彼方のボーダーライン   作:丸米

163 / 166
お祭りランク戦②

「....足音が近くなってる。正面側が一つ。裏手に二つ」

「はい了解。──奈良坂君。敵の位置は掴めた?」

「射線上にいるのは影浦先輩だけです」

「と、なると──。敢えて射線上にカゲを置いて、他のメンバーは裏を回っているんだろうね」

「どうする隊長? このまま影浦の方向に突っ切っていくか。それとも裏手の方をシメに行くか」

「そうだね...」

 

 犬飼は状況を整理する。

 マップ中央方向には影浦。

 

 そして遮蔽物や建物を通って、裏手側に二枚。恐らくは香取と米屋だろう。

 

 ──まだ安全圏の設定すらされていない状況。あまり長々と戦いたくはないけど。

 

「裏を回ろう。──弓場さんと菊地原君の連携で取り敢えず一枚落とそう」

 

 そうすぐに判断を下し、裏手に弓場と菊地原を動かす事に決めた。

 

 

 

 

「弓場さん。ここから突き当りの建物の向こうから足音。かなり近い。──左手側の建物から入って。ぼくは上側からカメレオンで襲撃をかける」

「了解。──息を合わせるぞ」

 

 二人はすぐさまバッグワームを解除。

 弓場の手には二丁拳銃。

 菊地原はカメレオンを起動。

 

 コンクリの壁を。内装を。そしてその先にある遮蔽物を──銃撃で破壊。

 その先。

 

「──弓場さんか!」

「よう米屋」

 

 槍を構える、米屋陽介の姿。

 と、──その背後から走りくる香取葉子。

 

 ──ここはダメージ覚悟で、オーダー通り一枚落とす。

 

 弓場が米屋に銃口を向け、引金に指をかけた瞬間。

 状況が動き出す。

 

 弓場の銃口に対し、槍を突き出す米屋。

 その米屋を狙い、上空からカメレオンを解除し背後を取る菊地原。

 

 そして、

 

「──危ない! 米屋先輩!」

 

 カメレオン解除前から菊地原の存在を感知した香取が、菊地原を抑えんと襲撃をかける。

 

 車がギリギリ通れるかどうかという程に横幅が狭く、建物に囲まれた路地。

 四人が、入り乱れる。

 

 

 弓場の弾丸と、米屋の槍が交差し──共に体勢を下げて攻撃を避けると共に。

 菊地原と香取のスコーピオンが交差する。

 

 菊地原は一つ舌打ちをする。

 本来──弓場の銃撃に意識を向けた米屋を背後から仕留めて。後は弓場の銃撃で牽制をかけながら香取からは逃れる、というプランであった。

 で、あるが。──予想を超えて香取の勘が鋭く、背後からの急襲が失敗した。

 

 交差したスコーピオンが弾かれると共に。

 

 菊地原は、己の背後にある建物の壁を蹴りカメレオンを起動。

 瞬時に視界から菊地原の姿が消えた香取は──それでも冷静であった。

 

 すぐさま、オペレーターの綾辻からリアルタイムで菊地原のトリオン反応が伝えられる。

 

 位置取りは、香取・米屋と等間隔の場所。

 建物に張り付いているのだろうか。狭い路地の遮蔽物の側面にいる。

 

 ──アタシか、米屋先輩か。どっちを狙っているか絞らせない為の位置取りか。

 

 ならば。

 香取は瞬時に、──拳銃を生成し、弓場に向ける。

 

 放たれる弾丸は弓場の顔面へ向かい、

 菊地原は──カメレオンを解除し、弓場へシールドを張る。

 

 ──意外と、判断が早い。

 

「.....こいつは、一筋縄じゃあいかねぇなァ」

 

 狭い路地の中。銃撃と斬撃が繰り広げられる。

 ──もし他のチームが上を取ってしまえば、地形上最悪の場面。

 

 それが理解できている弓場・菊地原はサッサと仕留めるかサッサと退却してこの場から離れたいが。

 理解できてなお、貪欲に点を狙う香取・米屋は二人を逃がさない。

 

 泥沼のほとりに、足をかけている。

 このまま突き進んだ先を思い──菊地原は一つ溜息を吐いた。

 

 

 ──裏手の戦いは膠着しているようだな。

 

