彼方のボーダーライン 作:丸米
バイパーが襲い掛かってくる。
障害物の陰に隠れた出水が放ってくるそれらから、加山は逃れていく。
今回の訓練は。
帯島と百メートルほど離れた路地の中で、加山がバイパーから逃げ回ることからスタートする。
まずは、加山単品でバイパーのフルアタックを逃げ切り、帯島と合流できるかが第一の勝負となる。
その後帯島と合流をしたのちに、反撃に転じて出水を狩る。
この2セットの連携を行う。
「──ぐぇ」
ここで。
加山は──フルガードを持たない自身の防御面での欠陥が浮き彫りとなる。
鳥籠の二択に対して、対応できない。
那須玲の得意技。
バイパーを全方位から襲い掛からせるか、一点に集中させてシールドを割りにかかるか。
ただ。
加山は全方位にガードをした時点で幾分かシールドにガタが来てしまうのだ。
トップクラスのトリオンを持ってしても、フルガードが出来ないという弱点はリアルタイムで自由な軌道で襲いかかるバイパーのフルアタックに対してかなり致命的。
一点集中するバイパー弾に対して、かなりシールドを狭めなければならなず、全てを防ぎ切れず体が削れていく。
特に足元に対しての防護が間に合わなかったら悲惨で、機動力が落ちて更に鳥籠の圧力が強まる。そのまま削り切られ仕留められる。
「いや、厳しい」
このレベルになるとエスクードは防御の役に立たない。
「加山はもうエスクードの手札がバレているからな。それ込みで設定して軌道を決めるから防ぐのは難しいぜ〜」
いやもう本当にその通り。
ある程度軌道を予測してエスクードで道を塞いでも、それすらも予測され曲がってくる。
「そもそも追い込みをかけるのがバイパーの真髄だからな。エスクードで多少壁を作っても、防げないところまで追い込みかけて後は一点集中で削ればいい」
そもそも追い込みをかける発想力の時点で、加山と那須の間では格差がある。二度、三度とフルアタックに襲い掛かられるたびに手札が無くなっていく。
「那須さんはこれに加えて自在に発射点まで変えられるからな。機動力があるってのはそれだけで怖いぜ」
そう。
そもそも加山と那須との間には機動力から差がある。
エスクードで道を塞いでいったら、先回りされて逆に逃げ道がなくなる可能性すらあるのだ。
「エスクード利用して、って発想からして個人的にはちとマズイ気がするな。特に那須さんはそこまで甘くない」
「ですねぇ」
そもそもエスクードとバイパーの相性が悪い。
その現実に、加山はううむと唸る。
「エスクード抜いてシールドいれてフルガード解禁する?」
「エスクードは隊長との連携の肝なので外せないですね.....」
「だよなぁ」
加山の大きな役割の一つは、弓場との連携だ。
那須の対策の為にこのカードを捨てるのは、流石に見合わない。
「とはいえ、このままじゃあ帯島との連携まで行きそうにないな」
「ですねぇ.....」
この訓練中、帯島と合流できた回数ゼロです。
あまりにも惨め。
「──そうだ」
「はい?」
「シールドの使い方が上手い奴も呼ぼう」
※
「と、いう訳で──三輪にも来てもらったぜ」
「ついでに俺も来ちゃったぜ」
「.....」
防衛任務を終えた直後。
何故か出水に捕まえられ太刀川隊作戦室に連れ込まれた三輪秀次。ついでとばかりに米屋まで着いてきた。
「──加山」
「お久しぶりです三輪先輩」
加山・三輪両者は顔合わせをするのも随分と久しぶりであった。
何となく、ぎこちない。
「──まあ三輪はご存じの通り。銃手として見るなら近距離・中距離でバカスカ撃ち合う那須さんと同じタイプだし。対策の一環として学べることも多いだろ。特に、シールド」
「那須か....」
状況が飲み込めたのか。
三輪はふむん、と一つ頷く。
「那須はバイパーの精度が高く、機動力が高い。それが強みだろう。──だが、その強みばかり追っていても仕方がない」
「だな」
三輪の言葉に米屋が一つ頷く。
「特に、同じバイパー使いの出水と比較して大きく異なるのはトリオン量だ。射手としては平均的な量で、バイパーの威力もその分落ちる。その埋め合わせとしてフルアタックでの鳥籠の二択を迫る戦法を取っているのだろうが」
「逆に言えば、那須はフルアタックの選択さえ奪えれば大きく武器を制限することにも繋げられるってこった。最悪を想定することも重要だが、次善を用意することも同じだけ重要だぜ」
「成程....」
フルアタックを防ぐ、という選択と同じだけ。
フルアタックの選択肢を奪う事もまた重要。
加山はその言葉に、大きく頷く。
「そして鳥籠は確かに強力な武器ではあるが、言っちゃ悪いが足りない威力をカバーする技巧であって、必殺の武器ってわけでもない。比較するのもあれだが、二宮さんの変則フルアタックよりもやっぱり絶望感は薄い」
「まあ、アレはそうですね.....」
B級トップの座に君臨する隊長である二宮隊隊長による必殺技である、二宮型フルアタックを説明しよう。
細かいアステロイドでシールドを拡げて~
どでかいアステロイドでシールドを打ち砕く~
もしくは
どでかいアステロイドでフルガードの拡縮を強制して~
細かいアステロイドで削り殺す~
タイマンで向かい合ったら?
死にます。
タイマンで向かい合えば誰であろうと。死にます。
何でB級いるんだろうあの人......。
「要は細かい弾丸を散らすか収束させるかの二択なわけだ。──その二択が発生する前に弾丸を潰せれば、被害は抑えられる」
「どうやってするんですか?」
「こうだ。──見てろ」
三輪は右手に拳銃を握り、所定の場所につく。
先程繰り返していた訓練と同じ状況。
出水のフルアタックが三輪に襲い掛かる。
その瞬間──三輪は、後ろではなく前に突っ込んでいく。
──前?
