彼方のボーダーライン 作:丸米
「皆さんこんにちは。B級上位、昼の部ランク戦。実況を担当させていただきます。三輪隊オペレーターの月見です。続いて解説を務めて頂きますのは──」
端正な顔に、流れるような黒髪を湛えた女性が、事務的かつ滑らかな声で、そう挨拶をかわし、
「B級影浦隊、北添で~す」
「A級玉狛第一、木崎だ」
恰幅も切符もよさそうな熊のような男と、
筋肉を煮詰めて鎧と化したゴリラのような男。
二人が、解説席に座っていた。
「....以上、三人で進めさせていただきます。よろしくお願いします」
「よろしく~」
「....よろしく」
美女の隣に。
デカい男が二人。
視覚的なインパクトをふんだんに詰め込んだ三人が一礼。
「昼の部は、二宮隊、香取隊、弓場隊の三つ巴戦。暫定6位の弓場隊が選んだマップは市街地Bです。この選択をどう捉えますか?」
「原点回帰、って感じがするな~。弓場隊、元々ずっと選択権がある時は市街地Bだったし」
「狭いマップだと、二宮隊に即座に合流されるからだろうな。単騎の駒を狩るのが上手い弓場と、合流を分断できる加山。そして機動力が高い香取の取り合わせも含めて、二宮隊が集まりにくいマップ設定をしているのだろう」
成程、と月見は呟く。
「総合力が抜きんでている二宮隊が合流するのを嫌っている、という事ですね」
「総合力もそうだが、二宮という駒の特性も大いに関係しているだろうな。単独で相敵してしまえば確実に駒が一つ消される」
二宮は、個人総合で太刀川に次ぐ2位につけている男である。
それも、本来ならば個人でポイントが取りにくい射手というポジションで。
そんな相手とタイマンで相敵して切り抜けるだけの実力を持つ人間がB級にそもそもいないのだ。
「弓場隊がマップ選択権を持ったのはラウンド2での一回のみだが。あの一回で暴風雨という気候変更の手を打っている。──加山という特異な駒がいる故に、何かしらの奇襲をかけてくる可能性がある。間違いなく、正攻法で二宮隊を超えようとはしないだろうからな」
「弓場隊はまだ当たったことがないけど、加山君が入隊してガラリと戦法が変わった感じがするね。エスクードどーん、からのダミービーコンでの退路を確保するの。すんごく厄介」
「今回、二宮という駒がいる関係上、地形戦での有利がかなり制限される。──どう動くのか、注目をしようと思っている」
「成程。それでは試合開始まであと僅かとなりました。──転送を待ちましょう」
※
「──市街地Bね。まあウチにとっては特に有利不利もないわね」
香取隊作戦室内。
隊長である香取葉子の弁舌が、飛ぶ。
「二宮さんは無視。単独で当たった場合は徹底的に逃げ回って時間稼ぎして死になさい。アタシと雄太、麓郎のどちらかが生きてて、連携を取れる状況でない限り二宮さんには手を出さない。──その分脇二人は積極的に仕留めていくわよ。──いい?」
香取は念押しするように、再度呟く。
「注意するのは弓場隊の狙撃と二宮さん。弓場隊は多分──最後に二宮さんと直接対決する図式を欲しがるはず。だからその前に、邪魔な二宮隊のサポーター二人とアタシ達を排除にかかるはず。ここで応撃して点を稼いでいくわよ。だから狙撃で仕留められるのはNG。──華。狙撃地点の割り出しは可能な限り早くお願い」
「了解、葉子」
「いつもの通り。アタシは機動力活かして浮いた駒をかっぱらって行くから、アンタ達二人は最終局面まで生き残りなさい。──はい。これで基本方針終わり。後は転送を待つわよ」
※
「こっちの狙いは。とにもかくにも犬飼先輩の無力化っすね。二宮さん倒すにあたって、あの人が一番邪魔です」
弓場隊作戦室。
そこではいつもの通り──壁に腰かける弓場を中心に視線を向けて、全員が話し合いを行っていた。
