まああの辺りは玉狛の方が一歩上手だったという事でしょう」
生駒隊は機動力でもって自在に動かせる隠岐孝二という狙撃手がいるため、生駒がヒュースに仕掛けると同時に移動を行わせて合同で倒す算段を立てていたのだろう。
しかしヒュースはその狙いを看破し、修に防護をさせる事で狙撃を防ぎ、生駒を仕留める事が可能となった。
「終盤での弓場隊長と空閑隊員の一騎打ちですが。正直俺の中では弓場隊長の勝算の方が非常に高い戦いでした。これまでの戦い、どうしても弓場隊長は点を安定して取らなければならない状況にあったので、基本的にエースとの一騎打ちという状況で動かせなかった訳ですが。今回はその枷を外して空閑隊員とのタイマンに臨みました」
「エスクードで仕切りを作って、ある種疑似的な決闘場を作った感じね。──やっぱり空閑君は圧倒的に”本番に強い”子ね。あの状況下なら、A級のエースでも易々と突破はできないでしょうから」
「俺もそう思いますね。空閑隊員の発想力にはいつも驚かされる」
弓場拓磨と空閑遊真とのタイマンもまた、この勝負の行方を左右する戦いの一つであっただろう。
遊真の進路に待ち構えていた弓場拓磨は、新たに積んだトリガーであるエスクードにて逃げ道を防ぎ──自らの間合いの中で戦いを挑んだ。
威力も高く速度も速い。一瞬の破壊力に富んだ弓場拓磨の戦闘スタイルを、完全に押し付けられる形で始まったこのタイマンは──遊真にとって完全に不利な状況からスタートした。
されど。咄嗟の判断から左腕を犠牲に窮地を脱した後。弓場はエスクードによって進路を塞ぎ再度の早撃ち勝負を仕掛けるが──グラスホッパーと手裏剣型スコーピオンの連携からの不意打ちにより弓場拓磨は敗れた。
「あの辺り、弓場君も全く油断しているようには見えなかった。むしろ集中していたからこそ空閑君の初撃を避けられた。ただ──集中力を空閑君一人に向けていたから、どうしても周囲に意識を割く余裕が奪われたんだと思う。早撃ちっていう武器を持っている弓場君だからこそ、攻撃に移る瞬間に意識上の隙が生まれてしまうんでしょうね」
「ですね。──しかしあの場面、本当に互いが全力を一瞬で出した感じがしていて、名勝負だったとも思います」
弓場拓磨はタイマンに強い。最速の直線攻撃を叩き込める”早撃ち”の技術を持っているが故に。
そして──空閑遊真は本番に強い。今までに培った経験に裏打ちされた対応力と発想力があるから。
二つの特性がぶつかり合い──最後の最後に、空閑遊真が一歩分だけ勝利に近かった。
そういう、戦いであった。
「その後空閑君が東さんに仕留められるまでの流れはさっきも解説したけど。──あれはもうどうしようもなかったわね」
「東隊長自身が玉狛と、残っている隠岐隊員と加山隊員の意図を完全に読み切っていましたからね。あの場面は東隊長の盤面の把握能力と冷静さが素晴らしかった」
修を狩る為に攻撃を仕掛けた東は、ヒュースの援護と修のトリガーの入れ替えの攻撃によって足を削られる事となるが。
自身のポイントを人質に遊真を建物内に釣りだし──ダミービーコンと消火器を利用した即席のトラップにより遊真を撃破した。
「東隊としては今回はかなりどん欲にポイントを取らなければいけない立場だったと考えると、最終的な目的は達成しているわね。全滅したけど、四ポイントを取っている」
「そう。ヒュース隊員と三雲隊長の二人を前に機動力が削られるという、狙撃手としては最悪の状況下でしたが──そうなった時の次善策もしっかり用意して目的を完遂する。アレが東隊長の強さです」
「そして──最後の場面。隠岐隊員を仕留めた加山隊員とヒュース隊員との戦いですが。あの場面、お二方はどう捉えましたか?」
「いい勝負でしたね。加山隊員もヒュース隊員も、互いの強みを十全に発揮した戦いでした」
「互いの強み、と言いますと?」
「加山隊員は、自身の有利を積み上げ、整える能力が秀でていて。その強みがしっかり出ていました。東隊長を玉狛が追っている間。加山隊員はしっかりヒュース隊員との対戦に備えていました」
加山は、備えていた。
ヒュースと戦う事を前提条件において。ダミービーコンを事前に団地の中に仕込み、ヒュース相手に有利な条件と環境で戦える状況を作っていた。
「対してヒュース隊員は、その地力で以て加山隊員が作り出した状況に全て対応していた。豊富なトリオン。リアルタイムでバイパーを引ける能力と卓越した剣技。あらゆる状況に対処できる能力を備えていて、加山隊員が作り上げた環境全てに冷静に最善を選んでいた」
加山が、環境を作るタイプの人間ならば。
ヒュースは環境に対応するタイプの人間であった。
加山はヒュースの手札を幾つも封じてきた。捨て身の攻撃を匂わせフルアタックを封じつつ、自らはダミービーコンの使用によって安全にフルアタックを行使できる環境を作った。ハウンドの置き弾を使う事で足を止め、自身が有利に戦える環境下にヒュースを釣りだした。
