彼方のボーダーライン   作:丸米

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お祭りランク戦①

「皆さんこんにちは! 今回実況を務めさせていただきます、武富桜子です。そして解説席は──」

「生駒隊、水上で~す」

「冬島隊、冬島慎次だ」

「今回公式のランク戦ではなく、いわばお祭り的要素が大きな変則の模擬戦ですので。無理に実況解説を用意する必要はないと。企画主である東さんより言われていたものの──こんな豪華な戦いに実況解説なしでは勿体ないと勝手に用意しました! 皆様どうぞこの豪華な戦いをお楽しみください!」

 

 武富桜子はにこやかに──非公式戦であるにも関わらず実況解説ブースの利用許可を取り、更に解説者まで引っ張ってきたと告げた。凄いぞ武富。凄いぞ桜子。その行動力は一体どこからやってきているのだ武富桜子。

 

「お二人も非公式戦であるにもかかわらず、解説引き受けてくれてありがとうございます!」

「まあ俺等、あまり者同士やしなぁ。なあ、冬島さん」

「そうだな。悲しいなぁ」

 

 生駒隊は隊長の生駒達人、並びに狙撃手の隠岐孝二が。

 冬島隊からは当真勇が。それぞれこの非公式戦に参加している。あまりもの二人、解説席に座る。

 

「まあ──こんなバケモンまみれの魑魅魍魎の戦い。参加するより外側で茶々入れてる方が性分に合ってますわ」

「だな。こんなもん、おじさんが参加したくない」

「このルールでトラッパー参加したら狙撃手よりずっと無法でしょ。参加しなくて正解でしょ冬島さんは」

「おいおい、おじさん泣かせに来るなよ」

「やはりというか──。このルール的には、狙撃手が有利に働くのですね」

 

 桜子の言葉に、せやなぁと水上は答える。

 

「今回のルールは、基本的に”待つ側”と”動く側”がはっきり分かれるルールなんですわ。安全圏の外側にいる部隊が”動く側”。内側にいる部隊が”待つ側”。で、動く側にいる時は基本的に機動力が重要になって。待つ側にいる時は狙撃手の有無が重要になる」

「だな。──その点。狙撃手がいない第一、第七部隊は機動力に恵まれた隊員が与えられている」

「今回のランク戦。狙撃手以外は基本的に足が速い隊員がほとんどやな。その分、狙撃手がいる部隊は自分らが”動く側”になった時にどう狙撃手をカバーしながら安全圏まで行くか、っていうのも一つ重要な事になってきます」

 

 それで、と。

 水上はさらに続ける。

 

「今回、狙撃手以外で足が遅い。だけど火力が高いという特徴を持った隊員が多い部隊が──二宮さん所の第六部隊という事になります。こっちはやけに極端ですね。待つ側だと死ぬほど強い。動く側になると途端に弱くなる」

「だな。──今回。二宮の所をどう処理するか、ってのも。試合全体を見ての重要項目になるんだろうな。隠れるか挑むかでも、部隊としての特徴が現れそうだ」

「成程。やはりこの試合は安全圏の存在が非常に重要になる事となりますが。──今回、試合直前の時点で、追加のルールが各部隊に通知されています」

 

 追加ルール。

 

「今回の安全圏の設定は、東さんの主導で行われる事。そしてその安全圏の設定は──”部隊の密集”を基準に行使される」

 

 へぇ、と。水上と冬島の両方が声を上げる。

 

「成程な。──とことん泥試合化は防ぎたいって訳か」

「ですね。初動で隠れるにせよ、あんまり敵と離れたなら安全圏から外すぞ、って言ってるようなもんでしょうし」

「そして。この基準が設けられたことによって──安全圏が設定された時点で、自分たちの周囲に敵がいるのかいないのかの判断が出来るって事になる。現場での動き方に一つの軸が出来るな」

 

「──さあ。各部隊の転送までもうじきとなりました。それでは皆様。もう少しだけお待ちください──」

 

 

