彼方のボーダーライン   作:丸米

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なんか最近人間ドラマっぽくなってきてあんまりワートリっぽくない気がする。
まあ、いいか.....。


綴蓋の底の黒き淀みは

「....」

 

 加山が支部から本部に戻り。

 玉狛支部は暫しの沈黙が続いていた。

 

「──近界を滅ぼす、か」

 

 木崎レイジは目を瞑り、鼻頭を抑える。

 

「そうするしかない、と思う奴が現れても仕方がない状況ではあるんだな...」

 

 元々ボーダーは。

 十数人レベルの、小さな組織だった。

 近界との交流を目的とした組織で。

 ただその中でメンバーが次々と死亡して。

 第一次侵攻で数千人が近界に連れ去られて。

 

 その流れの中。

 

 ボーダー創設時のメンバーである城戸正宗が、現在のボーダーを作り上げた。

 防衛を主目的とする組織に作り替えた。

 交流組織が防衛組織へと変わり。

 ボーダーは軍隊となった。

 

 そうして。

 近界から市民を防衛する意思を持った正義感の強い人間や。

 近界への憎悪を膨らまし、その復讐を願う人間や。

 

 近界を敵視するという部分を共通項とした人間をかき集め。

 今の組織が出来上がった。

 

 そうした人間の中の一人。

 そして──あの第一次侵攻によって出来上がった人間。

 

 それが加山雄吾であり、そこから生まれた近界を滅ぼすという意思なのであろう。

 

「...」

 

 遊真は。

 何も言わず、ただひたすらに考え込み──そして自室へと戻っていった。

 

 修は。

 

「...」

 

 あの宣言を受けた後でも。

 どうしても──加山を敵として認識することが出来なかった。

 

 

「なあ、レプリカ」

「どうした、ユーマ」

 

 自室に戻った遊真は。

 彼のお供であるレプリカに話しかけていた。

 

「カヤマみたいな思考は、普通にある事なのかな」

「幾らでもいる」

 

 遊真の疑問に。

 即座に答える。

 

「仮に。誰かが大事な人を殺され。その復讐をするとしたとしよう。だが復讐を完遂すれど、次の復讐がまた生まれるだろう」

「だから.....根も葉も全て叩き潰すのか」

「そういう事だ。──恐らくカヤマはそういう思想の人間だ。玄界の人間を攫う近界をどうすれば止められるのか。最終的な結論として全てを滅ぼす事を決めたのだろう」

「.....近界から人を攫わせないようにする、というだけなら。まだ他のやり方は無いのかな」

「あるかもしれない。でもそれを探している間にも人は攫われるかもしれない。ならば手っ取り早く全員消えてもらう....という考え方もある」

「ふむ...」

 

 仮にだ、と。

 レプリカは言う。

 

「カヤマは自分がやろうとしている行為が殺人であると理解している。──現状を滅ぼすことなく変えることが出来るのならば、その方法をとるだろう」

「.....まあでも。そんな方法があるならもうやっているよな」

「ああ」

 

 恐らく、加山も考えなかったわけではなかったのだろう。

 殺人以外の方法で現状を変える方法を。

 しかし見つかることは無く。

 彼はあの決意を持つに至った。

 

「それ故に、今は対立するしかないのだろう。──気になるか?」

「そりゃあね。──カヤマはおれに対して嘘をつくことはしなかったし、玉狛に掛け合ってくれたしね。仲良くできるものなら仲良くしたい」

 

 とはいえ、という。

 

「敵だ、って言っても。結局ランク戦で勝ち切らなければいけない相手なのは間違いない。....弓場隊は強い」

「そうだな。彼等は強い。──どうだ。前回負けた相手だが。攻略の糸口は見えているか?」

「千佳の援護があれば....と言いたいところだけど。同じエスクード使いのカヤマがいるから。多分誘いには乗ってこない。弓場隊の攻略は別のものを用意しないといけないとは思う」

 

 ──でも、と遊真は言う。

 

「俺には時間があるから。次に当たる時まで、どうにか攻略の糸口を見つけるとするよ」

 

 時間がある。

 ──遊真は生身の肉体を持っていない。

 生身の肉体は、黒トリガーの中に格納されている。

 普段の生活も、ボーダーの生活も。双方ともに睡眠を必要としないトリオン体で行っている。

 