 奈良坂透は、最初に索敵していた位置から移動し、潜伏を行っている。

 

 ──援護してやりたいが。あちらには当真先輩がいる。

 

 

 狙撃手というのは、敵に”脅威”を与えるポジションである。

 

 こちらから観測できない範囲から一方的に攻撃を与える。

 観測できないから、脅威となる。

 

 

 ──恐らくは当真先輩の発案だろうか。香取と陽介を回した裏手の通路は、道幅が狭く狙撃が通る場所が少ない。自然と、狙撃ポイントが限定される事になる。

 

 そうなると。

 ──当真が奈良坂を索敵するポイントの数も絞ることが出来る。

 

 

 影浦を正面側から向かわせたのは。

 狙撃が効かない駒を前面に立たせて奈良坂の行動範囲を絞り。

 裏手に二人を回す事で奈良坂が、そちら側に狙撃をしたくなるように誘導しているように思える。

 

 そうして奈良坂の狙撃を誘発し。

 当真は奈良坂の位置を把握し、仕留める。

 

 ──当真の狙撃は援護の為に撃つことは無い。当てる目的以外の弾丸を撃つことは無い。だからこそ、”当てられる状況”を察知し、利用する嗅覚がずば抜けている。

 

 優秀な狙撃手の条件の一つに、当たらない弾を無理に撃たないというものがある。

 撃てば当たる故に、狙撃手は恐れられる。

 

 奈良坂は当てられないならば当てられないなりの弾丸を放ち、状況を良化する献身性を持っていて、それを行使できる幅広い技術がある。

 当真は当てられないなら当てられる状況になるまで待ち続け、状況の変化を察知する能力と、それのみを磨き続けた尖った鋭い技術がある。

 

 今。

 当真は状況を見ている。

 部隊を分けて──奈良坂を仕留められる機を伺っていると見るべきだ。

 

 思索の中。

 オペレーターの人見より──マーカーが届く。

 

「....」

 

 東隊のオペレーターを務めている人見は、やはりというか。狙撃というものに対しての見地が深い。

 意図を理解する。

 

「──裏手の香取ちゃんと米屋君の急襲が失敗したからには、リスクを負う必要があるね。奈良坂君、頼んだ」

 

 犬飼は弓場・菊地原の二人に対し、”退却”のオーダー。

 建造物の影より上を通し、香取・米屋の二人に対しハウンドを浴びせると同時。弓場と菊地原は共に路地から抜けていく。

 

 

 ──どちらでもいい。

 ──路地を抜けようとする弓場と菊地原を追うも。追わざるも。

 

 ──どちらでも、俺は仕事をするだけだ。

 

 

 狭い路地が連続する路地は。

 複雑に入り組んだ通路を外周するか。先程弓場がやったように建物を突っ切って動いていくか。そのどちらかで抜けていく他ない。

 

 第五部隊の判断は。

 弓場と菊地原を裏手から戻した上で、影浦側へ移動していく事。

 

 当然。そうなると影浦と香取・米屋の挟撃を受ける事となり、不利を負う事となるが。

 香取と米屋を追わせる過程で──どちらかを落とす算段は付いている。

 

 

 第三部隊は狙撃を嫌い裏手に回ったとあって。恐らく射線への警戒は強いだろう。

 

 ならば。追うにあたっても──当然、奈良坂の狙撃に対して警戒しながらの動きとなる。

 

「....」

 

 さあ。

 来い。

 

 

 

 

 犬飼が路地にハウンドを撒く。

 射線が通りにくい路地から、香取と米屋を追いだすような。上部から降り注ぐような弾丸。

 

 

「──香取、どうする? 建物の中に入るか。それとも犬飼先輩のハウンド防ぎながらでも路地を行くか」

「路地を行くわ。奈良坂先輩の狙撃があるなら、建物に入った時点で目付が済んでしまう。窮屈でも路地に沿って行くべきだわ」

「.....了解」

 

 建物に入ってしまえば。

 射線を通すポイントが、その建物周辺に限定され”目付”をされてしまう。

 そうなると建物から出る瞬間がどうしてもリスクになるし、菊地原と弓場の撤退経路を先回りする動きもしなければならず更に経路が絞られる。狙撃が通るリスクが大きくなる。

 