「安全圏の設定は、部隊の密集具合を見て決める....か」

 

 うーん、と加山は唸る。

 

「隠れるにしても。あまり他の部隊から距離を取るのもデメリットになるって事ですよね」

「どうする? ウチの部隊は、序盤は他の隊に近付かず隠れる方針だったと思うけど」

 

 ここもまた、東春秋によるテストなのだろう。

 直前で明かされるルールの開示。これに対して、どう動いていくか。

 

 転送まで、残り数分。

 数秒考え、加山は方針を決める。

 

「いや。ウチの方針は変えない。──序盤は隠れる。これは徹底する」

「....いいんですか? そうすると、高確率でウチは安全圏の外に締め出される事になると思うんですけど」

「逆にチャンスの可能性もある。安全圏欲しさに敵が密集して行って、ドンパチしている所を確認して情報を集める事も、状況によっては可能だろう。──そもそもこっちの部隊は安全圏から締め出される事を前提に訓練をしてきた。ここで方針を変えるとなったら、今まで積み重ねてきた連携が無駄になる可能性がある」

 

 加山はそう言うと、草壁に視線を向ける。

 

「....異論はないわ。それでいきましょう」

「よし。なら後は転送を待つか」

 

 

 そうして。

 

「──転送が開始されます」

 

 七部隊。総勢28人による広範囲での部隊戦が開始された。

 

 

 試合が開始され、各部隊が転送される。

 

 その始まり方も──各部隊それぞれの方針により、かなり異なるものであった。

 

「さあ試合が始まりましたが──やはりといいますか。全員バッグワームを装着しております」

「今回は普通のランク戦の二倍近い部隊が参加している上に、全員ほぼマスター以上の手練れだからな。序盤に情報を晒すメリットがあんまりない」

「──全員が序盤は隠れる。けど、ある程度敵同士との距離を保っておきたい。その辺りのバランスが重要になりそうやけど──」

 

 全員が転送されたマップ上を眺め。

 ジッと、水上は一つの部隊を見る。

 

 それは──。

 

 

「やっぱり。──第五部隊は、その辺りよさような気がせんでもないですね」

 

 犬飼澄晴率いる、第五部隊。

 

 このチームには、最優の”耳”がある。

 

 

「.....転送してから。他の足音は西側から聞こえてますね。距離と足音の数が判別できるくらいの距離じゃない」

 転送直後。

 隠形に徹した菊地原が、周囲を索敵し──隊長である犬飼に逐次報告を行っていた。

 

「りょうかーい。なら西側にちょい寄っていきながら距離を詰めていこうかな。──足音はどう? 大きくなってる?」

「いや。遠ざかってますね。もう少しで聞こえなくなりそうなくらいには」

「オーケー。どの部隊かはわからないけど。多分マップ中央側へ向かって行ってるみたいだね。安全圏のルール的に、やっぱり中央側へ向かうのが硬いだろうけど...」

 さて、と犬飼は呟き。

 

「奈良坂君はひとまず今マーカー付けたビルに潜伏して、そこから西側の方に人がいないか見ていて。見つけても撃たなくていいから。菊地原君は周囲の索敵の継続。弓場さんは菊地原君の背後についていて下さい」

 

 菊地原の報告を聞き。犬飼はそれぞれに指示を出す。

 

 さて、と。犬飼は呟き。

 

「こっちは情報を集めるのに優秀な駒が二つあるからね。──序盤の立ち回りで負けるわけにはいかない」

 

 

 各部隊の転送位置は。それぞれ均等にばらけた位置であった。

 マップ中央部には部隊の転送が行われず。四方に部隊がばらけて転送される形。

 

 その中。

 各々の部隊の動きは、

 ・安全圏の漏れを最小限に済ますためにマップ中央に向かう部隊

 これは、嵐山率いる第二部隊。また香取の第三部隊がこれに該当する。

 

