彼方のボーダーライン   作:丸米

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スピッツの夜を駆ける、いいですよね。
遊真のテーマソングと言う事で。


空閑遊真との出会いからのあれこれ
夜駆ける少年、世界を超えて


「――お、おい!大丈夫かおい!」

その日。

加山雄吾は珍しく登校をし、帰路についていた。

とはいえ、授業に出る目的ではなく。学校側に進路票を出すためであり、次の日からは学校をサボるつもりであった。

 

その途中。

 

赤信号を悠々と歩き出す白髪頭の少年を見たのは。

反射的に、加山はその少年の背後に回り込み、襟を掴んだ。

何とか道脇に引っ張り込み正面衝突は避けたものの、少年の足先がぶつかってしまったのだ。

 

「あー。大丈夫だよ」

少年がぶつかった足先は。

自然に――治っていた。

 

え、と。

思わず加山が呟く中――白髪頭が車の運転手と対応している姿を、見ていた。

 

 

「――アンタ、ボーダー隊員?日常生活までトリオン体でいるとは、ロックだねぇ」

「ち、違うんです!」

メガネの子――ああ、確か前レイガストの機能マニュアルを渡した奴だったな。覚えてる覚えてる。確か三雲修だったね。

三雲は、必死にこちらに弁明している。

「うんにゃ。違うよ」

「へ?」

「俺は、近界民だよ」

そう白髪頭の少年が口にした瞬間。

 

へ、と。

また加山は声を出していた。

 

 

 

「――成程なぁ」

その後。

加山は近くの喫茶店に引っ張り込み、二人に話を聞いた。

その内容は。

――白髪頭の少年、空閑遊真が近界出身の傭兵であり、父の遺言に従い日本に来たという内容であった。

 

「そうか。近界から----。何とも珍しい」

「あの。空閑は人に危害を与えるつもりはないんです」

「焦らんでいいって、三雲。俺も別に近界民だからってここで戦うつもりはないから。ただ、目的は何なのかね」

「俺の目的か?それは――」

そう言うと

彼は、指輪を見せる。

 

「黒トリガーとなった俺の親父を、戻す事だね」

そう、言った。

その一言で、納得した。

 

「――黒トリガー、ね」

うーむ、と加山は頭を捻る。

知っている。

黒トリガーとは――高いトリオンを持つ人間が、自らの命を代償に作るトリガーの事であると。

彼の父親が、そうなったのだろう。

 

加山は。

どうするべきかを悩んでいた。

単純な近界民であれば、ボーダーに連絡をして、匿う代わりに幾ばくかの近界の情報を提供してもらう事も可能であっただろう。別にボーダーは敵意のない近界民まで殺し尽くすような危険思想の組織ではない。実際、近界民の職員も幾らかいると迅から聞いた事もある。

 

だが。

空閑遊真は、黒トリガーを持っている。

 

個人で持っているにしてはあまりにも強大な力を。

確信している。

ボーダーは絶対にコレを無視しないと。

 

だが――父親の形見とあらば、きっと空閑は手放すことはしないだろう。

 

「空閑くん」

「ん?どうしたの?」

「多分だけどな。君の目的を知るために必要な情報を持っているのは、恐らくボーダーしかない」

「ああ、ボーダーか」

「そう。俺と、このメガネ君が所属している組織。――で、問題なのが、この組織は近界民を至上の敵として扱っている事なんだよね」

「------ふむ」

「多分。君の黒トリガーを狙って部隊を動かしてくると思う。――もしかしたら、殺されるかもしれない」

「------」

ジッと、少年はこちらを見る。

真偽を探っているかのような、そんな表情。

殺されるかもしれない、という言葉に――三雲が少しばかり動揺する。

 

「一つ聞きたい。空閑君は、黒トリガーに関する情報と引き換えに、ボーダーに近界に関する情報を提供する意思はある?」

「別に近界の情報なんていくらあげてもいいよ」

「了解。交渉の意思があるのなら――俺が、ちょっと、取り図ろう」

 

