鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
最初の相手は猗窩座からです。
強化された猗窩座はどうやって葉蔵と戦うのでしょうか!
とある列車の車両内。
一人の鬼と四人の剣士が対峙していた。
鬼の名は猗窩座。
目に上弦の参の文字が刻まれた最強格の鬼。
彼の強さはその位以下の鬼とは比べ物にすらならない。
そのことは、戦う前から発するその圧が証明している。
「(な…なんだこの臭いは………!?)」
猗窩座から感じ取れる強い鬼特有の臭い。
強い鬼因子の臭いである。
戦う際の葉蔵に似たような臭い。
それが自身に向けられるという恐怖。
炭治郎はその事実に膝を付きかけた瞬間……。
「っ!?」
眼前に広がる鬼の拳。
咄嗟に刀で逸らそうとするも、タイミングが早すぎて直に受けてしまった。
何割か衝撃は殺した。だがそれでは足りない。
炭治郎は刀を破壊されながら吹っ飛ばされ、列車の壁に叩きつけられた。
ゴウンと音を立てて揺れる列車。一瞬だけだが確かに車両が浮いた。
上記の出来事から、その破壊力は十二分に推し量れる。
「俺の拳を止めるか。なら今度は……っと」
後ろから煉獄の不意打ち。
猗窩座は最低限の動きのみで避け、少しだけ後ろに下がる。
「しっかりするんだ少年たち! ここは俺が引き受ける! 少年たちは早く列車の鬼を!」
「は…はい!!」
煉獄に喝を入れられ、炭治郎たちは立ち上がる。
しかし、炭治郎だけが膝を付いてしまった。
先ほど刺されてしまった腹が酷く痛み出したのだ。
「(俺は……死ねない。俺が死んだら、俺の腹を刺したあの人が人殺しになってしまう。死ねない……誰も死なせたくない!)」
呼吸を整えて出血をコントロールして立ち上がる。
まだまだ不完全だが、そこは努力と我慢が売りの長男。
足りない部分は気合で補い、痛む身体に鞭打って動く。
「お…おい大丈夫か!?」
「平気だ! これぐらいかすり傷だ!」
「無理だけはするなよ! まだお前に禰豆子ちゃんの花嫁姿も見せてないんだから!」
炭治郎を激励しながら素通りして行こうとするが、かまぼこ隊目掛けて猗窩座が攻撃を仕掛けた。
ノーモーションの破壊殺・空式。
拳を向けただけで炭治郎たちに大気の拳が迫りくる……。
【炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天】
速さを優先した切り上げ。
煉獄が咄嗟に繰り出した絶技は、猗窩座の拳撃を迎撃。
炭治郎たちを見事守り切って見せた。
「お前の相手は俺だ! 彼らに手出しはさせん!」
「そうはいかない。上弦の鬼を増やすためにも、アイツを殺されるわけにはいかない。……そうだ、煉獄といったな。お前、鬼にならないか?」
「ならない!」
【炎の呼吸 伍ノ型 炎虎】
煉獄の攻撃。
虎のように敏捷且つ力強く、燃え盛る炎のように強烈な一撃。
だが、その剣技を猗窩座はあっさりと受け止めて見せた。
血鬼術も破壊殺も使用していない。鬼の肉体のみで止めたのだ。
決して煉獄の技は見掛け倒しではない。
その証拠に、先ほどの踏み込みで車両が揺れ、一瞬浮いて見せた。
人間の踏み込みで列車が浮いたのだ。
これだけでも十分に驚愕に値する威力である。
「素晴らしい闘気と技だ。一見するだけでお前が至高に近い領域だとわかるが……まだまだ弱いな」
猗窩座に答えず振りほどこうとする煉獄。
動かない。
どれだけ力を振り絞っても、技をかけてもビクともしない。
相手は片手で刀を掴んでいるだけで、決して術も技も使用していない。
猗窩座は力のみで柱―――煉獄杏寿郎を拘束しているのだ。
