彼方のボーダーライン   作:丸米

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最後まで他に部隊は隠しとこうかと思っていましたけど、一部だけ明かしておきます。


隣の芝生は真っかっかだぜ

 ではこの辺りで。

 別の臨時部隊の様子を幾つか見てみましょう──。

 

「....」

 

 香取葉子。眼前の光景に眩暈が走っている。

 

 いや。

 確かに。

 一度別の隊の中でやってみたい、って思いが無かったと言えば嘘になる。だからこのお祭りに参加したのは確かだけど。

 でも、これは──。

 

「どーした~、香取。神妙な顔してるじゃねえか」

 リーゼント頭の男は、頭の裏を掻きながらそんな事を呟く。

 男は作戦室のソファに寝転び昼寝を一つ。眠気が消えるとそのままの体勢で、テーブルに置かれた菓子を一つつまみ、そのまま口に運んでいく。

 

「お、うめーなこれ。流石は綾辻ちゃんだ」

「ありがとうございます。あ、お茶淹れますね」

「お~。気が利くねぇ。ありがと。──いやぁ、ありがてぇ。鬼の居ぬ間にダラダラさせてもらおうじゃねーか」

 

 そうして──綾辻遥が茶を淹れると同時、そのカップを取りにソファから立ち上がる。

 茶を受け取るとまたソファに深々と座り、また人心地。

 

「他の二人はまだ個人戦やってんの?」

「はい」

「飽きもせずによくやるよ、全く」

 

 仮想空間内。

 二人の男が、激しく動き回り、互いの刃を斬り結んでいた。

 

 一人は、ボサボサ髪の男。

 一人は、カチューシャで髪を纏めた男。

 

 数珠繋ぎしたスコーピオンと身の丈程の長さをほこる槍が交差し、火花が散る。

 

「──マジで攻撃通らねぇ。えぐっ」

「ケッ。そう簡単に倒せると思うなよ」

 

 鞭のようにしなるスコーピオンが首を刎ねると同時。

 丁度、ニ十本目の試合が終わった。

 

「いやぁ~やっぱりカゲさん強ぇ。戦えば戦う程攻略法が解んなくなるわ」

「お前は攻撃の速さはそれなりだが解りやすいんだよ」

「槍だとどうしても点の攻撃になるもんなぁ。カゲさんからしたら解りやすいかぁ」

 

 二人──米屋陽介と影浦雅人が仮想空間から出てくると同時。綾辻はまたキッチンに向かい茶を淹れにいく。

 

「お。ありがと綾辻。いただくぜ~」

「はい。お疲れ様です」

「....」

 

 米屋はそう礼を言って、影浦は軽く会釈して、それぞれ茶を取る。

 

「お、香取。今度はお前も個人戦やらねぇ? 三つ巴でもいいぜ」

「なにボサッとした顔してんだ?」

 

 

 唐突に隊長をするように言われ、唐突にこんなメンバーを押し付けられた。

 

 当真勇

 米屋陽介

 影浦雅人

 

 そしてオペレーターの綾辻遥

 

 全員、実績も年齢も香取よりも上。そしてオペレーター以外は癖のある人物しか揃っていない。

 香取、思う。

 あの東春秋とかいうオヤジ──嫌がらせでもしているのか? 

 

「あ、そうそう。折角カゲさんいるからさぁ。オレこいつ持ってきたんだよ」

 そう言って米屋は作戦室の奥側からゴソゴソと何かを取り出す。

 

「おお。──ホットプレートか」

 

 米屋が取り出したのは、円形のホットプレートであった。

 

「そうっすそうっす。夜はこいつでお好み焼きパーティーといきましょうや。カゲさん、頼みます!」

「別に作るのはいいがよ。材料は揃ってンのか?」

「当然当然。お好み焼きも焼きそばの材料も持ってきましたよ」

「わぁ、楽しみ」

 

 わいわいと四人がホットプレートを取り囲んでいる姿に。

 香取は頭を抱える。

 

「.....大丈夫かしら」

「おいおい。どうしたんだ香取? 浮かねぇ顔して」

 

 いや。

 メンバーを見るだけでも解る。強い。あまりにも強い。狙撃手の当真はいわずもがな。影浦も米屋も攻撃手のトップ層。香取自身も攻撃手・銃手共にマスタークラス。オペレーターの綾辻の能力にも一切の不安はない。