加山は。

この場における最適解を探していた。

 

このまま放置すれば、きっとボーダーとこの少年が争う事になる。

それは、得があまりない。

多分そうなれば、最終的に空閑は逃げてしまう。

 

出来るならば。空閑が持つ情報は欲しい。

つい最近まで近界にいた人間だ。その上、話を聞く限り戦場にいたという人間。――持っている情報の質は、きっと上等物だろう。

 

出来るならば、ウィンウィンに終わらせたい。

 

「解った」

空閑は、そう呟く。

「任せた」

 

 

「空閑。――こんなに簡単に信用してもよかったのか?」

「うん?大丈夫だよ。――だって」

 

空閑は、少しだけ笑う。

 

「あの人――俺に一つも嘘は言わなかったから」

 

 

二人に電話番号を教えた後、加山は喫茶店の外に出る。

とはいえ。

ここで直接本部に連絡を入れたなら――交渉ではなく、実力行使の憂き目に遭う可能性が重々ある。

 

なので。

どうにか空閑には、早めにバックを用意しておいた方がいいだろう。簡単には本部が手出しできないような、味方を。

 

「――おお、迅さん。久しぶりっすね。ちょっと頼みがあるんですけど、いいっすかね」

 

こういう時。

玉狛支部というのは便利だ。

近界民に対して偏見のない人間の集まりなのだから。

空閑の事も、しっかりと保護してくれるだろう。

玉狛支部という緩衝材を入れ、――空閑を保護してもらう形を一旦とる。

それが必要だろう、と。加山は判断した。

 

加山の目的は。

あくまで、近界を滅ぼす事。

その為であるならば――近界民すらも、彼にとっては利用すべきカードだ。

 

 

 

 

「――成程ね」

そして。

玉狛支部近くで加山は迅と待ち合わせ、支部内で話をすることとなった。

うんうんと、迅は頷く。

「――了解。それじゃあ早めに取り計らうから。連絡ありがとう」

「うっす。――本当、こういう時迅さんの権力は役に立つ」

「権力じゃなくて、俺は実力で人を動かしているの。実力派エリートが俺だから」

「ま、一つ借りと言う事で」

「ん。了解。――じゃあ、今度こっちもお願いをしちゃおうかな」

「へぇー。まあ、聞いてあげますよ。取り敢えず頼みましたからね」

「今ならタイミングもいい。――丁度、A級一位から三位までが遠征でいないからね。面倒な手続きはさっさと終わらせよう」

手続き、という言葉に。

へぇ、と加山は呟く。

「おお、彼をボーダーに迎えるつもりっすか」

「まあ、黒トリガーをこのまま放置するのは流石に容認できないだろうからね。――玉狛支部に所属させるさ」

「成程ねぇ。――とはいえ、支部に黒トリガー持ち二人って前代未聞でしょ」

「だね。多分パワーバランス関係の事であーだこーだ言われるんだろうなぁ」

「どうするんすか?空閑を本部に置いておくんですか?」

「まあ、そこはちゃんと考えがある。――とはいえ、一筋縄ではいかないだろうけどね」

「でしょうねぇ。――マジで頼みますよほんと。アンタ交渉失敗したって言ったら空閑を県外に逃がして身元くらませた後にさっさと近界に帰らせますからね」

「まあまあ。この実力派エリートに任せときなさいって」

こうして。

話が一区切りつくと共に、お茶が出される。

茶を差し出した人は、腰までかかりそうな黒髪をした、眼鏡の女性であった。

「はじめまして~。私はオペレーターの宇佐美です~」

「お、はじまして。俺は加山雄吾っす」

「おー。加山君!噂はかねがね聞いているよ。どんな噂かは聞かないで頂戴ね!」

「了解っす」

ロクな噂が立ってないんだろうなぁ。

 

「――ああ!あんた!」

 

