彼方のボーダーライン 作:丸米
「──香取隊、ここで犬飼隊員を撃破し1ポイントが加算されます」
落ち着いた声音の実況と共に。
周囲の観客席からはざわめきが響いていた。
ビルが爆破すると同時に射線が開き、狙撃によって犬飼を削り──香取隊が1ポイントを取得。
「いやー。.....これは。何というか本当に執念を感じるなぁ」
「.....方針が見えてきたな。弓場隊は、二宮を落とす気でいる」
解説員の北添と木崎は、それぞれそう呟く。
「流れとしては。香取隊を引き込み犬飼を釣りだしているのだが。そこまで単純な話ではない」
加山はダミービーコンで香取隊の二人──三浦と若村を引き込み、その足止めを行った。
エスクードで分断行為による各個撃破....は目指さず。
分断は示威行為のみに終わり、両者を合流させ、後は追撃しない。
二宮隊は貪欲にポイントの取得を目指す部隊だ。
彼等には二宮というトップクラスに点が取れる駒があり、そしてその駒を活かすためのサポーターも強力。
それ故に。
防がなければいけないのは、自身以外の隊が大量得点を獲得するような状況だ。
この場合は。
弓場隊である。
「あの犬飼君を釣る動き、事実上餌にしていたのは──加山君自身だもんね」
北添はうーん、と呟きながら。そう言った。
その発言に、木崎は頷く。
「そう。二宮隊は香取隊を犬飼と二宮によって西側に押し込み、加山が動き出す時に仕留められるように辻を迂回させて派遣していた」
加山は香取隊を押し留め。
犬飼は香取隊を押し込む。
この構図になれば二宮と犬飼の圧力に負け、いずれ加山も動かざるを得なくなる。
その時に加山を辻に斬らせる──というのが二宮隊が描いていた絵図であった。
「その絵図を読み切った加山は、辻が到着する前に早々とその場を脱出していた。脱出がギリギリまで悟られぬように、エスクードとダミービーコンで発射地点を隠したハウンドを香取隊に撃ちながら」
加山からの攻撃がなくなれば、香取隊も二宮隊も加山の脱出に勘付くかもしれない。
それ故に加山は逃げながら、発射地点を隠しハウンドを撃ち込んでいた。
相手にはハウンドを隠しての急襲をかけているのだろう、と想定を与え。
実態は逃走を隠すための攪乱。
「かなりのリスクがある。逃走経路を一つでも間違えれば。事前に設置したビーコンの位置を間違えれば。逃走の判断も早くても遅くても加山は仕留められただろう。──それでも、二宮隊に対して加山は正答を選び取った。──加山は戦術を想定する事に関しては、かなり極まっている感じがある」
その結果。
北側に迂回しながら犬飼の動きを先回りし、ビル爆破の準備の時間も稼ぐことが出来た。
「犬飼君は本当に隙のない銃手だから。狙撃が通る道を滅多に通らないし、警戒心も強い。だから香取ちゃんを動かして犬飼君を追い込む必要があったし、狙撃地点を空ける必要があった」
「犬飼が引いていく動きを事前に察知して、攻撃に向かった香取の動きもいい。点を取る為の嗅覚がずば抜けている」
「香取ちゃん、以前からおっかなかったけど。昨シーズン辺りからかな。身のこなしの無駄がとんでもなくなくなっていったんだよね。一回、ウチのカゲもやられているし」
「....香取隊は香取隊で加山と犬飼に翻弄されつつも、結局は隊員を一人も落としていない。以前とは見違えるほどに強くなっている」
様々な思惑が動き回った序盤であったが。
ここにおいては、ひとまずは加山の想定が上回った──という結果であった。
「とはいえ。──外岡の位置も割れ、加山の位置は香取隊と二宮に挟まれている。犬飼は仕留められたが、加山はまだまだピンチだ」
そう。
加山は現在香取隊に一番近い位置にいる。
犬飼を仕留める、という目的を達したが。
──結局ここで香取隊に仕留められれば、弓場と合流して二宮と対峙する目的は叶わない。
まだまだ。
加山の正念場は続く。
※
香取は犬飼を仕留めると同時。
すぐさま爆破があったビルの方向へと走り出していた。
──ここで加山は仕留める。
ここまでいいように扱われた事で頭が沸騰したから──という訳ではなく。
ここで仕留めておかねば、とにかく面倒なことになるという予感からだ。
若村と三浦の位置を確認。
ビルの爆撃地点を確認。
そして──今しがた新たに反応が生み出されていくダミービーコンの位置も確認。
「麓郎! 雄太! ──合流して回り込んで! 華! 外岡の狙撃地点の割り出し! 急いで!」
素早く仕留めなければいけない。
自分から見て恐らく最短の距離に加山がいる。
しかし、東側には変わらず二宮というジョーカーがおり、弓場隊の伏兵も紛れ込んでいる。
加山は犬飼を仕留めたと同時、すぐにビーコンを発動させた。
