鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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ずっと前から疑問に思うのですが、何故獪岳は鬼殺隊なんて続けてるんでしょうね?
彼の性格上、割に合わないと判断してすぐ辞めそうなんですが……。


獪岳

 

「(これで…俺も胸張ってあの世に逝ける……)」

 

 とある真夜中の山。

 一人の鬼殺隊隊士が死を迎えようとしていた。

 隊士の名は獪岳。

 雷の呼吸を使いながらも、雷の呼吸の代名詞である壱ノ型が使えない少し変わった剣士である。

 

「あんたの……言った通りだぜ、葉蔵さん……。俺は、俺は……やっと、自分が…許せた……」

 

 ツーと涙が流れる。

 ゴホッと咳と同時に血が口から溢れる。

 

 彼の胸元には大きな風穴が空いており、呼吸もままならない。

 それでも生きていけるのは呼吸の剣士特有の生命力のおかげか。

 しかしソレも長くは持たない。直に彼は死ぬ。

 

 もし誰か彼を助けてくれる者がいるなら話は別だが、すでに誰もいない。

 鬼から被害者を逃がすために、全力を出した結果である。

 だが、今の彼には悔いはない。

 

「これで……やっと俺は、救われる……」

 

 ふと、葉蔵に会った出来事を思い出しながら、獪岳は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中の山中。

 鬼殺隊の一員である獪岳は、土下座をしていた。

 這い蹲って鬼に頭を下げ、許しを乞う。

 鬼殺隊にあるまじき無様な醜態。

 しかし、それも無理はない。

 

「鬼になってでも……生き延びたいか……?」

 

 なにせ相手は、あの上弦の壱なのだから。

 

「(どうして………どうしてこうなった!? なんで上弦の鬼がこんな何もないとこにいやがる!?)」

 

 一目見た瞬間、身体は無意識に平伏した。

 全身の細胞が震えがあるかのような恐怖。

 抵抗なんて考えすらさせない程の存在感。

 

 圧倒的な実力差は力を見ずとも分かる。

 こんな化物と戦うなんて同じ化物のみ。

 それほどまでに黒死牟は圧倒的だった。

 

 

「もう一度……問う……。鬼になってでも……生き延びたいか……?」

 

 

 黒死牟の問いに、獪岳は頷いた。

 絶体絶命の危機に、彼は鬼になってでも生き残るという道を選んだのだ。

 

 任務の最中、黒死牟と遭遇してしまった獪岳の部隊は、瞬く間に彼一人を残して殺された。

 何が起きたか獪岳も認識していない。

 分かったのは、目の前の鬼に殺された事と、得物である刀によって斬られたという事のみ。

 何時刀を振るい、どんな技をどんな風に使ったのか。それらを認識すらさせない圧倒的な剣技。

 降服以外に生きる道はないと、一瞬で判断した獪岳にとって、黒死牟の提案は渡りに船だった。

 そしてソレは提案者である黒死牟も同様である。

 

 黒死牟には上弦に相応しい鬼を探すという仕事があった。

 立て続けに上弦の席が弐つも空白となった現在。早急に埋める必要がある。

 呼吸を使える剣士が自発的に鬼に成ると言ってくれるのは黒死牟にとって渡りに船だった。 

 

「有り難き血だ……一滴たりとて零すこと罷りならぬ……零したときは……お前の首と胴は泣き別れだ」

 

 獪岳の手皿が血で満たされる。

 恐怖に震えそうになる手を必死で抑え、中身を啜ろうと、ゆっくり口元まで持っていく。

 一滴でも零せば死ぬ。一口でも飲めば鬼の力が得られる。

 血の盃を啜ろうと口を近づけ……。

 

 

【針の流法 血針弾】

 

 

 突如飛んできた弾丸によって、全てひっくり返された。

 弾は決して獪岳を狙ったものではない。

 むしろその逆。彼を救うため、黒死牟から離すために、敢えて外した弾丸である。

 

「この弾丸……もしや……!!」

 

 刀を振るって銃弾を叩き落す。

 何者かなんて聞くまでもない。

 もう何度も見てきたこの攻撃。

 誰かなんてコレだけで十分だ。

 

「針鬼……!」

 

 三日月のように口を歪ませながら見上げる。

 そこには不敵な笑みを浮かべながら空に浮かび上がる葉蔵がいた。

 

「いい月夜だ。貴様の命日にはピッタリだと思わないか?」

「ほざけ……! 命日になるのは……どちらか……知るがいい……!」

 

 人の形をした化物たちは、互いの武器を構えて動き出した。

 

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