彼方のボーダーライン   作:丸米

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一夜城、現る

「成程.....思った以上に、千佳とエスクードは合う」

 

 玉狛支部の訓練室。

 加山のアドバイスの後、千佳にエスクード・スパイダーを組み込み訓練を開始してみた。

 

「だが。スパイダーはちょっと駄目だ。使えない」

 

 眼前には。

 路地の間をびっしりと埋め尽くすスパイダー陣と、それに巻き込まれ身動きが取れずにいる千佳と修の姿があった。

 

 ──スパイダーは、射手トリガーと同じくキューブを生成し、そこからワイヤーを作出する。

 

 膨大なトリオンを持つ千佳がそれをひとたび使えば。

 巨大なキューブと、その巨大なキューブに込められた大量の糸が周囲一帯に張り巡らされ──最早スパイダーの用途である「罠」としての機能は果たされない。

 

 当然射手トリガーのように、小さく分割して一部だけを使用することも可能だろう。

 しかし、スパイダーは罠だ。

 罠を作成する為に敵に見つかりやすい巨大なキューブを作成し、そこから小さく分割しながらチマチマ張っていくとなるとあまりにも不便だ。

 

「──それに。スパイダーは消費トリオンが低い。千佳に持たせて枠を埋めるには少々もったいない気もする」

 訓練の監督を行っていた木崎レイジは頷きながらそう呟いた。

 

 その呟きは。

 修の耳に届いていた。

 

「スパイダーって、枠を埋めるのにトリオンかからないんですか?」

「微々たるものだな。ほとんどない」

 

 その言葉を聞き。

 修は──ならば、と呟いた。

 

「そうか.....それなら、僕のトリオンでも、スパイダーなら」

「....そうだな」

 

 三雲修は、トリオンが少ない。

 正隊員の平均よりも少ない、ではない。

 恐らくボーダー全体で、彼と同値のトリオンの隊員は片手で数えるほどしかいまい。

 トリガーを切り詰め、思索をめぐらし、工夫を重ねながらやっていくしかない。

 

 そんな彼にとって。

 埋めても特にトリオンの消費にもつながらないスパイダーは、非常に魅力的なトリガーに思えた。

 

「よし。なら千佳はエスクード。修はスパイダー。それぞれ訓練をするぞ」

 

 加山の案は、修と千佳の両者へと分けられて実行されるのであった──。

 

 

「これは。エスクードによる地形破壊ですね」

 玉狛の新戦術を見ながら、──同じエスクード使いである加山が解説をしていく。

 

「工業地帯って。でっかい工場プラントがあって。そこに繋がる細々とした路地があるんですよ。で、細々とした路地の向こうに射撃戦で優位を取れる開けた空間がある訳です。このプラント内にある開けた地形内が、諏訪隊と柿崎隊が優位を取れる場所なんですね。中は障害物がなくて、射線が通る。でもその外側にはでかい建物が多くて、狙撃の射線が切れる。狙撃手がいないけど銃手が二枚ある二隊はここを起点に戦いをする予定だったと思います。で、那須隊はその動きを予想して路地で二隊を待ち構えていたと思うんですよ。細い路地は那須さんが一方的に攻撃できるから」

 

 だから。

 その地形を、破壊した。

 

「細い路地は三雲隊長がスパイダーで埋める。そんで──中の開けた空間を見てください。エスクードでもう滅茶苦茶に分断されてる。これでもう柿崎隊と諏訪隊の基本戦術が崩壊するわけですね」

 柿崎隊・諏訪隊の制圧射撃が活きる、開けた空間。

 そこは、夥しいほどのエスクードの山々に埋め尽くされていた。

 もう、射線が通る開けた空間など、そこにはない。

 

「な、成程...」

「ふふーん。さすがはウチの子たちだわ!」

 

 その後マップの動きを見ていく。

 外周部分はスパイダーで埋められ、路地のあちこちをエスクードで埋められていく。

 ある種、玉狛以外の部隊が全員、工業プラント内から閉め出されているような感じだ。

 

「──とはいえ。柿崎隊も諏訪隊も当然、プラント内の様子など知りようもないでしょうから。なんとか中に行きたいはずです。諏訪隊は攻撃手の笹森隊員が弧月でスパイダーを斬りつつ中に侵入していきます。ですが」

