彼方のボーダーライン   作:丸米

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滲む指先から零れるは

「さて。この試合をもちまして、今期ランク戦の順位が確定いたしました!」

 

 そうして。

 B級上位の戦いが終わった事で、今期の順位が確定となる。

 

 画面に映されるは──今期ランク戦の結果。

 

 1位 弓場隊  45ポイント

 2位 玉狛第二 44ポイント

 3位 二宮隊  43ポイント

 4位 影浦隊  40ポイント

 5位 生駒隊  35ポイント

 6位 東隊   33ポイント

 

 そして、

 

「今期のランク戦は、特に上位枠の争いは最後まで拮抗しておりました。最終戦、最後の枠に滑り込んだのは──」

 

 

 時は少々前後する。

 

 上位最終戦が時間ギリギリまでの戦いを繰り広げていた中──中位戦もまた、ギリギリの戦いが繰り広げられていた。

 

 柿崎隊、那須隊、王子隊、香取隊の四つ巴戦。

 

 マップ選択権を持つ柿崎隊が選ぶは、工業地区。

 マップが狭く合流しやすい。そして中央のプラント地帯は広い空間が多く、中距離での射撃戦で有利を取りやすい。柿崎隊が非常に好むマップであった。

 

 試合が始まり──仕掛けたのは王子隊であった。

 隊員全員がハウンドを持つ王子隊が目を付けたのは、工業プラント内に繋がる細い通路であった。

 

 柿崎隊が有利を取れる場所は、工業プラント内の障害物の少ない空間。柿崎隊はこの場所に向かう事となる。

 しかし中央に向かうまでの道は、建造物が入り組んだ細い路地が多い。この建造物の多さこそが、狙撃手の射線を阻む壁となっているという側面もありその分でも柿崎隊は重宝していたのだが──。

 

 初動の内に、合流の為細い路地を動いていた照屋文香を王子隊の樫尾と蔵内がハウンドで挟み込み襲撃をかけると共に。

 その後照屋の援護に向かう柿崎と巴の動きを、高所を取っていた蔵内と王子が観測。その背後を迂回するルートを辿りつつ、二人は合流を果たす。

 

 照屋を仕留めた後、樫尾はグラスホッパーを用いてその場を脱出するも──ここで香取隊の襲撃を受ける。

 三浦が弧月で斬りかかり足を止め、その背後からバッグワームを着込んだ香取の襲撃を受け樫尾が緊急脱出。三浦と香取は、両者とも樫尾を討つと同時にバッグワームを身に付け姿を消す。

 

 その後──高所を取っていた王子がハウンドを柿崎に放とうと弾体を作成した瞬間。

 那須隊狙撃手、日浦の狙撃が放たれる。

 

 視線を柿崎に向け、ハウンドを放とうとした瞬間。狙撃を通すには絶好の好機かと思われた。

 しかし──それは、合流していた蔵内のシールドによって弾かれる。

 

 中央のプラントに向かえば射線が切れるマップの構成上。

 高所を取って姿を晒していれば、その数少ないチャンスを活かそうとするであろう。そう王子隊は事前に想定をかけており、そしてその通りになった。

 

 その後王子と蔵内は日浦の居所まで機動力で以て追い詰め、仕留める。

 

「.....王子先輩と蔵内先輩の位置は解ったけど」

「多分、あのまま高所を取って浮いた駒から叩くつもりだろうね。──よく作戦が練られてる」

 

 細々とした狭い路地に囲まれた中央の場所に射線が広く取れるプラントがあるという性質上。

 建造物が多い分高所の移動がしやすい。

 王子隊はその全員が機動力が高く、足並みがそろいやすい。そして、この戦場における唯一の狙撃手である日浦は仕留めた。

 

 彼等は──高所を位置取りながらハウンドで敵を追い詰め仕留めていくという作戦に打って出たのだ。

 

