彼方のボーダーライン   作:丸米

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巨獣、檻と共に

「はいもしもし。──あ、弓場さん。どうしました?」

 加山雄吾はファッション誌片手に三門市内のショッピングモールを歩いていた。

 無地のTシャツと補修されたジーンズ。そして色あせたジャケット。

 あまりにもあまりな格好でモール中で目当ての服装を探していた加山雄吾は、その途中にて弓場琢磨から電話がかかってくる。

 

「おう、加山。お前今何やってる?」

「市街でお買い物ですー」

「お、そうか。そりゃ邪魔しちまったな。すまん」

「いえいえ。ちょい入り用のもの買ってるだけですから。それで、用件は何ですか?」

「ん。実は昼の部の解説に俺が呼ばれていてな。──お前もどうかと思ってな」

「へ? 俺が解説ですかい」

 

 おう、と弓場は言う。

 

「まだ部隊所属から二か月もたっていないのに。やっていいんですか?」

「ああ。──実はよ」

 

 弓場は少しだけ笑い声を通話口越しに上げて。

 

「解説するのは、玉狛第二、那須隊、柿崎隊、諏訪隊との四つ巴戦だ」

「.....へぇ」

 

 何と。

 色々噂の玉狛第二との試合をこちらが解説するという。

 

「──この前、こちらに宇佐美を送っていたみたいだから。こちらも意趣返しだ」

「成程...」

 随分と根に持っていたらしい。

 

「了解です。それじゃあ買い物が終わり次第急いでそっちに向かいますね」

「お前、今モールか? 突然の呼び出しに急がせるのは忍びねぇ。俺が車出してやる」

「いえいえ。そこまでしなくてもいいですよ」

「いいんだよ。こういう時は素直によろしく頼む、で」

 

 ──その後。

 最終的にはファッション誌のコーディネートを自力でそろえることを諦め、店員に「これに近いものをお願いします」ムーブで丸投げして購入した服装一式を紙袋に詰め、モールの駐車場へ行く。

 弓場が顔を出しながら、入り口付近に車を止め、加山を拾う。

 

「いきなりの呼び出しで済まねぇな、加山」

「いえいえ。迎えに来てもらって申し訳ないっす」

「しかしお前がモールに買い物とは珍しい。何を買っていたんだ?」

「服ですねー」

「服か。.....おいおい。見た所結構なブランドじゃねぇか」

 弓場は、加山が膝の上に置いている紙袋を一瞥し、そういった。

 中には包装された服と、丸まったファッション誌が

「へ? そうなんですか。──どの店もふざけた値段してやがりますね。たかが布切れに」

「たかが布切れにとんでもない人件費かかってるから仕方ねぇの。──で、何でお前がこんなもん買ってるんだ?」

「....黙秘で」

 

 モールに併設された駐車場を出る寸前。

 弓場は──唐突にUターンを行う。

 

「まだ時間はあるな」

「あのー。どうしたんですかい、弓場さん」

「.....ファッション誌丸投げのコーデは、お前なんかが着たら野暮ったい事この上ねぇし、女からもすぐに無知がバレるぜェ、加山ァ」

「.....あのー。何を考えていらっしゃるんですか弓場さんいいですからさっさと本部に向かいましょうよせっかく大枚叩いて買ったんですからー」

「うるせぇ。俺が奢ってやるから、きっちりお前に合う服装用意しやがれ。これはお前の為じゃねぇ。お前と出かける女の為だ」

「目的は黙秘と言っているのに何で決めつけるんですかー」

 

 という訳で。

 結局弓場と共に一時間ばかりかけて服装を揃えたのであった。

 モールのブランドをあらかた回り、店員とも綿密に話し込み、幾度となき試着の果て、宣言通り弓場の奢りによって。

 

 何というか。

 もう服はユ〇クロでいいや.....。

 

 

「皆さんこんにちわ。ランク戦第3ラウンド中位、昼の部。本日の解説を務めさせていただきます今結花です。そして解説席には──」

「弓場拓磨だ」

「加山雄吾でーす」

「.....小南桐絵よ」

 

「.....この三人でお送りいたしますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 何故だろう。

 何故この人がいるんだろう。

 

「あ。賑やかし要員の小南先輩だ。何でここに来たんですか」

「誰が賑やかし要員よ!」

 

