彼方のボーダーライン   作:丸米

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※読者様のご指摘を受け、後半部分を修正しました。
阿呆な作者をどうかお許しください。
死にます。


かつての三人

「──アフトクラトルが、この作戦に随行すると報告を受けた」

 

 ガロプラ遠征部隊。

 隊長ガトリンは、そう重々しく口を開いた。

 こめかみの傷と、髭にまで繋がったもみあげが、険しく歪んだ表情に釣られぴくり動く。

 如何にも歴戦の雰囲気を漂わせた男が鼻上を掴み、一つ悩まし気に表情を歪めていた。

 

「アフトクラトルが領主、ハイレインの弟のランバネイン。これよりアフトクラトルの遠征艦の軌道上に入り、奴等の黒トリガーを通してこちらに送り込まれるようだ」

「....どういう事? 隊長の見立てでは、今回の足止めの任務は、玄界の目をこちら(ガロプラ)に向けさせることが目的だと言っていたのに。奴等も襲撃に入るんじゃあ意味がないじゃない」

 ウェン・ソーは、ガトリンの言葉に、そう返す。

「俺の見立てが間違っていた....というのは簡単だろうがな。恐らくはアフトクラトル側が遠征で何かしらのイレギュラーを発生させてしまったのだろう」

「...冗談じゃねーぜ。俺達の艦にアフトクラトルの野郎を乗せるなんて」

「まあ、文句を言ったところでしょうがない。別に作戦の邪魔をするつもりじゃないんでしょ?」

 艦の中で一番若手の男──レギンデッツは不満を隠さず苛立たし気に声を荒げ。

 猫背の男──副隊長のコスケロがそれを宥める。

 

「.....けど、任務の大まかな流れは変えるつもりはないんですよね」

 坊主頭の隊員、ラタが一連の報告を聞きガトリンに尋ねる。

「ああ。事前計画に変更はなし。アフトクラトルの軍勢が入ろうとも、やはり玄界の恨みを買う訳にはいかない。市街地への攻撃はなし。ただ、あちら側の艦を狙う」

「了解です。──ちなみにアフトクラトル側から兵の補充は?」

「あちらの新型とモールモッドを複数持っていくらしい。だがそれはあくまでランバネインが使用する。こちらの手勢は変わらない」

 

 もう一度確認するぞ、とガトリンは言う。

 

「敵勢はアフトクラトルの精鋭五人を追い返している。黒トリガーは確定で二つ。最高で四つ保持している可能性がある。かなりの戦力故に、恨みを買う事は避けたい。市民へ危害を加えることは避け、遠征艇の破壊を最優先。──いいな?」

 

 了解、と。

 静かに声が響き渡っていた。

 

 

『門』が発生し、

 基地正面から──未確認のトリオン兵が殺到してくる。

 

「...」

 

 加山は──自らの手の中にあるこのトリガーを恐ろしげに見ていた。

 これを発動すれば。

 何かが起こる気がする。

 

 しかし。

 

「──南方の『門』より、人型が出現!」

 

 本部の通信から報告があげられる。

 

 そこには──

 

「──アフトクラトルの、角付きです! 現在玉狛支部方面へ向かっています!」

 空飛ぶ巨漢がいた。

 

 一度たりともあったことがないのに。

 見るだけで憎悪が湧いて出てくる対象があった。

 殺してやりたい、と心から思う相手が。

 

「....くそ」

 

 最悪な気分のまま。

 加山は──トリオン体を解除し、黒トリガーを起動した。

 

 

 ガロプラ側の作戦はシンプルであった。

 精鋭三人を本部内に侵入させ。

 残る二人が兵隊を呼び出しながら外のボーダー隊員を引き付ける。

 

『門』に反応し、本部内の兵員が外に出ている。

 本部の天井部分に狙撃兵が配置され、

 トリオン兵の正面には銃手・射手の飽和射撃。

 攻撃手は、近寄ってきたトリオン兵の排除及び付近に『門』が発生した際のサポートを行う。

 

 屋上に、東春秋の姿がある。

 

「──隊長達中に侵入できたみたいだな。このまま外の連中を引き付ける」

「了解。──しかし、思った以上に玄界の動きは迅速だ」

「あの屋上の狙撃兵......。アフトクラトルの報告にあったね。かなり厄介な指揮官みたい」

「狙撃兵の手を止めさせたいが....あっちには既に近接専門の兵隊が配置されているね。ドグを何匹かやったところで瞬殺される」

「.....出来るだけ二人とも動きながら『門』の発生区画をばらけさせよう。多分、あの動きを見るに二人の居所を掴もうとしている」

 

