彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦ROUND1 ③

 茶野隊、隊長茶野真は。

 

 弓場拓磨と対峙していた。

 

「──ご苦労さん」

 

 茶野は拳銃を構えんと、腕を振り上げる。

 その瞬間には──弓場の銃口は茶野に向けられていた。

 

 最早その動きを目に追う事すらできず。

 茶野は緊急脱出した。

 

 

「.....隊長! 畜生.....!」

 

 東側のレーダー反応は。

 弓場拓磨だった。

 ──二丁拳銃を扱う、トップガンナーの一人。

 

 藤沢樹は、すぐさまその場から逃れていた。

 勝てない。

 勝てるわけがない。

 

 同じ得物を持つ人間として──まさしく最高峰ともいえるボーダー隊員が。

 何故か下位にいる。

 

 最短ルートを引き。

 ひた走る。

 とにかく──逃げなければ。

 

「.....あ」

 

 逃げる地点から。

 襲撃が入る。

 レイガストを構え、スラスターを起動する。

 

 藤沢は発砲の隙すら与えられず。

 壁際に叩き付けられ、レイガストに抑え込まれ──。

 

「......く」

 そして。

 その足元に散らばる──アステロイドの弾丸。

 

 それが斜め上の軌道で藤沢の全身を貫く。

 

 そして、

 

「が....」

 

 第二射の、速度も射程もゼロのアステロイドが、修の掌に生成され。

 それを更に押し付けられる。

 脇腹に押し付けられたそれは、藤沢の上半身を千切り取るように爆裂し、──緊急脱出する。

 

 これで、二点──。

 

「──ほぉ。やるじゃねぇか」

 

 だが。

 その背後から迫る男が、修を視界に収めてしまった。

 

「.....」

「得物の横取りとは、頭がよーく回るじゃねぇか。悪くねぇ。──逃げ切れるものなら逃げ切ってみろ」

 

 拳銃から放たれるアステロイドを。

 修はレイガストを構え、防ぐ。

 

 が。

 

 ──三雲修のトリオンは、悲しいほどに脆弱であった。

 射程を削り威力と弾速に振った弓場のアステロイドを防げるだけの硬さを、生み出せなかった。

 レイガストは吹き飛び。

 構えた腕も共に吹き飛ぶ。

 

「.....」

 

 ガン、ガン、ガン。

 

 息も吐けぬほどの三連射。

 それをその身に受け──三雲修もまた、緊急脱出した。

 

 

「──遊真君。修君がやられた」

「そっか──了解」

 

 ここまでも、想定内だ。

 修はあの地点──茶野隊と弓場がいるあの区画に転送された時から、一点を取る事を最優先の行動を取る事となった。

 

 だが。

 

 放たれるハウンドの弾雨を避けながら。

 遊真は加山を追う。

 

 その動きに対して、加山は逃走を図る。

 

 ハウンドで誘導した区画をエスクードで塞ぎながら。

 その上でハウンドを頭上から降らしながら。

 

 逃げる。

 とにかく逃げる。

 

 逃げれば逃げる程。

 遊真が加山を追えば追うほど。

 

 遊真と千佳の相対距離が広がっていく。

 逃げれば逃げる程、加山は時間を稼ぐことが出来る。

 

 そして──

 

「.....逃げた先には、あの早撃ちの隊長がいるのか」

 

 加山が逃げるその先には。

 合流の為に突っ走っている弓場がいる。

 逃げ、時間を稼ぎ、最終的には弓場と連動して仕留める。

 

「仕方がない」

 ここは。

 多少のダメージは覚悟の上で──加山を叩くしかない。

 

 遊真は。

 エスクードを飛び越え、空中から加山を追っていく。

 

 防ぐ障害物のないハウンドをシールドで防ぎ、防ぎきれない分でダメージが加わる。

 それでも遊真は空中へ赴く。

 

「......外岡先輩。空閑が空中に出ました」

 

 そして。

 ハウンドが収まり、加山に肉薄せんとグラスホッパーを発動しそこに足をかけんとした。

 その瞬間。

 

 ──足が、グラスホッパーごと吹き飛んだ。

 その弾丸の先には。

 前髪を跳ね上げた少年が、イーグレットを構える姿がある。

 

「....!」

 

 遊真は即座に上方向にグラスホッパーを新たに生成し、空中から地面へと逃れる。

 

「──ナイスです、外岡先輩」

 

