彼方のボーダーライン   作:丸米

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現在、同じくハーメルンで連載中のデスイーター様によるワートリ原作二次創作作品「痛みを識るもの」にて他作品とのクロスランク戦が書かれており、星月様の「REGAIN COLORS」にプラスして拙作の彼方のボーダーラインにおける弓場隊も参加する運びとなりました。

いえーい。やったー。

一応私も事前にお話を読ませて頂いておりますが、基本的に口は出さずデスイーター様に全部お任せしております。一読者として楽しませてもらっている次第です。へっへっへ。

どうぞどうぞ、そちらも一目見て頂ければ幸いであります。


お祭りランク戦④

「隊長。マップ中央地点で爆撃が見える」

「榴弾の跡も見えるな。十中八九、二宮さんの部隊だな。よしよし、──最悪の事態は避けられたな」

 

 この試合。何より最悪の事態は、初動で二宮の第六部隊と鉢合う事であった。

 

 第六部隊はこの試合において間違いなく最初に引いた人間にとってのババであり、貧乏くじ。

 位置が知られる上に、正面から当たると間違いなく敗北を喫するという最悪の事態を引き起こすクソカード。

 加山たちが最初に潜伏する選択を取ったのはこういうババでクソカードを引かない為でもあったのだ。

 

「ただ──第六部隊の襲撃を受けて、嵐山さんたちが西側のラインから北寄りに押し上げられている。元々北上して安全圏に入る予定だったと思うけど、そうしたら多分第二部隊あたりに捕捉される。どうする、加山君?」

「西から北。そんで西から中央。ここのラインは激戦区になる可能性が高い。俺達はこのラインから外れる形で安全圏に侵入する。さっき犬飼先輩の所と香取先輩の所が交戦した東の区画から南に下がっていく形で安全圏に入る」

「.....激戦区画から逃れようとしているのは、攻撃の主軸となる奈良坂先輩を落としている第五部隊も同じはずよ。交戦の可能性が高いけど、それでもいい?」

「いい。ここはむしろ点を取れる好機だ。──このまま攻め込む」

 

 現在、犬飼率いる第五部隊の面々はバッグワームを着込み潜伏をしている。

 しかし。一度交戦した、という事実がここにきて重い枷となる。

 安全圏の収縮時間が迫る中、その外側へ向かう訳にもいかない。かといって激戦区に飛び込むには奈良坂の離脱があまりに痛い。と、なれば──おのずと潜伏場所は限られてくる。

 

「第五部隊と鉢合った場合奇襲は望めない。だが対策はする。優秀な耳をあちらが持っているのならば、それを利用してこっちに有利な状況に引きずり込む」

 

 隠れるのは終わりだ。

 こちらの強みである機動力を活かし、一気に攻め入る。

 

 

「こっから──”外”の部隊がどういう風に動いてくるかで、戦況が変わっていく感じがするな」

「そっすね。やっぱり二宮さんうまいですわ。嵐山さんとこの部隊を追い込むだけ追い込んでおいて、途中でピタ、と動きを止めた」

 

 二宮の第六部隊は、嵐山率いる第二部隊を北側にある程度追い込むと、そこで足を止める。

 二宮・出水の二人は位置情報を晒しながら。北添と古寺はバッグワームで隠れている。

 

「──二宮隊長と出水隊員は双方とも背中を向け合う形で距離を取り。そして北添隊員と古寺隊員はそれぞれ反対側のビルの上に陣取っています」

 

「二宮さんと出水がそれぞれ狙撃を警戒しつつ。北添と古寺はそれぞれの攻撃を重ねられるように反対側に陣取っているんやろな。隙がない」

「.....と、いいますと?」

「狙撃手の古寺は勿論の事、北添も遠方への爆撃という遠距離での攻撃手段を備えている。──反対側の位置に二人を置く事で、両者の射程の重なるゾーンに敵が入ると、自動的にメテオラの榴弾と狙撃のコンボが入る訳だ」

「ああ、成程...」

 

 

 二宮隊の部隊は”火力と攻撃範囲に優れる”という長所と”機動力が足りず、足を動かさざるを得ない場面になった場合に弱い”という短所を併せ持っている。

 なので、基本的に最初に交戦した後に複数部隊に囲まれる。または安全圏の外に締め出された時にかなり厳しい状況になる。そういう事前予想が成されていた。

 

 それに対する、二宮の解答が。

 敢えて安全圏の内側から外側に対し攻撃を仕掛けようとする部隊──それと交戦しながら自らの部隊を安全圏に引き上げる、という方法であった。

 