 ただ。

 その作戦を取るに辺り、一番の難敵となる存在がいる。

 それは──。

 

「王子。──那須さんがこちらを追ってきている」

「OK。カシオがやられた分やりにくいけど、とりあえずは作戦通りにやろうか」

 

 自在に曲がる弾丸が、王子隊の二人に放たれる。

 ──那須玲のバイパーであった。

 

 殺到する弾丸をシールドで弾きつつ、二人はハウンドを放つ。

 されど那須玲は建造物の間を跳ねながら動き、追尾の弾丸をひらり避けていく。

 ──細く入り組んだ路地は、弾丸を曲げることができる那須玲にとっても己の領分であった。

 

「──那須先輩の路地の反対側に反応が一つ。多分熊谷さんだと思う。先回りしようとしたら、多分足を止められる」

「了解。だったらこっちはまだ高所を取って逃げておこうかな。他の勢力が動くまで、こっちは我慢だ」

 

 王子はそれでも慌てない。

 彼の眼には──高所で那須玲に狙われている自分たちと、路地を飛び跳ねながら眼下からこちらを撃ってくる那須玲と。どちらが他勢力に狙われやすいのか。その部分も頭に入っていた。

 

「──王子」

「うん。そろそろいいタイミングだね」

 

 王子と蔵内は、互いにタイミングを合わせて散開する。

 散開しつつ、那須に向け両脇から囲むようにハウンドを放っていく。

 

 那須は、空中からそれらが降り落ちる前に即座にその場を離れるが──。

 

「隊長! 移動している側に反応が増えました!」

 

 バッグワームを解き、那須玲の背後から襲い来る──香取葉子の姿があった。

 

 香取は那須のバイパーを警戒し、同じく周囲の建造物を蹴りながら銃口を向ける。

 二発、三発。

 銃弾が那須の脇腹に埋め込まれる。

 

 那須は高所への警戒を割きながらも、まずは眼前の香取を打ち倒すべく弾丸を引く。

 

 その中。

 香取は冷静に、那須を見る。

 

 

 ──那須先輩は強い。

 

 香取は思考を巡らせる。

 鋭く、素早く。

 過去を積み重ねた現在地。彼女には確かな思索が生み出されている。

 

 ──目まぐるしく動く戦況の中、リアルタイムでバイパー軌道を引きながら戦う。その上で隊長として指揮も取る。どれだけ頭を回転させればそんな戦いが出来るのだろう。

 

 でも。

 その強さには弱点がある。

 

 ──でも。それでもあのスタイルじゃあ思考に意識が多く割かれているはずだ。だったらやる事は一つ。多く割いている思考に、更に負荷をかけろ。那須先輩に楽に戦わせるな。

 

「.....!」

 

 バイパーを作成するその最中。

 レーダー上に生まれる、三つのトリオン反応。

 

「.....ダミービーコン!」

 

 そう。

 今期途中から若村麓郎が新しく取り入れたトリガーである、ダミービーコン。

 そのどれもが建造物内。那須が盾として利用している建造物の中。

 この三つの内。どこかに若村麓郎がいるかもしれない。

 眼前の香取。

 高所で待ち構える王子隊。

 そして、ダミービーコン。

 

 偽のトリオン反応が生まれた事で──那須が思考しなければならない事項が増えていく。

 

 ──この一瞬。この瞬間に、三つのダミービーコンの中に敵がいるかもしれないしいないかもしれない。この一瞬の思索に、那須先輩は正答を選びきることが出来るか。

 これから自分が飛ぼうとしている建造物には、自身に応撃をかけられる敵がいるかもしれない。

 

「.....」

 

 那須は。

 香取に放とうとしたバイパー弾を、この三つのトリオン反応に放つ選択を行う。

 

「.....かかったな!」

 

 香取はその弾丸の流れを見て、更に那須に肉薄していく。

 純粋な機動力なら、自身も負けはしない。

 

 そして。

 この場面における那須玲の狙いは──解っている! 

