彼方のボーダーライン 作:丸米
そうして。
各々、組み込まれた二日間の訓練期間を終え──試合当日となった。
その日。
範囲外のペナルティの内容が発表される。
「範囲外でのペナルティは滅茶苦茶単純でしたね。トリオン兵が範囲外では生成されていくみたいっす」
安全圏が指定され、マップの収縮が終わった後。
その外においては、トリオン兵が順次生み出されていく。
「トリオン兵は基本的にイルガーとモールモッド中心。安全圏の外では、大量のイルガーの砲台から狙われつつモールモッドの処理をしなければならない環境になる訳ですね。クソ~」
「.....じゃあ、外にいる時はトリオン兵を仕留めればいい、ってことですか?」
「そう単純な問題でもないだろうな。トリオン兵と交戦している部隊は、安全圏内にいる部隊からすれば格好の的。あとイルガーの爆撃で位置情報が知られるのがあまりにも痛い」
「序盤は”隠れる”がウチの方針。点にもならない交戦で位置情報が知られると、序盤の戦略全部が崩れるわ」
通常のバトルロワイヤルゲームであると、基本的に範囲外のプレイヤーは体力が削られていく仕様だという。こちらで言うなら、トリオンが奪われていく感じ。
ただ、やはりそこら辺は東さんが主催とあって。実際にこちらが対面しやすい脅威としての”トリオン兵”をペナルティとして設定したのだろう。
「ただ。問答無用でこちらがダメージが与えられるペナルティの内容ではないとなると、トリオン兵から隠れながら迂回しながら安全圏に入る....という方法も考えられるわ」
「最悪その方法も考えなきゃならないですわな。.....さあて」
そして。
今回対戦する部隊もまた発表されていた.....。
「これ....本当にどうしよう...」
・臨時部隊第一
隊長 加山雄吾
隊員 空閑遊真
隊員 那須玲
隊員 黒江双葉
オペレーター 草壁早紀
・臨時部隊第二
隊長 嵐山准
隊員 村上鋼
隊員 生駒達人
隊員 外岡一斗
オペレーター 国近柚宇
・臨時部隊第三
隊長 香取葉子
隊員 影浦雅人
隊員 米屋陽介
隊員 当真勇
オペレーター 綾辻遥
・臨時部隊第四
隊長 帯島ユカリ
隊員 太刀川慶
隊員 木虎藍
隊員 隠岐孝二
オペレーター 三上歌歩
・臨時部隊第五
隊長 犬飼澄晴
隊員 弓場拓磨
隊員 菊地原士郎
隊員 奈良坂透
オペレーター 人見摩子
・臨時部隊第六
隊長 二宮匡貴
隊員 出水公平
隊員 北添尋
隊員 古寺章平
オペレーター 結束夏凛
・臨時部隊第七
隊長 風間蒼也
隊員 三輪秀次
隊員 時枝充
隊員 辻新之助
オペレーター 氷見亜季
「.....第七の所だけ、オペと隊員が同じ部隊の組み合わせがあるのは」
「多分辻先輩が気兼ねなく戦えるようにでしょうね....」
「ああ...」
辻先輩....! と何かよく解らない心の呟きをしながらも。
悪夢の如き表を眺める。
もう見るだけでも圧倒的にも程があるメンバーラインナップ。
マジでマスター行っていない隊員が少数派のメンバーですねありがとうございます。
「.....第六部隊が本当に恐ろしいわね。正面から戦って勝てるイメージが全然湧かないわ」
「第六部隊はぶっちゃけ初動で当たった部隊が貧乏くじになる枠ですね。最初にぶち当たった部隊が不幸。ただ一度何処かとぶち当たれば位置は把握できるのと、機動力が目に見えてないのが幸いですね」
二宮、出水、北添、古寺。
射手二人銃手一人狙撃手一人。
火力の暴力オブ暴力。そこに狙撃手もある。機動力がない、攻撃手がいないという明確な弱点があるものの。それをカバーできるだけのメンバーが揃っている。実際正面から戦って近づける絵図が描けない。