「──A級にならなきゃいけないって目的は、今も変わらないから」

 

 

「──次の対戦相手は、香取隊と二宮隊だ」

 

 加山が玉狛を訪れた、その次の日

 弓場隊作戦室。

 次の対戦相手が公表された。

 

「二宮隊は勿論の事。──香取隊も相当強くなっている。今上位がウチと玉狛が上がって、代わりに落ちた部隊の中に東隊もいる。奴らが、東隊を蹴散らしたんだ」

「ですね...」

 

 帯島が一つ頷く。

 

「前回のランク戦。記録を見たんですけど....王子隊、香取隊、東隊の三つ巴戦。香取隊が4得点を挙げて勝利しているッス」

 

 その4得点。

 全て香取葉子がぶんどったものだという。

 

「隊としての連携の練度もあがってたけど....何より香取ちゃんの単騎での得点能力が本当に高くなった。A級でもエースを張れる動きをしている。本当に、今の香取隊は強い」

「.....えげつな」

 

 風間を師匠とし、ひたすらに鍛錬を重ね、実力者との戦いに身を投じてきた香取葉子。

 得点能力の向上もそうであるが。

 ──ランク戦での生存能力も飛躍的に上昇した。

 

 ここが非常に大きなポイントで、大暴れして敵を集めて囲まれて離脱する....というような今まで香取によくあった光景が今やほとんどない。

 暴れながらも周囲を見渡せる視野の広さが、今の香取にはある。暴れながらも、残り二枚の隊員へ適切に指示を出し脱出路を確保するだけの思慮を手に入れた。

 

 チームコンセプトそのものは大して変わっていない。香取が暴れ、若村と三浦がその脇を支える。

 しかし。

 主柱となる香取が戦闘面・視野の広さに大きな成長が遂げられたことで、暴れられる時間が非常に長くなった。

 

 その分だけ得点能力が上がり、現在の順位は生駒隊に次ぐ4位。

 

「──二宮隊とかち合っているときに、横槍でしれっとポイントを取ってくることもあり得る。衝突している瞬間こそ、油断はするなよ」

「了解」

 

 ──さあて。

 次の試合が、弓場隊での初上位戦となる。

 その相手の中に二宮隊が入っている。

 

 これは前向きにとらえるべきだ、と加山は思った。

 

 二宮隊相手に考えていた策を提示し、通用するか否か。

 第四ラウンドというまだランク戦の折り返し地点にもいっていないタイミングでもある。そして、ここで叩きのめされて仮に中位に落ちれば、それはそれでまた大量得点の好機ととらえられる。

 

 自分たちの現在地点を知るには、一番いいタイミングだと。

 そう加山は感じていた。

 

「──加山。お前はこのランク戦、どう戦う?」

「本当はクソギミックの二宮隊長はほっときたい所なんですけど──積極的に戦いましょう。二宮隊長のキルを狙います」

 

 ほう、と弓場は呟く。

 

「こっちの戦術への対応をどうするのか。通用するかどうか。その辺り知っておかなければ後々に繋がらない気がするんですよね。中位戦は、言ってしまえば俺の戦術のごり押しで得点になってました。だから....俺としても戦術に対して相手が取る対応と、その更なる対応も含めて。知っておきたいんです」

 

 戦術を通す、という行為を今まで中位戦で行ってきた。

 

 だが。

 二宮隊相手に、そう易々と通るとは思えない。

 だからこそ。

 通らなかったときのリカバリや、その後の指揮。

 

 そう言った部分を出来るだけ知り、隊の現在地を知りたいのだ。

 

「──とはいえ。何の考えもなしに二宮サンを狩ろうとしている訳じゃねぇだろ。どうするんだ?」

「最終的には、俺と弓場さん。──二人で連携して倒しに行くことが大前提になりますね。その状況に持っていくことが第一のゴール。その為には──脇二人がどんな形であれ死んでもらわなくちゃいけない」

 

 脇を支える、犬飼。そして辻。

 

 この二人を始末したうえで、弓場と加山が生き残る事。

 ここまでまずもっていくことが、──二宮を仕留める最低限の条件だ。

 

