鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
上弦もソレに伴って強化されました。
そんな化物がぶつかり合ったら周囲はどうなるでしょうね。
とある野原。
線路以外の人工物がないような僻地。
そこで二体の鬼がぶつかり合っていた。
【破壊殺・乱式】
【血針弾・連砲】
互いの連続攻撃。
葉蔵は血針弾を、猗窩座は拳のオーラを飛ばしてぶつけ合う。
「ほう、どうやら貴様もパワーアップしたようだな!」
「そうだ! あの方から血を分けて頂いたことで、俺は“気”を以前よりも自在に操れるようになった!」
猗窩座を覆う桃色のオーラ。
以前から闘気というものを猗窩座は感じ取れたが、物理的なエネルギーにしたり、自在にコントロールするような真似は出来なかった。
だが、無惨から血を貰い、適応することで新たに習得してみせたのだ。
全ては針鬼を倒し、その雪辱を晴らすために!
「覚悟しろ針鬼! 今日が貴様の命日だ!」
「ほざけ。命日になるのはどちらか知るがいい」
【針の流法
【破壊殺・照明しだれ柳】
桃色の光―――闘気を纏い、葉蔵が飛ばす無数の針から身を守る。
鎧のように闘気は針を防ぎ、針の雨の中を猗窩座は突き進む。
無惨の血を直接摂取したことで威力は上がっているが、ニードルレインは牽制用の弾丸。
針が刺さらなければ大した脅威ではない。
【針の流法
【破壊殺・閃光万雷】
同時に血鬼術を発動。
猗窩座の繰り出した拳から巨大な拳型の闘気が打ち出され、途中で分散。
クラスター弾のように無数の拳型闘気を待ち散らす。
ソレを迎え撃つのは葉蔵のスプラッシュキャノン。
こちらも散弾をまき散らして全て迎撃してみせた。
余波により無数の衝撃波が発生。
大気が震え、地面が揺れる。
【破壊殺・砕式 万葉閃柳】
【針の流法
上方から猗窩座の奇襲。
先程の撃ち合いによって土煙が巻き起こる中、猗窩座の蹴りが葉蔵目掛けて振り下ろされた。
角の超感覚によって前もって接近を察知していた葉蔵は慌てることなく迎撃を開始。
巨大な杭のような砲弾を打ち上げ、猗窩座を牽制した。
両者の血鬼術の余波により、巨大な波紋が大気に拡がる。
野原中にブワッと広がり、辺りにあるものを吹き飛ばした。
「腕を上げたな、猗窩座!」
「認めてくれるなら死んでくれ、針鬼!」
両鬼はそれからもぶつかり合う。
場を移動し、位置を入れ替え、近づいて、離れて。
互いの血鬼術をぶつけて、壮大な激戦を繰り広げる。
「な…なんて戦いだ!?」
「う、うむ……! これ程までに上弦とは…上弦とは強大なのか!?」
遠くから葉蔵の戦闘を観察している炭治郎たち。
彼らは鬼の繰り広げる圧倒的で理不尽なまでの力に驚愕……いや、恐れすら抱いていた。
一撃一撃が人間にとって必殺。
牽制用に放つような、攻撃範囲を優先した血鬼術でさえも、そのうちの一発で絶命するには十分な威力。
威力重視の血鬼術も並の速度ではなく、予備動作も少ない。柱でも避けるのは至難と言ってもいい。
だが、上記の血鬼術は当人ならぬ当鬼とってまだ遊びの範疇。余興の段階である。
本当の恐怖はここから始まる……。
「素晴らしい、素晴らしい力だ針鬼! 俺もここまで鍛えた甲斐があるというもの!」
「何を当たり前の事を! 私が強いのは当然だ! そして勝つ事も! そんな余裕を持っていいのか!?」
「相変わらず上から目線だな! なら、これを見ても同じことが言えるのか!?」
ブォンと重低音を発しながら、猗窩座の足元に雪の結晶の紋章が浮かび上がる。
中央に立つ猗窩座にも変化が生じた。
