彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦ROUND1 ②

 ──奇しくも、玉狛第二の戦術もまた弓場隊と同じものだった。

 序盤に茶野隊・吉里隊の二隊から取れるだけ点を取り、その後に弓場隊と対面する。

 

 だからこそ、今は弓場隊ではなく他の二隊を追う。

 

 現在のこの戦いは。

 ──弓場隊と玉狛第二との点取り合戦だ。

 現在玉狛第二の各員の位置は。

 修が東北側、千佳が西側、遊真が西南から西へと駆け上がっている。

「──オサム。多分あのレーダーの反応二つは、残る一人と合流を目指していると思うんだけど。二人と一人。どっちを仕留める?」

「二人だ。──多分他の部隊も狩り出しに動いていると思うから、横槍に気を付けろ。──そして、千佳」

「うん」

「お前は加山君が有利地形を作り出したときに、それを崩す役割だ。──指示をするから、そこにアイビスを叩き込んでくれ」

「.....うん、解った」

「僕は──東側で、茶野隊の待ち伏せをする」

 修は東側で合流に向かっている茶野隊を認識しながらも。

 放置していた。

 なぜなら。

 

「....」

 合流に向かう、茶野の道すがら。

 弓場拓磨が先回りしている。

 きっと合流は叶わない。

 ならば。

 ──こちらも最大の準備を行い、待ち伏せを行う。

 三雲修は、

 一つ息を吐いた。

 

 

「──帯島」

「はい。どうしました加山先輩」

「俺達と空閑の狙いは同じだ。──多分、吉里隊かね。あの連中を狩ろうとしている」

 加山は。

 この部隊に入るうえで幾つか役割を振られている。

 その内の一つが、帯島の教導役だ。

 だからこそ、こうして余裕があるうちに帯島に尋ねる。

 

「どうする? 緑川相手に勝ち越せる攻撃手が同一方向に向かっている。このままただ同じ方向に向かうか?」

「.....そうしたら、点は取れるかもしれないですけど、空閑先輩と鉢合わせる事になるッス。そして、玉狛にも狙撃手がいる。交戦時に狙われる可能性もある」

「だな。──俺達の最終的な目標は、玉狛第二と最終局面でぶつかり合って勝つ事だ。今鉢合うのは得策じゃない。ならば、どうする?」

「......せめて、玉狛側の狙撃手の位置を明らかにしておきたいッス。それさえ出来ていれば、鉢合わせても加山先輩は逃げる事が出来る」

 成程、と加山は呟く。

 

「狙撃手の位置を把握する。これはいい。──だがな、帯島。もうちょい欲張ろう。今空閑は外岡先輩が張り付いている」

「はい」

「俺の事は心配せんでいい。外岡先輩と連携すれば足止めは出来る。──それよりも、帯島。お前は玉狛の狙撃手の位置が判明したら、真っ先に狩りに行け」

「....ッス」

「玉狛とぶつかり合いたくはないが、いざ終盤になってあのバケモンレベルのトリオンで攻撃されても厄介だ。トリガー構成次第で、最悪戦いにすらならないかもしれない。──どんなトリガー構成にしているか解らんが多分アイビスは持っているだろうし。俺の戦術を組み込むうえでも邪魔な事この上ない」

 

 この前までC級だった子だ。技量的に飛び抜けたものはないのだろう。

 だが、──あの砲撃でこちらがせっせと仕込んだ罠が焦土にされたらたまったものではない。

 

「という訳で。俺達が狙うのは今レーダーに反応があるあの二人。先回りして分断して足を止めておくぞ。そんで、空閑を釣る」

「了解!」

「俺は幾つかビーコンを仕込みながら行くから、先行してくれ」

 

 

 吉里隊、吉里雄一郎と北添秀高は合流地点までの道をひた走っていた。

 ──今回、弓場隊がいる。

 昨期まで上位をキープしていた彼等が、一名メンバーを交代して。

 その交代したメンバーも、大規模侵攻で特級戦功を挙げている人物だ。

 

 ──合流しなければ、勝負の土俵にも乗れない。

 

 それが解っているからこそ、急ぐ。

 だが。

 

「.....エスクード!」

 

 その道の途上。

 住宅街裏手の路地を

 進行方向には幾つものエスクードが道を塞ぎ、最短距離のルートが潰されていた。

 

 ──敵が先回りしているのか。

 

 そう吉里が思考を回した、その瞬間。

 現在地点より四十メートル程東側の地点で、レーダーに一つ反応が現れ。

 その地点から、

 

