彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦ROUND3 ④

「──隊長、鋼君。気を付けて。弓場さんと加山君がいる場所、どんどんエスクードが張られていっている」

「これ、絶対罠張ってますよね.....。なんて卑怯な作戦だ」

 

 加山の工作は、鈴鳴の目からも見えていた。

 切り立った崖の上にある道路上。

 上下の崖からエスクードを生やし、その間をスパイダーで埋めている。

 

 恐らくこれらの仕掛けは、崖からの襲撃予防の為であろう。

 側面のルートを潰し。

 眼前の正面のルートもエスクードで分断。

 

 とかく、エスクード、エスクード。

 こちらを封殺する準備を着々と進めている。

 

 ──現在、鈴鳴のポイントはゼロ。

 

 弓場隊の待ちの戦術に付き合いたくないのは実に山々なのだが。

 ここで勝負をかけないと勝ちの目どころか得点すら奪えずじまいとなる。

 

「──行くしか、ないね.....!」

「──はい」

 

 来馬と鋼は互いに目線を合わせ、一つ頷く。

 全てが後手後手となってしまった今回の試合。

 ここで取り戻さねば、もう勝負は終わりだ。

 

 

 ──村上先輩に、個人技で勝負をかけようとするのは不毛だ。

 

 そう加山は分析した。

 

 ──多分、二宮さん以上に不毛だ。二宮さんと言えど、「フルアタック時にガードが解かれる」という防御上の隙がある。その隙を作り出すのがあまりにも難解であるが、それでもまだ解決策がある。

 

 村上は、はっきり言えば防御上の隙があまりにもなさすぎる。

 レイガストというノーマルトリガー最強の頑丈さを誇る盾を持ち。

 その崩しのための方策をすべて学習して対応してしまっている。

 きっと今まで村上に立ち向かってきた人間すべてが、死に物狂いで何とかその防護を崩さんとあの手この手で仕掛けてきたのだろう。

 そうしたあの手この手全てを記憶し学習し対応するのが村上鋼だ。

 自分一人で考え出した手法が、今まで幾度となく戦い続けてきた村上の膨大な蓄積の前で超えられるか──と。出来る訳がない。

 

 最強の防御力。

 そして最強の対応力。

 

 この二つを兼ね備えた堅牢さを誇る村上相手に、技量で勝ろうなどとは思わない。

 

 ──物量で、押しつぶす。

 

「来たな」

 

 弓場が言う。

 真正面のエスクードが、旋空をもって叩き斬られる。

 

 それが、スタートの合図であった。

 

「──メテオラ!」

 

 加山から見て左手側。

 切り立った崖の上にある住宅地。

 

 そこには、地盤の上に作られた六重のエスクードの群れがある。

 急勾配の地面に直立するように建てられたそのエスクード群は、棚田状に作られている地盤に、大きな負荷をかけている。

 その負荷となるエスクードの上。

 メテオラの置き弾が一つある。

 

 ビルの解体と理論は同じだ。

 斜めに立つ地盤という硬いものを。

 

 負荷と爆撃で支えを砕き──破壊する。

 

「前は洪水のおかげでもっと簡単にやれたけど──地盤さえ崩せれば、こういう事も出来る訳ですよ」

 

 地盤が崩れ。

 切り立った住宅一棟がご、ご、ごと音を立て──来馬と村上に襲い掛かる。

 

「隊長! 捕まってください!」

 

 村上がスラスターを起動し、来馬に自身の襟を掴ませる。

 地滑りを前に移動したことで防ぐその前に。

 

 エスクードが二つ。三つ。

 

 斬り裂く。

 

 ──エスクードの出し入れに合わせた弓場さんとの連携。

 それはもう嫌というほどに頭に叩き込んでいる。

 加山と弓場の連携の肝だ。

 

 ──横着しない。眼前に出てきたエスクードは全部旋空で潰す。

 

 旋空で潰し視界を早めに確保。

 飛んでくるハウンドも弾丸も全て盾で叩き落す。

 

 エスクードを斬り裂き、視界を確保すると。

 

 そこにはもう、加山も弓場もいなかった。

 

「──そこか!」

 

 弓場は、崖下。

 加山は、崖上。

 

 それぞれ、生やしたエスクードの上に立ち──村上と来馬を挟み込んでいた。

 

「──挟まれたぜ。どうする村上ィ?」

 弓場が崖下から、銃を構え。

 加山がキューブを生成し、──恐らくはハウンドの射出準備に入っている。

「──隊長。弓場さんの弾丸は俺が防ぎますから、加山への迎撃をお願いします」

「了解!」

 

 来馬は崖上の加山へ向け突撃銃を撃つ。

 加山は非常に細かく分割したアステロイドを、一斉に放つ。

 

「.....く!」

 

 来馬・村上全員を撒き込めるほどの弾丸の雨が降り注ぎ、来馬が加山側にガードを固めたその時。

 弓場の弾丸が放たれる。

 

「──させるか」

 

 村上はその弾丸の軌道上にレイガストを挟み込む。

 

 そして。

 弾丸の軌道が──直角に変わる。

 

 ──バイパー! 