「──そうなると、空閑がやってくるという訳か」

 

 スパイダーに意識を割きながら進む。

 その恐る恐る進んでいく足取りの中で生まれる隙を──空閑遊真が突く。

 

 諏訪隊の横側から、空閑が斬り込む。

 

 斬り結ぶ二人を諏訪・堤が散弾銃で援護しようとするその瞬間──両者の前には、また新たな壁が出来上がる。

 

「.....諏訪サンがふざけんな、って叫んでいる姿が目に浮かぶなァ。なあ、加山」

「ですね。──ぶっちゃけこの状況に陥ったら俺も発狂しますよ」

 

 援護が分断された笹森は、周囲のスパイダーまで利用した空閑の空間殺法に耐えられず、緊急脱出。

 

「ここで空閑が笹森と交戦する中、柿崎隊はスパイダーを柿崎隊長・照屋隊員が断ち切って、巴隊員が中へぐんぐん進んでいきます。──ですが」

 

 路地を超え、たどり着いたプラント内。

 その中には──幾つものエスクードでしっちゃかめっちゃかになった空間が。

 

 事態を理解した柿崎隊がすぐさま戻ろうとすると。

 がしゃん、と道が塞がれる。

 

 そして。

 その空間内にあるエスクードの一つが、収納される。

 

 その裏には。

 アステロイドを構える、三雲修の姿があった。

 

 小さな弾丸を柿崎隊に撒く。

 当然のごとく防がれ、反撃の射撃が行使される──が。

 修は別のエスクードまで移動し、そして同時に収納されたエスクードがまた発生する。

 

「うざいですね。これはうざい」

「うざいなんて言わないの。これも戦術でしょ」

「俺が言ううざいは誉め言葉ですよ小南先輩。──しかし、これは」

 

 そしてこれを繰り返す。

 三人で固まっているその間の空間に壁を作りときたま分断させ。

 分断された一人を同じ手口で修が嫌がらせをする。

 

 柿崎隊を、そこに足止めする。

 足止めしながら──抜け目なくスパイダーを張っていく。

 

「着々と出来上がる柿崎隊の包囲網。壁を斬り裂きながらいかなければいけないけど足元にはスパイダー。遅々として進行が遅れて、いつ来るかもわからないエスクードの出現と空閑隊員の襲撃に怯えなければいけない。──割ともう柿崎隊詰みな気がしますね」

 

 自身が優位を取れるはずだった空間。

 そこは──隊を押し込める為の檻だった。

 

「しかし──流石にここまでくれば雨取隊員の位置も割れる」

 

 柿崎隊の襲撃を受けその場を引いていた那須玲は。

 その足で工業プラントの周囲一帯をぐるり回りながら千佳の位置を索敵しまわり、遂に発見する。

 

「──那須隊長、ここで雨取隊員へ攻撃を開始します」

 

 バイパーを周囲に展開させ、プラント東部の製鉄所の鉄塔にいた千佳へ攻撃を開始。

 周囲を取り囲むようなバイパーの軌道。──そこから一点に集中させる軌道へ修正し弾丸を集める技法。

 全方位からの攻撃を警戒しシールドを拡張させての一撃は、数々の防御を貫いてきた那須玲の伝家の宝刀。

 

 だが。

 ──千佳は、拡張させたままその攻撃を防いだ。

 

「....」

「....」

 

 最早無言のまま加山と弓場はその光景を見ていた。

 あの攻撃を防ぐために、加山は訓練を重ねシールドの極細分割術を学んだというのに。

 フルガードすら使わぬまま、彼女はそれを防いだ。

 

 千佳は鉄塔から飛び降り、逃げ去っていく。

 その方向には、空閑遊真の姿。

 

 彼女は自ら作り上げたエスクードを引っ込め、逃げ込み、また塞ぎ。

 逃げていく。

 

「恐らく那須隊長は雨取隊員を日浦隊員で落としたいんでしょうけど。──でもそっちには」

 

 工業地帯は、非常にマップが狭い。

 狭いうえに、狙撃地点も少ない。

 

 ──那須の追い込み方から、日浦の狙撃地点をおおまかに特定した玉狛第二が、空閑を派遣し日浦の首を刎ねていた。

 

「これで玉狛は三点。そして、柿崎隊が足止めされている空間に──諏訪隊長と堤隊員が出てきました」

 