 外岡一斗は。

 隠密行動に長けた狙撃手だ。

 隊にとって最も障害となりえる人物に焦点を絞り、追跡させ──最も効果的な一発目を当てさせる。

 彼に与えられた役割は──空閑遊真の追跡であった。

 そして。

 ──障害物のない空中に身を乗り出した瞬間に、撃つように加山から指示を受けていた。

 

「──おし。これで十分に時間は稼げたでしょ。外岡先輩、どうします? 緊急脱出してもいいですよ。多分、すぐに空閑が来ると思うので」

「うーん。──初戦だし、今回は失点よりも経験を優先した方がいいと思う。空閑君相手に、出来るだけ逃走してみるよ。出来ればでいいんだけど、今からマーカーしている地点にエスクードを生やしておいてもらっていい?」

「了解です。──すみません、ビーコン撒いてりゃもうちょい逃走もしやすかっただろうに」

「ううん。大丈夫。──それじゃあ頑張ってね」

 

 さあて。

 残るは、吉里隊の月見と、玉狛の空閑と雨取が残されるのみ。

 空閑は弓場と組んで万全の体制で迎え撃つとして。

 

 ──雨取さんを追っている帯島の具合はどうかな? 

 そちらの方向を藤丸から転送してもらうと。

 見るも無残な瓦礫の残骸が吹き荒れる中。

 千佳に肉薄せんと走っていく帯島の姿があった。

 

 

 ──まさか、ハウンドなんてトリガーを積んでいるなんて。

 

 帯島は──現在直面している現状に、顔を顰めた。

 雨取千佳は、こちらに近付いてくる帯島を視認すると、すぐさまにトリガーをハウンドに切り替え、こちらに撃ち放ってきた。

 その威力は最早戦略兵器であった。

 通常よりも大きく上回るトリオンを持つ加山のハウンドすらも比肩にならないほどの威力と射程を内包したそれは、帯島が隠れる障害物を次々と破壊していく。

 

 だが。

 おかしい。

 

 あれほどの射程。あれほどの破壊力があるのに。

 

 何故まだ自分は生き残っているのか。

 

 ──障害物を盾にして生き残っているが。

 その障害物が無くなりいざ倒せるぞ、という段階になると彼女はその場を逃げ出しているのだ。

 

 何故? 

 何故だろう? 

 

 ──もしかすると。

 

 帯島は一つの結論を、頭の中に浮かべていた。

 

 ──雨取さんは、人を撃てないのか? 

 

「帯島。すんごい破壊音が聞こえてきているんだけど、大丈夫か?」

 加山の声が聞こえてくる。

「はい。大丈夫です」

「すまない。まさかハウンドを積んでいるとは.....。お前一人に向かわせたのは俺の判断ミスだ。ここから援護に向かう」

「加山先輩。──大丈夫ッス」

「強がりはいいんだぞ」

「強がりじゃないッス。──今解りました。雨取さんは、人を撃てない」

 

 ほぅ、と。

 加山は呟いた。

 

「そうなのか。──確か、あの子近界民に対しては割と容赦なく撃っていた気がするんだけどな」

 加山の脳裏には、大規模侵攻時の記憶が蘇る。

 あの時.....確か、ばこばこ大砲撃ってたし、加山と臨時接続を行いハウンドをぶっ放していた。

 

「まあ、いいや。了解した。お前の判断を信じる。雨取さんの対処は任せるわ。俺はこれから隊長と連携して空閑を仕留めにかかるんでよろしく」

 了解ッス、という一声と共に。

 また帯島は走り出した。

 

 

 その時だった。

 

「......な」

 

 雨取千佳が逃走した新たな地区。

 そこは大きなマンションが一棟ある住居区画であった。

 その中に帯島が入った瞬間だ。

 

 あまりにも巨大なキューブを、分割なしに彼女は放り投げた。

 

 地面に接地し、爆撃が鳴り響くと同時。

 

 細々とした住居と──マンションが、まとめて吹き飛ばされ、倒壊した。

 

「......!」

 

 倒れ込むマンションの下敷きにならぬように。

 必死に避けると同時。

 

 ──雨取千佳、緊急脱出。

 

 帯島から60メートル範囲外にまで逃走が出来たのだろう。

 そのまま自主的に緊急脱出した。

 

「.......」

 仕留めきれなかった悔しさに、帯島は奥歯を噛み締めていた。

 

 

「──雨取さん、自主的に緊急脱出したのね。いや、OK。これでもうあの鬱陶しい爆撃が無くなるわけだ」

 