 

「やっぱり、そう来たか」

 

 建造物三つにバイパーの弾丸を走らせる──と見せかけ。

 建物に弾丸が入る直前に軌道を変え──香取に走らせる。

 

 あの弾丸は、ダミービーコンに紛れた対象を仕留める為のものではなく、弾丸により威嚇し相手に防御態勢を取らせるためのもの。

 途中で軌道を変え、那須に肉薄してきた香取の背後から更に仕留める為のもの。

 

 香取は。

 読んでいた。

 

 故に。

 

 トリガーを切り替え──グラスホッパーを発動。那須に肉薄する軌道から方向転換し、バイパーの軌道から逃れる。

 

「.....く!」

 

 そして。

 高速機動により逃れ、自らの身体を付近の建造物の壁に着地させるとともに、更にグラスホッパーを発動。

 

 那須が次弾を形成するよりも早く。

 那須玲の胸元に──スコーピオンを生やした己が右腕を届かせる。

 

 

 これにて。

 難敵の一人である那須の排除に成功した。

 

 

「──ナイス葉子!」

「葉子ちゃん、ナイス!」

「なんとしてもここで生存点を取るわよ!」

 

 昼の部終了時点において。暫定での上位ボーダーラインは諏訪隊の30点。

 現在香取隊は2ポイントを奪取し28ポイント。

 あと何ポイント取れれば上位に行ける──といった安全圏はない。出来るだけ点を取った上で、生存点を稼ぐ。その上で上位に再浮上できるかどうかは運次第。

 しかしまずは運でどうこうできる位置にまで登らなければ、何にもならない。

 その後。

 合流した柿崎隊の位置を確認し、仕留めに向かおうとしたものの──。

 

 その瞬間。王子隊の得点が入る。

 

 那須隊、熊谷友子を仕留めたことによって。

 

「──王子隊が熊谷先輩を仕留めた」

「多分、うちらが那須先輩と戦っている間に、援護に入ろうとしていた熊谷先輩を討ったんだろうね。抜け目ない...」

 

 香取と那須が交戦している間。

 その援護に入ろうとしていた熊谷を王子が足止めをし、蔵内がアステロイドを通す。

 那須が香取と機動戦を仕掛けることを見越し、事前に熊谷の動きを予想し仕留めた。

 

 元より高所に位置取り上空からハウンドを通してくる上に高所で援護をくれる日浦の存在もなくなったことで、王子隊に警戒し挟み込まれる狭い路地を避け迂回していた熊谷。その判断によって行動範囲が読み取られ、王子隊にかられる事となった。

 

 ──やっぱり。ムカつくけど立ち回りでは王子隊が一歩も二歩も上だ。

 

 マップの性質を読み取った事で初動で一ポイント。高所を取り自らを餌にする事で唯一の狙撃手である日浦を撃破。そして那須という難敵を香取隊が相手している間に、その間に浮いた駒となった熊谷を仕留め三ポイント。王子隊は着実に盤面を読みつつ行動している。

 

 ──でも完璧ではないはずだ。そうでなければ、初動で樫尾が落とされる訳がない。

 

 王子隊のポイントは試合開始前で27ポイント。

 この三点目で、30ポイント目に到達した。

 2点差──。

 

 この時点で、香取隊は。生存点を稼がない限りは上位に食い込むのは難しい事を悟った。

 

 と、なれば。

 那須隊が全滅した今。王子隊を集中して叩きたいところだが──。

 

「──巴君がこちらに来た! 応戦するよ!」

 

 しかし。

 王子隊は機動力の足並みがそろっている部隊だ。

 

 それ故に熊谷を討った後の動きも素早く、即座にバッグワームを着込んで脱出する。

 その分、柿崎隊の狙いは──エースの香取から離れた若村・三浦に向かいやすい。

 

