彼方のボーダーライン 作:丸米
「試合終了! ──最終結果は弓場隊が生存点込みで6点を奪い、那須隊・諏訪隊を下しました。それでは解説のお二方、総評をお願いします」
「えっと......どっちからデスカ」
「お前から先にやれ」
「はい...」
如実に力関係を叩きつけるかの如きやり取りを香取と風間は繰り出し、香取はしぶしぶと話し始めた。
「まあ、結果は順当じゃない? 弓場隊は元々上位だし、そこでちゃんと噛み合う新入りの駒が手に入ったわけだし。勝たなきゃいけないでしょ」
「香取隊長は、この試合のポイントをどう見ますか」
「初動。もうここである程度の趨勢は決まっていたと思う」
今回のランク戦の初動は。
上下に分かれた部隊員の全員が──まず加山を落とさんと向かい始めた。
「それが解っていたから。弓場隊は暴風雨の設定にして、雨水管を壊して水責めする作戦に出たわけで。足が止まるし加山にとって有利な条件がどんどん整えられていく。──これは結果論だけど。諏訪隊が濁流に押し流された時、加山は無視しておく判断を下すべきだったと思う」
「成程...とはいえ、加山隊員があの場面で放置されていれば一方的に射手トリガーで下のマップが撃たれていたのではないですか?」
「そう。だから理想としては──単独で加山を抑えられる那須先輩だけが迎撃に向かいに行くのが理想的だった」
香取は言う。
あの場面。弓場隊の初動は──加山がそれぞれの部隊を引き付けている間に、弓場隊のその他のメンバーが合流し道を塞いでいたことが何よりの問題であったと。
「でも。そもそも初動の時点で加山の戦術が見抜けなかった時点で、諏訪隊側が加山を放置することはできない。だから那須さんの単騎速攻は実質不可能。那須隊と諏訪隊が示し合わせて両方とも引き下がる事なんかできないんだから。だから、あの場面──笹森と熊谷先輩は当初の作戦を守るように動くしかない。でも、その結果──弓場隊の合流を許して、狙撃手の外岡を上に上げることに成功してしまった。もうこの時点で弓場隊にポイントで勝つことは無理だと思う」
香取の総評は、こういったものであった。
そもそもの戦力差から見て、初動が理想的に進んでしまった弓場隊を止めるのはほぼ不可能であり、序盤で戦いの大枠は決まっていた。
「成程。初動が決まった時点で趨勢は決まっていたという訳ですね。では、風間さんは如何でしょう」
「香取の意見に特に異論はない。暴風雨という特殊環境下において狙いが決まった弓場隊が終盤までしっかり戦い抜き、勝利した。試合の流れとしてはこういう形になるだろうな。──しかし、この勝利は弓場隊にとって大きい」
「ほほう。どのような部分で?」
「新加入の加山が戦術の仕掛け人となる。だから一番最初に潰そう──という対策を敵部隊が行ったのが今回の試合だ」
前回の試合で、終始仕掛けに奔走していた加山の動きを見て。
仕掛けをする分、駒として浮きやすい加山を最初に潰す作戦を今回のラウンドで実行した。
その結果として──。
「加山はそれを予想したうえで。自分を潰しにかかる人間が最大限の被害を受けるように立ち回っていた」
雨水管を破壊し濁流を発生させてルートを潰し、自分を狙う相手に対し大きく不利な条件を押し付けつつ立ち回る。
「その結果。諏訪隊は上に向かうルートを潰され弓場隊に待ち構えられる事となって、那須隊は加山に熊谷を仕留められた。──放置しても仕掛けてくるし、戦力を集めてもそれはそれで敵部隊に大きな被害をもたらす。加山はそういう駒として大きく機能している」
「成程.....加山隊員を狙っても、狙わなくても、どちらでも敵に被害が出る戦術を用意しているという訳ですね。.....以前在籍していた神田さんがいたころと比べて、弓場隊はどう変わりましたか?」
