彼方のボーダーライン 作:丸米
すみません。キリがよかったので....。
──香取隊が王子隊に勝てる絵図はたった一つ。
──王子隊に得点をさせず、なおかつこちらが生存点を取る事。
要は。
柿崎隊を王子隊に取らせない事。
──そこは王子隊も解っているはず。だから、王子隊はアタシが柿崎隊に襲撃をかけてくると踏んでいるはず。
柿崎と巴の二人を相手にして、自分が倒すことが出来るか。
五分五分だと思う。
互いに射撃も近接も出来る駒同士。しかし相手は二枚あって、合流もしている。合流しているという事実がとかく厄介で、二人分の視界が確保されているため急襲からの撃破が非常に難しい。その上柿崎隊は連携能力がB級の中でもトップクラスに高い。──襲撃してもカバーリングされる可能性が高い。
それでも戦いにはなる。そういう自信はある。しかし、ここで時間をかけてしまえば王子隊が漁夫の利を取りに来ることは自明。
「.....どうすればいいのよ」
全く、と香取は溜息を吐く。
駄目だ。全然解決策が見えない。
──でも。駄目だ。ここで思考を放棄したら。
諦めるな。
好機は──掴む備えをしたもののみに、与えられる。
「......華」
「うん」
「どうすればいいと思う?」
香取は、染井華に尋ねる。
この状況──どうするべきか。
「二択だと思う。柿崎隊と王子隊をぶつける方法を取るか。柿崎隊が来る前に王子隊を倒すか」
「.....うん」
「前者の場合。こっちが漁夫の利を取る形になるから生存点を稼ぐ可能性はちょっと高くなる。でも、それ以上に王子隊が点を稼ぐリスクも高くなる。後者の場合は、全部成功すればウチが一人勝ちできるけど──成功率は低い」
「.....」
柿崎隊と王子隊をぶつけるか。
王子隊をまず襲撃するか。
恐らく、両方とも王子隊は想定しているはずだ。
──想定しているレベル以上のものを出せれば、倒せるかもしれない。
「....」
あの王子隊に対して。
この一回だけ。一回だけでもいいから──想定を超える動きが出来れば。
香取の頭の中でその時、萌芽するように一つの記憶が呼び起こされた。
二宮隊に追い詰められた弓場隊が。
村上を誘導し敵を倒していた時のことを。
──出来るか? あの時の弓場隊と同じことを。
どうやってやればいいのか。
そもそも出来るのか。
いや。
──出来ない。やっていない。それもまた、楔だ。
あの時弓場隊は自らが積み重ねたものを裏切る事で楔を打ち破った。
ならば。
今自分がやるべき事は。
──このか細くも存在する小さな楔を、断ち切る事。
「──やってやる」
一つ息を吐き。
香取は拳銃を握り込み──頭上にある建物へと飛び上がった。
※
高所へ上がると共に香取葉子はバッグワームを解く。
自らの位置を喧伝する。
──さあ。来るなら来い。
柿崎隊が来るか。王子隊が来るか。
先に来た方と戦い。後に来た方が漁夫を取りに来る。
自らが漁夫を得る選択を、ここにて捨てる。
──来るとするなら。王子隊がハウンドでちょっかいをかけるか、柿崎隊の二人が同じように高所を取って襲撃をかけるか。どちらでもいい。どちらでも狙いは変わらない。
高所での戦い。
残る三部隊を鑑みれば、間違いなく王子隊が有利となる場面であろう。
追尾の邪魔をする障害物がないためハウンドが有利となる。そして射線が開けすぎて直線攻撃が当たりにくい。──機動力がありハウンドを持つ王子隊が有利。
だからこそ王子隊は蔵内を上に置いた上でハウンドで援護をしつつ戦う戦術をここまで使ってきた訳で。
「....華。マップ上に動きはない?」
「今のところレーダー上に動きはない。まだ警戒しているんだと思う」
よし、と香取は呟く。
警戒しているというのならば──まだこちらの狙いは読まれていないという事だ。
「多分柿崎隊はいつもの場所で陣取っているでしょ。その付近まで移動する」
合流を果たした柿崎隊は──香取は、いつも陣取っている工業プラント内にいるだろうと予想していた。
この場所での撃ち合いになれば突撃銃を持つ柿崎が大きく有利を取れる場所だ。
そこにいる限り柿崎隊は有利になるし、同時に王子隊は正面きっての戦いを挑むこともしないだろう。
王子隊としては──ここで柿崎隊と香取をぶつけ合わせたいのだろう。その意図は理解できる。
だから動かない。
王子隊が動くのは──柿崎隊と香取がぶつかる瞬間だ。
「──柿崎隊、発見」
香取は。
柿崎と巴の姿を視認した瞬間──その眼前に立ち。
拳銃を抜く。
「──ここからが、はじまりだ」
※
香取が二人で纏まっていた柿崎・巴の二人に対し襲撃をかけたものの。
近接でまず一人狩るだろう──そう想定していた柿崎隊とは裏腹に、香取は距離を置いてのアステロイド拳銃による射撃を行使。