 空閑が日浦を狩りに行っている隙を見計らい、スパイダーを超えて諏訪隊が訪れる。

 その中には──エスクード空間が広がっている。

 

 そこからはもう流れるようだった。

 

 分断された空間の中、柿崎隊と諏訪隊が食いつぶし合う。

 その上を通る那須が横槍を入れつつ乱戦状態を作り。

 その争いの中修は牽制を入れつつ足止めを計るも銃撃にさらされ緊急脱出。

 

 .....雨取千佳のアイビスで空間そのものに大穴が開けられ。

 乱戦に乱入した空閑が乱戦の生き残りを一人ずつ狩っていった。

 

 こうして──ランク戦ラウンド3は。

 生存点含み8ポイントを奪取した玉狛第二の圧勝で終わった。

 

 

「.....総評。総評ですか。うーん」

 

 正直。

 何を語れというのだろう。

 

「とにかく。雨取隊員こえー、が一番最初に来ますね」

 この試合。

 他の隊にとっては試合を一方的に破壊されたに近い状況である。

 

「.....ただ。今回は部隊とマップ条件があまりにも重なりすぎたからこの大惨事になったという解釈もできるので。まだ救いようがありますね」

「部隊とマップ条件の重なり、ですか」

「はい。部隊の重なりというのは、主に諏訪隊と柿崎隊ですね。この二隊が、とにかく開けた場所で撃ち合いをしたがっていたという事。そしてマップが工業地帯というトップクラスに狭くて戦闘区画が限られている場所であったこと。この二つの要素の重なりで──ちょっと雨取隊員が大暴れできる環境が整いすぎていた」

「どのように重なっていたのでしょうか?」

「諏訪隊と柿崎隊が、”開けた場所で撃ち合いたい”って思うじゃないですか。そうすると、その条件がそろっている工業プラント内に行きたがるじゃないですか。その二隊を狙って那須隊も横槍を入れようと動くじゃないですか。──玉狛以外の三隊が、全部工業プラントに全部集まる事になりました」

「.....全部の隊が集まったからこそ、雨取は全部の部隊に妨害を入れられた、ということだな」

「そういうことですね。四部隊のうち二つが同じ場所を目指していた、という要素と。狭くて合流がしやすくて部隊が集まりやすいマップの要素。この二つが組み合わさったことによる悪夢ですね。仮にこれが市街地Bみたいなただ広い空間だったら、ここまで上手くはいっていなかったと思います」

「....成程」

「しかし.....隠れながら一方的に壁を量産できるのは、本当に恐ろしい。機動力が高くて立体的な戦い方が出来る空閑隊員との組み合わせがあまりにも強力すぎる。──これはちょっと、個人的に結構衝撃でした」

 

 言うなれば。

 千佳の居場所が割れない限り、永遠に待ち伏せの戦術が可能となる訳で。

 

 壁を作り、その周囲をスパイダーで固めて敵の足を止め、一方的に空閑が戦闘できる空間を作り上げる。

 その空間内に引きずり込めれば──恐らくは、射手の王、二宮すらも打倒できる戦術であろう。そこまでの脅威を、玉狛から加山は感じていた。

 はぁ、と。一つ溜息をまたついた。

 

 

「お疲れ様ッス」

「疲れたよー」

 

 もう本当に。

 疲れた。

 

 弓場隊作戦室では。観客席から試合をみていたのであろう帯島と外岡が、加山と弓場を出迎えていた。

 

「.....とんでもなかったね。玉狛第二」

「今後、玉狛との試合では狭いマップは厳禁ですね。ありゃあちょっとひどい」

 

 対策を練らなければならない部隊がまた一つ。

 いい加減にしてほしい。

 

「....おう。今回の試合が衝撃だったのは同感だが。切り替えろ。次は俺達も試合だぞ。作戦会議、しっかりやるぞコラ!」

「うっす」

 

 弓場の一声で、皆が一旦あの試合を頭から外す。

 次の試合は、こちらなのだ。

 

「それじゃあ。作戦会議に入りましょうか。──まあ、大体の方針はもう決まっているんで。打合せみたいなものですけど」

 

 玉狛という新たな脅威が出現した以上。

 こちらも点を取れる時にとらなければいけない。

 ──中位でコケている場合ではないのだ。

 




千佳ちゃん本当にどうしようこれ
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