彼方のボーダーライン 作:丸米
「別のメンバーの組み合わせ、ですか」
東の言葉に、加山はオウム返しする。
まだその意図を汲み取ることが出来ていない。
「ああ。──対応力を身に付けたいんだろう? 加山」
「はい」
「ならば、対応力というものが実感できる訓練を用意しようと考えた訳だ。まあ、訓練であると同時に他の部隊の連中と交流するのもいいだろう。その辺りも、弓場が気にかけていたからな」
「.....さいですか」
「おゥ。──お前はもうちょい、他の人間と交流する努力をしろ」
「してますよぉ」
「必要が生じたときだけ対話する事を交流とは呼ばねぇんだよ。その辺りもしっかりやれ」
少し痛い所を突かれ、うぐ、と加山は呟いた。
そうだよなぁ。必要が生じた時以外で人と交流する事.....あんまりなかったなぁ。
「まあまあ。──ランク戦の形式で、と言ったが。要望としては加山の対応力・指揮面の能力向上が挙げられていたので、少し前提条件を変える」
「ふむん?」
「まず一つ。この入れ替え戦では加山の部隊含めて七部隊が参加する。かなりの大所帯だ。その分、マップも通常のランク戦の範囲よりも広いものを使う」
「七部隊.....結構な数ですね」
通常のランク戦では、三つ巴か四つ巴が基本の戦いとなる。七部隊での戦いとなると、通常のランク戦で戦う人数のおおよそ二倍の人数が入り乱れる事となる。戦いの規模そのものが、今までとは比較にならない程大きくなる。
「そして二つ。通常のランク戦では、基本的に敵味方関係なくバラバラの転送位置からのスタートになるが、今回は、同じ隊の人間は半径百メートル以内で転送される。要は、最初から合流した状態からのスタートだ」
「へぇ。それは面白そうですね」
ここもまた変化球。基本的にランク戦は同じ隊であってもランダムに転送されてからのスタートとなるが、今回では、隊のメンバーが固まった状態からスタートになるらしい。
「ただ東さん。七つも部隊があるのにメンバーまで固めてしまったら、隠れ合いやら籠城戦やらになってしまったら相当泥臭い戦いになりそうですけど」
通常のランク戦では、ランダムな転送位置からのスタートから、各部隊が合流する動きを通じて、序盤の情報が集まっていく。
合流を目指すからこそ動かざるを得ない。動くからこそ情報が集まる。
これが、最初から合流が果たされた状態からのスタートとなったならば。序盤は下手に動いて死ぬ事を恐れて、どの部隊も静に徹するだろう。全員バッグワームを着込んで隠れ合いになりかねない。先に動いた方が死ぬという実に時間がかかりそうな試合となるだろう。
「そう。通常のランク戦ではランダムな転送から始める事で、序盤に動きを与える。──今回では。部隊を動かす要因を合流以外の要素で作っていくんだ。これが、三つ目のルール」
「.....それは?」
「一定時間ごとに、活動マップが狭まっていく。──活動できる範囲そのものを奪い、強制的に部隊が動かなければいけない状態を作る。その活動範囲が何処になるのかは完全にランダム」
「.....」
ねえ東さん、と。加山は尋ね。
なんだ、と東が応える。
「これ......もしかして国近先輩の発案だったりします?」
「鋭いな」
「だと思った!」
広いマップで大人数が入り乱れて戦いながら徐々に活動できるマップが狭まっていくルールって、
まんま国近先輩が好きそーなバトルロワイヤル系のオンラインFPSゲームそのまんまじゃねーか!
