彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦ROUND3 ②

 加山雄吾は別役太一の位置を確認すると同時。

 周囲にエスクードを展開し射線を塞ぎ、ハウンドを放つ。

 

「──うひゃあああ」

 

 ビル群に容赦なく突っ込んでくるハウンドを視認し、即座に狙撃地点より飛び降り、逃亡を開始する。

 

 ──よしよし。

 

 太一の位置が炙り出されたことにより。

 村上が太一のカバーに向かう動きを見せることになるだろう。

 

 この状況下においては、村上がバッグワームを使わずにうろうろしていた事が結構な悪手になる。

 なぜなら──ただでさえ表に出にくい狙撃手部隊である荒船隊総員に位置が共有されているのに、自身の部隊の狙撃手だけが位置が晒されてしまっている現状。

 これがかなり痛い。更に言えば雪で移動力も大きく減衰しているからこそ、猶更。

 

 別役先輩、解る? あんな仕掛けに引っ掛かったこの罪の重さ。

 

 西側から上層に移動する際に著しく邪魔になりそうな村上が、太一側に寄ったことで。

 加山は上層へ移動できる好機を得た。

 

 ──が。

 加山が西側から回り込む動きをする際。

 その軌道上の周辺区画もまた、エスクードで埋め、そしてバッグワームを着込むことなく進んでいく。

 

「.....」

 その動きに。

 舌打ちをする男がいた。

 

 荒船だ。

 ──荒船が加山の意図を読んでいたように、加山もまた荒船の思考を読んでいた。

 

 荒船は加山の釣りを看破し手を出さず。

 加山は看破した事実から逆算し、荒船隊の狙撃ポイントを読んでいた。

 荒船がマークしていたのは、西側上層に繋がる複数のポイント。

 加山が上層に向かう際に使うであろう進路上の射線に集中し、狙いをつけていた。

 加山もまたそのポイントの危険性は理解できていた。

 それ故に、外周をエスクードで覆い射線を制限し、念入りにバッグワームを装着せずシールドをつけたままそのルートを踏破していた。

「──互いの手の内がバレているな、畜生」

 構えていたイーグレットを下げ、荒船は苦笑いと共に別区画へ移動していった。

 

 

「さてさて」

 

 上層に無傷で上がることが出来たが、ここはまだスタート地点。

 やるべきことはまだまだある。

 

 ①上にいる狙撃手の炙り出し

 ②下にいる帯島・外岡の援護

 

 これらを実行する為にも、──下層の方も大まかなお掃除をしなければいけない。

 

 

 ──よし。

 

 現在。

 加山は西側から上層マップへ上った。

 

「外岡先輩・スタンバイできてますかー?」

「大丈夫だよー」

 

 加山は棚田状に広がる住宅区画の一角をエスクードで埋め、

 その周囲をスパイダーを張っていく。

「弓場さん。上の警戒は頼みます」

「おう、任された」

 区画の外側。

 弓場は拳銃を構えながら、周囲の警戒に当たる。

 その中心地にある、鉄筋製の背の低い住居の中自らを引っ込ませる。

 

 これで。

 気にせず好きなだけ下層に弾丸を撃てる環境をお手軽に作れました。

 

「藤丸さん。今起動中の下層のビーコンを落として下さいな」

「あいよ。──しっかりやれよ」

「そりゃあもう」

 

 加山が撒いたビーコンが落ちる。

 

 

「──これより。全員の位置を晒し上げる」

 

 新たなビーコンが発生し、十数秒の時間を待ち。

 加山の両腕には。

 メテオラとハウンドがそれぞれ展開されていた。

 

「ぶっ飛べ」

 

 メテオラを下層に。

 ハウンドを上層に。

 

 それぞれ、放った。

 

 

 それから。

 

「お、おおおおおお!」

 

 下層には、メテオラが襲来していた。

 ダミービーコンが落ちると同時。

 西区画を中心に、特に背の高い建造物が中心となって。

 

「──隊長! 読まれているぞ、位置が!」

「──みたいだな!」

 

 荒船・穂刈のコンビが潜伏している区画内。

 その付近の建造物が、次々と爆撃で吹き飛ばされていく。

 ──加山が上を取り。

 ──そして、まだ下にいる隊員もいる。

 二つ分の視界をもってしても見つからない場所を、順次爆撃し、炙り出しを行う。単純であるが、トリオンの多い加山だからこそ行える物量戦だ

 

