彼方のボーダーライン   作:丸米

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キャラ描写するたび解釈違いが怖くて仕方ない。何かあったらすみません。


予知と予測

迅悠一は思考する。

先程の攻防の中、迅は太刀川を仕留めることが出来ず東と共に味方のもとへ向かわせてしまった。

 

だが焦りはしない。

最善の未来を取り逃がしただけだ。

ここで太刀川を仕留め、逃げる東を連携して仕留められればそれが最善であったが。ここで着実に太刀川を生かす行動をとれる東は、やはり怪物だ。

だからこそ。

ここで必ず落とさなければならない。

 

「――木虎」

 

迅は迷わず彼女に通信を入れる。

 

 

「――はい、迅さん。どうしたんですか?」

木虎は、その頃――東が迅を追いビーコン区画から逃れた瞬間を見計らい、周囲の索敵を行っていた。

これは隊長である嵐山の指示である。

現在、敵勢には東を含む三名の狙撃手が身を潜めている。

 

東を除き、生存している狙撃手は当真勇と小寺章平。

東は迅の相手に向かった太刀川と風間のち援護を行なった後、生き残った太刀川の後を追うように、その場から消えた。

 

「木虎。あと佐鳥。お前らに頼みたいことがある」

「何ですか?」

「おお迅さん。頼みですか。何ですかこのツインスナイプで出来ることがあれば何でも――」

「東さん倒して」

 

両者の間に。

沈黙が走る。

 

「...本気ですか?」

「ああ。マジ」

「ええ...」

 

さしもの二人も、困惑の声を上げる。

東は――その狙撃能力も脅威であるが、何よりも彼自身の隠蔽能力の高さが何よりも脅威となっている。

彼は部隊が入り乱れるランク戦においてもそのほとんどを生存しており、倒した例もそのほとんどが隊同士が連携しての炙り出しを行ってようやく仕留められる――という、あまりにも傑出した生存能力の高さがある。A級隊員である木虎・佐鳥であれ、この任はあまりにも荷が勝ちすぎる。

 

「まあまあ待て待て。俺だって何も考えなしにそんな無茶ぶりをしているわけじゃないんだよ。――ここに、足が削れて移動が遅れているせいで若干孤立している実力派エリートがいるだろう」

「はあ」

「今から――俺が太刀川さんや風間さんとやりあったときに得た未来の情報を全部お前らに伝える。その情報を駆使しつつ、東さんを倒してくれ」

 

して。

迅は滔々と木虎達に話し始めた。

 

 

「――東さんが残しているビーコンはその大半が起動していない。今木虎が入っているビーコン地帯はそろそろ時間が切れて全部機能が停止する。これ、全部囮」

「――囮!?」

「うん。俺が見た未来の中で、木虎はこのビーコン地帯から外側に向かって行って、狙撃で落とされる光景が何度もあった。――ビーコン地帯にお前が入る。そしてそのビーコンは機能が停止する。で」

木虎の周囲で点滅するダミービーコンが機能が停止する。

それと同時。

そのビーコン地帯の四方に、更にビーコンが発動する。

レーダー上にいくつも点在するトリオン反応が、ぽつぽつと現れる。

それは――まるで木虎を取り囲むように。

 

「――いいか木虎。今新たに現れたビーコンに吸い寄せられたら、死ぬからな。絶対に近づくな」

「...」

「東さんと、多分当真辺りがスタンバイしていると思う。ビーコン周辺を索敵しようとそこに近づけば一撃ズドン」

 

うへぇ、と佐鳥が声を上げる。

 

「ダミービーコンで相手を呼び寄せて、それと同時に罠にも使うわけですか。うわぁ...」

「最初に仕掛けたビーコンは態勢の立て直しのため。そしてその索敵をする人間をさらに誘い込むため。そんで――更にその外周部分に仕掛けたビーコンで敵を釣り出して仕留めるため。東さんが俺を相手しに離れることまで全部戦略。東さんがいなくなれば、この地帯に木虎が来ることも全部把握したうえで、この罠を置いていた」

 

恐らく。

迅の未來予知なしでは、仕留められていただろう。

その事実に歯噛みしながら、木虎は迅の言葉を聞く。

 

「で、このビーコンなんだけど。――それさえ解っていれば、逆に東さんと潜んでいる狙撃手の居場所がある程度掴める」

そう言葉が放たれると同時。

オペレーターの綾辻からデータが転送される。

それは、現在発動しているビーコン周辺に射線を引ける場所、そして逆にその区画から射線が引けないルートを提示する。

射線が通る場所は非常に多く、そして逆にそこから逃れられるルートはあまりにも少ない。

 

「このルート内が、お前が動ける範囲内」

 

ビーコンの位置自体も、非常によく考えられている。その意図が看破されたとしても、あまりにも射線が通り過ぎるしあまりにも行動できる範囲が狭すぎる。ビーコンの存在だけで、木虎をその場に釘付けにすることすら成功している。

これが。

これが東春秋という、敵。

 

「だから、ここからは我慢勝負。これから佐鳥が、更に指定されたルートを通って、今綾辻が示した区画を索敵していくから、そこから木虎の行動範囲も広くなっていく。木虎は木虎の行動範囲で、佐鳥と連携して相手の釣り出しを行ってくれ」

「...解りました」

「お。やけに素直だな」

「――この狙いを読めなかった、私の失態ですから。当然指示には従います」

「読める奴なんてボーダーにいないよ」

「それでも、です」

 

そう木虎が悔しさに歯噛みする傍ら。

迅もまた、東という存在の厄介さを実感していた。

 

――多分、徹底して俺の視界に入らないようにしていたな、あの人。

 