彼の肉体を雪だるまに包まれる。
一見、間抜けな外見だが、葉蔵はソレに騙されることはなかった。
「……そうか、お前も使えるのか」
彼は一目するだけで気づいた。
あの雪は繭。
葉蔵が使う赤い結晶と同じ効果であることに……。
雪だるまが内部から木っ端微塵に吹き飛ばされ、中から猗窩座が現れる。
その姿を見た途端、葉蔵は驚きと喜びの混じった笑みを浮かべた。
全身を覆う甲殻類のような装甲。
両肩から伸びる肉体同様に装甲に包まれた腕。
眼の位置に当たる鎧の隙間から爛々と輝く黄色の光。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
全身を鎧によって武装した猗窩座は、強烈なオーラをその場一帯にまき散らした。
炭治郎たちは葉蔵と猗窩座の戦闘を見届ける為、列車から飛び降りた。
まだ汽車は走っているが、受け身を万全に取れば問題はない。
ゴロゴロ転がって衝撃を逃がし、すぐさま葉蔵達を追った。
そして見てしまった。知ってしまった。
彼らがどれだけ強大な存在か。
「よ、よもやよもや……」
その光景を見た瞬間、煉獄安寿朗は恐怖を覚えた。
あの煉獄が、鬼に怯んだのだ。
彼でさえ恐れるのだ。気配に敏感な後ろの三人どれだけ怖がっているのか……。
「う、うぅぅ……」
炭治郎は吐き気を堪えながら鼻を抑えた。
強烈な暴力の匂い。
鬼のように嫌な臭いでもなく、純粋な悪臭でもない。
匂いがあまりにも強すぎて、刺激が強すぎて痛みを感じているのだ。
どんなに良い香りでも凝縮すれば吐き気を覚えるように、強すぎる力の匂いというものは、炭治郎の嗅覚に痛みを与えるような、甚大な刺激となる。
それほどまでに葉蔵の力の匂いは強いのだ。
「う…うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………」
伊之助は、吐いた。
突如被り物を脱ぎ捨てたかと思いきや、その場でリバース。
さっきまで腹に入れていた牛鍋弁当を出した。
大きすぎる存在の気配。
生物的な格か全然違う。
己がいかに矮小な存在か、相手が如何に巨大な存在であるか、嫌でも知らされる。
伊之助の本能は、獣鬼態の葉蔵の強大さを、その埋められない差を瞬時に理解。あまりの大きさに、認識するだけで吐く程の恐怖を覚えた。
「う……あぁ……ああ!!」
善逸は耳を抑えて蹲った。
強烈な暴力の音。
大地が震え、直接鳴り響くかのような大きすぎる重低音。
あまりのヴォリュームに耳が潰れそうになる。
もはや恐怖すら感じられない。その余裕すらない。
善逸はいつものように気絶することすら出来なかった。
「……! ……!」
禰豆子はその場で跪いた。
自分が何をしているのか。彼女自身理解していない。
自然と、まるでそうするのが当たり前のように体が勝手に動いたのだ。
彼女の体内にある鬼因子が主である葉蔵に反応したのか、それとも圧倒的な力による恐怖からなのか……。
これが人間から見た葉蔵である。
葉蔵を一言で表すなら一人旅団。
鬼は勿論、当時の旅団を単体で滅ぼしかねない力を持つ。
そんな化物が何の制約も受けず、夜限定とはいえ自由に歩いている。
己の都合で何時でも、機嫌一つで何時でも巨大な力の引き金を引ける。
怖くないはずが無い。
彼の存在を知ったものは、その引き金が自身に引かれないよう、その余波に巻き込まれないよう危惧しなくてはいけない。
こういうものを人々は天災と呼ぶのだ。
「……放置してよいのだろうか」
だから、煉獄がこう考えるのも当然と言えば当然なのかもしれない。