彼方のボーダーライン   作:丸米

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大規模侵攻⑥

 黒トリガーが爆撃に足を止める間に。

 加山はその周囲にエスクードを張る。

 

 張り方は。

 黒トリガーを中心に、四方均等に円を作るように。

 

 四枚。

 八枚。

 十二枚。

 十六枚。

 

 エスクードを、散らす。

 

 そして。

 

「──あァ?」

 黒トリガーの男が、首を傾げながらそんな声を出した。

 

 エスクードの後ろから、散発的にトリオン反応が増えていく。

 ダミービーコンだ。

 

 風間隊、そして二宮隊の攻撃手・銃手である辻新之助と犬飼澄晴に持たせ、バラまいたダミービーコン。

 偽装されたトリオン反応が、壁の後ろから生まれていく。

 

 さあ。

 どう出る黒トリガー。

 

 お前と、風間隊との交戦データを見た。

 

 そして、解った。

 お前は、兵士じゃない。

 ただの──快楽殺人者だ。

 

 

「──んな脆い壁幾つ作ったって、逃げられやしねぇんだぜ猿共!」

 

 黒トリガーという強大な武器の力に酔いしれ、

 敵対者を、ただの鏖殺対象としか見えていない。

 

 いわばこの男にとっての戦いとは。

 アリの巣穴を切り崩して遊ぶ、子供のお遊びの延長線上。

 

 だから。

 こちらの手札に対して、

 今眼前に示された、自分を囲う壁を見て。

 

 奴は間違いなく。

 破壊しにかかる。

 ダミービーコンごと潰しにかかるだろう。

 それ以外の方策を思いつかない、というよりかは。

 猿相手に、パワーを押し付ける以外の方策を取るまでもない、と言う所だろう。

 

「──壁に隠れてんだったら、壁ごとぶっ潰してやるぜ猿共ォ!」

 

 ありがたやありがたや。

 想定通りに動いてくれて、本当にありがたい

 

「氷見先輩。三上先輩。データ解析お願いします」

 

 ──エスクード相手に精々壁打ちしてろバーカ。

 

 濁流のようなトリオンブレードの波状攻撃により、次々と破壊されていくエスクード。

 それを見つつ。

 

「ああ?」

 加山の手元にある、メテオラキューブをそのブレードの中に投げ込む。

 ブレードに貫かれたキューブが爆撃によって爆発する。

 

 その上から。

 

「──またか、クソが!」

 

 二宮の合成弾が頭上に降りかかる。

 広域に散らばる爆撃に足を止めている間。

 またエスクードを生やす。

 

 そして。

 

 エスクードとダミービーコンの間を縫って、カメレオンでその身を隠した風間隊が黒トリガーを斬り裂く。

 

「外れか」

 

 風間・歌川・菊地原の連撃によって──その体内にあるトリオン供給機関のダミーを次々と叩き潰す。

 あの黒トリガーは、いわば。

 トリオンの変幻性を、究極に拡張させているモノなのだろう。

 

 気体・液体・個体それぞれに変化させる機能。

 そして。

 トリオンを用いて形成される物質を自在に作成できる機能を、あの黒トリガーは持っている。

 

 本来トリオン体という形を纏っているその身体を。流動化させて無限の再生性を得て。

 そのエネルギーの供給源である供給機関を、ダミーと流動するトリオン体を利用し巧みに隠す。

 

「あと本丸()()はどれくらいあります?」

「十個くらいだと思う」

 元々反応があったダミーに、オペレーターが分析をかける。

 新しく出来たダミーは無視をし、一つずつ潰しをかけていく。

 

 そして。

 エスクードにぶつけたトリオン反応も、また分析をかける。

 

 液体と気体。

 それぞれのトリオン反応を分けていきながら。

 

「──よぉーく解ったぜ猿共が」

 

 この状況。

 仕留めるべき者が誰なのか──エネドラも、ここで理解できた。

 

「そこのポッケに手ェ突っ込んでいる猿! テメェだァ!!」

 

 エスクードのその先にいる。

 合成弾を叩き込んでいる、その男。

 合成弾の弾道を辿り、その直線上にあるエスクードを砕きながら──二宮へ向け直進してくる。

 