「ただあの人の序盤の行動パターンは割と限られているので。陽動で香取隊の駒を集めておけば、盤上の調整をしにやってきます。ごちゃっとした場所を作って釣れれば最高ですね」
「簡単に言うが、香取隊を集められる算段はあるのか」
「香取隊集めるのはそこまで難しくない気がしますね。──あちらさんも、ウチから点を取りたいはずですし。ビーコン撒いて負荷をかければササっと来てくれる感じがします」
そして、と加山は続ける。
「今回、狙撃手が外岡先輩だけなんで。射程の有利が活きているうちに得点を取っていきたいですね。──とはいえ、二宮さんに目をつけられたら即殺されるので、あんまり出し惜しみもなしで。今回はエスクードを中心に据えるより、ダミービーコン中心に使って行きます。二宮さんにあんまりエスクードは効果ないですし。──帯島」
「ッス!」
「今回の作戦。二宮さんとの対戦に行くまでに、どうしても俺と隊長は生き残らなければいけない。申し訳ないが、その分負担が行ってしまう。──死ぬのは恐れず、積極的に敵さんぶっ殺してくれ」
「了解!」
「隊長。──序盤は香取隊の駒を中心に仕留めていって下さい。どうにか俺と外岡先輩で敵の駒を浮かせていくので、浮いたところからバンバンと」
「あいよ」
「それじゃあ。──頑張って二宮さんぶっ殺しましょう」
「おゥ。──厳しい戦いになるとは思うが、今回は幾つか隠し弾も用意している。二宮サンは強敵だが、無敵じゃねェ。しっかりぶっ潰していくぞ」
※
そうして。
「──転送が開始されました」
市街地Bは、晴れ間が広がっている。
燦燦とした日光が照り付け、市街地の建造物のガラス窓が反射する。
「....これは?」
「──気候の変化、というほどではありませんが。雲を完全に取り払った快晴状態にしているのだと思われます」
カメラがとらえる空の様子には雲一つなく、容赦なく日差しを浴びせている。
「うーん。多分狙撃手のトノ君を活かすための手段かな。あそこまで晴れてたら影が見やすいし。狙撃手としてはとても敵を見つけやすい」
「....それが一つと。そして」
転送直後。
加山は自身の位置を確認した後、すぐさま周囲の建造物をチェックしていき、中に入りダミービーコンを設置していく。
強い日差しがガラスに反射し、見にくくなっている地点。
そこにビーコンを設置していく。
「ああやってガラスの反射光で見にくくなっている部分にビーコンを置くこともできる。地味だが、多少なりとも見つかりにくくなる」
「うわぁ。抜け目ない」
そして。
単純に日差しが強ければ影がより相対的に濃くもなる。そこにダミービーコンを仕込めば、通常よりも見つけにくくなる。
ビーコンを見つけにくくすための手段でもあるのだろう。
「快晴だと、二宮隊の隊服は見つけやすいだろうしね」
「.....黒スーツだからな」
「黒スーツだもんね」
「....それでは、それぞれの部隊の転送位置を見ていきましょう」
加山はマップ南西のビル群
帯島はマップ南東の自然公園
弓場はマップ東の住宅街
外岡はマップ北西の路地
「弓場隊は、加山隊員と外岡隊員の距離が比較的近く、そして弓場隊長と帯島隊員がそれぞれ離れている形となっています。そして他の隊は──」
香取隊は、隊長の香取がマップ中央に転送。若村と三浦は加山に近い西側。若村、三浦は近いが隊長の香取とはかなりの距離がある。
そして──二宮隊。こちらは二宮がマップの東側に転送され、北に犬飼、南に辻。それぞれ微妙に離れている。
「転送位置としては、若干香取隊が有利でしょうか」
「若村と三浦の転送位置がいい。弓場・二宮から遠く、加山に近い。弓場隊は序盤に大掛かりな戦術を仕掛けてくることが多い分、合流して対処できるのは大きい」
香取隊は若村と三浦が合流を行い、香取も南側に迂回しながら西側に移動する動き。