 玉狛第一、攻撃手。小南桐絵。

 普段二人しかいない解説員に、何故か我が物顔で座っていた。

 

「ただでさえアレなのに、身内贔屓までやられたらたまったもんじゃねぇっす。誰ですかこの人呼んだの」

「しないわよ! .....多分!」

 あ、こりゃ絶対するな──。

 そう思い弓場の方を見ると、ばつが悪そうにつぶやく。

「.....本当は、俺と小南の二人でやる予定だったんだ」

「.....あー。だから俺を呼んだんですね」

 

 弓場もボーダーの中では古参の部類の人間で、解説するにあたって不足はないのであろうが。流石に実質二人分の解説を行わなければならない負担を強いられるのは御免と言ったところであろうか。

 

「ふん! ──アンタが来たからにはしっかりこのアタシが監視させてもらうから! しんせんじゅ.....もが、もがが」

 加山は隣に座る小南の口を摘まむ。アホかこの女は。

「アンタがネタばらししようとしてどーする!!」

 うん。

 ダメだこいつは。

 

「ったく。うるせー奴等だ。──すまねぇな。進行続けてくれ」

 隣でぎゃーすか騒いでいる小南と加山をひとまず置いておき、弓場は今にそう促した。

「はい。今回、マップ選択権のある諏訪隊が選んだのは工業地帯。この意図をどう判断しますか?」

「狙撃対策と、単純に撃ち合いに持ち込みたいからでしょうね」

 

 加山は小南との言い争いを止めると、即座に口を出す。

 

「マップが狭くて長い射程活かせないし高い建物が多いしで、このマップだと狙撃手死ぬんですよね。そんでもって合流しやすいスペースも割と広いしで合流しての制圧射撃がやりやすい。銃手二人揃えている諏訪隊にはとても有利なマップですねー。ついでに柿崎隊もこのマップは大好物です」

「強力な射手の那須がいる那須隊も若干有利なマップだな。.....攻撃手が主体の玉狛が、マップ条件的には一番不利な気がするなこいつァ」

「狙いは、明らかに玉狛の封じ込めですね」

「ふん! こんなもんハンデよハンデ!」

「....」

 ほんと、誰だよ身内の試合にこれを呼んだの──。

 そう思いながらも、話を続けていく。

 

「ラウンド2では、まさしく攻撃手の空閑隊員の鬼神の如き活躍で、一挙7得点を取り中位に上がった玉狛第二。はじめての中位戦という事になりますね」

「ですねー。こっちも一度当たりましたが。まあ強かった強かった」

「でしょ!?」

「特に空閑隊員は実質三人がかりで仕留めたようなものでしたし。連携していかなきゃヤバい相手でした。普通にA級でもエース張れる人間だと思います」

 ほらほら。

 褒めれば褒めるほど笑顔が増えていく。

 何しに来たんだほんとに.....。

 

「とはいえ。今までの得点も実質空閑一人でとっている部分は結構な問題だな」

「うぐ...」

「エースを中心に据えて点を取っていくのは普通ではあるんだがな。にしても、得点分布が歪だ」

「その辺りも含めて、中位戦で何か変化をさせてくるのか。期待しながら見たいですね」

 

 この前、加山は玉狛第二にて雨取千佳への指導を行った。

 あのアドバイスを全て実行しているかどうかは解らないが──このタイミングで戦い方を変えてくる可能性は十分にある。

 

「成程。──それでは試合開始まであと僅かです。転送を待ちましょう」

 

 

 そうして。

 試合が開始される。

 

「....お」

 

 玉狛第二は。

 転送するとともに空閑と三雲が合流し、空閑がバッグワームをつけて周囲を警戒しながら。

 

 スパイダーを張っていっていた。

 

「玉狛第二、ここで三雲隊長がスパイダーを張っていきます」

「成程....。三雲隊長をそういう形に使いますか」

 

 加山はへぇ、と息を付き、そう呟いた。

 

 マップを見る。

 諏訪隊・那須隊・柿崎隊の三隊ともに合流が完了し、それぞれが玉狛第二から東西、北西、南東から向かってきている。

 

 その通路を埋めるように、スパイダーを張っていく。

 

「三雲隊長がスパイダーを張り終わり、空閑隊員は物陰に潜み奇襲の準備。そして、雨取隊員は、西側80メートル程の距離で.....ん? 狙撃トリガーを構えていませんね」

