彼方のボーダーライン   作:丸米

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Fever Believer Feedback

「──柿崎隊、諏訪隊は左翼に移動。人型トリオン兵に包囲射撃を行いつつ犬を攻撃手で処理。右翼側に『門』の形成が集中している。攻撃手・万能手を集めトリオン兵の処理をしつつ、索敵。狙撃部隊はそのまま高所を維持」

 

 東の目には、あらゆるものが見据えられていた。

『門』の発生地から敵勢の動きと、そこから垣間見える──”引き付け”の戦術。

 そして──突如として現れた戦列の乱れ。

 

 これまでの動きとして、右翼、前方、左翼の布陣を敷き、こちらの飽和射撃で空いた穴を適時塞ぐ形で敵が対処してきたが。

 突如としてその対処が遅れる、または対処そのものが行われないタイミングがあった。

 

 東は目ざとくその隙を見つけ出し、戦列が崩れた区画へ狙撃を集め大きく数を削り、戦列を完全に崩しにかかった。

 

「──東さん。右翼側の戦列がもう大崩れしていますが、一気に押し込みますか?」

 

 射撃部隊の陣頭指揮を執る嵐山が、東に問う。

 戦列が大いに崩れかかっている右翼を一気に圧力をかけ崩しにかかるかを。

 

 そうした方がいい。

 指揮を執る東も、そう思える。

 

 しかし。

 それでも気にかかる部分がある。

 

 敵の戦力の投入が復活してきたのだが。

 その増加が、崩れかかっている右翼ではなくある程度安定していた左翼側から発生している事。

 右翼は見捨てた、とも判断できなくもない。

 

 しかし。

 左翼側の動きが不穏だ。

 

 右翼に戦力を押し込めば。

 射手・銃手を中心に展開し左右から包囲する陣形の中で、右翼側が突出し分断される事となる。

 

 ──これは釣りだろう、と。そう東は判断した。

 

「いや。嵐山。陣形を維持したままでいてくれ。その代わり半数の狙撃部隊を地上に下ろして別角度から右翼に援護を行う」

「──了解です」

 

 押し込む役割は銃手・射手ではなく。

 射程のある狙撃手に振る。

 

 陣形は崩さず。

 されど戦列は崩壊させる。

 

「恐らく。相手は左側から戦力を流してくる。狙いはこちら側の分断だ」

 

 東は、そう見込んでいた。

 右翼側に押し込んだ部隊が陣列から離れたタイミング。

 そこで、より強力な兵が送り込まれてくるのだろう、と。

 

 ならば、そうはさせない。

 

 こちらの陣形は崩させない。

 ──戦力を新たに流すのならば、好きにすればいい。

 

 

「駄目だ。右側の釣りに一切反応しない。狙撃手を下におろして対応してきた。──陣形は絶対に崩さないつもりだね」

「あの様子だと、左翼側から一気に分断をかける意図がバレているっぽいね。指揮官が手練れだとやりにくいなぁ」

「とはいえ、戦列を崩壊させたままじゃいけねえだろ。どのタイミングで投入する?」

「副隊長。残っている上の狙撃兵にドグを送って下さい。──その隙にアレを投入します」

「了解」

 

 相手の陣形を崩すための策略を練るも、対応される。

 ここから先は──力押しで行くしかない。

 

「──操縦モード、起動」

 

 人型トリオン兵──アイドラ。そのうちの二体。

 

 突っ張った頭頂部に、光が宿る。

 

「──レギー」

「解ってる」

 

『門』を発生させる、棘のような形のトリガー。

 

 それを足元に投げると同時──。

 

 

 それは、現れた。

 ──先月の大規模侵攻において大いにボーダーを苦しめに苦しめたトリオン兵、ラービット。

 

 重厚な腕を垂れ下げ、一つ目が戦場をぎょろり見渡し。

 トリオン反応目掛け、走り出した。

 

 

「──報告! 『門』より、ラービットが出現!」

「数は!?」

「四体! 左翼より新種の人型二体と固まって移動してきています!」

 

 ラービット四体と、アイドラ二体。

 それらが一つの集団を成して、猛スピードで右翼側へと向かっている。

 

 その映像をジッと見つめる少年が、一人。

 ぼさついた髪に白のジャケットを着込んだその少年は、言う。

 

「天羽? 何か見えるか?」

「あの二体.....他のと色が違う」

 

 天羽月彦。

 彼は──視覚を通して、別の”色”を見ていた。

 

 その色は、強さの秤。

 戦闘能力を、色分けする能力を有している。

 

 その目には。

 他のアイドラと、異なる色付けがされた二体が映っている。

 

 

「──東。今マーカーをつけた四体はラービットだ」

「全てプレーン体ですか?」

「ああ。──残る二体の人型トリオン兵も、他のものより強化されている。精鋭を送り、対処を頼む」

 

