彼方のボーダーライン 作:丸米
「次の対戦相手は──那須隊と諏訪隊だ」
次の対戦相手が決まった。
那須隊、そして諏訪隊。
「.....諏訪隊と那須隊かぁ。面倒っすね。出来れば荒船隊か柿崎隊に来てほしかったっすけどね。このタイミングだったら」
「ほぉ。このタイミング、ってのはどういうことだ?」
「マップ選択権がこっちにある状況という意味ですね。荒船隊も柿崎隊も、マップでかなり力をそぎ落とせる部隊なので」
弓場の言葉に、加山はそう答える。
ふむん、と弓場は呟く。
「.....今まで、マップ選択がある場合は基本的に市街地Bにしていたんだが。お前は別マップも使っていった方がいいと考えているんだな」
「ですね。市街地Bもこっちの能力を活かせるマップではあるんですけどね。マップ選択権がある場面では、相手の想定外を突いて2~3ポイント取りたいんですよね。じゃないと、上位のポイントに追いつけない」
「それで。──どうして諏訪隊と那須隊が面倒だと思うんだ?」
「そうっすね。──帯島。この二隊を相手する時に気を付けないといけないとこって、どこ?」
「は、はい」
話を振られた帯島は、少し咳ばらいをして、話し出す。
「那須先輩の”鳥籠”と、諏訪先輩、堤先輩が組んでの散弾銃の同時攻撃です」
「どういうところが気を付けないといけないんだ?」
「どちらも──隊長の射程外から、シールドごと破壊できる手段だからッス」
だな、と加山は呟く。
「特に那須さんが戦場に入ったら、その対策に時間をかけなければいけない。ポイントを取るための時間が削られていくんですよね。どうしても”点を取るため”の戦術よりも”落とされないため”の戦術を優先しなければいけない。弓場さんとタイマンを張られると、弾を曲げられるしぴょんぴょん飛び跳ねられる那須さんは単純に厄介」
那須玲はボーダー屈指のバイパーの使い手だ。
射手としては例外的なほどに高い機動力を利用し、障害物を盾代わりにフルアタックのバイパーを一方的に叩き込んでいくお人。
こちらの射程外から一方的に弾丸を叩き込んでくる高機動能力を持つ人。
基本的に高威力の直線攻撃しか持たない弓場とはあまりにも相性が悪い。
「その上で。諏訪隊は──単純に散弾銃の乱射がうざいですね。ただ、こちらは諏訪さんか堤さんのどちらかを速やかに始末すれば連携そのものは崩せますので。外岡先輩をつけるなり、色々対策は出来るんですけど....」
「成程なァ。......まあ、確かに那須は比較的俺と相性は悪ぃな」
「ですね。──この組み合わせなら、隊長は熊谷先輩と笹森先輩を積極的に仕留めてほしいですね」
どちらも各々の隊で唯一の攻撃手であり、連携の肝だ。
ここを崩せば、一気に相手の戦術に制限をかけられる。
「.....つまり。俺達の作戦は、”那須をどうするか”という部分に着眼して決まるわけだな」
「ですね」
「だったら簡単だ。加山」
「うす」
「──俺以外の駒。つまりお前と、帯島。お前らで那須を仕留められればそれでいいってわけだ」
「中々きっつい要求ですね」
那須玲は、加山雄吾にとっても相性の悪い相手だ。何せ機動力がある。
エネドラの記憶を継承したことで鈍足な部分はかなり改善されたとはいえ、それでも一般的な射手の範疇内だ。
範囲外から一方的に撃ってくる相手に対して、エスクードは何の役にも──
「.....いや」
いや。
.....役に立たない訳では、ないのではないか。
「.....隊長。作戦を決定するのは、もうちょい後でいいですか?」
「そりゃ構わねぇが。──何か考えがあるのか?」
「まあ、考えというか。作戦決めるのも、ちょっと色々試してからでも遅くはないなー、と。──取り合えず、帯島借りていきまーす。あと、作戦室のみかんもちょっと賄賂に持っていきますね」
「え? え? ──あの、加山先輩。どちらに向かうんですか?」