 とはいえ。あまりにも自由奔放なメンバーが集まりすぎている。

 訓練らしい訓練はろくにしていない。当真は食っちゃ寝を繰り返し、影浦と米屋は個人戦を繰り返す。そしてそれに時々巻き込まれる。

 

 ルールは通常のランク戦とは異なる。今までの戦いとは勝手が違ってくるだろう。だというのにこの連中、およそ何も変わらない。

 

「まあアレだ。このチームの強みは別に陣形なんざなくたって戦えることにある。影浦も俺も好きなように動くだけで点を稼げる。米屋はああ見えてバランサーもやれる。お前もいつも通り前で暴れてくれりゃあいい」

「....」

「方針さえ決めてくれればいいんだよ。後は全員その場で戦える」

 

 ──このチーム。本当に陣形らしい陣形を作らずとも戦えることが何よりも長所。

 

 隠形・狙撃スキル双方ともトップクラスの当真と、狙撃・不意打ちがほぼ効かない影浦の二名がいる事で。狙撃に対して恐れる事無くある程度自由に動くことが出来る。

 

「ま。好きに使えばいい。どうせお祭りだ。楽しんだもん勝ち。──ってなわけで」

 

 わいわい騒ぐ米屋の眼が、香取を見る。

 その目は笑みと共に鋭くなり──香取に向け手を振る。

 

「次はお前だぜ。──豪勢な夕飯が決まったところで、腹減らそう」

 

 またか、と。香取は溜息を吐いた。

 

 大丈夫だとは思う。

 それでも──溜息ばかりが吐き出されていく。

 

 

「他のメンバーってどういう感じなんでしょうね」

 

 一方、加山。

 一通り訓練を行ったお昼過ぎ。また出前を警戒区域前辺りで受け取り、広げていた。

 

 本日。ピザと寿司。

 

「部隊がどういう構成になっているかは解らないけど、A級からかなりの人数が参加するらしいわ。かなりハイレベルな戦いになるでしょうね」

 草壁は淡々と寿司を口に運びながらそう言う。

 

「....このメンバー見ただけでもかなりハイレベルなのが解るものね」

「恐らく、マスター行っていない隊員の方が少数派になるでしょうね」

「わぁ。俺少数派~」

「オレもだ」

「加山君はともかく、空閑君は本当にポイント詐欺だよね。....あ、玲、寿司なに食べる? 小皿に取ったげる」

「ありがとうくまちゃん。はまち貰うわ」

 

 訓練後、体力の消耗でソファに横たわる那須に、熊谷が甲斐甲斐しく世話をしている。

 多分これが那須隊での日常なのだなぁ、と加山は思った。

 

「ごめんなさいね。あまり訓練に時間が割けなくて...」

「とんでもないっすよ。参加して頂けるだけでもありがたいのに、訓練まで付き合ってもらって。こちらこそ申し訳ない」

「そう言ってもらえると助かるわ。──休憩とったら、また訓練に参加するから」

「無理はしないでくださいね」

 

 熊谷に支えられながらソファに座り直し、那須は寿司を口に運ぶ。小さい口でちびちびと齧るような食べ方。

 

「お寿司を食べるのも久しぶりね。美味しいわ」

 

 その様子を、ジッと見ていた黒江は、

 

「那須先輩は、どうしてこの部隊戦に参加しようと思ったんですか?」

 そう那須に尋ねた。

 

「あの、あたしも那須先輩が同じチームで嬉しいですし。頼りにしています。でも...」

「うん。ありがとうね黒江ちゃん」

 

 何故、病弱の身でわざわざ部隊の組み替え戦などという負担が大きそうな行事に参加したのか。

 純粋にそう疑問に思ったからこそ、黒江は那須に尋ねていた。

 

「.....上の人から詳しい事は話しちゃダメって言われているから、ちょっとぼんやりした表現になるけど。.....近々。ボーダー全体で、こういう事をするみたいなの」

「....」

「でも、私はそれに参加できない。事前に無理だ、って言われちゃった」

 

 那須は微笑みながらも、少し寂し気に言葉を続ける。

 

「だから。──ちょっとした我儘なの。別の人とチームを組んで。一緒に訓練して、お話して──みたいな。そういう事を私もやってみたいなぁ、なんて思って。それで参加させてもらったの」

「.....そういう事だったんですね」

 