東は恐らく初動から――迅が待ち伏せをしていることを想定し、彼の眼前に姿を現さぬよう部隊から離れていた。

そして、ビーコンを地帯を敷いたうえで、太刀川・風間の援護を行う時も――家屋を貫いてのアイビスを撃つ、というパターンに拘っていた。

 

恐らくは自身の姿を見せることで、東自身を視点者とした未来を見せないためであろう。

 

他の襲撃者から見える未来。

その未来すら恐らく彼は想定し、それすらもブラフにしたうえで――彼は行動している。

 

未来予知。

彼は――彼自身の知略と行動によって培った「予測」によってそれを本気で乗り越えようとしているのだと。

そう思えてしまう。

思えてしまうのだ。

あり得ないと思っていても。

なぜならば。

東春秋という人物が持つ戦術レベルは、誰もが未だ底を見ていないから。

 

まだ上をいくのではないか。

――迅の予知すらも彼の戦術レベルの範疇に収まっているのではないか、と。

 

そう思えてしまうだけの底知れなさが、東にはあるから。

 

 

弓場と加山の一斉掃射が放たれると同時。

 

そこに、硬いシールドが展開される。

 

「な」

それは前に出た米屋のシールドと重なり、広範かつ強硬度のシールドが展開されていた。

 

「――そう簡単にはいかねぇぜ工事屋」

 

そこには。

弾幕の前に両防御を張る、出水の姿があった。

 

「遅かったじゃねぇか弾バカ」

「仕留められそうになってんじゃねーよ槍バカ」

 

互いに憎まれ口を叩きながらも、米屋・三輪は態勢を立て直す。

 

「――それじゃあ、ここから第二ラウンドだぜ」

 

そう出水が宣言すると同時、出水の両手にトリオンキューブが生成される。

 

片手にアステロイド。

もう片手にハウンド。

 

アステロイドで残るエスクードを破砕しながら、その間からハウンドを放っていく。

 

それと連動して、三輪・米屋も動き出す。

 

「く...」

 

狙いははっきりしていた。

加山だ。

 

「――ここまでよく掻き回してくれたなぁ、加山。そろそろ消えてもらうぜぇ!」

「嫌ですぅ!」

 

米屋の軽口に、同じようにふざけた調子で返すものの。

出水の援護でエスクードという逃げ場を封じられ。

そして正面からマスタークラスの攻撃主。

弓場は、三輪の鉛玉との撃ち合いを行っている。

 

加山はレーダーをちらりと見る。

そしてすぐさま行動を開始した。

 

アサルトライフルを片手で乱射しながら、エスクードを使用する。

「悪あがきもいいところだぜ」

 

いいや。

悪あがきではない。

もしも――もしもこれからの動作の意図を汲んでくれれば、事態を好転できるかもしれないあがきだ。

 

エスクードが米屋に切り裂かれる。

それでも加山はエスクードを生やし続ける。

 

米屋の正面。

そして出水の視線を遮れるように、彼の斜め前に二つ。

 

「――無駄だぜ」

当然。

出水にはエスクードによる視線妨害など意味を持たない。

視線を遮るエスクードなど無視し、加山にハウンドを叩きこむ。

 

音を。

音を聞け。

この一瞬でいい。生き残れ。

米屋の一撃と。

出水のハウンド。

致命傷だけでもいい。避けろ。生き残れ。

 

出水のアステロイドで崩れかけたエスクードに飛び込み米屋の突きを腹部を貫かせるに留め、出水のハウンドを右腕を削らせるに留めさせる。

まさにあがき。

米屋の追撃を受ければ、もう倒されるという、そういう場面。

 

その瞬間。

 

「あ?」

米屋は。

その背後から、弾丸を受ける。

 

思わず背後を振り返ると。

そこには――嵐山隊、時枝充の姿があった。

 

そして。

「おいおい――マジかよ」

 

たった今ハウンドを放った出水の前方には、嵐山の姿があった。

 

それは。

 

「――よく意図を汲んでくれたっす、二人共」

 

加山が、出水の視線を封じるように生やしたエスクード。

その背後で――テレポートで現れた二人が、米屋と出水の二人に、銃口を向けていた。

 

「――ナイスフォローだ、加山君!」

 

そうして。

時枝が背後の米屋を後ろから撃ち。

そして嵐山が、エスクードの陰から弾丸を撃ち終わった出水に撃つ。

 

米屋が緊急脱出し、残される眼前の敵勢は二人。

 

そして――こちらは、四人となった。

 

「形勢は――また逆転ですぜ」

加山は死に体のままニコリと微笑んだ。

 

 

「...」

東春秋は。

この戦いを様々な意味で捉えていた。

 

――どういう風に事態が転ぶにせよ、一度派閥同士の争いは起こさなければならなかったのだ。

 

そう東は判断していた。

派閥があれば、そこに争いが生じる。

特に玉狛のような特殊な考えを持った派閥があるならば、尚更。

近界民がボーダーに入るかどうか、というこの状況であれば。

派閥間の熱を冷ますために、必要な戦いというものもある。

東は、この戦いをそう捉えていた。

 

そして。

彼にとっての試行と挑戦も、そこにある。

 

自分が、迅の予知を超えることが出来るか――という挑戦。

そして

自分を戦いに巻き込んだ――加山雄吾の実力を推し量るという試行。

 

今のところ。

挑戦は少し分が悪く。試行はある程度想定通りの結果が出ている。

 

「――さあ」

思考しよう。

思考しよう。

論拠を積み重ね出来上がった自身の盤面が、如何ほど通用するのか。

こんな機会だ。

十分に。試させてもらおう。

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