加山はそれだけ言うと、弓場隊作戦室を出ていき、その後ろを帯島が慌てて追いかけていく。
「.....」
弓場は。
ジッとその後姿を見守っていた。
※
「という訳で。こんちゃす──出水先輩」
「おお、加山か。久しぶりだな。どうした?」
「......」
そして。
現在加山雄吾は──太刀川隊作戦室の中にいた。
「すまねえなー。今俺以外が出払っていてさ」
「他の人どうしたんですか?」
「太刀川さんは......”た”から始まり”い”で終わる三文字のポイントの取得に苦慮してて、柚宇さんは新作のハード買いに行ってて、唯我はパシリ中」
「自由っすね」
「太刀川さんはある意味不自由だぞ」
「自由の代償っすよあの人の場合」
「難しい話だな」
「簡単な話ですよ」
揚々と加山と出水が話をしている中。
帯島は完全に固まりきっていた。
何故、
何故、
──今自分はA級1位の作戦室にいるのだろう。
「そんで。今日はどんな用件で?」
「ちょっと、出水先輩のワザマエを見込みまして。手を貸していただけないかと」
「ほぅ。──あ、次の相手に那須さんがいるからか」
「そういう事ですね」
「そりゃ別にいいんだけどな。訓練室の調整出来る柚宇さんが今いないからなぁ。ちょっと待ってもらうぜー」
「あ。それじゃあこいつをどうぞ。──後ろの子のお家のとれたてみかんです」
「お。こりゃあ柚宇さんが喜ぶやつだ。──あ、二人で勝手に話を進めてすまんな。確か帯島だったな」
「は、はい! 帯島ユカリっす! よろしくお願いします!」
「あー。確か実家がみかん農家だって確か聞いたことあるな。これ、ありがとうな」
「い、いえ....」
帯島が少しばかりおろおろしながら周囲を見回していると、
作戦室の扉が、また開かれる。
そこには──
「い、出水先輩.....! 烏龍茶と、清涼飲料水その他お菓子もろもろ、買って参りまし......だ、誰だね! 君たちは!」
前髪を両脇から顎先まで垂れ流す、三白眼の男がいた。
所作だけがもっともらしく偉そうな男だ。
二宮のように自然に醸し出された偉そう感ではなく、意識して所作だけを偉そうにしている男。
そんな男が、小脇に飲み物とお菓子を抱えた姿で立ち尽くしていた。
「こんちゃす唯我先輩。──やだなぁ忘れたんですか? 俺ですよ俺。貴方の可愛い後輩の加山っすよ」
「か、加山君! 加山君か! おお、久しぶりじゃないか! どうしたんだね?」
「この前は奢っていただきましてありがとうございました。もう本当に助かりましたよマジで」
「そ、そうだろうそうだろう。ふはは! こ、後輩に奢ってあげるだけの度量が、A級1位には求められるからね! は....はは...」
「.....」
出水は、「あー。こいつ財力で人望を買うまでになってしまったかー。もう落ちるところまで落ちたなーまあ予想はしてたけどなー」と。言葉にせずとも、ありありとその表情に浮かべ、唯我を見ていた。
「ち、違うんです! 出水先輩! 加山君があまりにも貧相な食事を僕の目の前にしていたものだから! ランチに誘って奢ってあげただけなんです! 本当なんです!」
「そうなんですよ出水先輩。唯我先輩は本当に優しい人で。この前なんか入隊祝いだ、って弓場隊の人数分のケーキまで買っていただきまして」
そう加山が声をかけると、ますます出水は唯我への視線を強めていき、ますます唯我はその弁明を求められる。
その合間に、加山は帯島に幾つかの耳打ちをする。
その内容に一つ頷き、帯島は唯我にまた声をかける。
「あ、あのケーキ唯我先輩からだったんですね! ──あの、自分帯島ユカリといいます。この前のケーキ、本当に美味しかったッス!」
「あ、ああ.....。な、なにせこの僕はA級1位だからね.....。そんな畏まる必要はないのだよは、はは.....」
ひきつった笑みに、本当に喜色を浮かべながらも、されど出水からの疑惑の目を向けられている現状の板挟み。正と負の感情が入り乱れ、唯我尊の胃は捻転間近であった。