「雄太! 巴は倒さなくてもいい! アタシが向かうまで足止めに注力! 麓郎は側面から攻めてくる柿崎さんを止めて! こっちも倒さなくていい!」

「....了解!」

 

 柿崎隊は、三浦を発見した瞬間。機動力のある巴を三浦に突貫させ、建物を迂回した柿崎が側面を取って突撃銃の掃射を行う連携を行うつもりだ。

 それ故に。迂回路に若村に先回りさせ、巴・柿崎両者の足止めをさせ──香取の到着まで膠着状態を作る。

 

 足止めさえしていれば。

 連携が分断された二人を香取で仕留める事が可能となるであろう──と。

 

 

 が。

 

 柿崎が向かう道を若村が先回りした、その先。

 ハウンドが降る。

 それは──若村の背後を取っていた王子のハウンドであった。

 

「──ぐ!」

 

 若村はその瞬間、そのハウンドを防ぐべくシールドを展開。

 しかし──その分、本来止めねばならない柿崎への防護が間に合わない。

 

「すまねぇ.....! 葉子....!」

 

 柿崎の突撃銃に全身を貫かれ、若村は緊急脱出。

 

 そして。

 柿崎は若村を倒したのちに、当初の予定通り巴のもとへと向かい──三浦を挟み撃ちし、撃破。

 

 これにて。

 香取隊は、隊長の香取を除き全滅。

 

 香取は──選択を迫られる。

 

 巴と柿崎を襲撃するか。

 王子隊を襲撃するか。

 

 判断は一瞬。

 即座に──香取はグラスホッパーで高所を取り、周囲を見渡す。

 

 ──建造物の上に蔵内先輩はいない。なら王子先輩でアタシを釣りだして蔵内先輩が高所からハウンド飛ばす連携はしてこない。

 

 狙いは、王子隊だ。

 ポイント取得の関係上、上回らなければならないのは王子隊だ。

 

 だからこそ、今の襲撃で位置が割れた王子を襲撃したいが。襲撃した隙を突き射手の蔵内が高所から攻めてくる連携を取られるとそれも厄介。

 故に高所をまず確認。

 蔵内はいない。

 

 ──なら。

 

 このまま王子を突貫するか? 

 しかし。

 高所に蔵内がいないことが確認できたとて──蔵内そのものの姿はまだ見えていないのだ。

 

「....」

 嫌な予感がした。

 王子を倒せと本能が言っているのに。それでも理性がそれを拒絶にかかる。

 

 ああ、と思う。

 この恐怖を知らずに。今まで戦ってきたのだな、と。

 

 

「へぇ」

 

 王子は意外そうにそう呟いた。

 

「引いたか。──やっぱり一筋縄ではいかないなぁ」

「どうする王子?」

「こっちも引くよ。釣りに引っ掛からないなら、じっくり慌てず攻めていこう」

 

 王子で香取を釣りだし、その瞬間蔵内のハウンドで柿崎隊の二人を誘導しぶつける策を練っていたが。

 香取自身がその意図を察知した為、王子隊としてもその場からの撤退を選ぶ。

 

「──素晴らしいねカトリーヌ。あの大規模侵攻からも、また成長している」

 

 樫尾は三浦の足止めから香取の攻撃によって。那須は若村のダミービーコンによる思考の負荷をかけたことによって。

 それぞれ部隊としての動きで仕留めている。

 そしてこの瞬間。

 香取は、退却の判断を下した。

 

 元より烈火の如き攻撃力があったが──香取自身がその攻撃力を活かす場面を明確に選択している。

 

 足踏みしていたエースが──今完成に向かっているのを感じる。

 

「それでも──まだまだ上位を譲るつもりはないよ」

 

 思い出すは。

 大規模侵攻で、共に危機を乗り切った記憶。

 まだ二月程度しか経っていないというのに──なんだか懐かしい感慨を覚えながら。王子は思考を巡らせていく。

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