それでも。
それでもヒュースは加山が取る手全てに対応し──切り抜けた。
「加山君は基本的に戦術を次々につぎ込んで戦う傾向が強いのよ。それは彼自身の能力が不思議なほどに上がった後も同じ」
「ですね」
「相手に対応する、という戦いをかなり嫌っていて。相手に対応させる状況を作る事を好んでいる。だからこそ──事前に備えて、その備えによって作った戦術という弾を次々撃ち込むような戦いをしていた。──そして。ヒュース君は加山君が用意した弾丸の全てを撃ち尽くさせた。だからこそ、最後に加山君がやられた」
「.....最後。時間切れ寸前でヒュース隊員がバイパーの置き弾を使った事で加山隊員を打ち取った場面ですね」
「あの場面。──ヒュース君は加山君の戦術の全てを対応する事で出し切らせて。そして最後の最後。事前に備えていた戦術を加山君にぶつけて倒した。あの場面だけ、加山君とヒュース君の立場が変わったのよ。ヒュース君が戦術をぶつけて。加山君がその対応を迫られる事になった」
そして。
全ての弾丸を吐き出し、逃げに徹していた加山は──ヒュースが直前に仕掛けた戦術に対応しきれず、撃破される事となった。
「加山君は、対応する側に回らない立ち回りを続けていたから──いざ対応する側に回った時の対応能力でヒュース君を上回ることが出来なかった。そこがかなり明確な敗因になるでしょうね。そこを即席でフォローできるエスクードも、今回加山君は外してきているのも痛かったわね」
「今回、加山隊員はかなりトリガー構成も戦い方も変更して仕掛けたのが、裏目に出たという事でしょうか?」
「そんなに単純な話でもないわ。この場で戦い方を変えた事で、加山君は雨取ちゃんを倒すことが出来たし、自分でポイントを稼ぐ事も出来た。──結局の所弓場隊は単独一位になれた訳だから、結果としたらトリガーの変更も戦い方に変化をつけたのも大成功よ。ただ、この変化に関してヒュース君は完全に読み切って対応できたというだけ。ここは加山君のミスというより、ヒュース君がちょっとおかしい位に読みが冴えていたというべきよ」
加山が単独でヒュースに挑む構図は、加山を深く知っている人間であればあるほど違和感があるものであろう。
その違和感というのは、加山が積み上げてきた楔であり。その楔を打ち破ったからこそ生まれたもの。
しかし。
ヒュースにとってそれは──楔にすらならなかった。
「──まあでも。私としてはとても面白く見えた試合だったわね」
「と、いいますと?」
そう尋ねられると。
少しだけ加古は微笑みを浮かべて。
「あんな戦い。普段ならよっぽどでもない限りしないからよ。加山君」
そう言って。
「.....よっぽど、気持ちが入っていたんでしょうね」
ただ。
そう呟いていた。
※
「加山ァ」
勝負が決まり。
加山は──緊急脱出先のベッドで、呆然とただ下を向いていた。
「残念だったなァ」
あと数秒であった。
弓場隊の順位を確定させて──そして、己の目的を果たすため。
あと。
ほんの数秒。
「──もう少しだったな。あと一歩だった。だが、どうしようもねぇ。結果は結果だ」
──でも。お前は知っていたじゃないか。最初から。
──感情で人が強くなることは無い。
──己の実力と運だけが結果を左右する。
──それなのに。お前はそれでも感情を選び取ってしまった。あの局面で。
──もっとも勝たなければならないときに。お前は何もかもを間違えてしまったのだ。
「だがまあ。俺達がB級でトップに這い上がれたのも、それもまた確かな結果だ。だからよ、加山ァ」
何故間違えた?
何処で?
何であの時に、立ち向かう選択をしてしまったのだ──。
「だから──泣くな」
頭に、ゴツゴツとした感触がのしかかる。
視界が、滲んでいた。
もう流すことは無いだろうと思っていたものが。
今、自分の視界から溢れ出して止まらない。
「感情的になるなんて事は、お前の年じゃ当たり前の話だ。お前は自分の感情に従って挑んで負けたんだ。ただそれだけの話だ」
己を律し、合理基準に基づいた力を行使する事が己の強さの源泉ではなかったのか。
なのに。
この様だ。
──それなのに。感情を優先させてしまった。
──それが勝利に直結することなんてありえない、と。自分自身が誰よりも知っていたはずなのに。
合理的な思考を追い求めていた子供が、
ここで、一つ感情という小石に躓いてしまった。
そう。
ただ、それだけの話だ。
結局の所、加山雄吾も
「あぁ....」
ただ一人の人間だったという事実だけが
ここに残された。
それだけの話だ。
それを自覚して。
押し殺すように──加山は涙と共に、喉奥をしゃくりあげた。
無言のまま。
頭にのしかかる誰かの掌を感じながら――加山雄吾は俯いていた。
しばらくはゆっくり進めつつ、ちょくちょく番外編でも書こうかと思います。