「まあ国近の意見を大いに参考にしたのは認めるが。──ただ、お前が向上させたい能力を鍛えるにあたっては、中々いいものだと思う」
「.....そうですかね」
「ああ。まず一つ。このルールのランク戦では、通常のランク戦よりも大人数の人間が戦う事になり。そして戦う環境も強制的に変えられる。──自分が有利な環境を作って戦うお前の元来の戦い方が、大きく制限される事になる」
「ああ....確かに...」
大人数かつ、敵も味方も合流した状態。その上強制的に動かされる環境での戦い。──事前の備えが非常にやりにくく、またランダム要素が大きく事前に戦術を仕込む戦い方がやりにくい。
求められるのは情報を手にした瞬間の即座の判断と、戦う環境が変化した際に即座に対応する為の能力。――加山の足りていない部分を鍛えるにはもってこいのルールだ。
「今回の即席メンバーのランク戦。本番は二日後だ。──お前の部隊のメンバーは今日伝えるが、敵となる他の部隊の発表は本番当日になる。事前の対策は基本的にどの部隊も不可能」
「.....成程。その上、隊での連携訓練もそこまで時間が取れる訳でもない」
「そう。即席で組んだメンバーだ。一応、戦闘員同士は同じ部隊内の重なりが出ないようにしている。凝った連携は期待できない」
「.....」
確かに、よく考えられている。
即席での部隊で、与えられた準備期間は二日目まで。部隊固有の戦術が出来るまでの訓練は出来ない。そして敵部隊の情報も当日まで伏せられている。
事前準備は出来ないと見ていい。対策を組んで戦術を用意するいつものやり方は出来ない。
その上で、戦いそのものは大人数での部隊戦。最初から合流してからのスタートなので、個人対個人のシチュエーションは望めない。基本は部隊同士のぶつかり合いだろう。三部隊、四部隊巻き込んだ広域の戦いも可能性としては全然あり得る。
そして何より、マップそのものが狭まっていく関係で、強制的に戦う環境が変更されるのが何よりも大きい。──全てが全て、加山の今までの戦い方が封じられる環境が整えられていく。
求められるのは素早い判断と、対応力。
加山が求めている能力が強く試される内容となっている。
「.....普通に、いいっすね」
「だろう?」
「チームのメンバーは、東さんが決めているんですね」
「ああ。各部隊のメンバーの選定も、一応俺なりにそれぞれ方針は立てて組んでいる。──それで、だ。加山」
「はい」
「これはもう一つの課題だ。──俺が何を基準に隊を組ませたのか。そこを考えてきてくれ」
「.....了解です」
「一応。今日教えるのは、部隊の戦闘員までだ。他の部隊でオペレーターが参加できない所があったからな。公平を期すため、全員参加可能な明日にオペレーターの発表という事になる」
「うっす。了解です。──それで。どういう部隊なんですか?」
「ああ。お前の部隊は──」
※
「──という訳で」
現在。
加山は──本部の空き部屋にて、即席で組むこととなったメンバーを見渡していた。
「二日という短い期間ではありますが。よろしく」
「よろしく」
「....よろしくお願いします」
眼前には。
ちっこい白髪の少年が一人。
そして。
ちっこい金髪の少女が一人。
そして。
スマホから、
「自宅からごめんなさい。──よろしくお願いするわ」
色白の女性が一人。
「一応俺は全員知っていますけど―。皆さん自己紹介お願いします~。──では俺から。加山雄吾です~。弓場隊所属の銃手です~。エスクードとかダミービーコンとか使います~。最近スコーピオンも使い始めたりしました~。ハウンド便利で大好きです~。よろしく~」
「空閑遊真。グラスホッパー殺法が特技。よろしく~」
「.....黒江双葉です。弧月と韋駄天を使っています」
「ふふ。那須玲です。バイパーを主に使っています。建物の間を飛び跳ねながら弾道を引くのが特技よ。よろしくお願いします」
加山隊(仮)
メンバー
加山雄吾(銃手)
空閑遊真(攻撃手)
黒江双葉(攻撃手)
那須玲(射手)
??? (オペレーター)
「....」
加山は黙りこくっていた。
なんだ?
なんだこのメンバーは。
「どうしたんですか加山先輩」
「いや.....。メンバーのレベルたっけー、と思うと同時にですね。今伏せられている他の部隊が今から恐ろしくて仕方がねぇって思いでいっぱいになったわけでございます。はい」
なんとなんと。
玉狛のエースと加古隊のエースと那須隊の隊長兼エースの揃い踏みじゃないですか何ですかこれ。
無茶苦茶強い人が集まったやっほーいとか思うよりも前に──これは、他のメンバーがどうなっているのかが心底恐ろしくなってきた訳です。このメンバー揃えないとどうにもならない面々が七つ揃っている訳ですよね。あまりにも恐ろしい。これから何が始まるって言うんですか?
