彼方のボーダーライン   作:丸米

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踵鳴る

 エネドラを素体としたこの黒トリガーは。

 トリオンを電流化させる。

 

 電流を放電し、相手のトリオンを膨張させる。

 電流で力場を発生させ、敵の位置を把握する。

 妨害電波を発生させ、敵のレーダーを妨害・攪乱を起こさせる。

 

 ──こいつはただ電流を放電するだけじゃねぇ。

 

 襲い来る蝶の楯の欠片に、電流を流す。

 流された欠片は──電磁力の効力を失い、地に落ちていく。

 

「──蝶の楯ごときで、俺の黒トリガーが止められるとでも思ってんのか!」

 

 足元。

 そして直線。

 それぞれに電流を流しながら──ヒュースを追い詰める。

 

 ビ、と。

 背後より音が聞こえる。

 

 迫りくるランバネインの弾丸に、放電。

 弾丸に込められたトリオンを膨張させ、破壊する。

 

 ヒュースも、ランバネインも。

 気付く。

 

 ──この三者のうち。真っ先に打倒せねばならないのは、加山であると。

 

「──出し惜しみなしだ」

 

 ランバネインはそう言うと。

『門』を開き、ラービットを投入する。

 

 プレーン体が五匹。

 モッド体が三匹。

 

「懐かしいじゃねぇか」

 

 投入されたラービットを一瞥し、懐かし気に表情を歪める。

 

 真正面から殴りかかる三体のプレーン体ラービット。

 その側面へ移動しつつ、雷の羽を撃ち放つランバネイン。

 そして、回転刃を放つヒュース。

 

 ──この黒トリガーは、純粋な物量戦に弱い。

 

 電流によるトリオン膨張攻撃と、力場発生による攻撃の察知。

 非常に優れた機能を持っているが、されど泥の王や卵の冠のような黒トリガーと比べると、純粋な攻防の能力が低い。

 泥の王のような圧倒的な防御能力も、卵の冠のような回復能力も物量もない。

 

 故に。

 反撃を封じるほどの物量をそこに叩きつければ──瓦解する。

 

 砲撃と斬撃が浴びせられ。

 煙が舞い上がる。

 

 舞い上がった煙から見えたのは──

 

「な....!」

 

 先行し、殴りかかっていたラービットが──両腕を前に突き出し、加山を庇うようにそこに佇んでいた。

 両腕は破砕され、最早機能すら停止していた。

 

 

「よぉ」

 

 加山は。

 更に襲い掛かる──モッド体のうち一体に近付く。

 

 それは。

 かつてエネドラが使用していた──泥の王の性質を持ち合わせたラービットであった。

 

()()の使い方を俺はよく知ってるぜ。──貰うぞ」

 

 殴りかかる腕を取り。

 電流を一つ流す。

 

 その瞬間。

 

 モッド体が加山に付き従うようにその背後に回り、両腕を地面に突き刺す。

 

 そして──加山の周囲を黒々とした液状化トリオンが纏わりつく。

 それは。

 かつて──彼の所有物であった、黒トリガーと同様の光景であった。

 

「──それはトリオン兵の操作まで可能とするのか....!」

 

 襲い来る蝶の楯の欠片を液状化トリオンと電流により防ぎながら。

 加山はヒュースに肉薄する。

 

 バチ、と音が鳴る火花を纏い。

 加山の右拳がヒュースの顔面を打った。

 顎を貫くような、足元からのアッパーストレート。

 

 その殴打を受け──

 

「があああ!」

 

 ヒュースは、思わず()()に悶える。

 トリオン体ではありえない、その感覚に──全身に電流が走り、そして頭がカッと熱くなった。

 

 ──痛覚が、戻っている.....! 