 那須玲は、身体が弱い。

 元々ボーダーに入ったのも、彼女の病弱な身体がトリオン研究を通して治せるかもしれないという提案がボーダー側からされたからで。本部にも中々顔を出せない状況が続いている。

 

 だから。

 一度でも──他の隊員と混じって同じ訓練をして。そして交流する事を強く望んでいた。

 

「だから。遠慮しないでね。これは私の我儘だもの」

「そうそう。何かあったらアタシが何とかするから。遠慮は要らない」

「うん」

 

 熊谷がそう言うとにこにこと笑みを浮かべて、那須は熊谷に小皿を渡す。

 

「ピザ、一回食べてみたい。お願いね、くまちゃん」

「はいはい。食べやすいように切り分けようか?」

「ううん。そのままでいいわ。──テレビでやってたみたいに、一回かじりついて食べてみたかったの」

「.....まったく。それやってもいいけど、喉に詰まらせないでよ」

「よく噛んで食べるわ」

 

 そう言って那須は取り分けられたピザを両手で手に取る。

 あまりピザそのものに慣れていないのか。掴み加減が解らず少しあたふたして、小さい口を目一杯開けてかぶり付いていた。

 

「....」

 

 案外茶目っ気ある人なんだなぁ、と。加山はその様子を見ながら思った。

 

「....やるからには、勝ちたいわね。試合」

「頑張りましょう」

 

 那須の一言に、草壁がそう返す。

 加山の内心も、少しだけ欲が出てきた。

 ――どうせ参加するなら、いい思い出になってほしい。

 無理を押して参加してくれた、那須玲の為にも――

 

 たとえ、どんな部隊が敵として現れようとも。最善を尽くし、少しでも良い結果をもたらせられるように――。

 

 

 さてさて。

 もう一部隊くらい──

 

 

 仮想空間内の、市街地。

 そこでは──けたたましい爆撃が巻き起こっていた。

 

「いやぁ。何というか」

「どしたの?」

「このチーム。──組ませたのが東さんじゃなかったら。何処の馬鹿が考えたんだ、ってなるやつだよな」

「だね~」

 

 二人は並んで、それぞれの得物をぶっ放していた。

 

 黒のロングコートを羽織った男は両腕からキューブを生み出し。

 黒のジャケットを着込んだ大柄な男は、その手にグレネード銃を握っていた。

 

 そして。

 その前に立つは、

 

「....」

 

 ポケットに手を突っ込んだ、黒スーツの男。

 

「それじゃあもう一発──行くか」

「了解~」

 

 グレネードが放たれ、市街地に爆撃が降り落ちると共に。

 爆撃の上から、ハウンド弾が降り落ちる。

 

 そうして爆撃とハウンドが降り落ちるマップ上に発生したトリオン反応を確認すると。

 

 イーグレットの弾丸と、バイパー弾が適時そのトリオン反応に向け正確に放たれていく。

 

 

「──さっきより反応が早かったぜ、古寺」

「ありがとうございます」

 

 この訓練。

 やっている事は、至極単純である。

 

 爆撃とハウンドの面攻撃でバッグワームで隠れた敵を炙り出し、炙り出した敵を狙撃とバイパーで適時仕留めていく。

 冗談としか思えない火力の暴力。

 

 これを行使するは──。

 

「間違いなく──火力でここに勝てる奴はいねぇ」

 

 臨時二宮隊。

 

 二宮匡貴

 出水公平

 北添尋

 古寺章平

 

 攻撃手ゼロ。射手・銃手・狙撃手のみで構成されたこの部隊は。

 されど埒外の火力と攻撃範囲を併せ持った部隊として、ここに存在していた。

 

 

「気持ちいいくらいわかりやすい部隊だよな。機動力高い駒はいない。攻撃手もいない。火力で押し切って勝て! ──って」

「マップ狭くなってこの戦法使われたら相手はたまったもんじゃないよね~」

「だから間違いなく真っ先に狙われるだろうな。──本当、好きに大暴れできそうだ」

 

 現在彼等は──北添と二宮の波状攻撃での敵の炙り出し→バイパーと狙撃による各個撃破という連携の訓練を行っている。

 

 北添の「適当メテオラ」と二宮のハウンドのフルアタックの合わせ技。

 からの出水のリアルタイム調整されたバイパーと古寺の狙撃。

 

 

「いやぁ──楽しみだなぁ」

 

 




二宮と出水組み合わせるのは一回やってみたかったんです。
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