 了解、と東は一つ頷き。

 

「──緑川、三輪、米屋。今報告が上がったラービットの足止めを頼む」

「了解。付近に柿崎隊がいますが、下がらせますか?」

「いや。柿崎隊は中距離でお前たちの援護をさせる。無理に撃破を狙うな。あくまで足止めで構わない」

「──了解」

 

 さてさて。

 ここで──敵はアフトクラトルの最新型を投入してきた。

 

 後は。

 

 この『門』を出している連中の索敵に向かわなければならない。

 

「──木虎」

「はい」

 

 東は、嵐山隊・木虎に指示を出す。

 

「左翼側で敵を呼び出している奴がいる。今マーキングしているところを順繰りに索敵をしてくれ。恐らくその中に、近界民の敵がいる」

「了解しました」

 

 東から指示を受けた木虎は、即座に──現在トリオン兵を派遣しているコスケロの捜索へと向かう。

 

「──隊長。私も行きます」

 

 その時。

 加古と共にトリオン兵の迎撃を行っていた黒江も、同行を申し出た。

 

「あら、双葉。大丈夫?」

 

 この大丈夫、とは。

 ──木虎としっかり連携を取ることが出来るのか、と言外に聞いているのだ。

 

 黒江はまるで蛞蝓を飲み込むかの如き嗚咽の表情を浮かべながらも──それでも嚥下するように、頷いた。

 

「ならいってらっしゃい」

 ふ、と微笑み。

 加古望は黒江を送り出した。

 

 

 襲い来るは、ラービット。

 そしてまだ見ぬ人型近界民。

 

 外の様子も、次第に慌ただしくなっていく。

 

 

 して。

 

 内、では。

 

「.....やはり、先回りされていたか」

 

 侵入し、地下へ下り。

 やけに少ない警護の数に安堵感よりも不信感を覚えながら、行きついた先。

 そこには──三人の姿があった。

 

 髭。

 女。

 眼鏡。

 

 

 それぞれが──こちらの姿を視認して尚動揺することなく、佇んでいた。

 重厚な壁に覆われた広い部屋だ。

 上階の連絡通路へ降り立ったガトリンとラタリコフは、その三人の背後にある、より重厚な壁の先を見つめる。

 

 そこにあるのだろう。

 玄界の、遠征艇が。

 ──全員腕が立ちそうではある。しかし、全員を仕留める必要はない。

 艦さえ壊せれば、後は逃げればいいだけだ。

 

「──部屋の各所にトリオン反応。罠に気をつけろ」

「了解」

 

 三人の前に、ガトリンは降り立ち──そして、対峙する。

 

 正面に立つ髭が、笑みを浮かべ言う。

 

「アンタらのお目当ては、この中だ」

 

 その短い言葉に。

 凄まじいまでの疑念が──二人の心中で巻き起こっていく。

 

 何故、こちらの目的を知っている? 

 

 情報が漏れたか。

 漏れたのならば何処から? 

 もしくは──考えたくもないが、誰かから? 

 

 しかし──疑念に意識を割く余裕は、ない。

 

「──隊長!」

 

 ふ、と。

 亡霊の如く背後より現れた子供がガトリンの片腕を斬り裂く。

 

「──悪ィな。実は四人だ」

 眼鏡が、目元すら歪めた悪い笑顔で、そう言った。

 

 ──身を隠すトリガーか。

 

 成程、とガトリンは思った。

 周囲に散っているトリオン反応は、この若いのを隠すためのものだったか。

 

 成程。

 

 想定の通り、とはいかないようだ──。

 

 ガトリンの背中が、トリオンに光る。

 光るトリオンは物質化し、瘤のような隆起と──そこから生え出る、四つのブレード。

 

 ブレードは蟷螂の脚を蜘蛛の形状に拵えたかのように左右上下に展開されたもの。それは、今まさに獲物に組み付かんと威嚇する昆虫を思わせた。

「背中から武器が生えたぜ。──あのゴリラみてぇだな」

「ちょっと弓場ちゃん。そのゴリラってレイジさんの事じゃないでしょうね?」

「んな訳あるかバーカ。大規模侵攻の時に現れたゴリラだよ。背中から砲撃撃ち込んできた馬鹿がいたんだよ」

 

 そして。

 ガトリンは斬られた手に──トリガーをまた一つ、差し込む。

 

 その瞬間。

 大型の銃が、腕から生え出る。

 

「銃まで生えちまったな」

「今度から足を狙うようにしよう」

 

 軽口を叩く側。

 ガトリンは表情を崩さぬまま言った。

「悪いが──あまりおしゃべりもしていられないのでな」

 

 

 至極。

 彼は至極自然な動作をもって。

 