「──そこまでの道筋に関しては、まだちょっと考えさせてください」

「了解。まだランク戦まで時間はある。しっかり考えてこい。──各自もそれぞれ、次の対戦相手の記録は追っとけよ。特に香取隊の直近の記録は全員が共有しとくように」

 

 

「──次の対戦相手は、弓場隊と二宮隊か」

 

 香取隊作戦室。

 若村麓郎はううむ、と喉を鳴らす。

 

「加山君、弓場隊に行ったんだね。──手強そうだ」

 

 三浦もまた、そう続ける。

 

「なあ、葉子。お前はどう──」

 

 ソファに座りながら端末を見ていた香取は、

 若村のその言葉に、眉を顰める。

 

「なに? どう思うって? ──強いに決まっているじゃない。馬鹿じゃないの」

 

 底冷えするような、そんな声だった。

 

「二宮隊に、弓場隊。二宮隊は勿論、弓場隊はエース以外も狙撃手も万能手も加山もいる。中距離でも遠距離でも劣るアンタたち二人で跳ね返せると思ってるの? ──くだらないこと言う前に少しは頭を働かせろ!」

 

 香取のその声は、本気だった。

 本気の声だった。

 

 ヒリつくような緊張感が、その言葉を起点に作戦室全体に行き渡る。

 

「アンタ達二人。暢気なこと言っている暇なんてないの、解ってる? 今まで二人とも加山一人抑えられないのに、部隊戦仕掛けられて跳ね返せるとでも思っているの? ──いい? ウチと二宮隊。戦力を考慮した時、弓場隊が何処からポイントを取ろうとすると思う? アンタたち二人よ。間違いなく。だって弱いんだもん」

 

 若村も。

 三浦も。

 双方とも、沈黙を続けていた。

 

「結局。二人とも何とか連携が形になってきたけど。結局戦況に合わせての陣形も作ることが出来なかったから、今までのやり方を通す事しか出来ていない。二宮隊も弓場隊も、もっと複雑な連携が出来ているわよ。でもウチ等は出来ていないの。だからアタシが点を取りに行く間アンタたちは見事に浮いた駒になる──その中で襲い掛かられる状況だって、解ってる? どうやって生き残るの? 一番死にやすい駒はアンタ達よ?」

 

 沈黙が続くのは。

 二人に香取の言葉に対する返答が用意されていないからだ。

 

「そんな状況なのに、次は手強そうだねー、なんてよく言えたものね。──もっと危機感を持て! せめて自分たちがどうやって生き残ればいいのか、必死に考えろ!」

 

 香取は苛立ちやすい。

 それは彼女が本気であればあるほど、そういう側面が浮き上がってくるから。

 

 ある側面から見れば、横暴に映るかもしれない。

 しかし──若村にはこの香取の態度を横暴と断ずることは決して許されない。

 

 それは。

 以前まで同じように自分も香取に同じことを言ってきたからだ。

 

 香取の煮え切らない様子に苛立って、その苛立ちをぶつけて。

 それも。

 自分よりも遥かな実力も才覚も持つ、香取葉子にだ。

 

 本気になれ。

 もっと努力しろ。

 

 ──自分が本気になっているのか。本気で努力しているのか。

 そういう部分からは、何処か目を背けて。

 

 そして。

 香取葉子は本気になった。

 本気になった彼女の言葉は、かつての自分が投げかけていた言葉よりも何倍も重く、鋭い。

 

 その重さや鋭さを感じるたびに。

 自分のかつての言葉の軽薄さを思い知るのだ。

 

「....」

 

 そして。

 作戦室の奥。

 カリカリと静かに課題をこなしていた染井華は──つい先日買ったという音楽プレイヤーから伸ばされたイヤホンを外し、全員を見た。

 

「葉子」

「.....なに? 華」

「葉子が言っている事は本当に正しい。──正しいからこそ、一緒に考えてあげよう」

「...」

 

 ピ、とプレイヤーを切って。

 ぎこちなく、笑いかける。

 

 このぎこちない笑みの、ぎこちなさが。

 ふ、と。作戦室の緊張が和らがせる。

 

「....取り敢えず。二宮隊、弓場隊それぞれどう点を取るか考えるわよ。こっち来て」

 

 染井華の言葉に毒気を抜かれ、落ち着きを取り戻した香取は、静かにそう言った。

 

 

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