「神田は、基本的に状況に合わせるタイプの隊員だった。対して加山は戦術で状況を作り出すタイプ。ここに大きな違いがある」
風間曰く。
以前までの弓場隊は、エースの弓場が効果的に暴れられる状況を神田の指揮と帯島のサポートによって作り出すのが基本的な戦術であった。
神田から加山に代わり、ここから弓場隊の戦術は仕掛け人が弓場から加山に代わった。
状況を大きく一変させる戦術を以て、隊にとって有利な状況を作り出す仕掛けを加山が中心となって仕掛ける。
そういう方針に、切り替わった。
「加山の働きは今のところ指揮官ではなく戦術家の趣が強い。──神田が担っていた”指揮”の部分についての穴まで埋められるのかは、まだ現時点では何とも言えない」
今のところ。
加山の仕掛けが大きく機能しているからこそ上手くいっているが。
仕掛けた戦術に相手が対応してきた段階から──盤上をしっかりコントロールできる指揮に関する課題が湧いてくる。
その部分まで加山が埋め合わせられるかどうかで、新弓場隊の評価は変わってくるだろうと、風間は言った。
「成程成程。それでは今後の弓場隊の戦いに大いに期待を膨らませつつ......おっと。そろそろ時間ですね~。観覧の皆様お疲れさまでした~。足元にお気をつけて~」
宇佐美栞がそう宣言すると同時。
ランク戦、昼の部が終わった。
※
「──ってな感じだったね。弓場隊」
「成程....」
実況を担当した宇佐美栞は支部に戻ると、すぐさま玉狛第二にその情報を共有していた。
弓場隊、諏訪隊、那須隊の三隊に対してそれぞれの動きと、香取・風間の解説情報もかいつまんで説明して。
一つはぁ~と溜息を吐く。
「弓場隊は多分次の次には上位に行っているだろうね。....解ってはいたけど、本当に強いねー。それと状況がめまぐるしすぎて実況が追い付かないよー」
やれやれー、と宇佐美は呟き、上着を脱いでソファに座り込む。
「.....うちには千佳がいるので。その分はまだ幸いですね」
「だね。──やっぱり弓場隊にとっては千佳ちゃんがジョーカーになりうるだろうなって。今日の試合見ていても思った」
今回の加山の戦術。
例えば千佳がいるなら──濁流の逃げ道を大砲で破壊し無効化する事も可能であった。
無論、加山は千佳がいるならば別の戦術を打って出てきたであろうが──それでも地形を作り替える戦術を好む加山と、千佳との相性はいい気がしている。
「中位に上がったら。新しい戦術を使っていくんだよね」
「はい。──なので、すみません。ちょっと訓練室の設定をお願いします」
「うんうん。了解~」
宇佐美はそう何事もなく返事をすると、端末へ向かう。
.....二部隊のオペレーター業務。そして実況。
割と忙しない日々を宇佐美は送っている。
今回の実況も、宇佐美きっての希望で行ったものであった。
何故かと問われれば。
前回玉狛第二が敗北した弓場隊の戦いを、最高の環境で見ることが出来る好機であったからだ。
──出来ることは、やらなくちゃ。
宇佐美の現在の役割は。
こちらの事の一切を預かり、玉狛第二のサポートをする事だ。
忙しないのならば、それはそれで結構。
余計なことは気にせず彼等が全力を出せるよう──こちらも全力でサポートする。
それだけの話だ。
※
「──玉狛第二め。中々こすい手を使ってくるじゃねぇか」
今回の試合の実況を宇佐美栞が行ったことを知るや否や。
弓場は笑みを浮かべながらそう呟いた。
「前回負けた部隊のランク戦の実況に自分のところのオペレーター送り込むとは。中々に手段を択ばねぇ奴等だ。いいじゃねぇか」
「.....油断も何もあったもんじゃねぇっすねマジで」
まあ別にいいのだが。
どうせ記録は別にみられることになるのだろうし。
