鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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定例柱合会議

 

「う…ぐぅ!??」

 

 とある洞窟の中、葉蔵は胸を抑えて苦しんでいた。

 病とは無縁の筈である鬼が苦悶の表情で藻掻く。

 一体何があったというのか……。

 

「クソ……。私も遂に……なってしまったか……」

 

 裾から零れ落ちる黒い灰を見つめながら、葉蔵は皮肉気に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、柱合会議を始めようか」

 

 半年に一回行われるはずの柱合会議。

 前回、緊急で行われていたが、今回は本来の会議である。

 

「……あの、すいません。何で俺もいるんですか?」

 

 炭治郎は手を挙げて発言した。

 柱合会議とは柱とお館様のみで行われる筈。なのに何故部外者である自分がここにいるのか彼は理解出来なかった。

 話があると義勇に言われて付いてきただけなのに、何故こうなった? 彼の顔はそう言っている。

 

「実はね、今回の会議の大半は針鬼……大庭葉蔵についてなんだ」

「「「!?」」」

 

 産屋敷の言葉に、その場にいた者たちが反応を示す。

 あるものは期待を、ある者は嫌悪感を、そしてあるものは恐怖を。

 

「では、まずは小芭内から話してくれないか?」

「……はい」

 

 小芭内はゆっくりと話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある寒村。

 草木眠る丑三つ時でありながら、今宵は少しにぎやかだった。

 

「うぁぁ……」

「かゆ…うま……」

 

 本来永眠している筈の死体たちがゾンビとなって徘徊する程に、今夜は騒がしい。

 ハロウィンはとっくに過ぎている上に、大正時代なんてまだ西洋の文化が浸透しきってない時期。

 なのに何故この村だけラクーンシティのようになっているのか。

 

「フフフフ…。どうだ鬼殺隊の諸君。儂の作品はなかなかのモンじゃろ?」

 

 この鬼が原因である。

 山羊の頭蓋骨を被り、外套で身を包む鬼。

 名は屍鬼。つい最近十二鬼月に入った新参者であり、無惨に血を分け与えられた鬼である。

 彼の血鬼術は死体の操作と改造。

 死体をゾンビとして使役するのは勿論、他の死体と合体させたり、血を与えて変異させたり、加工してより戦闘的に改造等も出来る。

 しかも死体なので自意識がないため、人魔と違って兵隊共に命令を下す事が出来るのだ。

 

「なんて醜悪な……!」

「酷いわ! 人の死を何だと思ってるのよ!?」

 

 迎え撃つのは二人の柱。

 伊黒と甘露寺である。

 彼らは己の日輪刀を振るって敵を切り裂く。

 

 全身の筋肉と脳が皮膚を突き破る程に肥大化した化物、爬虫類と人間が合わさったような化物、青白い筋骨隆々のスキンヘッドのような化物など。

 しかしどれもこれも血鬼術は行使せず、武器は変異した肉体のみ。

 一般市民にとってはそれだけでも十分すぎる脅威だが、人間離れした肉体と精神を持つ柱にとってはこの程度の敵など造作もない。

 ただ、問題があるとすれば……。

 

「(ごめんなさいごめんなさい! 私たちがもっと早く駆け付けていれば……!)」

「(なんておぞましい真似を……! 俺たちにこんな真似をさせやがって!!)」

 

 柱達のメンタル面である。

 彼らが切り刻んでいるのは村人たちの死体。

 本来ならこの村でいつも通りの明日を迎える筈だった者たちである。

 老若男女関係なく皆殺しにされ、死後も尊厳を辱められる。

 せめて人として弔いたい。そんな思いも踏みにじられる現状。

 腹立たしい、鬼も、無力な自分も……。

 

「ヒャハハハハハ! まだまだお替りはあるぞ?」

 