もう既に逃亡を開始しているはずだ。
──雲隠れされる前に、狩り出さなければならない。
香取隊の勝利条件は、弓場隊を二宮隊に先んじて狩り、そして誰か一人でも生き残る事。
その条件を考えれば──放置すればするだけロクなことをしない加山は第一に仕留めなければならない駒だ。
※
「香取隊は二手に別れて俺を追っている感じだね。二宮さんは、あの位置から動かずに──辻先輩と合流したか」
香取隊の動きは解りやすい。
俺を追ってくるのだろう。
「ただ──俺がいる位置も、十分に二宮さんの射程範囲内なんすよね」
辻と合流した事で。
二宮の手札が、大いに増える事となる。
現在。
加山はダミービーコンの群れの中、バッグワームで逃げ込んでいる。
それを追い香取隊が接近中。
そして、狙撃により外岡の位置も割り出されている。
この状況で何を選択するか、と言うと。
ビーコンを破砕し、強力な面攻撃を行使できる──サラマンダーだろう、と加山は思考していた。
二宮の両腕からキューブが生み出され、そして混じり合う。
混じり合ったそれらが──天に向かい射出される。
そして。
二宮はその名を告げる。
「──ホーネット」
それは。
ハウンド同士を掛け合わせることで生まれる、合成弾であった。
ここで──加山は自らの想定を大きく外す。
「げ」
着弾点から爆撃が訪れるのだろうと大きく道を迂回した加山を──更に追いかける弾丸がそこに。
「──予想は外れか!」
サラマンダーを想定し、爆撃から身を守ると同時に自らの所在を隠すべく狭い路地に入り込んでいた加山。
しかしその左右から、大きく迂回しながらハウンド弾が追い立てていく。
ホーネット。
ハウンドとハウンドを混ぜ合わせることで作られる、合成弾。
威力は変わらず。変わるのは──ハウンドの追尾性能。
このような狭い路地の中であっても、幾重もの軌道修正を繰り返し対象を追い続ける超高性能追尾弾。
「おおお!」
加山は──バッグワームを解き、シールドを装着。かつて三輪から教わった細分化シールドを張り出しながら前に突っ込んでいく。狭い路地を抜け、通りに出る経路で。
──このまま突っ込むと死ぬ。
そう加山の理性の部分が叫んでいた。
通りに出ようとした瞬間、加山はその場から飛びあがり、路地を形成する壁の裏側に入る。
同時に通りへの道をエスクードにて塞ぐ。
背後から迫るホーネット弾を何とか防ぎつつも──左腕と脇腹に幾らかの弾丸が叩き込まれる。
「──ハウンド」
そして。
通りで待ち構えていた辻に向けハウンドを撃ちだす。
それすらも想定していたのか。冷静にシールドでハウンド弾を防ぎながら、弧月を構えエスクードと壁を斬り裂き──加山を追い立てる。
「加山先輩!」
加山と辻の間に割り込む影が一つ。
弧月を構え、辻の斬撃を受け止める──帯島の姿。
「ナイスアシスト、帯島!」
辻は帯島の顔面を鍔競りの中で直視した──その瞬間。う、と一声あげてその剣先を払って後退していく。
「オーケー帯島。追わなくていい。追ったら多分二宮さんの弾丸が降ってくる」
「了解」
やはり辻は女子には何もできないらしい。多分あの様子だと、即座に二宮から退却命令が出たのだろう。
さて。
加山に残されている選択肢は、
①香取隊側に逃げる
②二宮側に逃げる
の二択。
──ビルの爆破の後、加山は即座にビーコンによる攪乱と逃走を開始していたが。
しかし、二宮側からは何らかの方法で加山の逃走経路が割り出されていたようであった。
となれば。二宮側からすれば加山の位置を炙り出す必要もなく。
ビーコンを吹き飛ばす必要もなかったため──加山をホーネットで釣りだし、辻に仕留めさせる作戦に出たのだろう。
①を選択すれば香取隊と戦う事になる。
②を選べば、当然二宮隊と。
当然、事前に立てた戦術を考えるならば①を選択すべきだろうが──その場合、二宮の攻撃が一方的に降ってくることは間違いないのだ。こちらが香取隊が交戦する中、その両方に攻撃を加えることが出来る有利な立ち位置を二宮隊にみすみす明け渡す事になる。それも、正直痛いのだ。
さあ、どうするか。
そう思考が巡る瞬間──帯島の声。
「先輩。隊長がいま自分らとは逆側から迂回してこっちに向かっているッス」
「オーケー。となると、ここから合流するには南下していくことになるのね。その先には──」
香取隊が二手に別れてこちらを追い立てている。
「帯島。ここから香取隊を切り抜けて隊長と合流するぜ。援護するから、しんがりを頼む」
「──了解!」
加山は結局①を選択することにした。
──隊長と合流して、こちらもポイントを稼ぐ。二宮隊の横槍が入る間もなく、香取隊を撃退する。