「──はい。突っ込んできましたね。行くよ、辻ちゃん」

「了解」

 

 犬飼が加山に一つ合図を出すと同時。

 犬飼の背後にあったエスクードが消える。

 

 犬飼はまず、ハウンドを迂回させて全方位で叩いたのちにアステロイド突撃銃の弾雨をエネドラに叩き込む。

 

「そんな弾丸が効くと思うかこの猿が!」

「さっきから聞いているけど、語彙が貧困だねぇ。いけないよそれじゃあ。煽るんだったらもっと言葉数多くしなきゃ」

 

 せせら笑いながら、変わらず弾丸を引きながら撃つ。

 迫るブレードの山に手足が削られながらも、変わらず。

 

 犬飼に攻撃が向かう中。

 反対側にいた辻が、時間差でエネドラに斬りかかる。

 旋空でダミーを一つ斬り、そのまま連撃を加えようとして。

 

「ぐ.....!」

 

 気体化したトリオンを吸い込み、内側からブレードが発生する。

 

「はん馬鹿が」

 

 恐らくは挟撃をしながら足止めをするつもりだったのだろう。

 だが意味はない。

 黒トリガー、泥の王。

 このトリガーには、いくら囲もうとも対応できる能力がある。

 

「いい笑顔だねぇ」

 犬飼は。

 それでも笑みを浮かべて。

 

「置き土産」

 

 引きながら、向かった先に。

 

「メテオラ」

 

 千切れかけの足で、エスクードの影に仕込まれていたキューブを蹴り飛ばす。

 それがブレードに当たった瞬間、爆発する。

 その爆撃で犬飼は緊急脱出するが。

 

 煙が上がり。

 そして。

 爆発の余波で、──風下に向かって気体化したトリオンが、背後へと消えていく。

 

 空気化したならば。

 その分だけ、当然風の影響は受ける。

 

 そして。

 風上には。

 

「アステロイド」

 

 左手に、細かく何十も分割したキューブ。

 右手に、大きく四等分にしたキューブを持った二宮がいた。

 

 煙で相手の姿は見えず。

 そして風で気体化したトリオンが背後に流れていく中。

 

 二宮は──必殺のフルアタックを敢行する。

 

 抉るような大規模のアステロイドがその身を大きく削り。

 その後に発動される時間差の細かいアステロイド群がその身を細々と貫いていく。

 ダミーが、次々に割られる。

 

「があああ! テメェ!」

 

 弾雨が止むと同時。

 

 菊池原と歌川がカメレオンを解除しながら襲い掛かる。

 

「──何度も同じ手にかかるか!」

 

「く...」

 ブレードが両者を貫くと同時。

 

 その陰から。

 

「よう。──随分と斬りごたえがありそうじゃねぇか」

 

 太刀川慶が。

 貫かれた二人ごと、旋空を放つ。

 

 エネドラの身体を剣戟が幾重もなぞる。

 バキバキと砕かれていくダミーの音を聞きながら、エネドラは焦りの表情を浮かべながら太刀川にブレードを放っていく。

 

 が。

 

「──後は」

 また、その背後。

 そこには──風間蒼也が。

 

「すべて俺が、叩き斬る」

 スコーピオンを。

 エネドラの体内に、差し込む。

 

 

 生駒達人。

 彼は今までの出来事を、瞬時にまとめていた。

 

 ゴリラが襲来した。

 そのゴリラは、火力のあるゴリラであった。

 更に機動力と長射程すら兼ね備えたゴリラで、カタパルトの如き飽和射撃を可能とするゴリラであった。

 そして最終的に。

 ゴリラが空を飛んだ。

 

 まさか。

 近界にはあのようなゴリラが元気に軍備され、空を飛び跳ね爆撃を仕掛けているというのか。

 何なのだ。あれこそまさしく近界の黒いゴリラではないか。

 

「──何や、アレは」

 空も飛べて、射程も稼げて、火力で圧し潰す。

 更にゴリラだから近接攻撃もそれはそれは強いのだろう。

 

 まさに。

 まさにあれこそ

 

「あれこそ、完璧万能手ゴリラ.......!」

 完璧だ。

 完璧に戦いにシンクロナイズドされたゴリラだ。

「くだらない事言ってる暇があるならさっさと逃げろこのアホ!!」

 

