彼方のボーダーライン   作:丸米

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だんだんサブタイトル思いつかなくなってきた。そろそろ色のレパートリーが・・・


未来すら覆う、七色の狙撃手

迅悠一の眼前に、二人が立っていた。

 太刀川慶。

 風間蒼也。

 二人は迅を待ち伏せる形で、その場にいた。

 

「いやー。お前の後輩も中々やるじゃん、迅。ビルごと吹っ飛ばすなんて中々出来ることじゃない。まあ、後から根付さんに死ぬ程絞られるんだろうけど」

 太刀川がそう賞賛の言葉を放つと同時、

「どうやって加山と弓場を引き入れた、迅」

 風間はそう迅に尋ねる。

 

 加山雄吾。

 彼は特に何も宣言はしていないものの、城戸側の人間であると風間は想定していた。

 なぜならば、彼もまた近界民により甚大な被害を受けた者の一人だから。

 それ故に、意外だったのだ。

 この状況下において、玉狛の側に付くという事が。

 

「弓場ちゃんは加山が自分で頼み込んで引き入れた。そして、加山がここにいる事もアイツの意思だ。ーーアイツは本質的には本部長側の人間だよ。復讐よりも、三門市民の安全が優先だ。ただ……」

「ただ?」

「安全の為には、近界に滅んでもらわなければならないと考えているだけだよ、アイツは」

 

 ああ、成程ーーと風間は呟いた。

 合点がいった。

 

「アイツは感情では動かないよ。近界民であろうと、有用であれば仲間に引き入れる側の人間だよ」

「成程な」

「さて。ーーそろそろ時間稼ぎも飽きてきたでしょ、太刀川さん」

「ああ」

「じゃあ、ーー俺も早くあっちに行かなきゃいけないんでね。仕留めさせてもらうよ」

 風刃を起動すると同時。

 太刀川と風間もまた、トリガーを構える。

 三人の呼吸が丁度重なり合った瞬間ーー剣戟がけたたましく鳴り響いた。

 

 その様を。

 じぃ、と東春秋はスコープ上で見ていた。

 

 

「ーー加山君と弓場さんの位置は解ったから、はやく仕留めてね」

 不満気な菊地原の声が、通信を通して聞こえてくる。

 ーーまあ、あれは仕方がない。

 弓場という伏兵は恐らく東であっても予想外だったはずだ。あの状況であれば仕留められるのも無理はない。

 そう歌川は菊地原の声を解釈し、了解と呟いた。

「ーーさて」

 これからどうするべきか。

 現在、加山と弓場の位置は割れた。

 三輪隊がビーコン地帯の中に入り込み、そして嵐山隊の二人もまたそこに入り込んでいる。

 

「ーー加山君と弓場さんは、三輪隊の方に向かっているな」

 

 新たなビーコンを設置しながら、向かう動きがレーダー上に映し出されている。

 ならば。

 歌川は即座に、三輪隊の援護に向かう事を決めた。

 狙撃手の佐鳥の位置が割れていないのが気にかかるが、それでもこのビーコンの山の中探し出すのは骨が折れる。折角位置が判明した加山と弓場がまた紛れられると非常に厄介だ。

 

「ーー三輪先輩、すぐに援護に向かいます」

 そう通信を入れ、歌川は走り出した。

 

 

「ーー久しぶりです、三輪先輩」

 加山は。

 嵐山隊二人が到着する前に、三輪隊の元に辿り着いていた。

「……加山」

 三輪は、

 加山を前にして、怒りよりも当惑の表情を浮かべる。

 何故。

 何故ここにお前がいるのだ。

「お前も……近界民を庇うのか!」

「庇います。ーーそれが近界をぶっ潰す事に必要であれば」

 加山は、

 迷いなく、そう言った。

「隊員になる意思を固めて、そして迅さんが問題ないと判断している人物を、俺はボーダーの害になるとは思ってないです」

 だから。

「すみません」

 