 自主的に千佳が緊急脱出したことを受け。

 弓場隊の動きも、残された空閑の動きも大きく変わる。

 空閑は千佳を援護する必要がなくなり、即座に外岡の狩り出しに向かう。

 加山は路地を封鎖する

「あんだけ出鱈目な兵器を持ってりゃあ、帯島一人狩れたはずだ。なのに出来なかった。──帯島の推測は、正しかったんだな」

 

 まあ、いい。

 今の所弓場隊は、加山が1点。弓場が2点。総計3点。

 

「──もうちょい稼がねぇとな」

 

 エスクードを敷き。

 スパイダーとメテオラも仕込み。

 

 着々と、弓場を迎え入れ、遊真を迎え撃つ準備を進める。

 

「.....おかえり、隊長」

「おう」

 

 東側を片付けてきた弓場と、加山が合流する。

 

「おゥ、トノ。ふんばれよ。お前が粘った時間だけ、路地の封鎖が出来るからな」

「了解.....っと! はっや....!」

 そう声を残し。

 外岡は緊急脱出した。

 

「──これで玉狛も3点ですね」

 

「おう。──まあ、関係ねぇ。空閑を討って、ついでにバグワで隠れてる吉里隊の残りを炙り出して、生存点含めてこっちは7点だ」

「ですね。──ちゃちゃっと、点を稼いじゃいましょう」

 

 

 空閑遊真が外岡を狩った瞬間。

 その周囲にあった路地が一斉にエスクードで乱立していく。

 

 そして。

 天からは変わらずハウンドが降り注ぐ。

 

「......足が削れたのが、中々キツイ」

 

 遊真は。

 破壊された足を、スコーピオンで補強し歩行を行っている。

 

 変幻自在のスコーピオンの性質を利用し即興の義足を作っているものの──これを行っている間、遊真はシールドを張れない。

 いや、出来ないことはないのだろうが。

 もう加山と、早撃ちの名手である弓場が連携を組んでこちらにやってきているのだ。

 いつ弓場の攻撃が降ってくるか解らない現状。

 遊真も、スコーピオンが手放せない。

 

 じゃがじゃがとエスクードが作られていく中。

 ──遊真の背後にあるエスクードが、一つだけ、戻る。

 戻ったその先では。

 バッグワームを着込んだ弓場が既に構えていた。

 

 発砲音と共に。

 遊真の右手が吹き飛ぶ。

 

 構わず、遊真は吹き飛ばされた右腕からスコーピオンを装着し弓場に襲い掛かる。

 襲い掛かると同時弓場はバッグワームを解き銃口を向ける。

 

 弾丸が射出される瞬間。

 弓場の前にエスクードが、弓場と遊真の間を分かつ。

 

「.....」

 弓場の銃弾を。

 遊真は無視できない。

 それ故にどうしても、足を止めるか、方向転換をしての回避動作が入る。

 その間に。

 加山が離れた区画でエスクードを挟み、遊真と弓場の交戦の連続性を切る。

 

 そうして弓場はまた、遊真の射程圏外にあるエスクードまで移動し、また別の角度から遊真に射撃を浴びせる。

 遊真は現在。

 スコーピオンで足の補強を行っている為、シールドを張れない。

 

 故に。

 

 空からハウンド。

 そして、建造物の屋上から真っすぐにやってくるアステロイド。

 

 加山の攻撃に対してまでも、回避動作を挟まなければならない。

 足の補強を解いても、機動力が落ちているので囲まれて死ぬ。

 だが補強したままだと、回避に手いっぱいで──。

 

「──詰みだぜ、空閑ァ」

 

 回避先に銃口を構えた弓場の攻撃への対応が、不可能となる。

 

 遊真のどてっぱらに大穴が空く。

 

「......強かった、ね」

 

 遊真はそう一言呟き。

 緊急脱出する。

 

「あと、一人か」

「緊急脱出するんじゃないっすかね」

「そうはさせねぇさ。──藤丸が割り出した潜伏場所と思われる場所に帯島を派遣している。そのアテが違ってたらもう緊急脱出してるだろ。という訳で、炙り出すぞ」

「了解っす」

 

 その後。

 

 加山は周囲をエスクードで塗り固めた高層建築物の上側から、東地区の住居区画を順次メテオラとハウンドで爆撃していった。

 タイムアップ狙いで潜伏していた吉里隊の月見を無事炙り出し、それを帯島が狩り出し──試合が終わった。

 

 こうして。

 弓場隊の初戦は──生存点含め7ポイントを奪取し、勝者となった。

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