彼方のボーダーライン   作:丸米

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大規模侵攻⑧

「こ......この......」

 斬られる。

 斬られる。

 中にあるダミーが。

 新たに生成するダミーは無視され。

 斬り裂かれていく。

 

「この.....猿が! 猿共がァァァァァァ!」

 

 そして。

 

 本丸の供給機関が、カバーごと──叩き割られる。

 

「終わりだな」

 

 風間がそう呟く。

 眼前の黒トリガーの男はトリオン体の換装が解け、私服姿の男になる。

 

 その瞬間。

 加山は──警戒区域内に現れたもう一人の人型近界民が撃破された旨を、弓場から報告を受けた。

 その時の映像が、送信される。

 生駒達人の一撃により撃破されたその大柄な男は、──空間上に現れた黒の穴倉から脱出をした。

 その光景を見て。

 加山の判断は早かった。

 

「──おい、近付くんじゃねぇ猿が....」

「......」

「おい、何をするつもりだ.....」

 

 速やかにやらねばならない。

 速やかに。

 

「.....加山、何を」

 そう風間が呟くその瞬間。

 

「──そいつは貰っとく」

 

 黒トリガーはどうやら左手にくっついているらしい。

 引っぺがせるだろうか? 

 いや。

 時間が惜しい。

 迷わず。

 加山はスコーピオンを取り出す。

 

「あ........がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 そして。

 エネドラの左手を斬り落とす。

 斬り落とした左手から紐状の黒トリガーをひっぺがし、

 

「.....」

「すみません。後から報告してもらっても別にいいっす」

 その行動を顔色一つ変えず見つめていた風間に、ばつが悪そうに加山がそう呟く。

「いや──お前の行動は」

 風間が構え。

 その後に加山もまた構える。

 

「正しかった」

 

 直後。

 黒い穴が開くと同時に──刃が周辺から生え出る。

 

 風間と加山はその攻撃から飛びのくと。

 そこに──角付きの女が現れる。

 

「──本当に無能ね。負けるだけならばいざ知らず、黒トリガーまで奪われるなんて」

「......うるせぇ! 早く回収しやがれ.....!」

「......本当に。今の自分の立ち位置を理解していないのね」

 女はそう言うと、黒トリガーを握る加山にブレードを放っていく。

 加山はそれを避けながら、背後にある穴倉と女の間に、一つエスクードを挟み込む。

「──悪知恵がよく回るわね」

 そう女が呟くと同時。

 加山と二宮が同時にハウンドを放つ。

 それと同時、別方向に穴倉を作り、その中に潜り込む。

 

「──成程。これが報告にあった、ワープ使いか」

 二宮がそう呟くと。

 加山が握る黒トリガーに視線が映る。

 

「──この黒トリガー、誰が持っています?」

 今ので理解できた。

 この黒トリガーを持っていれば、取り戻さんと敵が寄ってくる。

 敵戦力が分散している状況の中。

 これを中心に敵戦力が集まってくる可能性があるという事だ。

 上手く使えば分散し、後手後手に回っている現状を変えられるかもしれない。

 それだけ──この黒トリガーは重要な代物なのだろう。

 

「取り敢えず俺に渡せ。近界民ホイホイだってんなら大歓迎だ」

「了解です。それじゃあ頼みます」

「恐らく人型近界民がこちらにくるかもしれない。複数で固まって動くぞ。──それでいいですか、風間さん」

「ああ。──そして」

 

 視線は。

 黒トリガー使いに移る。

 

「どうします、こいつ?」

「こんなのでも、貴重な情報源だ。本部に持って帰るぞ」

「了解っす。連れて帰るのは俺がいいですかね」

「ああ。もし同伴が厳しいようなら途中で捨てても構わない。連中が持ち帰るだけだろうからな」

「うっす。了解。それじゃあここからは二手に分かれますか。俺がこいつを本部に持ち帰る。そんで他の皆さんは黒トリガーを餌に、人型近界民をおびき寄せる」

「ああ。──今王子隊と香取隊がC級を本部内に逃がそうとしているが.....」

「合流、したほうがいいですかね」

「こいつを同伴しながらの単独行動は危険だろう。それが望ましい」

「了解です」

 

 その人型近界民は。

 がたがたと震えながら、ぶつぶつと何事かを呟いていた。

 

「──あの野郎.....! 俺を、この俺を、見捨てやがった.....!」

 切断された左腕の痛みに悶えながら。

 それでも吐き散らすは──自らを回収しなかった仲間への呪詛の言葉。

 

 その様を見て。

 加山は、笑った。

 

 これは──上手く使えばいい情報源になるかもしれない。

 

 そう思って。

 

 

「ヒュース殿」

「はい」

「少々面倒な事になりました。──泥の王が回収されたと報告が上がりました」

「......それは、不味いですね」

 本国でも数えるほどにしかない、黒トリガー。

 それが奪われた。

 

 それは──遠征で得られるこの雛鳥共ではとても替えが効かない損失だ。

 

「恐らくランバネイン殿を脱出させた事がすぐさま伝わったのでしょう。エネドラ殿を仕留めた後、脱出される前に黒トリガーを回収したのでしょうな」

「どう致しますか」

「指示が出ました。──私が泥の王の回収に向かいます。ヒュース殿はこの場を頼みます」

「.....了解です。逃走する金の雛鳥の対処はどう致しますか」

「──ハイレイン殿が、出撃なさるとの事です」

「成程.....了解です」

「さて。それでは我々も我々の仕事を致しましょうか」

 

 

「さぁて。動けるか?」

「ざけんじゃねぇぞ猿! 汚い手で俺に触るんじゃねェ!」

「別にいいんだけどさ。──ここで放置されたら、お前は死ぬぞ」

 溢れる新型の山。

 そして──先程のワープ女。

 ここで一人残されて、生き残る術はないであろう。

 