「.....第六は、正直機動力の面と。何より他の部隊に目を付けられやすいという弱点が目立つ分まだ救いようがあるわ。私は第四と第五部隊を警戒するべきだと思う」
「その心は?」
「第四は、狙撃手がいて、なおかつ機動力の面で足並みがそろっているから。動ける狙撃手である隠岐先輩がこのルールだと相当強い。そこに太刀川さんという一部隊に匹敵する巨大戦力もある。中距離が少し弱いけど、弱点はそれくらい。そして第五は菊地原先輩の存在が凄まじく厄介。序盤のバッグワームでの隠れ合いの中でも、音を拾って一方的に情報を集められる。──このルールで一番強いのはこの二つだと思う」
草壁は、機動力の纏まりがよく、そして何より太刀川がいる第四部隊と、菊地原がいる第五部隊が危険であると評し、
「あとは....個人的には、おれは第三部隊がいやだな。全員顔を知っているからってのもあるけど....単純に動きが予想できない」
「どういう動きしてくるか全く予想できねぇ....。というか、香取先輩本当にご愁傷様...」
誰も彼も自由に動く駒すぎて統率が出来ないだろう様子がありありと目に浮かぶ。哀れ、香取。
「まあでもうちの序盤の動きは変わらない。徹底して隠れて情報収集します。後は周囲の部隊と、安全圏の設定次第に合わせて行動します」
──この戦い。今の内で考えられるのはせいぜい序盤の動きくらい。後は状況の変化に伴って考えて行くしかない。
「まあ、何とか最善を尽くしていきましょ」
※
──臨時部隊第二作戦室
「え。やば。なんやこれ。やば」
他部隊の発表が行われた瞬間。
生駒達人は開口一番、ただそう呟いた。
「全部ヤバいやん」
「いやー。こうして改めて見ると。どの部隊もレベル高いっすよね...」
「まあ。何となく他の部隊のレベルも高いだろうと想像はしていたが....。色々特色があって面白いな」
生駒・外岡・村上は部隊表を眺めながら、それぞれそんな事を呟いていた。
「見ての通り、レベルが高いうえに特色がはっきりしている部隊が多い。一筋縄ではいかないと思う。──ただ、こちらの部隊はとにかくバランスの良さ、そして対応能力の高さでは他の部隊と比べても遜色ない。自信をもって戦っていこう。そして、鋼」
「はい」
「今回のルール上、君が間違いなくこの部隊のキーマンになる。負担は決して小さくないと思うが、こちらも全力でサポートする。──頼んだ」
「頼まれました。──勿論、俺は俺の役割をちゃんと果たします」
「ありがとう。では、これから序盤の動きをもう一度確認していこうか──」
※
──臨時部隊第四作戦室
帯島ユカリにとって、あまりにも激動の二日間であった。
弓場に連れられ、一度隊を率いる立場を経験してこいと──そう東の前に連れ出され、与えられた部隊は。
太刀川慶。
木虎藍
隠岐孝二
三上歌歩
こんな部隊でした。
「いやー。楽しみだな。久々に腕が鳴る相手と戦えそうで嬉しいったらありゃしない」
餅を食いながら、太刀川はそう呟く。
「部隊としてウザそうなのが犬飼のところのチームだな。菊地原が索敵して、犬飼が盤面揃えて、距離に応じて弓場と奈良坂で一発で仕留める。この連携が出来たら理論上は強いだろうな。──まあこの短期間で完璧な連携はあまり期待は出来ねぇが」
「部隊として纏まりがありそうなのが、嵐山さんと風間さんの部隊ですね。どちらも基本的にサポートもできる隊員で固められている」
「多分、能力的にも性格的にもオーソドックスで扱いやすい駒は風間さんや嵐山にやってるんだろうな。じゃなきゃ面白くねぇ」
「ちょいちょい太刀川さん。まるで俺が扱いにくい駒みたいやないですか~」