二宮隊は辻が二宮側に移動し、犬飼は逆の西側に向かっている。
「──西側に戦力が集まってきているな」
そして。
「合流した若村・三浦隊員に向け──加山隊員がハウンドを放ちました」
西側に向かう若村・三浦に向けて。
加山雄吾のハウンドが放たれた──。
※
晴れ晴れとした空の上。
ハウンドが降りかかる。
「──おっと!」
若村・三浦はその弾丸を認識した瞬間、散開し避ける。
瞬間。
蘇る記憶。
加山は二手に分かれた若村と三浦の間にエスクードを作り出す。
──弾丸を浴びせ、エスクードで分断する。
二人が嫌というほどに味わわされた──いつもの加山のやり方であった。
「くそ! 分断された! ──雄太! 加山の位置は.....」
「駄目だ! 加山君はビーコンに紛れてる!」
奇襲と同時に発生したビーコンの反応。
それらが二人の周囲四方に発生し、自らの位置を誤魔化している。
「──二人とも落ち着いて」
オペレーターの声が両者の通信に乗せられる。
「まずは合流を優先。ビーコンに紛れて撃つにせよ、バッグワームで紛れてからの奇襲をするにせよ、まだ距離がある。合流の余裕はあるはず」
「....了解」
「葉子もこちらに向かっている。それまで持ちこたえて」
そう。
加山からの襲撃を受け、香取がこちらに向かっている。
エースが合流できるなら、少なくとも加山の奇襲は抑えられる。
「──雄太。合流したら一緒に防御を固めるぞ。葉子の到着まで、持ちこたえる」
「了解、ろっくん」
ビーコンに囲まれた地帯の中。
二人はその中心に向かい、合流に向かっていた。
不気味なことに。
加山からの追撃は、無かった。
※
「そうそう。それでいいんすよ。そのままここにいて下さい二人とも」
加山は。
作り上げたビーコン地帯の出入り口をエスクードで封鎖しながら、周囲を練り歩く。
「──隊長。初動は成功です。香取隊をこっちに引き寄せる事は出来ました」
「了解。なら作戦に変更はねぇな」
「うす。そのまま指定のルートを通ってこっちに来てください。──外岡先輩の狙撃援護可能区画っす。藤丸先輩、頼みます」
「あいよ」
「──こういう乱戦区画が出来たら、まず犬飼先輩が盤上の把握と整理に来るのが二宮隊の定石ですので。あの人をこっちに引き込みます」
序盤の加山の動きは。
その全てが──犬飼をこちらに引き込むための戦術だった。
香取隊の全員が合流し、そして加山が確実に存在する区画。
戦闘員を一気にかき集めるような行動をこちらが取れば。
──片方の部隊が一気に点を取るような事態を阻害する為に、必ず犬飼がやってくる。
「まずはあの人をぶっ殺さんことには二宮隊の攻略は無理ですし.....引き込んだ香取隊も適時使いながら、きっちり仕留めましょ」
無論。
易々と仕留められるとは思ってはいない。いない、が。
それでも加山には、犬飼以上の引き出しがあるという自信はあった。
「一緒に二宮さんも来るようなら、あの人が場を荒らしているうちに取れる駒取って撤退します。──まあでも、ここは犬飼先輩が単独で来るような気がしますけどね」
恐らく二宮は序盤は駒の配置を炙り出した上で動く。
加山側に寄ってきたこの場所においても、まだ加山の位置も判然としていない。そして弓場隊においては未だ帯島・外岡も位置をくらましたまま。そして東側には弓場もいる。
このまま二宮隊総員で加山がいる西側に来てしまえば、背後を取った弓場+αと加山の挟撃を受ける可能性もある。
ならば。
二宮側が東側を索敵しつつ、
犬飼が西側に来るという行動の方がしっくり来る。
「犬飼先輩が来た時点で、一気に動くぜ。──帯島。準備は出来ましたかい」
「はい!」
「こっからはスピード勝負。香取先輩と犬飼先輩が来た瞬間からがスタート。やってやりますかね」