 

 ヒュースは──自身の顎が打たれ、舌を巻き込み、そして頭を地面に叩きつけられる痛みを──確かに感じていた。

 

「痛いだろ? ──心配すんな。もっと地獄のような痛みを味わわせてやるからよ。なあヒュース。拷問も怖くねぇんだろ?」

 

 くく、と。

 加山は笑う。

 

「いい気分だ。──お前は混乱に乗じて脱走する最中にトリオン兵にぶっ殺された間抜け野郎としてここで死ぬんだよ」

 

 けたけたけた。

 笑いながら──加山はヒュース、ランバネイン二人を見た。

 

「──負ける気が一切しねぇ」

 

 晴れやかだ。

 記憶の中の自分は、もっと切迫感があったはずなのに。

 殺したい、というより。

 殺さなければ自分が保てない、という感覚だった。

 焼けつくような感情の波に理性が溺れ、衝動のままに殺さざるを得なかった。

 

 でも。

 今は違う。

 

 感情の波の上に、しっかりと理性という名の船を漂わすことが出来ている。

 

 ──ああ。

 ──今、俺は。

 

 殺したいから、殺そうとしている。

 殺さねぇとどうにもならねぇから、殺そうとしている訳じゃない。

 

 混じり気のない、純粋な殺意と自らの理性だけが。

 この身体を動かしている。

 つまりは、完全たる自らの意思で。

 クソみたいなトリオン角に汚染されていない、俺の、俺だけの意思で。

 

 なんて、

 ──気分が、いいのだろう。

 

 

「侵入完了。──それでは目標へ向かおう」

 

 アイドラに化けて壁をすり抜け、

 ガトリン、ラタリコフ、ウェンが──ボーダー本部の侵入を果たす。

 

「これより俺とラタが艦の破壊に向かう。──追手がかかればウェンが足止め。レギーとコスケロが外の敵の引き付け。ヨミは全体のサポート。頼むぞ」

 全員分の了解の声を聞き。

 

「敵は出来るだけ無視だ──最短で目標まで向かう。ヨミ。この砦内の内部データの更新を頼む」

 

 侵入を果たし、壁をすり抜け。

 最短の経路を進んでいく。

 

 その中で。

 

 視線の先に──サングラスを額に置く男が、現れる。

 

 男は、こちらを視認すると──手に持ったうねる刃で斬撃を行使した。

 決してこちらに届かぬ距離。

 しかし──その男を起点として、壁から、地面から、切れ込みのような軌跡が走っていく。

 

 ──アレは、アフトクラトルから報告を受けた黒トリガーか。

 

 そう隊員の全てが認識した瞬間。

 切れ込みから飛び出してくる斬撃を、シールドで囲い、防ぐ。

 

 そのまま彼等は──隣の壁をすり抜け、別経路へと消えていく。

 

「──ヨミ?」

 そのタイミングであった。

 ──加山のジャミングによって、外部との通信が遮断されたのは。

 

「通信のバグでしょうか。こんな時に限って...」

「....予想外だが、仕方ない。復旧を信じて、こちらはこちらで役割を果たそう」

「──隊長。後ろから追手がかかってる」

 

 弾丸が、背後より向かってくる。

 そこには。

 紫の隊服を着込んだ女と、白のジャケットを着込んだ女。

 ──香取葉子と、帯島ユカリだ。

 

「──敵を見つけたわ。これから迎撃に入る」

「同じく帯島。敵を視認。香取隊長と連携して迎撃します!」

 

 香取は拳銃。帯島は射手トリガー。

 それぞれを構えながらガロプラの三者の背後へと弾丸を叩き込んでいく。

 

「....撒けるか?」

 

 曲がり角に入り込み、二人から逃れる動きをする。

 しかし──彼女たちが放つ弾丸は、曲がり角も構わず、追尾をかけていく。

 

「....鬱陶しい。ここで足止めする」

「頼んだ」

 

 元より、追手がかかればウェン・ソーが迎撃する方針であった。

 その役割に、彼女は準じる。

 

「....二人取り逃がした。これから仕留めにかかるわ。協力お願い」

「了解ッス!」

 状況が動く。

 動き続ける。

 

「かかってきな、──お嬢ちゃんたち」

 