シールドで弾きつつ柿崎が突撃銃を向けると──香取はグラスホッパーを用いて逃走を開始する。
「.....逃げてますね」
「この場所で戦いたくないから、ちょっかいを出しつつ俺達を誘い込もうとしているんだろう。乗る必要はない」
柿崎隊はそう判断し、香取が逃げ込んだ先──細く続く路地の中にまで深追いはしない。
「だけどこのままチクチク好きにさせるわけにはいかない。次に香取が来たときは挟み込んで一気に射撃を仕掛ける」
「了解!」
この瞬間に。
柿崎と巴は陣形を変える。
固まって掃射が出来る状態から、それぞれが距離を取り別角度から射撃が行える陣形へと。
「....」
香取は一つ息を吐く。
こちらにダメージを与える為に、柿崎は巴を切り離した。
──それでいい。こちらは落とされやすくなったが、相手を落としやすくもなった。
相手との距離が開きカバーそのものはしにくくなったと見てもいいだろう。特に巴に近接戦を仕掛けた時のことを想像すれば、柿崎の突撃銃ならカバーがしにくいはずだ。
さあ。
今交戦が行われているという情報が王子隊にも伝わったはずだ。
ここで王子隊を釣りだす。
ならば。
来るはず。
ほら見えた。
頭上から襲い来るは──別方向から流れていくハウンド弾。
──来たな。
香取葉子はハウンドの流れを見る。
片方は香取へ。
もう片方は柿崎隊へ。
それぞれ足を止めるべく──両方にハウンドを撃ってきた。
そして。
頭上を見上げると──王子の姿がある。
「成長したね、カトリーヌ」
弧月を引き抜き。
香取を見据え。
「でも──それでもまだまだ僕の想定は越えていない」
そして。
柿崎隊と香取隊。双方に向かって行っていたハウンドは。
──その途中。軌道を大きく変え、その全てが香取に向け向かって行く。
あ、と香取は呟いた。
「──僕等もまた、他の試合から学んで進化していく。以前までと同じではないんだ」
弓場隊と二宮隊と、そして──自分たち。
あのROUND4での戦い。
二宮が──それぞれ追尾強度のかけ方の異なるハウンドを用いて対象を変化させるあの戦い方。
一方のハウンドをシールドで拡げ防ぐとともに。
柿崎隊に向かう軌道から流れてくるハウンド。
その全てを防ぎ切ることが出来ず身体が削られる。
そして。
頭上の王子が頭上から旋空を振り落とさんと、弧月を振りかぶる。
その動きに合わせて、香取はその場を離れんとする。
が。
王子の背後から──置き弾のハウンドが発射される。
それは、高所にいる王子の身体と角度に隠れた、完全なる不意打ちの一撃。
ブラフだ。
旋空を意識させての──高所に隠した置き弾の一撃。
追尾機能を変えてのトリック。そして王子の置き弾。
二連続のハウンドの不意打ちを受けた香取葉子は──反撃叶わず、緊急脱出。
香取隊。
28ポイントにて、今期ランク戦を終える事となった──。
※
その後。
王子は柿崎と巴に、香取との交戦時の隙をつかれ足を削られる事となり──どうにか逃げだすも、巴の一撃を受け緊急脱出。
その巴を蔵内はハウンドのフルアタックを用いて仕留めるが、シールドを解いた蔵内へ柿崎が弧月にて斬りかかり撃破。
こうして──試合は終わる。
上位の枠の最後を埋めるは──王子隊であった。
「....」
そして。
香取隊は、上位進出が叶うことは無かった。
「....すまねぇ、葉子....!」
若村が沈痛な表情で──緊急脱出後の香取に向け頭を下げる。
「.....なんで頭を下げるのよ」
その表情を一瞥し。
香取は一つ溜息。
「今期──やれることはやったわ。連携も磨いた。新しいトリガーにも挑戦した。それでもダメだっていうなら仕方ない。これがアタシ達の実力」
「葉子...」
「まあ──後は遠征試験で個人選抜に受かるかどうか。それだけを祈ってるわ」
香取はそう言うと「ドリンクでも買ってくる」と言い残し、作戦室を後にする。
廊下を出て。
ラウンジの休憩室まで来て。
誰もいない静寂の中
ガン、と。
拳を壁に叩きつけていた。
「.....畜生」
──強くなっていくのは、自分たちだけではない。
二宮隊の戦術を取り入れ、最終戦で同じ戦術を組み立てていた王子隊。
変わっていくのも。強くなっていくのも。
自分たちだけではない。
そういう意味でも──最後の相手として王子隊は本当に相応しかったのだろう。
それでも。
やっぱり──悔しいものは悔しい。これだけは、仕方がない事なのだ。
貴方の推しはどちら?
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A級4位草壁隊 草壁早紀じゅうごさい
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A級2位冬島隊 真木理佐じゅうななさい