「嵐山さんに関しては安全圏確保してからの戦略立てに自信があるんやろな。狙撃手もおるし、中央側への移動をしてから村上の防御力活かして点を取っていくつもりなんでしょ。で、多分香取の所は戦略なんてあらへん。それぞれ陣形も作らず好き勝手動いてる。時間たったら、ここで戦いが起きそうやな」

 

 

 ・転送付近の状況確認及び索敵を行う部隊。

 これは帯島の第四部隊、犬飼の第五部隊、及び二宮の第六部隊が該当

 

「このムーブがまあ基本だとは思うが.....。犬飼の部隊がやはり索敵と動き出しが速い」

「菊地原と奈良坂いますからね。足音が聞こえてくる方向を菊地原が拾って、奈良坂が高所からその確認をする。これだけで情報を集められるスピードがダンチですわ」

 

 ・転送位置から、更に外側へと移動している部隊。

 これは加山の第一、また風間の第七が該当する。

 

「こっちは逆に、徹底して他の部隊と鉢合わないようにしているんだろうな」

「狙撃手いなくて、その上で全員機動力が高い駒。相手の出方を潜んで見るのに徹するのは正しいやろな。──こっちは間違いなく安全圏から外れるやろから、どう入っていくのか見物やな」

 

「序盤の動きとして....やはり第五部隊が一歩リードしているでしょうか?」

「だな。中央に向かう香取の部隊の裏側から距離を詰めつつ、マップ中央からつかず離れずの位置を保持している。あの位置取りなら安全圏から大きく外れることも無いだろうし。中央でドンパチが始まったら真っ先にその情報も得ることが出来る」

 

 こうして。

 各部隊の初動は──中央に行く者、転送位置周辺の索敵を行う者、そして大きく外側に移動しつつ隠れる者。

 

 この三つに分類される事となった。

 

 ──戦いの火蓋は、思わぬところから切られる事となる。

 

 

「....しまった」

 

 思わず、奈良坂は呟いた。

 

「──すみません犬飼先輩」

 奈良坂は、苦渋の表情で犬飼に報告を上げる。

「ん? どうしたの奈良坂君」

「索敵をしていたのですが──あの人を見てしまいました」

 あの人、という言葉で。

 一も二もなく、犬飼は全てを理解した。

 

「あー。見ちゃったか」

「はい見てしまいました」

 

 あちゃー、と。犬飼は呟く。

 

「なら仕方がないね──。皆、交戦準備。一度散開しつつ距離を取るよ。可能な限り戦闘は避けたいけど、相手側から仕掛けてくるのなら仕方がない」

 これまで、菊地原の副作用にて完璧な隠形を決めていた犬飼の部隊であったが。事態が急変した事を悟り、全員が武装に手をかける。

 

 

 

 して。

 

 

「──おい。香取」

 所変わって。

 マップ中央に向かっていた、第三部隊は──隊員、影浦雅人の言葉に足を止める。

 

「なに?」

「東側から。こっちを探り入れる感情が刺さった。多分あっちに狙撃手がいる」

「へぇ」

 

 影浦雅人の副作用、感情受信体質。

 その作用により──彼方から感情を受け取った。

 

 こちらに探りを入れる感情。

 ──奈良坂の正確な索敵の範囲に、影浦が入ってしまった。

 

 

「どうする?」

「こっちの方針は事前に決めた通りよ。──細かい事は考えない。敵がいるならぶっ殺しに行く。好きに動いて、点をかっぱらうわよ」

「.....へっ。了解」

「オーケーオーケー。じゃ、こっちも適当に狙撃ポイントに着いとくわ。位置に着いたらマーカーよろしく、綾辻」

「了解しました」

 

 

 ふん、と香取は鼻を鳴らす。

 

「こっちの背後から索敵しようたってそうはいかないわ。──ぶっ殺す」

「おゥ。誰が来るかは解らねぇが。このまま血祭りにあげるぞ」

 

 見敵必殺。

 

 実に単純な論理をもって──彼等はマップ中央へ向かう足を反転。そのまま逆方向へと進路を変える。

 

「──どうせなら、せいぜい全力で暴れてやるわ」

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