 序盤も序盤。だからこそ。

 部隊の性格によりそれぞれ動き出しが異なる、という事を二宮は理解していた

 

 安全圏の外にいる部隊は、そもそも内側に入る事に必死で二宮の部隊を叩く余裕がない。更に序盤での駒損を惜しみ激戦区から外れるルートから侵入する部隊もいるであろう。

 複数の部隊で囲んで叩いて潰す、という自身の負け筋は。

 こと序盤で駒損を惜しむ段階であれば──かなり成立しにくい。

 

 狙撃でちょっかいをかけられる可能性を考え、二宮と出水はそれぞれの方向へ意識を向けつつ。古寺は周囲の索敵をしつつカウンタースナイプの準備を。北添は安全圏に入ろうとしてくる部隊へ爆撃を降らせるべく潜伏。

 

「序盤は、複数部隊が合同で叩く事をしないってのを見抜いていたんだろうな。だから序盤の内に安全圏の中心に向かった。あの位置取りを保持する事が重要だから、嵐山が後退した後は無理に追う事は無かった」

「そんでこれから他の部隊と戦う事になっても、それはそれで部隊が密集して次の安全圏内に入りやすいという状態になる訳ですわ。──安全圏に関する追加ルールが、二宮さんとこでは間違いなくプラスに働いていますね」

 

 そして。

 嵐山の部隊が北側に退却した事もあり。北から安全圏に入るルートも使いづらくもなった。

 

「とはいえ。ここはやっぱり部隊の性格というのが出るものだから。──当然嬉々として激戦区に入り込んでくる連中もいる訳だ」

 

 ブースのカメラ内。

 映像が映し出される。

 

 それは──二つのグラスホッパーの姿。

 

 一つ。バッグワームを着込んだ、サンバイザーを付けた男。

 二つ。──弧月を二つ差した髭面の男。

 

「さあて──どうなるかね」

 

 

 ──状況はそこまでよくないね。

 

 犬飼は頭を掻きながら、そう心中思う。

 

 ──ひとまずは安全圏の収縮が終わるまでは潜伏一択だね。

 

 

 こちらの強みとしては、情報収集能力。

 そして奈良坂が存命中は隊全体の総合能力も非常に高いと考えていた。

 

 だが奈良坂という遠距離でのエースがいなくなり──隊の運用上鍵となる菊地原の効能が半減した。

 音による位置情報から奈良坂を派遣するという攻撃する上での極悪コンボが序盤で沈んでしまった。

 

「.....足音が聞こえる。北東。かなりのスピードがある。多分風間さんか、空閑辺りの高機動型の隊員」

 

 潜伏中。

 菊地原が犬飼へ報告を上げる。

 

「なら安全圏の外から風間さんか、加山君の部隊がこっち側から入って来たかな。──多分北側のルートが潰れたからこっちに来たんだろうね」

「どうする?」

「──戦うしかないね。弓場さんは菊地原君の援護をお願いします」

「了解」

 

 退却をしたいが。

 二宮と嵐山の部隊が交戦している中。交戦すれば激戦区との板挟みのまま戦わざるを得なくなる。

 二宮の部隊に把握されたうえに、駒の数で負けている他の部隊と交戦するのは避けなければならない。ならばここで相手の駒を一枚でも落とし、戦力を削っておく必要がある。

 

「......多分あの足音は菊地原君を釣っているね。こっちは安全圏に入っているからわざわざ乗る必要はない。このまま待機ね」

 

 高機動の攻撃手を単独で派遣している理由は、釣り以外の理由はない。

 あちら側の狙いとしては、犬飼と他の隊員を分断させるか、背後を取りたいのだろう。

 

 ①菊地原単独、もしくは菊地原+弓場で足音の方向へ向かう

 →分断を受けた犬飼へ向け他の敵が囲いに来る。

 

 ②三人全員で向かう

 →残りの敵が背中側を取り挟撃を仕掛ける。

 

 こういう狙いがあるのだろう。

 

 ならば──こちらとしては待ち構えるのが最善。安全圏から入ってこようとしているのは敵側だ。

 

 

 

 

「隊長。やっぱり釣りには反応しない」

「オッケーオッケー。ならプラン2で行きまーす」

 

 予想通り予想通り。

 菊地原の耳があるなら──単独で派遣している遊真の足音は拾ってくれるとこちら側も踏んでいた。

 

 拾ったうえで襲撃を仕掛け分断するなら浮いた駒を仕留めるか挟撃を行うかをするつもりであったが。それでも動かないのならば──こちら側にも仕掛けがある。

 どうせあちらは退却は出来ない。

 こちらが仕掛けてきたものを、受けるしかないのだ。

 