 そう言うと。

 加山は地面に手を付け、エスクードを生やす。

 

 さあ。

 ここからは、乱戦だ。

 迅の報告では、あちら側には太刀川と風間。

 場所が割れていない狙撃手を除いてもーー出水・歌川が未だこの場に現れていない。

 いつかこちらに乱入してくるのだろう。

 だからこそ、この二人は早く倒す。

 

「ーーあの時のチーム戦以来だな加山。今度は負けねえぜ」

 そう勢い込んで米屋が向かえば、

「お前の相手はこっちだぜ米屋ァ!」

「おおっと!」

 エスクードを乗り越え襲いかかろうとする米屋を、弓場のアステロイドが制する。

 最速で到来する弾丸はエスクードすら貫き、米屋の脇腹を掠っていく。

 

 すかさず三輪が拳銃を弓場に向ける。

 三輪の拳銃は、A級特権を用いた特別製だ。

 そこから吐き出される弾丸は、黒く染まっている。

 

 鉛弾。

 その弾丸は、トリオン体に直接のダメージを与えることはできないが、当たればその部位にトリオンの重石を付けられる。

 それは、通常の弾丸と異なり、シールドをも透過する機能を持っている。

 

 だが。

 その弾道上に、エスクードが生える。

 

「……チッ」

 シールドではなくエスクードであるならば、鉛玉も防ぐことが出来る。

 鉛弾はエスクードと衝突すると、黒い重石か壁に突き刺さるようにして発生していく。

 

 そして。

 弓場を守るように次々と生え出るエスクードの背後にピタリと身を寄せ、弓場のアステロイドが三輪隊の二人に肉薄していく。

 エスクードの上を通れば、弓場の弾丸が襲いかかる。

 それを嫌って背後に向かうと、加山のハウンドが飛んでくる。

 

 ーー加山と弓場は、ここまで相性が良かったのか。

 弓場は、自身の適正距離の中であるならば、恐らく太刀川さえも超える能力がある。

 故に、その距離の外で仕留める必要がある駒なのだが。

 ーー弓場が戦える距離を、加山がコントロールしている。

 

 エスクードで相手の移動を制限していき、弓場が安全に距離を詰められるよう援護を行う。

 距離を取る動きをすればハウンドを放ち足止めをする。

 

「ーーそう簡単にはさせねえぞ」

 米屋は弓場の背後にあるエスクードを、旋空で切り裂く。

 その動きと連動し、三輪が米屋の背後に回り鉛弾を撃つ。

 その動きを見せると、弓場は付近に作られた別のエスクードに移動し、その動作をカバーするように加山がまたエスクードを生やす。

 

「ーーうめぇな」

 米屋が一連の動きに舌を巻くと同時、

 

「二人固まったなァ。ーー加山、行くぞ」

「アイアイサー、弓場さん」

 加山は、米屋と三輪が縦に固まった陣形から直線上にあるエスクードを、仕舞う。

 そして

 加山はーースコーピオンの代わりにセットしたアステロイド突撃銃を、二人に向ける。

「おいおいマジかよ」

 今まで見たことのない加山のトリガーに、思わず米屋がそう呟く。

「マジですよ。A級相手に俺の近接が通用するわけもないですし」

 そして。

 サイドに回り込んだ弓場。

 正面から加山。

 両者の弾幕が、三輪・米屋の両者に襲い掛かった。

 

 

 太刀川の二つの斬撃が迅の正面を襲うと同時。

 風間の鋭い一撃が、側面から襲いかかる。

 ーー風刃

 この黒トリガーは、迅との相性が凄まじい。

 斬撃を物体を通して伝播させる。

 この特性は、

「く……」

 迅の予知によって、敵が来る場所に斬撃を置くという選択肢を与える。

 これは、迅にしか出来ない芸当であろう。

 斬撃を仕込み、置き、その場に敵が来ればそれを執行する。

 風間が攻撃を行使し、近づいた壁から生え出る斬撃。

 それを風間は間一髪で避け、体勢を整える。

 その隙を、太刀川の旋空が塞ぐ。

 旋空で迅の足元を崩し、二刀で迅に斬りかかるーー踏み込みの先。斬撃が仕込まれている。

 

