鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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死体の価値

「(す…すごい! あんなにいた死体が一割にも満たない程に倒しちゃった!?)」

「(………強すぎる。あれが鬼神の力か)」

 

 柱二人は葉蔵の戦いぶりを黙って観察していた。

 助太刀をするつもりはない。

 戦力的に見て手助けなど不要。彼らも先程の戦闘で体力を消耗している上に、本人も望んでいない。

 無駄な労力を使う必要はない。よって二人は戦場から離れ、葉蔵の戦いを遠目に見ていた。

 

「(しかしそれにしても……なんて無邪気に戦う―――殺しを楽しむんだ……)」

 

 子供が虫の羽や足を引き千切るかのような、猫が鼠を嬲るかのような戦い方。

 蜜理も猫を飼っているがここまで野蛮な真似はしない。

 犬猫よりも獣染みた戦いぶりに、二人は恐れを抱いた。

 

 怖い。

 あの時、憧れを抱いた瞬間と同じ筈なのに。

 荒々しさも、冷酷さも、そして美しさも。全て変わってない。

 いや、以前よりも苛烈になっている。

 より強く、より激しく、より美しくなっている。

 なのに何故これほどまでに恐ろしいと感じる?

 

「何が……違うんだ?」

 

 以前とは違う感想を抱く自分に、伊黒は戸惑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ~、そういうことも出来るんだ」

 

 巨大化した屍鬼を見て、葉蔵ははそんな呑気な声を出した。

 

 特に驚きはしない。

 他の物体と融合する血鬼術や肉体を持つ鬼はいくらか見て来た。

 今更似たような物を見せられたところで、特に感想はない。

 強いて言うなら、一つの生物として動ける点と言ったところか。

 

「けど不格好だな。まあ、その方がバイオのボス感あっていいけど」

 

 葉蔵の言う通り、屍鬼は醜悪な姿に変貌した。

 異常に肥大化した姿

 体は軟体動物のように柔らかく、腕は伸縮自在かつ強靭な触手へと変貌。

 巨大な肉の塊から無数に生える触手で葉蔵に攻撃を仕掛けた。

 

「……なんか、追い詰めた時の無惨みたいな姿しているね」

「「ッ!?」

 

 攻撃を紙一重で避けながら、ポツリと呟く。

 その言葉に柱二人は反応するも、彼らも触手の対応に手一杯の為、問い詰めることは出来なかった。

 

「けどまあ……あの男に比べたらお粗末だ!」

 

 血針弾を相手の胴体に打ち込む。

 途端、その周囲の肉が瞬く間に崩れ落ち、触手も四分の一ほどボトボト落ち始めた。

 

「無理やり継ぎ接ぎにしたせいだろうね。ちゃんと全身を合体しきれてない。だから因子の供給を少し経った程度でこのザマだ」

 

 葉蔵の言う通り、屍鬼の合体は不完全……いや、欠陥もいいところだった。

 無理やり死体を材料に巨大化したせいで、ちゃんと合体しきれていない。

 そんな歪な融合だから、欠陥だらけになってしまった。

 例えるなら、適当に積まれたジェンガ。

 少し強めに突いた程度で崩れ落ちる。

 しかし、一撃で沈むのは何も彼だけの責任ではない。

 

 いくら合体が不完全だといっても、一発突いた程度でこうも簡単に崩れるわけがない。

 では何故一発で沈んだのか。その答えは葉蔵自身の超感覚にある。

 相手の体内をソナーと電波で透視しながら、鬼因子の流れを感じ取り、不安定且つ鬼因子の循環が集中している箇所に、その後の連鎖崩壊も計算して、正確に撃ち抜いたのだ。

 

「もういい。貴様の底は知れた。……さっさと散れ」

 

 パチンと指を鳴らす。

 ソレを合図に屍鬼の肉体は崩れていった。

 

 安全措置。

 万が一逃げられるのを危惧して、予め血針弾を気づかれない間に撃ち込んでいたのだ。

 ゲームが続行している間は生かしてやるが、つまらなくなっったり逃がしそうになったらすぐさま安全装置を解除。瞬く間に鬼の全身を針が侵食する。

 葉蔵に見つかった時点で勝敗は決まった。逃げる事すら不可能。せいぜい楽しめるゲームを提供する玩具になるしかない。

 

「というか、死体なんて操らないでさっさと食えばいいじゃないか。なのにソレをせず操ることで自身の力にしようとした。これだけで貴様の底は知れている」

「「!?」」

 

 今まで呆然と葉蔵の戦闘を眺めていた二人が、遂に黙ってられなくなった。

 

「……葉蔵さん、ソレどういう意味ですか?」

「蜜理くん?」

「人が死んでるんですよ!?こんなに沢山!なのに何でそんな簡単に……食べた方がいいのにって言えるんですか!?」

 