「──唯我」
「は、はひ」
「お前が言う、可愛い後輩が二人もいて、手ぶらじゃあ格好がつかないよなぁ」
「そ、そそ、そうです.....ね」
「買ってこい」
「了解です!」
そうして。
逃げるように唯我尊は走り出した。
「加山」
「うす」
「上手い唯我の利用法だ」
「光栄っす」
加山は、対人関係の構築において一切のプライドがない。
唯我が気持ちよくなる関係をひたすらに構築した結果、こうなっただけだ。
それ以外の意図は何もない。本当に。信じてくれるかは解らないが。
「お~。さっき凄い勢いで唯我君が走って行っていたが。何があったのかね~?」
入れ替わりに。
太刀川隊オペレーター国近柚宇が作戦室の中に入る。
彼女は大きなビニール袋に入ったゲームハードをよいしょ、と降ろし、とてとてとこちらに近づいてくる。
「来客が入ったからな。また茶請けを買いに行かせた」
「ほうほう。お~。君は加山君で、そして.....この可愛らしい子は確か帯島ちゃんだったね~。はじめまして~」
「は、はじめまして! 帯島ユカリッス」
「お、おお.....! 今時珍しい礼儀正しい子だ....! 弓場さん、凄いしっかりしているんだね~。可愛い~」
ユルい。
実に、ユルい。
国近は一目見て帯島を気に入ったのか。そのままゆらゆらと帯島に近づき、隣に座り固まる帯島をぺたぺたと触れていた。主にほっぺたを。
「あ、柚宇さん。帰ってきて早々悪いんですけど。作戦室調整してもらっていい? これから二人とちょっと使うんで」
「了解~。市街地Aの設定でいいかね~」
「.....頼んでいる身で恐縮ですけど、市街地Bの方でお願いできますか?」
「はいはい~」
という訳で。
国近が帰ってきたことで、早速出水と共に訓練室に入ることとなった。
※
「今回出水先輩に付き合っていただきたいのは......鳥籠対策ですね」
「あー。あれか。確かにありゃあきっつい。機動力かトリオンで上を行かなきゃ難しいわな―」
「という訳で──今回訓練したいのは。鳥籠を防ぐ方法なんですよね。ほら、俺トリガー構成上フルガード出来ないんで」
「ほう」
加山が考えた鳥籠の対策としては。
那須が放つバイパーの軌道を推測し、先回りしてエスクードを敷いていく方法である。
加山はメイントリガーにシールドを入れていない関係上、フルガードが不可能である。
那須と鉢合わせた瞬間、何もできず死ぬ可能性が非常に高い。
「まあ。一対一になったらエスクードとハウンドバラまきながら那須さんにシールド張らせてひたすらガン逃げするつもりですけど。今回は帯島と連携をとって那須さんと相手する時の訓練をしたいんです」
弓場が言った通り。
帯島と二人で那須を仕留めることができたならば。
それだけで一気に弓場隊が有利をとれる。
だからこそ──しっかりと対策を打っておきたいのだ。
「なので出水先輩には那須さんよりちょい上くらいのトリオンに設定してもらって。障害物の陰からガンガンバイパーを撃ってもらいたいんです」
「了解。──こりゃあ、俺の方としても楽しい訓練になりそうだ」
出水公平。
好きなもの、フルアタック。
防御をする相手に対して一方的にフルアタックが出来るこの訓練が、楽しくない訳がなかった。
「那須さんの手札にはメテオラや合成弾もあるので。そっちも随時使用しながら」
「あいよ。──合成弾は、まあちょい意識して射出を遅らせてやるよ。あくまで那須さんの対策だからな」
「助かります」
出水公平は天才だ。
平均して十秒程度はかかると言われている合成弾を、彼はものの数秒で形成し放つことができる。
その分だけ、──那須の作成時間に合わせ、合成弾を放ってくれるという。
「それじゃあ──早速やっていこうか」
出水がビル群の中に身を潜め、バイパーをその両手に発生させる。
加山と帯島は互いに頷き合い。
放たれる弾丸に向き合った。