 

「──ぐ」

 この爆撃と共に何がやってくるのか。

 解らぬ二人ではなかった。

 

 両者は、それぞれシールドを張る。

 が。

 

「死んだな」

 

 ぼそりと、穂刈が呟くと同時。

 彼の眼前には、──シールドすらも貫く光迅があった。

 

 ──穂刈、緊急脱出。

 

「アイビスか.....!」

 

 穂刈を貫いたのは、トリオンに比例しその威力を増す”アイビス”の弾丸であった。

 

 崩れ行く建物から飛び降りた荒船の前。

 そこにも──更なる弾丸が向かい来る。

 

「おっと!」

 それを避けつつ。

 荒船は──狙撃トリガーのイーグレットも、バッグワームも仕舞って。

 かつての得物であった弧月を手にし、眼前に現れた人間と向かい合う。

 

「荒船先輩。──胸を貸してもらうッス」

 

 そこには。

 同じように、弧月を構える少女の姿があった。

 

「.....帯島か」

 

 荒船もまた。

 逆境に置かれながらも、笑みを浮かべる。

 

「....」

 

 外岡の援護を受けられる状態での、万能手である帯島と向かい合う。

 攻撃手としてマスターランクまで行った荒船としても、この状況は不利に思えるが──。

 

 ──いや。この状況は切り抜けられる。

 

 なぜなら。

 まだ位置が割れていない半崎という駒がいるから。

 

「──いいぜ。ぶった斬ってやる」

 

 

 そして。

 メテオラと同時に放たれたハウンドは天高く浮かび──太一の頭上に降り注ぐ。

 

「げぇ!」

 降り注ぐハウンドをシールドで防いでいく。

 ハウンドは細かく散り、広く雨のように降り注ぐ。

 太一を仕留める、というより足止めしておくためのものであろう。

 

 その意図を、村上は理解していた。

 

 ──未だ下にいる来馬隊長との距離を離したままにしておきたいのだろう。

 

 

 ──鈴鳴第一は、割と盤上の動きがコントロールしやすい。

 

 彼等はある法則によって動いている。

 彼等は合流を目指す。

 何故か? 

 

 隊長を守る動きを徹底しているからだ。

 

 鈴鳴第一は、そう言う部隊なのだ。

 そこにロジックはない。

 来馬隊長はいわば隊におけるメインシステムであり、どれだけ強かろうと村上はそのサブシステム。メインシステムを庇うために、自らの献身も犠牲も厭わない。

 

 それ故に。

 距離を離せば離すほど、鈴鳴の動きに大きく制限が掛けられていくこととなる。

 現在。

 マップは雪だ。

 

 下から上に上がるのにも、相当な労力がかかる。

 そして、爆撃まで

 

 それでも。

 ──やるしかない。

 

 

「──隊長。村上先輩動き出しました。どうしますか?」

「どうする、とは?」

「選択肢は二つ。村上先輩の動きを放置するか、狙うか。前者を取るなら隊長が北側に向かって回り込んで別役先輩ぶっ殺して、俺は下の帯島と外岡先輩の援護に入ります。後者なら隊長と連携しながら村上先輩とやります」

「前者だな。孤立してても、村上は防御能力が高い。仕留めるにしろ時間がかかるし、その間に来馬サンと挟撃されたらたまったもんじゃねぇ。取れる駒を着実に取るぞ」

「アイアイサー。それじゃあ隊長はあのバ.....別役先輩を仕留めに行って下さい。俺はここでまた適当にハウンド散らしています」

「あいよ了解」

 

 そう通信を行い、加山と弓場は別行動をとる。

 

 よし、と一声上げ。

 加山は荒船と帯島の戦闘区画を見つつ、ハウンドを放つ準備を行う。

 

 その時。

 

「お.....おお!」

 

 エスクードで周囲をガチガチに固めた、加山の居所。

 しかし。

 加山が視野を確保せんと少々身体を乗り出した瞬間に──切った射線の、そのほんの少しの間隙から弾丸を通してきた。

 

 それは加山がいる住居の窓を貫き、脇腹へと叩き込まれた。

 

「うっそだろ!」

 

