彼方のボーダーライン   作:丸米

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ランク戦ROUND4 ⑤

「──香取隊長、弓場隊長に敗れ緊急脱出」

 

 実況の声が響くと同時。

 うわぁ、解説員の北添が思わず声を上げていた。

 

「いやー。何というか。ちょっと整理したいね。今の動きに関して」

「.....まず。二宮隊長のあのハウンドに関してだな」

 

 ここ数分で、一気に試合が動いた。

 

 二宮のハウンドによって弓場隊と香取隊の戦力が一気に削れ、そして──弓場と香取によるエース対決は、弓場に軍配が上がった。

 

「.....あの二宮隊長のハウンドのフルアタック。最初、こう加山君のいる位置と、帯島ちゃん・三浦君が交戦している位置にそれぞれ二方向に放たれた感じがしていたけど。加山君に向かっていた弾丸が、途中で一気に方向転換して帯島ちゃんと三浦君の所に向かって行ったんだよね」

「そう。──二宮隊長は、フルアタックで生成したハウンド弾を、別々の追尾機能設定を用いて別軌道をなぞらせながら──その双方を加山ではなく、帯島と三浦にぶつけたのだろう」

「.....追尾機能の設定、ですか」

「そう。追尾機能の強弱により、ハウンドが曲がるタイミングに変化をつけることが出来る」

 

 ハウンドは。

 要は追尾ミサイルだ。

 

 決められた対象に向かい、曲がりながら追いかける弾。

 しかし。その曲がるタイミングは──使用者によって設定できる。

 

 例えば。

 追尾機能を弱めた状態で、弾丸を上に飛ばす。

 そうなると弾丸の追尾性は鳴りを潜め、そのまま上へと昇っていく。

 そして。

 ある程度弾丸が高度を持った瞬間に追尾機能を強める。

 

 そうすると、上に向かっていた弾丸が、対象のポイントに向かって急激に曲がる。

 打ち上げたミサイルが、途中で下方を向き設定されたポイントに向かうように。

 

 打ち上げたミサイルを、どのタイミングで「対象に向かって」「曲げる」のか。

 それが──ハウンドにおける、追尾機能というシステムである。

 

 上空三十メートルか? はたまた百メートルか? 

 追尾機能を強めるポイントが遅ければ遅いほど、ハウンドは直線を描いていく。

 

「二宮はハウンドでのフルアタックを行い。二つあるキューブ群のうち一つを加山に。もう一つを帯島・三浦の方向に放った。帯島・三浦方向に放ったハウンドはよくあるハウンドの軌道で放っていた。上空に上げて、途中で追尾機能を強めて曲げ、あとは直線で放つ。だから二人とも、そのハウンドに対して防御をしっかり取れていた。──しかし、加山の方向に向かっていたハウンドは。()()()()()追尾機能を強めた、帯島・三浦に向けられた弾丸だったという事だ」

 

 加山に向けられ放たれたハウンドは。

 加山に向け直線に向かう軌道を描きながら──最後の最後に、帯島か三浦に向けられた追尾機能を強化されたものだったのだ。

 

 加山の視点からすれば。

 別軌道で帯島に向かう弾丸が見えていて、そして自分に近い方向の弾丸がやって来ている。

 当然加山としては、

 

「二宮は帯島と自分の二つに分けて弾丸を放ってきたのだろう」

 と推測を行う。

 

 しかし。

 実際には──それは加山の方向に直線に向かっていただけであり、その軌道から帯島に向け曲がっていく弾丸だったのだ。

 

 こうすることで。

 加山はハウンドが追ってくるだろうという想定のもと足を止めるほかなく。

 帯島は──時間差で別方向からやってくるハウンドに対応できず、緊急脱出する事となった。

 

 そうして。

 まんまと二宮は時間差のハウンドで帯島・三浦を屠ったのだ。

 

「──恐らく、二宮隊長は加山に駆け引きの部分で勝とうとしているのだと思う」

 

 序盤で。

 加山は犬飼の動きをコントロールし、彼を落とした。

 