 

「──草壁さん」

「ええ。解っているわ。──ダミービーコン。起動するわ」

 

 

 安全圏外の外側。

 そこから──ダミービーコンが六つ程、起動する。

 

 

 その起動に合わせ。

 

「那須さん」

「ええ」

 

 

 加山・那須もまた。

 

 同時にバッグワームを解く。

 

 

 

 

「──来たのは加山君か....!」

 

 

 突如として現れた八つのトリオン反応を前にして。

 犬飼は即座に──加山の部隊がこちら側に来たものと判断した。

 

 

 ダミービーコン発生地点から打ち上げられるは、複数のハウンド弾。

 細かく散らしたのだろう。それぞれの地点から小さな弾体が空より打ちあがる。

 

 

 ──ダミービーコンでバッグワーム解除にかかる位置の補足を排除し。事前に仕込んだ置き弾を発射させる。

 加山の得意技だ。

 

 

 その置き弾の中。

 円弧を描くような軌道の弾丸の中──真っすぐに放たれている弾丸もまたそこに存在していた。

 

 

「.....うざ」

 

 広域から降り注ぐハウンド弾に位置を炙り出されシールドを上側に展開していた菊地原に。

 遅れてやって来た別軌道の弾丸は、シールドに阻まれる寸前に直角に折れ曲がり、菊地原の右足を貫いていた。

 

 

 ──ハウンドからの、バイパー。

 

 

 シールドも足も削られた菊地原の前。

 白髪の少年が、躍り出る。

 

 

「──ちぇ」

 

 グラスホッパーを踏み込んだ遊真の高速の斬撃が菊地原の首を掻き斬り。

 伝達系切断により、菊地原は緊急脱出。

 

 

「──空閑ァ!」

 

 仕掛けと空閑の急襲により菊地原を瞬時に失った後。

 弓場は空閑を捕捉し──リボルバーを向ける。

 

 

「隊長。ゆばさんの銃は一丁だ」

「了解。なら頼むぞ──黒江」

 

 

 ここで弓場が来ることも想定内。

 銃を一つしか使っていないという事は、シールドを装着している可能性が高い。

 つまり、ある程度意識は空閑以外にも、その外にも向けられているという事だ。

 

 

 加山は地面に手を付けると、

 

「エスクード」

 

 壁をひりだす。

 

 

 ひりだされた壁は、ビルの障害物の影に隠れていた──黒江を乗せる。

 

 

「──韋駄天」

 

 黒江がバッグワームを解き、韋駄天を使う瞬間。

 加山は更に二つのダミービーコンを起動させ。黒江の位置までも誤魔化す。

 

 

 空閑へ視線を向けていた弓場の意識は。

 

 突如現れた三つのビーコンという情報が入る事で──更に外側への意識も強まる。

 

 以前の遊真との一騎打ちでは。弓場は空閑の存在を意識しすぎた為、仕掛けに対応できずに敗れた。

 だからこその反省の念もあるのだろう。

 

 弓場は──他の隊員による射撃を警戒してしまった。

 

 

 が。

 警戒して現れるものが射撃ではなく──障害物の影でバッグワームで潜伏していた黒江である、とまでは読み切れない。

 シールドを装着せず、二丁拳銃で攻め込んできたならば。ハウンドを横手から降らせるつもりであった。

 そうでなければ。

 

 

 エスクードにより引き上げられた黒江が放つは。

 韋駄天による高速機動からの斬撃。

 

 

「──く....!」

 

 

 弓場は反射的に──シールドでは防げない攻撃が来ると判断し、バックステップ。

 

 が。

 

 その動きに乗じ遊真は弓場との間合いを詰めていた。

 弓場の足を斬り飛ばし、転がす。

 

 

「.....ここまでか」

 

 黒江の斬撃を避ける事叶わず。

 弓場もまた首を狩り取られ──緊急脱出。

 

 

 

「......あらら」

 

 一瞬の攻防で自分以外の駒が消えてしまった犬飼の眼前に。

 

「ちゃっす犬飼先輩」

「やあ加山君に那須さん」

「不運でしたね」

「全くだ」

 

 加山と那須の姿があった。

 

 犬飼は即座に突撃銃を構えるが──それよりも加山の拳銃弾の方が早い。

 

 腹部に大きな一発を受けた後。那須のバイパーが左右から叩き込まれ、犬飼も離脱していった。

 

「ランク戦じゃ散々苦しめられましたからね。今日くらい気持ちよく勝たせて下さいな」

 

 ──第一部隊は3ポイントを獲得し。犬飼率いる第五部隊は全滅、という運びとなった。

 

 


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