「──ハウンド!」

 

 頭上から、ハウンドが飛んでくる。

 

 すぐさまバッグワームを解除しシールドを展開するものの。

 ──重い。

 

 一撃防げばシールドが軋みだし、二つ目からヒビが割れ、三つ受けると破損が始まる。

 そのまま脇道へ避難し、弾雨が収まるを待つ。

 共に動いていた北添は、逆の路地に入り込み別の場所に避難をしているようだ。

 

 オペレーターから情報が送られてくる。

 ハウンドの発生地にある建造物は縦長三階建ての屋敷で、叩き割られた窓枠から放たれたものであるらしい。

 レーダー上には、今もまだトリオン反応が浮かび。

 そして──屋敷の周囲をエスクードで固めていた。

 

 ──あそこで籠城しながら、見つけ次第ハウンドをぶっぱなすつもりか。

 

 弓場隊の新規メンバーである加山雄吾。

 彼はエスクードを使用しての待ち伏せの戦術を個人ランク戦においても非常に多用していると。

 

 ──恐らく、あそこにいるのは加山だろう。

 

 次なるハウンドの放射を恐れ。

 吉里はその場を動けずにいた。

 それこそが──加山と帯島の狙いであるとも気付かず。

 

 

「......千佳。そのトリオン反応はダミービーコンだ。撃たなくていい」

 

 そして。

 玉狛第二もまた吉里隊を狙い、空閑を向かわせていたが。

 先に仕掛けた弓場隊の加山のハウンド。その発射地点である屋敷を見て、修は確信を覚えた。

 アレは違う。

 あそこに加山はいない。

 

「──あの中の反応、ダミービーコンって奴か。ふむん、だが周囲でエスクードも作っているみたいだけど」

「エスクードは、離れた場所からでも作れる。──多分千佳の砲撃を誘うための撒き餌だ。加山は一発ハウンドを撃って、別の区画に移動している。それでもあの屋敷に籠城していると見せかけるために、周囲にエスクードを移動先から作っている」

 

「.....成程ね。中々曲者だね、カヤマ」

 その戦術を、三雲修は知っている。

 大規模侵攻の最中において、彼は幾度となくダミービーコンを使用しトリオン兵の誘導を行っていた。

 今回もそうだ。

 籠城している相手に対しては、千佳の砲撃で炙り出したくなる。その心理を利用し、籠城のハリボテを即興で作り──千佳の砲撃を誘い出していた。

 

「空閑は変わらず吉里隊を狙ってくれ」

「了解」

 

 

「流石にあれじゃあ動かないか。──まあでもいいや。まだまだやり口はある」

 

 加山は。

 修の予想通り、一発ハウンドを撃った後にダミービーコン一つを置いて、屋敷から逃れていた。

 

「──こちら帯島。空閑先輩が見えました。吉里隊の北添先輩を狙っているようです」

「了解。それじゃあビーコンの発動と同時にハウンド降らすから。それまで距離を取っててな。俺もじきにそっちに着くから」

 

 戦術は。

 いくらでもつぎ込めばいい。

 仕掛ける側と仕掛けられる側。

 仕掛ける側にいるうちは、幾らでも手を打てる。次の手、次の手、と。順繰りに仕掛けていけばいい。

 

「藤丸さん。──ダミービーコンの起動、よろしくお願いします」

 

 加山は。

 現在、吉里隊が立ち往生している路地の隣地区の建物内に潜んでいた。

 

 その周囲を。

 

 ──大量のダミービーコンによるトリオン反応が発生し、そしてその周囲をエスクードで囲んでいく。

 

「さあて──」

 

 御膳立ては済んだ。

 撃ってこい──雨取千佳。

 

 

「──相変わらずだな。加山の戦い方」

 にこやかに笑みを浮かべて。

 そう米屋は呟いた。

 

「籠城していると見せかけて、ダミービーコン。あの動きで吉里隊の二人を釘付けにしている」

「その上で。あの雨取という隊員は出鱈目なトリオン出力を持ってる。多分アイビスを撃たせてさっさと居場所を割ろうとしていたんじゃないかな」

「その方針は今も変わっていないな。ビーコン地帯を作って、周囲にエスクードまで作って。──お」

 

 加山は。

 エスクードを路地に撒いていくと、その背後に──メテオラと、スパイダーまで手早く仕込んでいく。

 