 加山は援護をしようとしたその動きを取りやめる羽目となり、そのまま背後へ下がる。

 

 しゅうしゅうと漏れるトリオン煙を見つつ、ひぇーと呟く。

 

「いや、マジかよ。あんなの想定しようがないでしょ」

 

 そして。

 更に報告が入る。

 

 ──外岡もまた狙撃された、と。

 

 

「ヒットしました。──すみませんけど、両方仕留めるまではいかなかったです」

 半崎は、

 およそ狙撃技術、という一点のみを鑑みれば、ボーダー全体でも五指に入る力を持つ男である。

 ダルイダルイと口にする男はその反面、技術を磨くことには非常に真摯な男であった。

 

 

 加山までの距離。およそ四百メートル。

 そして──外岡までの距離、およそ六百メートル。

 

 加山に関しては、エスクードと障害物の狭間から加山の肉体が出てきた瞬間に、窓枠をぶち抜き狙撃をするというあまりにも高度な狙撃であった。

 それを行使した後、シームレスに六百メートルの長距離狙撃を敢行するという、荒業。

 

 その結果。

 加山は腹部を貫かれ、外岡は左腕が吹き飛ばされた。

 

 このサポートにより。

 

 ──帯島と荒船の間において、弓場隊のサポートを一次封殺する効果が発生する事となった。

 

「──ナイスだ、半崎!」

 

 荒船は確かな賛辞を半崎に送り。

 その足を、更に下の区画へと向けた。

 

 ──障害物に囲まれた、雑居ビルに入っていった。

 荒船はビルの上階に飛び乗り、帯島を待つ。

 

 これで。

 加山のハウンドも、外岡の狙撃も、易々と入れない。

 

「──互いにもう邪魔が入らねぇタイマンだ」

「ッス」

 

 互いに向かい合う場所は、ビルの通路。

 通路そのものが狭く、両端に通り道と階段がある。

 

 帯島は自らの背後にハウンドの弾体を置き、弧月を構え斬りかかると。

 荒船と斬り結ぶと同時、ビルの側面を通りハウンドが荒船へと向かい来る。

 

 シールドで弾丸を防ぐ。

 同時に、斬り結んだ刀身をいなし、帯島の体勢を崩させながら雑居ビルの壁に押し付ける。

 

 ──駄目だ。斬り合いでは、まだ全然。

 

 返す刃で肩口を斬り裂かれながらも、帯島は狭い通路の中身を屈め、足元を狙う。

 それを、荒船はステップと共に避け、更に剣を振るう。

 ステップで空中に浮く一瞬を見計らい、帯島はアステロイドを射出する。

 

 振るう剣は、旋空。

 狭い通路を壁とバルコニーごと斬り裂く。

 

 放たれる弾丸は、急所を守り切りつつも幾つかは当たる。

 

 身を屈めながらも、即座に軸足を起点に回避動作。

 びゅお、と雪に混じる風を感じる。

 バルコニーが斬れたからだろうか。

 

 更に荒船は踏み込みを行い、斬りかかる。

 弾トリガー対策にシールドを設置しながら。

 

 斬り結び。

「ぐ.....う」

 荒船は横に飛びのく帯島を──斬り裂かれたバルコニーから蹴り飛ばす。

 

 雑居ビルから蹴り飛ばされながらも。

 帯島はハウンドで荒船に迎撃をかけようとする──が。

 

「すまねぇな」

 

 ──帯島の頭部が、銃声と共に消し飛ばされる。

 

 瞬間。

 あ、と帯島は思った。

 

 ──互いに、もう邪魔が入らねぇタイマンだ。

 

 その荒船の台詞。

 それが、帯島の頭のどこかにあった。

 

 そうか。

 ──最初からこうするつもりで、荒船は──。

 

「これが──狙撃手部隊の戦い方だ」

 

 半崎の、更なる長距離狙撃により。

 帯島は緊急脱出。

 

 

「──あーダル。すみません、隊長。後は頼みます」

 

 そう言って。

 半崎もまた、外岡に捕捉され緊急脱出。

 

 

「.....後は俺一人か。何とかやってみるか」

 ようやく一ポイントを取れたものの。

 依然として状況は変わりなく不利なまま。

 

「しゃーねぇ。──やるだけやらねぇと」

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