 屍鬼はそんな柱二人の心境を知ってか、煽るように笑いながら、ゾンビを呼び寄せる。

 ここにいるゾンビたちが全てではない。自身の主に喜んでもらうために、他の村も襲撃して作品を作って来たのだ。

 勿論、騒ぎにならないように場所はコロコロ変えている。時には地方を跨いで死体を稼いだこともあった。

 たっぷりと用意した兵士たち。今ここでその力を発揮させる。

 柱を討ち取った暁には更なる血と力を分けてもらおう。

 

「どうだ、儂の作品は? あの方にも認められた傑作揃いじゃろ!?」

 

 別に、無惨はそれほど屍鬼に価値を見出してない。

 対葉蔵の鬼を作るために血の耐久度を上げる実験体に選んだだけである。

 扱いは実験用のモルモット。思いの他成功したので更なるデータを取るために働かせているだけ。

 もし倒されたとしても大して気に留めない。せいぜい実験の駒が一つなくなったと言った程度である。

 ゲテモノ作りといえば玉壺などもいたが、彼の場合は金になるものを作れたのから悪趣味な物作りを許していたのだ。

 一銭の得にもならず、血鬼術も使えないゾンビを量産する程度の屍鬼など、鬼として期待するはずが無い。実験体止まりである。

 

 だから、この鬼では『鬼神』に勝てない……。

 

「ん?妙じゃな。さっきから呼んでるのに兵隊が集まらないぞ?」

 

 ふと、違和感に気づいた。

 屍鬼は柱二人を倒す絶好のチャンスのために、今ある死体を全部使う気でいる。

 そのためさっきからゾンビ共に全て集まるよう指示しているのが、全然集まらないのだ。

 

「(まさか、すべてやられた? ……いや、ありえん)」

 

 ゾンビはかなりの数を用意した。

 たった数人の隊士程度で倒しきれる量ではないし、改造したゾンビ兵を瞬殺出来るのは柱級の剣士ぐらいだ。

 既に柱がこの場に二人いるのに、万年人不足の鬼殺隊が柱に匹敵するような剣士をそう何人も派遣できるわけがないのだ。

 そうだ、ありえない。自身の傑作がそう簡単に全滅するなど有り得るはずが無い……。

 

 

 

 

 

「なんだ、残りはここにあるのか」

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 その場にいた者全てが、死を覚えた。

 

 全方向から銃器を向けられたかのような悪寒。

 引き金一つで己の命が左右される。

 絶対的不利に立たされた恐怖感。

 

「それじゃあ、このゲームも終盤かな?」

 

 銃の支配者―――葉蔵はゆっくりと人差し指を屍鬼に向けた。

 

「やあ、久しぶりだね二人とも」

 

 にこやかに笑いながら、葉蔵は二人に手を振った。

 

 気がつけば、さっき感じていた圧はなくなっていた。

 ほっと息を付きながら二人は葉蔵に返事をする。

 

「や、奴が針鬼……!」

 

 対する屍鬼は葉蔵を前に闘志を震わせていた。

 鬼でありながら無惨に敵対する裏切り者、針鬼。

 食われた鬼は百を超え、その中には十二鬼月も含まれ、そして上弦を何度も返り討ちにしてきた。

 正しく鬼にとっての仇敵。この賊を討ち取れば、どれだけの血を分けて頂けるか……!

 

「死ね針鬼!」

 

 葉蔵にゾンビをけしかける屍鬼。

 背を向けて呑気に話してる今なら……!