「....」

 

 ──やはり、変えてきたか。

 ビルの上。屋上の上にいながら武装トリガーを構えていない雨取の姿を見て、ついでに隣で「早くあの手を使わないかなー」と小声でぶつくさ口走っている小南の姿を見て、確信を覚える。加山は確信を覚える。

 

 きっと、あの手を使ってくると。

 

「さあ。先に玉狛第二のスパイダーエリアに入り込んできたのは那須隊です」

 そして。

 映像を見ると──熊谷がスパイダーに引っ掛かり転げると共に、空閑が襲い掛かる。

 

 その襲撃の中、熊谷の左手を斬り取った空閑は、追撃をかけずスパイダー陣の裏手に回る。

 

「とはいえ.....那須隊にはメテオラ使える那須隊長がいますから」

 

 スパイダー陣が、メテオラと共に崩されていく。

 背後に控えていた那須玲によって。

 

「まあこれはこれでOKだろうな。那須と障害物っていう、極悪の組み合わせを相手側から放棄してくれるからな」

「ですね。それに煙のおかげで空閑隊員が姿をくらましやすい」

 

 周囲に舞う煙に紛れ、空閑はバッグワームを再度装着し、周囲の建造物に潜む。

 

「そして──」

 

 煙からの襲撃を危惧し、後退した那須隊の──背後の路地。

 

 そこに。

 

「....やっぱりかぁ」

 マイクに乗らない程の小声で、そう加山は呟く。

 

 壁が、這い出る。

 

「え....」

 後退する背中に、一つ。

 壁が生えた。

 

「──マズい! 逃げろ、玲!」

 

 壁は。

 背後だけでなく──周囲四方全てから生え出る。

 その気配を察知した熊谷が那須を押しのける。

 

「──くまちゃん!」

 

 四方の壁の上空。

 空閑遊真が熊谷の首を刈り取る。

 

「こ.....の!」

 

 那須はバイパーを使用し、エスクードに囲まれた空間に雨のごとく弾丸を降らせていく。

 しかし──その瞬間に、那須と反対側にあるエスクードが瞬時に消え去り、空閑の脱出路を確保。バイパーの弾雨から逃れる。

 

「これは.....エスクード!」

 実況の今が驚いた声を上げると同時、ひええと加山が呟く。

「やっべぇすねやっぱり。──雨取隊員のトリオン」

「....加山隊員は、雨取隊員のこの隠し玉をご存じだったのですか?」

「いやー。どうですかねー」

「.....よく言うわ。アンタが教えたくせに」

 小南の一言に、へぇと弓場が呟く。

「そうだったのか」

「うす。すみません隊長」

「ああ。別に責めてるわけじゃねぇ。気にすんな」

「──しかし、やべーな。あそこまでの距離、ザっと百メートルはあるだろう」

 千佳と、那須がいる地点まで、およそ百メートル。

 通常であれば25メートル程が射出の限界値と言われているが、──雨取千佳の莫大なトリオンによって優に百メートル近くまでその限界値を伸ばしている。

「それでいて、壁をひり出す時に、特に射撃みたいな軌道もありませんので。放って位置がバレる事もない。──このまま雨取隊員の位置が割れるまで、一方的に壁を量産できる」

 エスクードは生やすもの。

 それ故に、その使用者の位置がエスクードの使用によって判明されないのだ。

 

 

 逃げる空閑の背後を追撃せんと、那須が弾を出しながら走り出そうとして。

 

「──那須さんだ! 撃つぞ!」

 

 柿崎・照屋両隊員によるアステロイド突撃銃による一斉放射が放たれる。

 流石に二人による射撃はたまらじと、那須はその場から引く。

 

「この動きも」

 

 加山が──柿崎隊の動きを見ながら、解説を行う。

 

「スパイダー地点を嫌がり、そして同時に発生させたエスクードで細かい路地を塞いだことで──柿崎隊と那須さんをここでバッティングさせています」

 

 柿崎隊はスパイダー地帯を踏み越えていくことを嫌がり、そしてエスクードで封鎖された路地も嫌がり、迂回した先。

 そこに那須がいた。

 ──それも含めて、玉狛第二の作戦だった。

 

「これは....予想以上に強力になったかもしれませんね。玉狛第二...」

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