して。

その背後から。

 

実に騒がしい声が、聞こえてきた。

 

「うっす。小南先輩」

「うっす――じゃないわよ!あんた、私の解説の時に観覧席で馬鹿みたいに大笑いしてた奴でしょ!」

「俺。楽しいって感情に嘘をつきたくないんです」

「むきー!!この、この!」

小南、と呼ばれた女性は加山の背後に近付くと、丁度真下にあった後頭部をポカポカ殴ってくる。地味に痛い。

 

「あの時凄く恥ずかしかったんだから!」

「俺もその後の周りからの冷たい視線が痛かったので。おあいこおあいこ」

「アンタ私が先輩だって解ってる!?」

 

ぎゃいぎゃいと騒ぎ出す小南の声をバックグラウンドに、迅はまた口を開く。

 

「まあ、そういう事で。こっちの事は心配すんな。――ちゃんと空閑はこっちに引き込む」

「うっす。――あ、噛むな噛むな。禿げるだろ」

「うっさい!あんたなんて禿げればいいのよ!」

 

 

こうして。

加山は迅及び玉狛支部に「空閑の存在を伝える」というミッションを終えた。

 

「さあて」

 

近界を生き抜いてきた傭兵。

情報だけでなく、その戦力まであてに出来るとなれば、非常に大きい。

絶対にこのままボーダーにいてもらわねば。

 

「まあ、ああは言ってるけど。――こっちで出来る分の根回しはまあやっておこうかな」

 

その後加山は。

忍田本部長と鬼怒田開発室長にも連絡を入れ、次の日に面会を要請する。

あの時提案したテキストの配布は、最終的に受け入れられ、来年正式に配布されるという。その時の縁で、こうして時々話を聞いてもらえている。

 

「根付室長や唐沢部長は多分俺から言うよりも、東さん辺りから言った方が素直に話を聞くだろうし、そっちに話を持っていかないとね。――まあ、この辺りの人間に根回ししたところで、結局城戸司令がどう判断するかで全部決まるんだけどねぇ。無駄にならなきゃいいなぁ」

 

根回し、というのはとても便利だ。

やる分にはタダ。情報を与える、という行為は相手にとっても利がある。その情報を与えてどう相手が動くのかをある程度想定さえすれば、とても簡単な行為であるし。

多分。このまま空閑の存在を直接伝われば、上層部の人たちも幾ばくかの混乱が生じるだろうし。感謝はされど敵意は向けられまい。

 

「まあこれも将来に向けてのミッションと言う事で」

 

簡単だが、骨が折れる作業でもある。

意思決定力のない下っ端が何とか色々な人を情報を使って動かす行為でもあるから。

 

――いいか、加山。

 

迅は、あの後に言っていた。

 

――空閑君とメガネ君は、後々ボーダーにとって重要な存在となる。だから、守ってやってくれ。

 

加山は、迅を信用している。

あの男は、常に未来に向かってトロッコを走らせている。

あの三雲という隊員は――恐らくは空閑を縛るために必要な人材なのだろう。

それだけ、あの近界民の少年が必要なのだ。

 

「――多分、俺の動きも含めて読んでいるんだろうなぁ、迅さん」

仕方ない。

別に掌に踊らされる分には構わない。

ここは踊る方が正しい選択なのだろうから。

 

でも。

いつか。

 

予感もある。

多分――最終的な目標に関しては、迅は加山と相容れない関係であると。

 

何処まで踊らされ。

何処でその掌から零れ落ちなければならないのか。

 

そこも、冷静に判断していかないといけない。

 

「あー、やだやだ暗躍なんて。――まあ、これも勉強だねー」

ふわぁ、と一つ欠伸をして。

次の日に向けて、加山は帰路についた。




原作時点での変化。
・空閑の存在が迅及び本部の大人たちに早めにバレます。
・空閑が早めに玉狛支部に招かれます。

取り敢えず今のところはこんな感じで。

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