 空飛ぶゴリラは天を駆け。

 宵闇に紛れ、低空を飛び回り、

 全てを焼き尽くす煉獄の弾丸を降り注いでいた。

 

「だが! それでも俺はゴリラに殺されたりせえへん! せやろ、隠岐──あれ。隠岐? おーい、隠岐?」

「すんませんイコさん」

 

 更に一つ流星のように。

 緊急脱出の光が、空を駆けていた。

 

「あの空からの砲撃でやられました」

 通信から無情にもそんな言葉が届けられる。

「そっか」

「はい」

「──生き残ってんの、俺だけかい」

 

 隠岐が緊急脱出すると。

 妙に冷静になれた。

 

 生駒は廃棄されたマンションの壁を斬り裂き中に入る。

 

「ふむん。中々にしぶとい。あの剣士」

 

 して。

 空飛ぶゴリラこと、ランバネインは──生駒の動きに一定の評価をしていた。

 あれだけの飽和射撃をされていたにもかかわらず、安易に建築物に逃げ込む選択をせず、自らの足で合流までの距離を稼ぐ。

 しっかり射線を切るルートを辿りつつも、味方の援護も計算に入れしっかりと逃走を行っていた。

 

 だが。

 もう後はあの男しか残っていない。

 

「──更に、二体」

 

 レーダーに映るトリオン反応に。

 ランバネインは更に射撃を加えていく。

 

「む」

 背中のカタパルトから面射撃を行使したが。

 

「──報告にあった、偽装トリオン反応か!」

 それに気づいた瞬間。

 ランバネインは即座にその意図に気付き──左手側にシールドを張る。

 

「ほう」

 

 想定通り。

 狙撃が飛んでくる。

 

「そこか」

 

 狙撃地点を割り出し、急降下。

 入り組んだ路地の中にあるビルディング内。そこから狙撃を敢行した男に狙いを定める。

 

「──ハウンドストーム!」

 

 路地に入り込んだ瞬間。

 三方向から、また更に現れる。

 

 それは──射手三人による、フルアタックハウンドの合わせ技であった。

 

 B級下位、間宮隊。

 彼等は隊員全員が射手という変わり種の隊であり──全員が連携してハウンドを放つ「ハウンドストーム」の火力に秀でたチームである。

 

「三人──更に、二人!」

 

 それらをシールドで防ぎつつも。

 更に両側面から拳銃を握った二人組がランバネインを撃つ。

 

「大量ではないか!」

 

 両腕。

 背中。

 

 その全ての砲撃を路地に向け、放つ。

 狭苦しい路地を、それを形成する建築物ごと破壊しつくす。

 爆撃の最中。

 間宮隊、茶野隊は等しくその身体を貫かれ──緊急脱出した。

 

「──成程。これは撒き餌か」

 撒き餌。

 先程の狙撃手が逃走する時間を稼ぐとともに、そしてこの場所に自らを誘い込むための。

 

「──いつの間にやら、兵に囲まれている」

 

 火力で破砕した路地で、開けたその地を囲むように。

 荒船隊をはじめとした狙撃手。

 

 そして。

 

「──弓場っち。気ぃつけぇや。あのゴリラ。ただのゴリラやあらへん。パーフェクトゴリラや」

「おい生駒ァ! さっきからゴリラゴリラうるせぇ!」

「空飛んで、砲撃上手くて、しかも機動力のあるゴリラや。気をつけるんやで」

「はん。近界の人型だろ。そりゃ厳ちい相手な訳だ。──おお。マジでゴリラじゃねぇか。帯島ァ」

「ッス」

「志願して捨て駒になってくれた間宮隊、茶野隊の仇を取るぞ。連携してあのゴリラ仕留める。お前と東隊が連携してあのゴリラを地上に抑え込んで」

 

 二丁が。

 両腕に、顕現する。

 

「──俺が、仕留める」

 

 さあ。

 ゴリラ狩りのお時間だ。




ウホ。
ウホホッホホッホホホッホ

深夜に見るゴリラの動画ってなんでこんなに心を癒してくれるんだろうね。
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