 それ故に。

 二宮もまた──駆け引きによる加山の撃破を目論んだ。

 

 サラマンダーに見せかけての、ホーネット。そこからの辻の襲撃。

 二つに分断したように見せかけて、実際は一方向に時間差で叩き込むハウンド。

 

 戦術で対抗してきている加山に対して──二宮もまた戦術で押しつぶそうとしている。

 

 

「.....成程。それでは、その駆け引きと同時並行で行われた弓場隊長と香取隊長の一騎打ちですが....」

「香取ちゃんもとんでもない化物だったけど。弓場さんの技あり、って感じだった印象だなぁ」

 

 北添はううん、と首をひねって、そう言った。

 

「何というか。技の応酬だったよね。香取ちゃんは機動力を生かして動き回って。弓場さんは早撃ちの精度で。それぞれ戦っていた。──その中で。技の精度も、立ち回りも。どっちもとてもハイレベルだったけど。──それでも、弓場さんは技の出しどころを一切間違えていなかった」

 

 弓場が香取に対して行使した手。

 二丁拳銃の利点を生かし、時間差での一撃で香取の片足を削り。

 そこから香取が切った乱反射のカードに対しても。

 

 グラスホッパーそのものの撃ちぬき、という手法を取り。それでも通用しないと理解し──テレポーターというカードを切った。

 

「何というか。常に香取ちゃんが仕掛けるタイミングで、それにしっかり対処できるカードを切っている感じがして.....。ひたすらにあの勝負は、経験の差かなって思う。本当におっかない」

 

 弓場は。

 経験から来る冷静さで──香取がはじめて切ったカードに対して適切な対処を行えた。

 

 香取になくて弓場にあったものは。

 ただひたすらに経験だったのだろう。

 

「.....しかし。香取の動きは目を見張るものがあった。結局の所弓場は、あのテレポーターが無ければ討たれていたのは間違いなかった。しっかり対策を打って相対したら、次は解らないだろうな」

 

「.....解説のお二方、ありがとうございます。さて、現在弓場隊が三人と、二宮隊が二人。恐らく次が──最終局面です」

 

 

 現在。

 弓場隊が2ポイント。

 二宮隊が2ポイント。

 

 残り二部隊で、かつ二宮隊も弓場隊も合流が完了している。

 

 後は──総力戦だ。

 

 

「──外岡先輩。配置に着きましたか?」

「うん。オーケー」

「それじゃあ──仕掛けに行きましょうか」

 

 弓場と加山が合流し。

 外岡が東方百三十メートル程離れたビルの上で二宮隊を狙う。

 

「──どうだ。加山。やれそうか?」

「外岡先輩が生き残ってくれたのはプラスですね。ある程度二宮さんのフルアタックを制限できる。とはいえサポーターの辻先輩がいる。ただでさえ火力馬鹿の二宮さん相手で攻撃手もいるとなっちゃあ、エスクードはあんまりアテになりませんね。──隊長の隠し玉も多分見られている」

「ならどうする? エスクード以外で対策を取るか?」

「いいや。──まずあの二人分断しましょう」

「どうやって?」

「辻先輩に相性いいのが隊長なので。辻先輩を隊長に。そんで二宮さんを俺と外岡先輩で。タイミングを見て、外岡先輩で二宮さん釣りましょう」

 

「なあ、加山」

「なんすか?」

「──お前、最近ランク戦で笑うようになってきたな」

「え」

 

 加山は。

 唐突にかけられたその言葉に、そんな返答をしてしまった。

 

 そうなのか。

 笑っていたのか。

 

「......ギリギリのスリルが楽しい感性は俺も同じだけどな。お前、そういうタイプだったっけ?」

「その手のバトルジャンキーじゃあないっすね。間違いなく」

 

 思い返すと。

 これまで──確かに、自分の戦術を通す事に、楽しみを覚えていた自分がいた。

 

 那須を仕留めた時も。

 太一を嵌めた時も。

 

 ──何処か。今まで思いもしなかった喜びが沸き上がっていたように思う。

 

「....」

 

 エネドラの影響を、知らず知らずのうちに受け始めているのか、と。

 そう思った。

 現在加山自身の記憶とエネドラの記憶は完全に切り分けることが出来ているが。

 切り分けられている、という意識の上での認識と。

 その記憶から引っ張り出され形成される人格部分は、異なる。

 加山は。

 泥の王を得てエネドラが味わってきた征服感や、嗜虐心。そう言った──奴の嗜好であったり、いわばクオリアの部分まで認識できている。

 つまりだ。

 

 

 ──エネドラの記憶を探っていくうちに、多少なりとも人格に影響が及んできているのだろうか? 