 レギンデッツのコスケロはそれぞれ本部基地周辺を駆け回りつつ、別方向より『門』を発生させトリオン兵を送り込む。

 

 人型トリオン兵アイドラ及び犬型トリオン兵ドグ。

 

 アイドラはシールド機能を持った二足歩行型のトリオン兵であり、何体をかを集め連携を取る事でその真価を発揮するタイプのトリオン兵だ。

 張られていく弾幕に対し密集しシールドを張りつつ前進し──その間隙にフォルムが小さく、素早い犬型のドグをねじ込んでいく。

 

 現在数においてはガロプラ側が非常に有利を取っている。

 しかし、玄界側はとにかく情報の共有が速く、隊列が乱れる兆しすら見えない。

 

「まず隊列を崩さねぇと。あの連中の横っ腹から──。あれ。お、おい。おい。ヨミ。ヨミ!」

 

 

 突如。

 

 ガロプラは──通信が乱れる。

 それぞれの通信網からノイズが零れる。ノイズは次第に大きくなり──最終的に何も聞こえなくなった。

 こちらをオペレートしていたヨミの声が、ブツ、と音を立てて遮断された。

 

「.....ジャミング!」

 

 レーダーを見る。

 波打つようにレーダー表示も乱れ、トリオン反応の表示すらも多大なバグが発生している。

 

「....そんな!」

 

 間違いない。

 こちら側の通信網が、完全に遮断された。

 

 これでは──連携はおろか、状況の把握すらままならぬままだ。

 

 ──そして。

 その混乱の最中。

 レギンデッツは気付けなかった。

 

 ──自身が呼び出したトリオン兵、ドグの幾つかの反応がロストしている事に。

 

 

 

 

「──は」

 

 エネドラから作られた黒トリガーは。

 起動と同時に、彼自身の記憶を流し込む。

 

 

 現在。

 加山雄吾はエネドラの記憶を統合している最中で、非常に不安定な状況であった。

 

「──やっぱり猿は間抜けだなぁ、おい」

 

 その中に。

 混じり気のない、純粋なエネドラの記憶媒体が流れ込んできた。

 

 そこからは──速かった。

 エネドラの記憶が不安定極まりない加山の意識から肉体の主導権を奪い、──ここには、加山雄吾とは異なる別人格が顕現した。

 

「──せめて記憶の統合が済むまではアレを起動しちゃいけなかっただろうが。ハハハハハハハ!」

 

 ああ、と彼は思った。

 何と新鮮な心持ちだろう。

 

 脳内に巣くうどうしようもないイラつきもない。感情がすぐに乱れる事もない。

 空気を吸って、吐く。

 

「まあ安心しろ。俺は猿の味方だ。そして」

 

 笑う。

 笑う。

 

「──あの連中の、不倶戴天の敵だ。正しくぶち殺してやるよ」

 

 黒い角をその頭に纏い。

 アフトクラトルの外套に身を包んだその男は。

 

 ただただ笑っていた。

 

「やっぱり、黒トリガーはいい」

 

 天空に広範囲の妨害電波を敷き、ガロプラの通信をジャミングする。

 

 ジャミング用の電波発生地を指定し、そこに電池代わりのトリオンを流し込む。

 これで──あの戦場で五分はレーダーも通信も死んでくれるだろう。

 

「まあ動きの速い雑魚が今回は適任だろ。──おら、さっさと来やがれ」

 

 加山の背後には。

 ──レギンデッツが召喚したドグが数匹、そこに存在していた。

 

「──泥の王よか攻防の機能は低いが、それでもかなり応用範囲があるみたいだなコイツは。色々遊んでいこう」

 

 

 その頃ヒュースは。

 玉狛支部の一室にて身を潜めていた。

 

 ヒュースもまた、ガロプラとロドクルーンの襲撃を予期していたが──自身の状況を知った上でこの二国が自身を保護することはありえないだろう、と判断した。

 それが解っているからこそ。迅はこれを手渡したのだろう。

 

 ──なあ、ヒュース。

 

 あのうさん臭い男は、あの尋問を終えた後に、こんな事を言っていた。

 

 ──近々、お前を尋問した加山って奴が。ちょっと面倒なことに巻き込まれることになると思う。もしそれを止めてくれたら、俺はお前の望みを何でも一つ叶えてやるよ。

 

「....」

 