放たれ、襲い来るバイパー群。
その前に走り出し、己が体を弾丸にぶつけに行く。
そして。
細かく分割されたバイパーに対して、三輪もまた──
あ、と。
加山は思った。
そうだ。
三輪には、これがあった。
通常、空間上に円盤のように広域に拡げて使用するシールドを。
三輪は細分化したそれを幾つも散りばめ使用する方法をとっている。
──そうか。
那須の弾丸は一発一発の威力はさほどない。
厄介なのは収束と包囲の二択を常に迫る挙動を取ること。
この二択を、前に突っ込み弾丸を事前にシールドで打ち消す事で無効にする。
そうすれば──。
三輪はそのまま出水に向かい細分化したシールドを盾に肉薄し、周囲を飛び回りながら弾丸を叩き込んでいく。
「──と、いうように。前に出て初撃を防ぐ事さえ出来れば、前に出た分だけ反撃の好機も出来る。別に反撃で相手に当てることは考えなくていい。ただ──那須を防がせる。それさえ出来れば相手の攻撃手段を奪うことが出来る」
「加山は、シールドとは別のトリガーには何のトリガー入れてたっけ?」
「アステロイドとメテオラですね」
「......次の試合だけ、アステロイドとハウンドの位置を変更することを勧めておく。バイパー使いの那須に対抗するには、追尾性能のあるハウンドの方がやりやすいだろう」
後は。
那須から逃れながら、加山から帯島に向かって合流するのではなく。
加山が那須を足止めしながら、帯島が加山に合流させる形にすればいい。
そうすれば──そこからの道が開ける。
「了解です。──それじゃあ、その方針で一度訓練してみますか」
※
その後。
繰り返しの訓練の果て、三輪ほどの精度には至っていないがある程度のシールドの分割が出来るようになった加山は。その後の出水との訓練で三度連続で帯島との連携までもっていくことができた。
「みんな、お疲れ~」
キリのいいところまで訓練をすると、国近が皆を出迎えていた。
「ごめんなー、柚宇さん。せっかく新しいゲーム手に入ったのに手伝わせちまって」
「ふっふっふ。いいのですよ公平君。なぜなら──ここで、珍しい面子が手に入りましたからね」
国近は訓練が終えた皆を一瞥し、ニッとほほ笑む。
「じゃーん。これです」
「へ?」
国近はその後。
懐から取り出したゲームソフトを見せる。
「四人で楽しく大乱闘! ぶっ飛ばせ! ──という事で」
ニコニコと微笑みながら。
言った。
「明日は休日だし。──はい、皆。この中で用事ある子はいないかな~」
で。
皆でゲームをする事となりました。
※
その後の顛末。
四人増えた分のお茶菓子を更に唯我が自発的に(はい。あくまで自発的に)買いに行き、皆でゲームをすることとなった。
全員が全員(意外にも国近も含めて)初心者だったこともあり、非常に公平なゲーム展開となった。
操作感覚をいち早く掴めた帯島と、副作用を利用しカウンターのタイミングを読みまくる加山がトップをひた走り、ぼろ負けした国近は帯島の代わりに加山の首を絞めた。ぐぇぇ。
唯我はプレイした瞬間、コントローラーの溝に爪先が引っ掛かり激痛に悶える事となりリタイア。
その後射撃キャラを主に使う出水も次第に頭角を現していき、そしてゲーム経験が深い国近が徐々に上がっていく展開となり。
──深夜一時。解放された太刀川が目にした光景は皆で徹ゲーしている面々の姿であった。
「──お前ら何やってんの?」
「あ、解放されましたか太刀川さん」
「どうにかなー。──くそう、お前らだけ楽しそうなことやりやがって。おい、俺もやらせろ」
「ぐぇぇ!」
「お、すまん。唯我か。踏んづけちまった」
「何でですか!? ちゃんと足元見てくださいよ!」
「この面子で一人体うずめて転がっているのも悪い。芋虫か」
「ひどい!」
「......賑やかっすね」
「そうだな」
交代し、共にゲームを見る三輪と加山はポツリそう呟いた。
「──太刀川さんよわーい!」
「ふん。やり始めはこんなもんだ。すぐに追いついてやるさこんなもん。──あ、あー.....」
場外にぶっ飛ばされていく二刀流のキャラを見やり、太刀川は力のない声を上げていた。
「......加山」
「うっす」
「大丈夫か? 大規模侵攻の時の怪我は」
「大丈夫っすよ。ほら、ピンピンしてるっしょ?」
「.....加山。多分加古さん辺りからもうかなり言われたんだろうがな。無茶をするなよ」
「言われましたねぇ。人でなしとまで言われました」
「.....あの人が怒るのは、本当に珍しい事だからな」
「....」
ああ。
やっぱり怒ってたんだな、と。加山はそう思った。
「黒トリガーと他人の人命。優先すべきは何だ加山?」
「人命ですね。間違いない」
「それは。他のボーダー隊員にとっても同じ事だ。──言いたいことは解るな?」
「うす。──でも、すみません。俺はあの時の選択を後悔してはいないです」
「そうか」
「はい」
三輪は一つ目を閉じて。
それ以上の言葉を告げられずにいた。
「──しかし、賑やかですね」
「そうだな」
喉奥につっかかる言葉を。
三輪は吐こうとして、吐けなかった。
言えるわけもなかった。
こんな時に。
こんな人間に。
言葉をかける権利を、三輪は持っていない。
そういう、人間であった。