 

 

 そんな事を、思った。

 

「そろそろですね。──しっかり、戦いましょうか」

 

 以前ならば。

 いくら外岡の援護が存在するとはいえ──二宮と相対するような戦術を取る事もしなかっただろう。

 

 自分の確かな変化に戸惑いながらも。

 加山は──弓場と共に、走っていった。

 

 

「──来たか」

 

 二宮がそう呟くと同時。

 視界を一斉に塞いでいく壁が出現すると同時。

 

 その壁の左右を挟んで──加山と弓場が出現した。

 

 加山はハウンドを二宮に放ち。

 弓場は二丁拳銃を放つ。

 

 二宮の背中を通る軌道上のハウンドを──カバーに入った辻のシールドが防ぎ。

 

 二宮はアステロイドを弓場に放ちつつ、自らのシールドで弓場の拳銃弾を防ぐ。

 

「隊長!」

「オーケー! ──合わせろ、加山ァ!」

 

 エスクードの裏手に回る弓場を──二宮のアステロイド弾が襲い掛かる。

 木綿豆腐のごとく易々とエスクードを破砕した──その先。

 

 弓場は、いなかった。

 

「──辻。背後のカバーに入る。振り返れ」

 

 弓場は。

 エスクードの森に隠れながら──辻の死角側にテレポーターで移動していた。

 

 ──エスクードで視界を隠しながらの、テレポート移動。

 しかしその意図を看破した二宮によって、辻は即座に背後を振り返り──弓場の姿を視認した。

 

 放たれた弾丸はシールドで防ぎつつも、破砕され──左手が消し飛ぶ。

 

 そしてその背後から加山がハウンドを辻に放つ。

 弓場の弾丸にシールドが裂かれている中。

 別方向から来る加山のハウンドに単独で対処できるわけもない。

 

 そう。

 単独で、なら。

 

 しかし──割り込むは、二宮のシールド。

 背後を振り返る辻の、更なる背後から向かう弾丸を──二宮は難なくシールドを割り込ませ、防いだ。

 

 よし。

 ここだ、

 

 辻のサポートの為に二宮はシールドを使っている。

 

 ここだ、と思い。

 外岡に指示を出そうとして──。

 

 気付く。

 

 

 二宮は──加山に対する迎撃の弾丸を用意していないことに。

 

 

「──ありゃあ。気づかれたか」

 

 加山もまた。

 その有様にすぐに理解できた。

 

 二宮は──現在フルガードをしている事に。

 

 彼方からの狙撃への警戒心は、微塵も捨てていない。

 辻に対して二宮がシールドの割り込みでサポートしつつ、その上で加山への迎撃を行うタイミング。──そこで狙撃を行うつもりであったのに。

 その狙いは見事に看破。

 冷静に、二宮は独特のスウェー移動で辻側に寄る。

 

「──あくまで。隊長は二宮さんが潰すつもりか......!」

 

 攻撃手である辻と弓場の相性の悪さを理解しているのだろう。

 あくまで弓場は自らが相手をし、潰すという鉄の意思が感じられる。

 

 辻側に移動した二宮は、ハウンドを弓場の頭上に落とす。

 シールドを張りながら、弓場は弾雨から逃れるように左手側に逃げていく。

 

 逃げていく弓場を、辻が回り込む。

 回り込む辻の動きに、加山がエスクードで妨害する。

 

「ケッ。──結局、アンタとのタイマンか。二宮サン」

「....」

 

 二宮と弓場との間に。

 エスクードが三枚生まれ。

 弓場から見て左手側のエスクードが──仕舞われる。

 