「.....扱いにくい駒筆頭の太刀川さんがそれをいいますか...」
帯島は心中、大きく頷いていた。
いや。別に能力的に扱いにくいという事は無いのだ。太刀川も、木虎も、隠岐も。全員が全員隙の無い能力を持つ隊員であり、中でも隠岐は機動力の面で弱点になりがちな狙撃手という駒でありながらその弱点すらない。本当に、今の自分に過ぎた隊員だ。
そう。
性能面ではなく──間違いなく、心理面で。自分が隊長でいいのか、という部分で。
「....緊張しなくてもいいんですよ帯島ちゃん。今日まで妥協せずにやってきたんですから。後は最善を尽くしましょう」
「そうそう。わたしもサポートするから、頑張ろう?」
木虎と三上が、緊張しい帯島に向けそんな言葉を放っていく。
三上は噂通りの優しい性格で。そして──意外というと失礼に当たるかもしれないが。木虎もまた非常に帯島を気遣っていた。同じ部隊の加山から聞こえてくる人物像から、厳しい性格だと身構えていたが。非常に優しい性格をしていた。
「大変やろなぁ帯島ちゃん。いきなり太刀川さん動かして戦えーって言われても、ねぇ?」
「まあ今回一番年下の帯島に隊長やらせるってことは。あんまり指揮の面で俺は出しゃばんなってことだろうからな。お前に従うぜ、帯島」
「は、はい!」
──とはいえ。こんな機会、中々無いのも確か。
失敗を恐れず、全力で自分の役割を果たそう。
※
──臨時部隊第五作戦室
「いやー。二宮さんの部隊えっぐいなぁ」
部隊が発表されると同時。
犬飼は笑みを浮かべながら、そう言った。
「.....まず、真正面からの攻略は無理でしょうね」
「本当、どんな馬鹿が組んだんでしょうねこの部隊」
「おゥ菊地原。東サンを馬鹿だとでも言いたいのか」
奈良坂・菊地原・弓場の三者の言葉を聞きながら、うんうんと犬飼は頷く。
「多分だけど、東さんにとってはこの二宮さんの部隊は一つのギミックなんだろうね」
「.....ギミック?」
「そう。真正面からの攻略は難しい。だけど機動力があまりなくて一回戦うと周りの部隊に囲まれやすい。この部隊は複数の部隊で囲んで叩いて仕留めるのが正解になる。──状況をとにかく動かしやすくするために、こういう火力特化の部隊を一つ東さんは投入したんじゃないかな?」
「ああ、成程.....。隠れ合いの泥仕合になるのを防ぐために、どうしても対処しなければならない火力を持った部隊を一つ置いておくのか....」
「ただ。隊長が二宮さんっていうのがミソだよね。──こういう時、囲まれてでも解りやすく大暴れして点を稼ぐみたいな不格好な戦術、二宮さん取らないだろうから。どう動くか楽しみだね」
※
──臨時部隊第七作戦室
「他の部隊が発表されたが。──方針の変更はない。この部隊は基本的に最低限の得点を得ながら、生存点の確保を優先する。戦況を確認しつつ、浮いた駒を叩く。そして得点よりも生存を優先。この部隊では、それが最善だ」
「了解」
風間を隊長とする第七部隊は、実に統率が取れていた。
「こちらには狙撃手がいないが。その分援護能力に優れた隊員が揃っている。──十分に勝算はある」
「狙撃手を優先して倒す方針もそのままですか?」
「そのままだ。特に安全圏範囲外のペナルティがトリオン兵だけだからな。隠れて近づく分には特段のダメージはない。逃げ遅れている狙撃手がいるなら、範囲外であろうとも仕留めるぞ。その時は、カバーを頼む」
簡潔に戦略を指示すると、後は細かな連携の打ち合わせが行われる。
※
各々、それぞれの思惑を抱えながら。
「──転送1分前です」
試合が始まろうとしていた──。