 

 

【針の流法 血針弾】

 

 

 ゾンビたちの眉間に血針弾が撃ち込まれた。

 屍鬼の操るゾンビたちの脳には死体を核が存在しており、そこから屍鬼の命令を受信している。

 ここを潰される、或いは身体から脳を切除することでゾンビたちは活動を停止するのだ。

 

「頭を撃ち抜けば死ぬ。ゾンビパニックの典型的な例だね」

「ぞ…ゾンパ……? 一体何を言っている!?」

「いや、こっちの話だ。君は私に構わずゾンビ……玩具を投入してくれ」

「………何?」

 

 じろりと、訝しむような目で葉蔵を睨む屍鬼。

 葉蔵はソレを気にも留めず楽しそうにゾンビたちの眉間に血針弾を撃ち込んだ。

 

「君、この時代にしては面白いアトラクションを考えるね。まるでU〇Jでシューティングゲームでもしているかのような気分だ」

「な、何言ってやがる……?」

 

 気味が悪い。

 会話している筈なのに、コミュニケーションがちゃんと成立していない。

 面と向かって喋っているのに、自分を相手にしていないような、自分を通して別の誰かと話しているかのような。

 そんな気味の悪さを屍鬼は感じた。

 

「いや~、久々にバイオを思い出したよ。最初、後先考えずに乱射して弾切れ起こしたっけ。まあ、今の私は弾を気にする必要なんてないんだけどね」

「訳の分からないこと言うな!!」

 

 再びゾンビをけしかける。

 葉蔵は再び血針弾のみで全てを撃ち倒した。

 わざわざ一体一発ずつ、その気になれば一斉に弾丸を飛ばせる筈なのに。

 

 

「ハンデだ。私は血針弾……一番弱い術しか使わない。私が無限ロケラン使ったらゲームにならないからね」

「な……なめるな!!」

 

 言っている意味は相変わらず分からないが、舐められていることは分かった。

 そもそも、この鬼は最初から屍鬼など相手にしていなかったのだ。

 強いて言うならゲームのキャラクター。

 モニターに映る敵キャラのような扱いだ。

 だからさっきから会話が独り言くさいのだ。

 

「さ、私を楽しませてくれ。今日は久々にガン=カタみたいな戦い方(プレイスタイル)がしたい」

「ふ、ふざけんな!」

 

 そこからの戦いは一方的だった。

 いや、そもそも戦いと呼べるものではなかった。

 最初から、葉蔵はお遊びのつもりで来たのだから。

 

 早撃ちと精密射撃。

 一瞬で迫り来る敵に照準を合わせ、一切のブレ無く命中。

 複数で向かおうが無駄。超感覚に制限を設けている状態だというのに、彼の射撃にミスは発生しない。

 強くなるにつれて目立たなくなったが、葉蔵の射撃能力も飛躍的に上がった。

 敢えて自身に制限を設けることで、鬼としての能力だけでなく自身の力も伸ばしてきたのだ。

 

「アッハッッハッハ! 楽しいねコレ! ほら、もっと的を用意して!」

「こ、この化物め!!」

 

 敵の攻撃を避けながら安全且つ射撃に最適な位置を確保しながら、射撃を行う。

 時には同士討ちを誘いながら、次々と二つの銃口のみで敵を駆逐していった。

 宣告通り、今の彼のプレイスタイルはガン=カタ。

 彼の前世では空想であったはずの武術を、彼は編み出して見せたのだ。

 もっとも、コレを後世に残すつもりはないし、真似出来る者も限られるが。

 

「(クソクソクソ! 糞がぁぁぁぁ………!!)」

 

 楽しそうにガン=カタする葉蔵とは対照的に、屍鬼はひどく焦っていた。

 もうストックが一割を切ってしまった。

 このままでは全滅するのは目に見えている。

 そしてその時こそ屍鬼が報いを受けるときである。

 

「おい、あまり私を退屈させるな。それとも、もうネタ切れか?」

「~~~~~~~~!!?」

 

 相変わらず葉蔵は無傷で射撃を行い、しかも敢えて無駄な動きを入れて遊んでいる。

 そろそろ飽き始めたのだ。

 

 ガン=カタごっこはけっこう前からやっている。

 そもそも、遠距離がメインである筈なのに、いつも真正面から彼は戦っているのだ。 

 そりゃガンカタみたいな戦い方になる。

 

「(もう、これしかない!)」

 

 屍鬼は、残りの死体をすべて集め、融合した。

 

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