 仕舞った部分から、弓場は一丁を撃ち放つ。

 放たれた弾丸をシールドで防ぎつつ、二宮はアステロイドにて迎撃。

 

 弓場は──弾雨が自らを横殴る前に、真っすぐに視線を見据えテレポーターを起動する。

 

 側面へ瞬間移動。

 そして──銃撃。

 

 三発放ったそれは。

 ──シールドで、やはり防がれる。

 

 

「──終わりだな」

 

 この一撃が通らねば。

 もうどうしようもない。タイマンの時間すらももう終わりだ。

 エスクードを迂回し、背後に回っていた辻の旋空の一閃。

 それに斬り裂かれ──弓場は緊急脱出した。

 

 

「──加山は?」

「もう反応もないですね。逃げ出しました」

「ふん。──せめて俺達に生存点を稼がせないつもりか」

 

 現在。

 二宮隊は三ポイント。弓場隊が二ポイント。

 

 上位に向かうのならば失点よりも得点の方が大事──というのはまさしく事実であるが。

 こと、二宮隊が稼ぐ点数は、そのまま上位への道を塞ぐ壁となる。

 

 

 弓場の援護を十分に終えた加山は、──そのまま逃走を開始。

 

 せめて二宮隊にポイントを稼がせないための方法であろう。

 

 現在加山も外岡も生きている。

 双方とも逃げに徹すれば、一ポイント差を維持できる。

 

「──追うぞ。まだ遠くには言っていないはずだ」

 

 そして。

 レーダーに映る──大量のダミービーコンの反応の山々。

 

「──そうか。あの時の残り物か」

 

 犬飼を仕留め、

 逃走の為に大量にばらまいていたダミービーコン。

 

 それは加山の想定の中──二宮の合成弾で破壊されるはずのものだった。

 しかし二宮が放った合成弾はホーネットであり、爆破されず、さりとて起動もされなかったビーコンが幾つか余っていたのだろう。

 

 それを加山は、今起動した。

 

「今度こそサラマンダーで吹き飛ばします?」

「いや。──外岡の位置もまだ割れていない。合成弾で隙を作る訳にはいかない。とはいえ、逃走経路は限られている。──そのまま追うぞ」

 

 

「.....上手くいかないなぁ」

 

 これが上位か、と。

 加山は思った。

 

 弓場がテレポーターを発動した瞬間。

 加山の役割は終わった。

 

 二宮と弓場をタイマンさせない....という事を念頭に置いた作戦だったのに。

 その狙いを悠々と看破され、まんまと覆され、負けた。

 

 ──しかし。ああ、駄目だ。どうにもイライラしてしまう。

 

 元々。

 負ける、という事象に対してイラつきを覚えるという現象が加山の感覚の中に無かったはずだったのに。

 それでも。

 今はどうしようもなく、そんな感覚が浮かび上がってしまう。

 

 逃げながら、逃走経路を作成し、道を塞ぎ、ビーコンを撒きながら。

 何故だろう。

 自分の頭とは別の所から、イラつきが発生している。

 

 

 

 

 

 

『それはな』

 

 

 

 

 

 

 声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

『お前が、俺の人格を浮かび上がらせるトリガーを引いてしまったからだよ』

 

 

 

 

 

 

 声が、

 声が、聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──お前ははっきりと、自分の中の憎悪を自覚しちまった。あのガキ同士のくっだらねぇ言い争いの中でなァ。俺とお前の中で、共通項が生まれた訳だ。ぎゃははははは』

 

 

 

 

 

 人格は。

 過去の積み重ねの中で浮かび上がる。

 混ざらず分けられ、それでも存在する”誰か”の記憶。

 その記憶の山積の中――自分とは違う何者かの人格が、ふとした瞬間に浮かび上がったのだ。

 

 声が。

 声が。

 声が――

 

 

 

 

『よぉ。チビ猿。──面白いことやっているじゃねぇか。俺も混ぜやがれ』

 

 

 

 声が、

 




またまたファンタジーな話になってすみません......
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