「あの野郎。スパイダーまでセットしていたのか」

「エスクードで影を作って、黒色のスパイダーを......地味に嫌らしい」

「まあ、よく見りゃスパイダーの仕込みは解るけど。けど引っかかれば一発ドカンだ。意識せざるを得ないだろうな」

 路地を塞ぐエスクード。

 その間を張り巡らすスパイダーと、それに繋がれたメテオラキューブ。

 エスクードは邪魔だが。

 下手に破壊するとスパイダーが切れるか引っかかりつながれたキューブが爆発し相手にダメージを与える。

 破壊されようが、されまいが。敵に不利益を押し付ける地帯を着々と形成していく。

 

「──加山隊員。ここでダミービーコン地帯に入り込みながら、キューブを形成します」

 ダミービーコン地帯で自身の居所を隠しながら。

 加山は左手と右手の双方に、キューブを形成する。

 

 丁度。

 空閑が吉里隊に追いつき──北添に襲い掛かる瞬間であった。

 

 

 加山は。

 アステロイドとハウンドを同時展開する。

 

 そして。

 

 建造物の奥に位置する吉里に向け、ハウンドを降らす。

 

 頭上から降る弾雨で、路地から追い出し。

 ──アステロイドの射線に誘い込む。

 アステロイドは、六分割。

 非常に大きな、弾体であった。

 

 アステロイドが放たれ。

 吉里は咄嗟にシールドを張るものの。大きく分割されたアステロイドに圧し潰されるように緊急脱出をした。

 

「さあて」

 

 加山は自らの位置を晒した。

 そしてこの場所は。

 

 ──たった今、北添の首を刈り取っている空閑遊真も射程内だ。

 

「──千佳! 撃て!」

 

 そして。

 ──空閑遊真を守らんと、雨取千佳の砲撃が放たれる。

 

 加山が作成しているダミービーコン地帯に向け。

 

 その砲撃は。

 加山がエスクードと共に設置していたメテオラの置き弾をも巻き込み。

 ダムダム弾が叩き落されたかの如き大爆発を、引き起こした。

 

 路地をその衝撃で建物ごと吹き飛ばし、

 煙が大きく立ち昇る。

 

 

「──これは、マジで粉々になる所だった」

 加山は目を開き、その衝撃に戦慄を覚えていた。

 それでも──爆炎が来る直前にエスクードを配置し、自らは固定シールドを張りやり過ごした。

 そうして衝撃が去ると同時に──加山は即座に走り出した。

 

「──餌も撒いておかねぇとな」

 

 さあ。

 ここからは持久戦だ。

 これで雨取千佳の居場所は割れた。

 それを帯島が狩りに行く間──遊真の足止めをしなければならない。

 

 爆炎に紛れて、一つだけダミービーコンを配置し──バッグワームを着込み、加山は即座に走り出した。

 

 

 煙の中。

 トリオン反応のある地点に向かい、遊真が向かう。

 刃を構え、襲い掛かったその先には、

 

 ......壊れかけのエスクードの背後に設置されたダミービーコンだった。

 

「──釣りか」

 その頭上に。

 降り注ぐハウンド。

 

 遊真はグラスホッパーを起動し、爆発で完全に崩壊した地帯に向けて高速移動。ハウンドの追尾を振り切る。

 

「──遊真君! 千佳ちゃんの所に、帯島ちゃんが向かっている!」

 

 オペレーターの宇佐美栞からの報告。

 カバーしに行こうと──そう思った瞬間には。

 遊真の侵攻ルートを先回るように、エスクードが道を塞いでいく。

 

「──行かせねぇよ」

 

 そして。

 加山がハウンドを構え、少し離れた路上にいた。

 

 エスクードを嫌い空中から移動しようとすれば、ハウンドを差し向ける予定なのだろう。

 成程。

 ──最初から、この図式を作り出す為に行動していたのか。

 吉里隊の二人を足止めし。

 遊真をおびき寄せ。

 おびき寄せると同時に千佳の居場所を割らせ。

 ──そしてここで遊真を足止めし、千佳を孤立させる為。

 

 この絵図を──加山が作り出していた。

 

「.....」

 地上のルートは塞がれ。

 空中のルートは加山のハウンドが抑止力となる。

 足止めは──確かに成功していた。

 

「.....カヤマを倒さない限り、どうやら俺はここから動けないらしい」

 

 遊真もまた。

 構えた。

 

「──ちゃっちゃと片付けさせてもらうよ」

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