 恐らく。

 これから自分は何かしらにまきこまれる。

 

 

「──来たか」

 

 実に。

 実に聞きなれた破砕音が、響いていく。

 

 ヒュースは一つ目を閉じて──

 

「──蝶の楯」

 

 それを、起動した。

 

 

 黒の欠片の集合が周辺に寄り集まり、ヒュースの周囲を取り囲む。

 そして。

 

 支部の玄関口をぶち抜く砲撃を──欠片で作ったシールドで防いでいた。

 

「──はははは! 久しいな、ヒュース!」

 

「──ランバネインか」

 

 かつての仲間が、そこにいた。

 

「何故俺がここにいると?」

「別にお前を追ってきたわけではない。――レーダーが乱れ始め、一時こちら側に避難した瞬間にこの砦内から反応があった。追って来てみれば、蝶の楯を起動したお前がいたという事だ」

「....どういう事だ」

「さあな。だがまあ、いいじゃないか。お互いに手間が省けた。――こちらの事情が変わり、お前は生かしておくわけにはいかなくなった」

 

 故に。

 

「──抹殺だ。死んでもらう。ヒュース」

「....成程。理解できた。だが、俺はここで死ぬわけにはいかない」

 

 どうしようもなく。

 ──ランバネインはこちらを殺そうとしている。

 

 

「──お前とは一回戦ってみたかった」

「──それはよかったな」

 

 砲撃が叩きつけられ。

 黒の欠片が放たれ。

 

 ──戦いは開始された。

 

 

「....」

 

 ヒュースは玄関口から脱出すると。

 欠片のレールを作り空へと滑空する。

 

「──空中戦か! それもまたよし!」

 

 応じるように。

 ランバネインもまた──ジェットを噴射しヒュースを追う。

 

 背中のカタパルトから幾つもの弾雨をランバネインは放ち。

 それらを欠片のシールドで逸らしつつ──電磁力の斥力をもって回転させた刃をヒュースは放つ。

 

 円盤と砲撃が行使し、空中には花火のような火花が上がる。

 

 

 

 その時であった。

 

 

「な」

「むぅ」

 

 バチ、という音と閃光と共に。

 

 ヒュースの欠片から。

 ランバネインのジェットから。

 

 ──制御機能が失われる。

 

 空中高くから──突如としてそれらが失われたことにより、両者とも地に堕ちていく。

 

 

 それぞれ建物の天井部分にぶちあたり、そのまま路上へと転がる。

 その左右から。

 

 ──犬型が襲い掛かる。

 

 左右から三匹ずつ。

 それは──ヒュースに狙いを定めていた。

 

 即座に欠片を放ち、電磁力で地面に叩きつける。

 

 その瞬間。

 また──バチバチと発光する光をヒュースは視認した。

 

 

「....く!」

 壁にはりつけた電磁力で自らの背後に力をかけつつ、バッグステップ。

 かなりの勢いをもって避けたその先。

 

 ──ランバネインの砲撃が飛んでくる。

 

 急遽作成したシールドでは防ぎきれず。

 ヒュースは砲撃の勢いそのまま──壁に叩きつけられる。

 

 

「──楽しいことやってんじゃねぇか、おい」

 

 ヒュースと、ランバネインは。

 その姿を見た。

 

「──餌に釣られてくれたな、ランバネイン。まんまとここに来てくれたわけだ。あまりにも間抜けで涙が出てくる。」

 

 その姿は、加山雄吾であった。

 小柄な体躯に、白髪交じりの髪。

 

 しかし。

 

 その姿は──エネドラのトリガー角と、アフトクラトルの軍服を纏ったものであった。

 

 そうか、とランバネインは確信した。

 レーダーにジャミングし、ヒュースの居場所にトリオン反応を示したのは――この男か、と。

 

 加山は、笑う。

 笑って、言う。

 

 

「死ね」

 

 

 かくして。

 かつての三人が、集まった。

 

 かつて祖国を同じとし、同じ場所で戦っていた仲間が。

 立場を違え。または肉体すらも違えたまま。

 それぞれがそれぞれの敵として──また集まったのだ。

 

 

 

 ランバネイン

 ヒュース

 

 そして──エネドラ。

 

 

 かくして。

 アフトクラトルの軍人と元軍人が。

 雁首揃え、互いの首を捥ぎ取らんと──殺意を込めて、そこにいた。

 

 

 欠片を集め

 砲撃の火口を開き

 電撃を込めて

 

 三者は──戦いの火蓋を、落とした。

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