 四足を地面につけ。

 銃口を正面に向けた。

 

「戦闘開始だ」

 

 

 その時──。

 誰よりも速くその意図に気付いたのは弓場拓磨であった。

 

 

 ガトリンの視線と、銃口の位置。

 それらが向けられている方向が──太刀川でも、小南でも、風間でも、ましてや自分でもなく。

 

 その先。

 

 ──遠征艇の格納庫である、と。

 銃手としての本能が、それを察知させた。

 

 風間からの叫びが聞こえるよりも早く。

 弓場はホルスターから拳銃を抜き──引き金に指をかけていた。

 

 両者の銃声は、重なって聞こえた。

 しかし。

 

 ──ガトリンの銃が弾丸にて弾かれ、斜め方向の壁を破砕したその様から。僅かながら弓場の早撃ちが勝ったようであった。

 ──格納庫を十分に破壊できる威力が、あの砲撃にある。

 そう認識し、ぶわ、と弓場の全身に冷たいものと熱いものの双方が流れ込んできた気がした。

 

 銃口を向けた弓場の左右から、ドグが飛び掛かる。

 

 小南が身を割り込ませ、二斧にてそれらを斬り裂くと同時──倒しきれなかった分を前蹴りで跳ね飛ばし、銃撃を叩き込む。

 

「──ナイス弓場ちゃん!」

「あっぶねー。すぐに終わるところだった」

「──気ィつけろ! あの砲撃、余裕で格納庫(ハンガー)溶かせるぞ!」

 

 砲撃での遠征艇の破壊が失敗に終わったその瞬間。

 ガトリンとラタリコフの動きは迅速であった。

 

「──踊り手」

 

 デスピニス、とラタリコフが言葉にすると同時。

 チャクラムの如き円輪状のブレードが左右に展開され、直線と曲線を交えながら周囲に飛び交い、

 

 飛び交う空間を縫うように──ドグが発生し、飛び掛かっていく。

 

「ちっ」

 

 円輪が飛び交う中。

 風間は流石に防護を行うべく、カメレオンを解除。スコーピオンの二刀にて弾いていく。

 

 ──成程。透明になっている間は攻撃が出来ないのか。

 

 そうして。

 円輪の防御に意識が割かれている中。

 

 ガトリンの──処刑者のブレードが襲い掛かる。

 

 その狙いは──弓場拓磨。

 広大かつ、速度も十分に乗った斬撃は踊り手の円輪を避ける弓場がステップを踏んだ着地点目掛けて飛んでくる。

 

 その速度と、推測される威力に防御は不可能と察した弓場は、テレポーターを起動。

 

 テレポートによる空間移動により難を逃れた弓場は──眼前の光景を見る。

 

 左右から小南と太刀川が、ガトリンを囲んでいる。

 それぞれの攻撃を受け止める為に、二つのブレード。

 

 そして──その迎撃をせんと二つのブレードが頭上に振ってきている。

 

 弓場は即座に、処刑者のブレードを繋ぐ間接部位に銃弾を叩き込む。

 

「──簡単に弾かれるか」

 

 弓場の銃弾すらも、叩き込まれてもビクともしない。

 

 ──何という頑丈さ。

 

 

 一連の動きを経て。

 ガロプラ側、ボーダー側──双方で、今の交戦の中敵戦力の大まかな評価付けが終わる。

 

 その評価の中で。

 ボーダー側は──弱い方を狙うという基本意識に基づいた思考と連携を始める。

 

 円輪が動く中、弓場が銃撃でラタリコフを動かし。

 太刀川、もしくは小南がその動きを止め。

 

 死角側から風間が急襲をかける。

 

 この一連の動きの端緒を拾い上げ。

 ガトリンが処刑者のブレードにて連携を乱していく。

 

 あのブレードは広域かつ多方向に斬撃と防護が可能という特性を持ち、その特性を遺憾なく発揮し、ボーダー側の連携の中心点に割り込みをかけ、振り回し、連携を止める。

 

 

「──本当はあの坊主頭からシメてやりたいが」

「その意図にきっちり気付いてんな。あのデカブツがあの広くてデカいブレードで割り込みをかけて連携を途切れさせちまう。周りの犬も邪魔」

「あの犬も円輪も。重い方をサポートする動きをしている。各個撃破よりも分断を優先。──大砲のチャージがいつ終わるか解らない以上、可能な限り素早く重い方を沈める」

 

 円輪が飛び交い。

 犬が走り。

 そして──砲撃を構える男の姿。

 

「──俺が軽い方の相手をする。小南と太刀川が前線で重い方に組み付いて、弓場は位置取りしながら空いている方の援護。いいな?」

 

「──了解!」

 

 風間からの指示に、三人分の了解の言葉が重なる。

 

 ──戦いは、まだ始まったばかり。

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