「お前の剣戟は素晴らしいが、所詮は人間。……全然だめだ。あの程度では上弦にも、針鬼にも届かない」
「それでも俺たちが諦めることはない! 俺たちは悪鬼に苦しめられる人がいる限り、戦い続ける!!」
「………無駄な努力を」
「~~~!!?」
瞬間、煉獄が吹っ飛んだ。
猗窩座の前蹴り。
早いだけのただの蹴りが煉獄の腹部に命中し、肺の中の空気を強制的に追い出した。
「俺もつい最近まではこれ程の力はなかった。だが、あの方から血を頂くことで格段に強くなれた。……分かるか? これが鬼だ」
「お前たち人間が必死に鍛錬して手に入れる力を、俺たちはあの方の血を少し取り入れる程度であっさり手にする。……針鬼も、そうやって強くなってきた」
何処か影のある顔の猗窩座。
しかしそれに気づくものは誰もいない。
そんな余裕など最初からないのだ。
気配に敏感な三人は猗窩座の圧に怯んでおり、煉獄もこの通り。
こんな状況でいちいち相手に気を使ってられるはずがない。
「おい魘夢、こいつらも殺すが構わないな?」
猗窩座が天井に向かって叫ぶ。
しかし、魘夢からの返事はなかった。
魘夢は列車と一体化しているため、どこからでも声を聴ける筈。
考えられるとすれば魘夢が無視しているか……。
「おい魘夢、聞こえているのか? 魘夢! 魘夢!!」
「その魘夢とやらはとっくに死んだぞ」
「「「!!?」」」
その声を聴いた途端、全員が動きを止めた。
声をかけられて、初めて気づいた。
臭いも音も、気配すら感じさせなかった。
誰もいない。新たにこの車両に入った者はいない筈。
だというに、その鬼は今来たかのように振る舞う………。
「久しぶりだね、炭治郎くん」
鬼と鬼殺隊から畏怖される最強の鬼狩り、大庭葉蔵。
彼は友人とばったり街中であったかのように、穏やかな笑顔で話しかけた。
「やあ炭治郎くんに禰豆子くん。あれから二年程だね。見たところ元気そうだね」
「あ、はい……」
「う、うん……」
「魘夢は私が食らった。もう乗客は無事だ。直に目を覚ますだろう」
言われてみれば、列車中からしていた鬼の気配が消えている。
いつの間に。
炭治郎はそんなありきたりな質問をしようとしたが、聞く前にやめた。
聞くまでもない、猗窩座と煉獄が戦っている間に終わったのだ。
猗窩座のあまりにも強大な鬼因子の存在感と、あまりの強さに感覚がマヒしたあの瞬間。
あの一分にも満たない時間でやってみせたのだ。
普通なら考えられないが、相手はあの針鬼。
たかが下弦の鬼など、瞬く間に処理出来る。
「針鬼、悪いが世間話は後にしてもらおう! 俺たちは今、立て込んでいる!!」
「うん、わかっているよ。……久しぶりだな、猗窩座」
葉蔵は猗窩座に振り返った。
穏やかな表情に獰猛な笑みが混じる。
「俺を放って弱者のほうに声をかけるとは随分余裕だな!」
「放ってしまってすまないね。君を無視しているわけじゃないんだ。けど……」
【針の流法 血針弾】
【破壊殺・空式】
同時に攻撃が繰り出される。
両者は空中でぶつかり、互いに相殺。
その勢いによって空気が震え、衝撃で列車が派手に揺れた。
「やはり私たちは言葉よりこういうやり取りのほうが相応しいと思ってね」
「………ああ、同感だ!」
構える猗窩座。
対する葉蔵は構えるどころか背中を見せ、列車の窓へと近づいた。
「外に出ろ。ここは私と貴様が暴れるには狭すぎる」
返事はない。
だが行動で示される。
葉蔵は行儀良く開けた窓から、猗窩座は乱暴に割った窓から外へと向かう。
「吐いた唾は飲み込めんぞ、針鬼!」
「飲み込むつもりはない。私が今から飲み込むのは、貴様の命だ!」
針鬼と拳鬼。
二体の強大な鬼は、獣のような笑顔を浮かべながらぶつかり合う。