 現在加山は二宮・風間・太刀川と離れ──逃走する王子隊・香取隊との合流を目指している。

 彼等の行く先も本部。こちらも本部。合流するのならば、ここがいいと判断をした結果であった。

 

「アンタの命はもう保障されてないんだぜ。味方は今の所俺だけだ。仲間に回収される自信があるならそこにいなよ」

「......」

 奥歯が派手になる音が、男から聞こえてくる。

 

「安心しな。アンタだって貴重な情報源だ。──きっちり本部に送ってやるよ。猿の国に置いてかれようが、死ぬよりゃマシだろう?」

「チッ......!」

「それじゃあ──走るから、さっさと行くぞ」

 

 ニコニコと笑んで。

 加山はそう言った。

 その笑みに──エネドラは何故か、うすら寒いものを感じた。

 

「何を、笑ってやがる....」

「そりゃあ笑っちまうぜ。──四年前、俺達はお前らに攻め込まれて何も出来なかった」

「......」

「だが今はどうだ。黒トリガーも手に入れ、お前という情報源も手に入れることが出来た。まあ、もしかしたらお前の切り捨ては想定通りだったかもしれないけど。黒トリガーを奪われることまでは流石に想定外だろう。──俺は、お前らの世界を滅ぼす為に、今まで必死に生きて来た」

「.....世界を、滅ぼすだぁ?」

「ああ」

 

 その答えに。

 迷いは微塵もなかった。

 それを聞き──

 

「く......あっはっはっはっは!」

 

 エネドラは。

 笑った。

 

「おい。チビ猿。──それは本気か」

「ああ」

「そうか。──だったらよ。俺を最後まで守り切ってみやがれ。そうすりゃよ。お前にとっておきの情報を教えてやる」

 

 へぇ、と加山が呟く。

 

「いいのか? 俺、お前の左手斬り落としたわけだけど」

「死ぬほどムカつくが──それよりも、あの連中の方がよっぽどムカつく。絶対にぶっ殺してやる。その為だったら、何でもしてやる」

 

 エネドラは。

 その眼に様々な感情が浮かんでいるように見えた。

 痛みに耐えるような様子も見えるし、憎悪に焼かれているようにも見えるし、血を吐くほどの悔恨を抱えているように燃える。

 

「よっしゃ。──だったら、さっさと行くぜ」

 

 加山はエネドラを肩に抱えると──その場から走り出した。

 

 

 アフトクラトル側の陣営は。

 現在複数のミッションが増える事となった。

 

 ①雛鳥&金の雛鳥の回収

 

 以外にも。

 ②泥の王の回収

 ③エネドラの口封じ。

 

 という三つのミッションが。

 

「......」

 

 優先順位は②→①→③だ。

 

 現在十分な雛鳥を確保できた。

 トリオンを持つ人間の確保、という意味では十分な戦果を挙げられた。

 

 それよりも重要なのは黒トリガーが奪われた、という事実だ。

 

 現在アフトクラトルに13本あるうちの一つ。

 この程度の任務で奪われてもいいものではない。

 

 

「──まずは、泥の王を回収する」

 そうハイレインは方針を出した。

 

 

「──いい未来に向かっているね。太刀川さん達が敵の黒トリガーを奪うことが出来たみたいだ」

 迅悠一はそう呟きながら、新型を一機片付けた。

 

「そうなの」

 と。

 空閑遊真は、迅と共に新型を破砕しながら尋ねる。

 

「これで──千佳ちゃんを攫うための敵さんのリソースが分散された。その分、最悪の未来の可能性は大分減ってくれた」

 

 空閑遊真は修と別れた後に、米屋・出水と別れ警戒区域内に来ていた迅悠一と合流し、共に東部地区で新型の排除を行っていた。

 その中。

 人型近界民と黒トリガーを一体ずつ倒したという報告。

 

「これから太刀川さん達がこの辺りに来るから、俺は待っていることにする。で、遊真」

「うん」

「修と千佳ちゃんを守ってやってくれ。──あっちにも、ヤバい黒トリガーが出るっぽいから」

「......了解」

「今の所──さっきまではメガネ君が死ぬ可能性があったけど」

「けど?」

「今はどちらかというと──加山が死ぬ可能性が、割とあるな」

 

 そう。

 迅は呟いた。

 

「──カヤマ、って....」

「お前を玉狛に入れるために骨を折ってくれた人の一人だな」

「.....オサムが無茶をする可能性があるのは、何となく理解できている。でも、そのカヤマって人が無茶をする理由って.....」

「ある。──アイツは多分、自分の命か他の命かで秤をかけたら、間違いなく他人を選ぶ。だから危うい」

 

「ちなみに。──それは最悪の未来?」

「実の所。──メガネ君が死んだり千佳ちゃんが攫われたり、市民が殺されたりする事態より幾分マシな未来だ」

「.....」

 

 だからだ、と迅は呟く。

 

「それをアイツも重々に承知している。自分一人死ぬことは、この先の未来に大して影響がないって事を理解している。だから自分の命を割と平気で捨てられる」

 

 という訳で、と迅は言うと。

 

「頼んだ」

「了解。──そのカヤマって人にも借りがあるからな。死なせないように頑張るよ」

 

 遊真はそれだけ言うと、黒トリガーの高機動をもってその場を離れていった。

 

「.....」

 迅はジッと──見えた未来を振り返る。

 

 その中で。

 

「──一番ヤバいのが、ここに来るみたいだね」

 

 どの未来にも自らの眼前に現れていた──老兵の姿を思い浮かべていた。




久々におじいちゃんを書ける。
幸せ。

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