「なすさんは、ランク戦ぶりですな」
「うん。久しぶりね空閑君。──あの節では見事にやられちゃいました」
「いえいえ。なすさんもウチの隊長を仕留めたワザマエはいまだおぼえております」
「ふふ。ありがとう」
「よろしくお願いします空閑先輩、那須先輩」
「うんよろしくね。こうして話をするのはじめてになるかな。黒江ちゃん」
「はい。那須先輩、あまり本部でお見かけしないので」
「そうね。私、あまり身体が強くないから。普段は家にいる事が多いの」
「そこなんですけど。那須先輩大丈夫なんですか? ランク戦終わって折角ゆっくり休める時間が出来たのに」
那須玲は身体が弱い。
以前から話には聞いていたが。日浦から聞いた話によると、あまり外を出歩けない那須を気遣って、基本的に隊の皆は那須の自宅で作戦を立てる事が多いらしい。自部隊のランク戦ならばいざ知らず、こんなお祭り的な事に参加させてもいいものなのだろうか。
「大丈夫よ加山君。むしろ暇すぎて、この話を聞いた時どうしても参加したかったの。丁度明日、本部に顔を出さなきゃいけない用事もあったし。.....むしろ、合同の特訓が明日しか出来なくてごめんなさい」
「いえいえ大丈夫ですよ。何か不都合があったら遠慮なく言ってくださいね」
「うん。お願いするわ」
那須はにこにこと笑いながら画面越しに両手を合わせてぺこりと頭を下げた。
何というか、優しい心根が一連の言動だったり仕草だったりに滲み出ている。いや、印象通りではあるのだけれど。──加山にとって那須の印象というのはランク戦での姿が一番大きい訳で。その至極当然な姿そのものが非常に大きなギャップを生んでいた。
「という訳で。今日は基本的に俺と黒江と空閑君の三人での訓練になるので。──まずは、単純に難易度が高いと言われる攻撃手同士の連携に重きを置いて訓練しましょうかね」
「了解」
「了解です」
「それじゃあ那須さん。一旦訓練の準備をするのでちょっと通信切りますね。また二十分後くらいに、別のデバイスから通信しますので。すみません」
「うん。待っているわ」
これより──仮想空間が使える空いた作戦室を用いて、本格的な連携訓練を行う。らしくなってきた。
「じゃあ。あたしは一旦作戦室に戻って準備をしてきます」
「はいよ了解。空閑君は?」
「おれは大丈夫。このまま移動する」
「了解」
という訳で。
一旦黒江も部屋を出ていき。
加山と遊真の二人のみが、部屋の中に残った。
「.....空閑君」
「ん?」
「いいのか?」
このいいのか、という言葉は。
通常のランク戦とは無関係ではあるが──加山と部隊を組んで行動する事そのものに抵抗感は無いのかを、問うているのだ。
「この前にたまこまに来た時の事? それともランク戦でのチカの事か?」
「両方だな」
「たまこまでは、カヤマはオサムの質問に答えただけだ。あの場で嘘もつかなかった。そしてチカの事は──」
「....」
「カヤマは、チカの事を本当に化物だと思っているの?」
「.....いや」
「なら、これはおれの問題じゃない。チカとカヤマとの問題だ。おれが首を突っ込んでいい話じゃない」
「.....そうか」
「というか、結構意外だった。──カヤマは、あの時の事気にしているんだ。そこら辺はすっぱり割り切る人間だと思っていた」
「.....気にしてないよ」
「はい、嘘」
「....」
はぁ、と。
加山は一つ溜息を吐いた。
何はともあれ。
こうして──二日間の隊の組み替えが行われる事となりました。まる。
アンケはマジで激戦オブ激戦オブ激戦でした。
さあ誰が勝ったかな~!