「ーーここだ」

 そう風間が合図を出すと同時。

 太刀川はその場を離れ、

 風間はカメレオンを発動し、迅の側面へ向かう。

 

「ーーむ」

 迅は。

 それとなく感じた。

 この行動によってーー太刀川、風間の両者は自身の視界から逃れた。

 

 ここでーー例えば、カメレオンで紛れた風間の方へ視線を移した瞬間に、何かが起こるのではないかと。

 そう、彼の副作用とは別の部分が言っている気がした。

 

 その瞬間、

 

「ーー成程、ね!」

 家屋を貫き。

 狙撃が走る。

「ーー東さんか!」

 

 東春秋のアイビスが、迅の眼前に迫る。

 迅の未来視。

 それは、眼前にある人間の未来を見る、という特性がある。

 それ故に。

 視界から逃れた人間の未来は見えなくなる。

 それまでの未来視で見た数々の分岐した、いわば未来のストックから判断を下すことは十分に可能である。だが、それでも、視界に誰もいなくなればその効力は幾分か弱まる。

 

 だから、このタイミングであった。

 視界に映る人間がいなくなる、その瞬間。

 東春秋は、更に建造物で射線が見切れる軌道上に、建造物ごと迅に向けアイビスでの狙撃を敢行する。

 当然、それを迅は避ける。

 破砕された建物と、アイビスによって砕かれたコンクリ面から巻き上がる粉塵。

 そこに紛れた太刀川の旋空。

 そして、カメレオンを壁裏で解除し、壁を切り裂き迅の死角側から迫る風間の刃。

 旋空を避け、風間の攻撃を風刃の斬撃で左手を斬り飛ばすことで押し留める。

 視界の外から繰り広げられる一連の攻撃にも、迅は完璧に対応する。恐らくーー初動で太刀川か風間に意識を持っていかれ、視線を追っていれば、東のアイビスへの反応が更に遅れ、この連携で仕留められていた可能性すらあった。

 だが。

 ここで。

 迅は足を止めてしまった。

 東のアイビスが、更に迅に向かっていく。

 これは、すぐに予知により回避動作に入るものの、

 止めた足を更に動かし。

 両サイドを太刀川の旋空と風間の視界外からの襲撃。

 ここで。

 迅は少しだけ、読み逃す。

 

「ーーお」

 風間の一閃が、迅の右足を削る。

 

 足の甲をざっくりと削ったその斬撃が行使された瞬間。

 風間の喉元に、斬撃が走る。

 

 恐らくはーーここで仕留められることが前提で、攻め込んだ一手だったのだろう。風間は特に動揺することもなく、緊急脱出した。

 

「それじゃあーー東さん。少しでいいので、迅の足止めを頼みます」

「ああ。了解」

 足が削れた迅の姿を確認すると、

「それじゃあ、迅! ーーあのビーコンの中の連中片付けてから、お前とはゆっくりやりあう事にする。じゃあな」

 足が削れた迅を一瞥し、太刀川は颯爽とグラスホッパーでの移動を開始する。

 ーー無論、太刀川としては迅と心ゆくままに戦いたいと思っている。

 だが。

 ここでーー足が削れた迅を孤立させ、ひとまず他の戦力を狩る方向にすぐに舵を取れることも、太刀川の強さだ。

 

「……」

 迅はダメ元で、東がいた方角を見る。

 視界に収めれば、もしくは位置が観測できれば、風刃で仕留めようと思ったのだ。

 だが。そこにはレーダーに映る、ビーコンの反応しか存在せず。

 

「やっぱり強敵だなぁ、東さん」

 そうボソリと呟き、それでもーー笑みは絶やさぬまま、一つ頷いた。


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