 

 レイガストから逃れるようにくるり軌道を変更したバイパー弾は──加山側にシールドを展開していた来馬の背中を突き刺す。

 

「隊長.....くっ!」

 

 事前にその身体を跳ね飛ばし、何とか致命傷は避けたものの──跳ね飛ばした先に指先を構える、加山の姿を村上が捉えた。

 当然。

 この状況下でも、来馬を見捨てるという選択肢は村上にはない。

 

 村上は加山に旋空を放ち足場を崩した上で。

 スラスターを起動し来馬の下へと向かう。

 

「よし。──弓場さん。上がってきてください」

「オーケー」

 

 足場を崩された加山と。

 崖下からジャンプしてきた弓場も、また合流。

 

 村上は来馬に駆け付ける最中で、こちらに反撃する余裕はない。

 対してこちらは、全て想定通りだ。

 

 加山は。

 片手にハウンド。片手にアステロイド。

 共に、弾丸を多く分割して構える。

 

 そして──弓場は、変わらず二丁拳銃のまま。

 

「ダブルの、フルアタックだ」

 

 細やかなハウンドで両者の全体に攻撃を撒く。

 来馬隊長がフルガードを選択し、全体の守りに入る。

 

 そして加山のアステロイドが、今度は村上に集中して叩き込まれる。

 村上はレイガストを盾にこれを防ぐが、それでも全てを処理しきれず、脚や腕の幾つかが貫かれ、削られる。

 

 そして。

 来馬がフルガードし、村上が加山の弾丸の処理をする──その最中で。

 

 弓場の二丁拳銃が火を噴く。

 

 散々に拡張され、削られた来馬のガードを、粉々に砕きながら──そのどてっ腹に、大きな穴を二つ作る。

 

 ──来馬、緊急脱出。

 

「.....隊長!」

 

 そして。

 

 全身を削られた村上は、それでも迎撃に移る。

 

「──外岡先輩!」

 

 そのタイミング。

 こちらのフルアタックを防ぎ、完全に意識が狙撃から外れる、そのタイミング。

 

 ここで──外岡が引金を引く。

 

 

 が。

 

「.....え!」

 

 その瞬間だった。

 外岡の頭部が消し飛んだのは。

 

「──ベストタイミング」

 

 それは。

 荒船が、下側から行使した狙撃であった。

 

「げ」

 

 下側から聞こえた銃声を耳にして。

 加山は一瞬で状況を理解できた。

 

「──最後まで邪魔してくれますね、荒船先輩!」

 

 ──ここで村上と、弓場・加山をぶつけ合わせ戦力を消耗させ、残った人間と戦うつもりか。

 

 村上の旋空が弓場に襲い掛かる。

 弓場、これを射程圏外に引きつつ弾丸を放つ。

 

 斬撃は届かず、銃弾は防がれる。

 加山は村上の左斜めの位置を取り、エスクードで視界を塞ぎながらアステロイドを放つ。

 銃弾を防いだ盾を流れるようにアステロイドに向け、防ぎ、エスクードももれなく旋空にて破壊。

 

 弓場の銃撃はまだまだ続く。

 流れた盾の動きと連動し身を捩り弾道から回避。

 加山はまた村上の視界を塞ぐようにエスクードを射出──するふりをして、崖側から村上を背中から押し出す壁を射出。

 

「そのエスクードの使い方は知っている」

 

 村上の脳裏には、かつて──地面から這い出たエスクードに跳ね飛ばされた笹森の姿が脳裏に浮かぶ。

 それ故に対応が速い。旋空を以て崖を崩し、エスクードを根元から叩き斬る。

 

 ──おいおい。

 何をしても。

 何をやっても。

 対応される。防がれる。

 

「焦るなよ、加山。──集中してじっくり削れ」

「.....ッス」

 

 大丈夫。

 それでも村上はこちらの攻めに、攻撃をねじ込めていない。

 

 弓場に、旋空。

 弓場は当然それを避け、反撃の銃弾を叩き込もうとして──。

 