 ならば。

 犬飼のハウンドという邪魔が入りながらも──初めから狙撃の射線が通りにくい入り組んだ路地から二人を追った方がいい。そういう判断を香取は下した。

 

「オーケー」

 

 米屋も香取の決定に頷き、路地を駆け抜けていく。

 

 

 

 菊地原と弓場を、香取と米屋が追う。

 

 時折弓場と香取の銃撃戦が繰り広げられ、先回りしようとする米屋の動きを菊地原が抑え込みながら。

 狭い路地を、四人が駆け抜けていく。

 

 

「....」

 

 

 弓場の銃撃に、香取が足を止め応戦。

 そして。

 銃撃の合間に斬りかかる菊地原に、米屋が先んじてリーチの長い槍で牽制をかける。

 

 

 瞬間。

 

 

 菊地原がカメレオンを発動し──米屋の横手を通り過ぎていく。

 

「んにゃろ。こんな安い手には乗らねーぞ....!」

 

 カメレオンの発動→死角側からの急襲を瞬時に予想した米屋は、回れ右の要領で体幹を向けながら槍を突き出す。

 当然──その背後からの弓場の銃弾にも気を配りつつ。

 

 意識付けだ。

 

 弓場の銃撃と、菊地原の急襲。

 狭い路地の中。幾度となく繰り返されたこの攻防の中。

 米屋と香取はこの二つを常に意識した上で、路地を駆け抜けていた

 

 反復による意識付けは。

 周囲の状況の把握に、一瞬の遅れをもたらす。

 

 

 路地の遮蔽物。

 

 弓場と香取の銃撃戦。そして──カメレオンを解いた菊地原が砕けかかっている路地を形成する壁を蹴り壊したその瞬間。

 

 

 ──狭苦しい路地に。微かな一筋の線が通る。

 

 

 

「....!」

「米屋先輩!」

 

 菊地原の動きに対応せんと、体幹を回し足を止めた米屋の姿をスコープ越しに見ていた奈良坂透は──正確に米屋の急所を貫いていた。

 

 

「.....まあ、お前ならそれ位はやるか。あー、まだ楽しみたかったのになぁ」

 

 くっそー、と呟きつつ──米屋陽介は緊急脱出をした。

 

 

 

 

 銃撃戦で遮蔽物が崩れた瞬間を狙っての狙撃。

 それも──七百メートル近く離れた区画への。

 

 曲芸に近いその狙撃を。

 奈良坂は通した。

 

 

 

 ──路地を抜けた瞬間に狙いを定めてしまえば、恐らく狙撃を警戒している香取・米屋コンビには防がれる可能性が高く。だからといって路地に射線を通せる場所に行けば、当真に位置が絞られ即座にバレる。

 だからこそ、この場所であった。

 

 

 狭い路地が連続する場所で。弓場と菊地原の連携を幾度か見せて、そこに意識を向けさせる。

 

 そうして──路地の中での狙撃の警戒心と、弓場と菊地原の警戒を強めさせ。

 反復動作の中で壊した遮蔽物から──狙撃を通す。

 

 

 これが。

 奈良坂透が──味方を援護しつつ、かつ当真に位置を把握されぬために出した狙撃。

 

 曲芸の如き長距離狙撃。

 それを敢行し、即座に奈良坂は立ち上がる。

 

 一度狙撃を敢行したのならば、この瞬間から当真勇から隠れ切る作業に移らねばならない。

 

 狙撃手の基本は、撃ったら逃げる。

 ここから──当真勇との隠れ合いの戦いとなる。

 

 

 

 

「.....は?」

 

 

 

 

 視界が消える。

 

 

 ──戦闘体、活動限界。緊急脱出──

 

 

 

 

 

 

 

「いやー。──俺の勘が告げていたね。お前はここに来るだろうってな」

 

 

 リーゼントの男がスコープ越しの奈良坂を見ていた。

 

 

 

「当てて当たり前のもの撃ったって面白くないよなぁ? ──楽しかったぜ。奈良坂」

 

 

 さあて、と当真は言うと。

 

 

「米屋が消えたのはいてぇが──奈良坂が消えたのなら後は好きにやれるな。ここから大暴れさせてもらう」

 

 当真勇。

 ボーダー全狙撃手隊員のトップに立つ男が――笑みを浮かべ、そう言った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。