『門』と共にドグを召喚し。

 ウェン・ソーは──二人と対峙していた。

 

 

 

「どうにかジャミングの解除が出来たね。──とはいえ、もう戦列が崩されてきている」

「.....隊長達は目標まで来たか?」

「来たけど、目標地点に先回りされてるっぽい。かなりの腕利きと交戦している。外の戦力をまだ中に入れる訳にはいかない」

 

 一方ガロプラ部隊は。

 加山によって通信が途絶した影響を思い切り受けていた。

 

 戦況の把握が非常に遅れ、戦力の投入が遅れた分だけ戦列が崩れかかっている。

 ボーダー本部に侵入している三人はそれぞれ襲撃を受け、

 ジャミングで通信が途絶えている間に、戦力の投入が遅れた為、初期に投入した戦力が大きく削れ不利を押し付けられている。

 敵も戦列の乱れに気付いてか、どうやら途中から背後に近接用の兵士を回し脇の犬を潰しながらアイドラに射撃を集中させる策を取っていたようだ。列尾のドグも、正面のアイドラも、相当なダメージが淹れられている。

 

 

「アフトクラトルからの報告通りだ。とても優秀な指揮官がいるね。アフトからの増援があってよかった。これで一先ず戦列の穴が塞げる」

「ぼくもこれから援護に入ります。取り敢えずアフトの新型と操縦モードのアイドラを脇で固めて、あちらの戦列も崩しましょう」

「とはいえ.....まだジャミングが入る可能性があるんだろ?」

 そう。

 ジャミングの解除を行えた、といっても。

 ジャミングを行ったやつの排除は未だ行われていないのだ。

 

 まだまだ──脅威は続いている。

 

 

「.....アフトクラトルの軍人から報告が入った。ジャミングを入れた奴は今あちらで交戦しているらしい。アレが交戦している間ならこちらも安全だ」

 現在ランバネインは。

 この戦列から離れた場所で、戦いを続けている。

 いつも空爆を行っているあの男が、地面に降りて。

 あの男も──今ジャミングの影響を受けている真っ最中なのかもしれない。

「.....もしあのデカブツが倒されたらどうするんだ?」

「その時は....こちら側でジャミング対象に始末をつける必要があるだろうね」

「クソ....ならさっさとこっちはさっさと片付けねーと....!」

「解っているよ。──それじゃあ、散開している敵部隊から始末をつけるよ」

「こっちのドグを屋根の上にいる狙撃兵に向ける。あの調子じゃあすぐに対応されるだろうけど、操縦モードのアイドラを仕向けるくらいの時間は稼げる」

「そうなれば多分副隊長の居所を探りに来ますよね? 大丈夫ですか」

「そうなったら、こっちもあのアフトクラトルの新型と連携してやるよ。多分、俺のトリガーとは相性がいい」

 

 さあて、と呟き。

 

「ここから立て直そうか。──どうにかしないとね」

 

 

「──ここで待ってりゃ、敵さんが来るってこったな。しかし、豪勢なメンバーだこったなァ」

 

 そして。

 遠征艦の格納室の前。

 

 迅が襲撃犯の顔を認識し、見えた未来。

 そこで確定した。

 ──敵の狙いは、遠征艦であると。

 

 遠征艦は分厚いトリオン壁の向こうに安置され、周囲の機材も全て壁の向こう。

 カッチリと準備を行われた、格納室。

 

 そこには──四人の男女がそろっていた。

 

 

「呼べるもんなら鋼も呼びたかったがな....あいつは今ランク戦の最中だ」

 

 A級太刀川隊、太刀川慶。

 

「敵はエレベーターで降下中。そろそろ来るぞ」

 

 A級風間隊、風間蒼也

 

「ま、文句を言っても始まらないし。さっさと敵を片付けるわよ」

 

 A級玉狛第一、小南桐絵。

 

「おうとも。──こいつァ、楽しみだ」

 

 そして。

 B級弓場隊、弓場拓磨。

 

 

 総員四名。

 ──敵の襲撃を待つ。

 

 

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