「──弓場さん!」

 

 加山がその瞬間に、シールドを弓場の前に展開する。

 

 そこに、荒船の銃弾が入る。

 

 ──荒船は村上と加山・弓場が交戦している間に、まんまと上を取り狙撃地点についていた。

 

 ここで弓場のサポートに入った分攻撃の手を緩めてしまった加山に、村上が斬りかかる。

 左腕が斬り飛ばされながらも、シールドからハウンドをセット。

 たたらを踏んだその先、崖が見える。

 

 ──崖に追い込まれた。なら。

 

 加山は崖にエスクードを出し、そこを足場に飛び移る。

 

 ──俺と弓場さんが、これで上下の角度もとれるようになった。

 

 崖下の加山に視線をやれば、弓場の早撃ちが来る。

 弓場に意識をやれば、加山のハウンドが来る。

 

 村上の選択は、

 

「──旋空弧月」

 

 旋空を足元に伸ばし、

 道路と、その下にある地盤ごと加山の足場を破壊するという荒業から、流れるような弓場への斬撃であった。

 

「──ったく。無茶苦茶なことをやりやがって」

 弓場は笑みを浮かべて、一連の村上の攻撃にそう呟いた。

 強い。

 これが、これこそが──村上鋼の強さだ。

 

 崖に刃を入れられた加山はその場を飛ぶ。

 

 ──来る。来るだろう。解ってんだよ来やがれこん畜生! 

 空中に飛んだ加山は、絶対に荒船の狙撃が来ると予感し、シールドを装着。

 意識を狙撃に向け、次なる足場に移る。

 足場に移り、着地。

 その瞬間飛んできた弾丸は──加山がシールドを張った頭部ではなく、足先であった。

 

 左足が削られる。

 

「......」

 

 ──やっべぇ。超ヤベェ。腹立たしくて仕方がない。あの時の爆撃で、何で死んでねぇのあの人。

 

 きっとあの爽やかなんだか粗野なんだかわからないほくそ笑みでこちらに狙撃銃向けてんだろうなぁ、という確信を覚えながら、加山は崩れそうになる体勢を何とか整える。

 

 左腕に左足が削られながらも、加山はそれでも村上にハウンドを向ける。

 

 村上のトリオン反応に追いかけるように設定し、射出。

 空高く打ち上げ、追尾機能を一番最後に強める。

 村上の防御は拡散させても大して意味がない。散らしたところでレイガストの防御機能は変わらない。

 ならば一点に集める。そこにレイガストを向けざるを得ないような、そんな弾丸を降らせる。

 

 加山はエスクードを階段のように作り、右足で崖から登りながら、村上と弓場の戦いの様子を見る。

 

 弓場が村上の旋空射程内に入り込みながらステップを踏み弾丸を放ち、村上の腹部を抉る。

 ここだ、と加山は思った。

 

 もう一度。

 フルアタック。

 

 時間差で落ちてくるハウンドに気を取られている村上に。

 側面からアステロイドを放つ。

 

「.....」

 スラスターを起動し背後に向かいアステロイドを何とか避ける。

 しかし追尾機能を強めたハウンドが村上の頭上を追いかける。

 

 同時に弓場の手に握られた、二丁拳銃。

 

 それでも。

 それでも村上の防御は見事であった。

 

 頭上のハウンドをレイガストを飛ばすことで押し返し。

 スラスターを飛ばし防護した分、出来た時間差で、弓場の銃撃を回避。

 

 ──いや。何でこれで死なねぇんだよ訳わからねぇはやくくたばれ。

 

「安心しろ加山。──勝負あり、だ」

 

 弓場がニ、と笑みを浮かべ。

 回避する村上を見る。

 

 直進する弾丸は──途中、回避する村上の方向に、曲がる。

 

「バイパーだ」

 

 村上はその心臓部に、銃弾を叩き込まれた。

 

 ──村上、緊急脱出。

 

「....」

「....」

 

 ガギン!! 

 

 勝負が決まった瞬間の、心理的な油断を突こうとしたのだろうか。

 荒船の弾丸が加山に向かう。

 

 当然──もう既に予測していた加山と、弓場のシールドによりそれは塞がれる。

 

「──ま、ここまでかき乱したし。もう無理だな」

 

 荒船は。

 その後自発的に緊急脱出を行った。

 

 こうして──。

 「終わった......ようやく、終わった」

 

 弓場隊は生存点含め7点を取り、勝利を収めた。

 これまでにないような、非常に疲労感のある終わりであった。

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