試合を終え作戦室に戻ると、弓場隊はいつもと変わらず反省会を行っていた。
「さっき風間さんの解説があったみたいですけど。──指揮かぁ」
正直。
加山自身──風間の指摘は本当に正鵠を得ている気がする。
指揮官の代わりに戦術家が入った。
まさしくその通りで──今のところ加山は戦術の押し付けで勝っているに過ぎない。
指揮と盤面整理を行える神田の代わりに入ったのだから、当然指揮の分でも弓場は期待しているのだろう。
これまでかなり独学で学んできたつもりではあるが......いざ上位と戦う際にどこまで通用するものか。未知数な部分が多い。
「まあそこは追い追いだ。焦っても仕方がねぇ。──まあ、今のところ盤面を見る力そのものは養われているとは思うぜ、加山ァ」
「うっす」
「後は実践あるのみだ」
とはいえ。
ここまでかなり順調に来ていたわけだが──やはり、序盤の戦術が想定通り機能しているから、という部分が非常に大きい。
そのケアまで含めた動きを想定する事も、やはり重要になっていくのだろうなぁ、とか。そういう風にまた一人でジッと思考していると。
「せっかく勝ったってのにしけた面すんじゃねぇぞ加山!」
うんうんと悩んでいる表情が気に食わないのか。
そんな檄が飛んできた。
「そりゃあすみません藤丸さん。この顔は生まれつきですわ」
「生まれつきの顔はどうにもならんが、勝った日くらい笑えってんだ」
「ま、まあまあ藤丸先輩。これが加山先輩っすから...」
帯島がそう戸惑いながらもフォローを入れる。
ふむ。
帯島よ。その気概は非常にありがたいんだけど。フォローとしては実に微妙だ。
その様を一瞥し。
外岡が席を立つ。
「でも、今日くらい試合の事に悩まなくても別に罰は当たらないと思うよ、加山君。あ、お茶飲む?」
「お。ありがとうございます外岡先輩」
「いやいや。別にいいんだよ。.....悩んでいるなら俺が話を聞くから、あっちに行こうか」
「あ、そこまで気になさらずとも大丈夫ですよ」
「いやいや。何か引っかかっているなら吐き出した方が楽になるだろうし」
外岡一斗。
この男もまた、一隊に一人。対人関係をぬるぬる回す潤滑油、フォロー属の人間である。
──こうして。隊の一日は過ぎていく。
その後。
弓場隊は防衛任務を終え、一日を終え、そして──メールで次なる相手が通知されてきた。
相手は。
「荒船隊と、鈴鳴第一か....」
まだギリギリ中位に残留することとなり。
今度は──隊員が全員狙撃手で構成されている異色の部隊である荒船隊と、エース村上を擁する鈴鳴第一であった。
「.....あー。これは面倒な組み合わせだなぁ」
荒船隊は全員が狙撃手であるが、隊長の荒船は元攻撃手でマスターまで行っている。近づいた上でもかなりケアが必要な厄介な駒だ。
その上鈴鳴第一の村上。
恐らく──彼には今までの戦術の使いまわしは一切効かないであろう。そういう副作用を村上は持っている。
「両方とも厄介だなぁ。しかし荒船さん、もう狙撃手に取り掛かっているのか凄いっすねぇ」
加山と荒船は年は離れているが気心を知れた友人同士だ。
かつて──彼が話していた完璧万能手理論。彼が狙撃手になったという事は、その完成にまた一歩進むことが出来たのであろう。その事実に、惜しみない拍手を送りたい。
「まあ、でも」
両隊とも素晴らしい隊だ。
隊長の荒船も、来馬も。加山は心から尊敬している。
それでも。
加山は一つ心に決めていたことがあった。
「.....よぉ、別役先輩。ランク戦絶対にアンタぶっ潰してやるからな」
同期の先輩。
かつ──C級時代に文字通り煮え湯を飲まされた過去がある別役太一狙撃手(16)
アイツだけは許さない、と心に決め──両隊の対策に腐心することとした。した。