 葉蔵との距離を距離を詰めながら、蜜理は叫ぶ。

 食べればいいのに。その単語は鬼殺隊としてあまりにも受け入れがたいもの。

 蜜理の場合は葉蔵と面識があり、人となりを分かっているから文句を言う程度にとどまっているが、コレが普通の隊士なら即座に切り掛かっている。

 それほどまでに彼の先ほどの発言は不謹慎なものであった。

 

「そうだね、流石に不謹慎すぎたよ。すまなかった」

「誤魔化さないでください」

 

 ピシャリと、蜜理は葉蔵の謝罪を拒絶する。

 

「葉蔵さん、嘘を付いてます。本音を隠して、なあなあで済ませようとしている。……私は葉蔵さんの本当の言葉が聞きたいんです」

「……はぁ~」

 

 困ったような表情を浮かべながらため息を付く。瞬間、葉蔵の表情が愛想笑いから冷たいものへと変貌した。

 

「私は彼らが死のうが殺されようがどうでもいい。生きてるなら序でに助けるが、死んだのなら仕方ない。その場合は喰われて糧になった方が鬼も強化されてゲーム……戦闘がより楽しめる」

「……ソレが葉蔵さんの本音なのですね?」

「そうだ。私はただ自分のために戦っている。断じて他人のためじゃないし、他人の事情に付き合うつもりもない」

「………私、葉蔵さんて優しい“人”だと思ってました」

「知らないよ。私は私の都合で生きている。君も君の都合で勝手に行動するといい。私の害にならないなら、邪魔するつもりはない」

 

 背を向けてその場から去る葉蔵。蜜理はソレを黙って睨むしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……たとえ相手が死体でも、あれ程まで無関心につぶせるあの人が……俺は怖くなりました」

「……私も、です。あんな楽しそうに死体を蹴散らすなんて……怖いです」

 

 俯く小芭内と蜜璃を一瞥した後、産屋敷は炭治郎の方に顔を向ける。

 

「それで、炭治郎くん。針鬼の行動は君にはどう見える?」

「う~ん、そうですね……」

 

 腕を組んでウンウン唸る炭治郎。 

 大体十数秒程だろうか。炭治郎はゆっくりと答える。

 

「まず、葉蔵さんって死体には恐ろしい程無頓着なんですよ」

「無頓着?ソレは興味がないって事かな?」

「いえ、そんな次元じゃありません。あの人曰く、死体はただの肉の塊であって人ではないと断言するぐらいです」

 

「あの人が嫌うのは他者の尊厳を露骨に辱める行為です。しのぶさんやカナエさんの会った鬼は生きたまま人間を改造するという行為に憤りましたけど、死体という“物体”を弄っても

辱めにならないとでも思ったんじゃないんですか? まあ、露骨な辱めをしたら怒りますが、話によれば完全に別物になってるんですよね?じゃあ、趣味の悪い術を使うなって思うぐらい

じゃないですか?」

 

 炭治郎の返答に柱達は引いたが、彼の予想は当たっている。

 

 葉蔵の死生観はこの時代のものにくらべて大分ズレている。

 そもそも、葉蔵の価値観は平成のものをベースに華族のモノが歪に融合して出来たもの。

 科学が発展し、生き死にの見方が大分変化しているのだ。ズレがあるのは当然の事。

 まあ、ソレでも死体を肉と断言出来る人間はでも令和でもなかなかいないが。

 

「ソレは随分と……極端な発想だね」

「あ、あはは……」

 

 否定出来ない炭治郎はとりあえず笑って誤魔化した。

 

「とまあ、葉蔵さんは別に“人”が喰われてもいいとは思ってません。もし生きている人がよほどの悪人でもない限り助ける筈です」

「そ、そうだったの………。じゃあ、私は葉蔵さんに酷い事言っちゃったのかな?」

「………」

 

 炭治郎は答えることが出来なかった。

 蜜理の解釈に誤解こそあったが、葉蔵が“死体”を喰ったら面白いと思ったことは事実なのだ。

 どちらにしても鬼殺隊にとって受け入れがたい考えだろう。

 

「(言ったら話がこじれるかな?)」

 

 炭治郎は空気を読んで言わないことにした。

 

「じゃあ次は俺だ。……何故、俺はあの人に恐怖したと思う?」

 

 ゆっくりと手を挙げながら、伊黒が質問した。

 

「ソレは貴方が葉蔵さんへの憧れから“卒業”したからじゃないですか?」 

「……卒業?」

 

 予想外の返答に伊黒は首をかしげる。

 

「はい。貴方が葉蔵さんに憧れているのは何度か聞いたので分かります。けど、今の貴方は既に憧れている物を持っているような気がするんですよね?」

「?」

 

 余計に話が見えなくなった伊黒は困惑する。

 

「人は、他人が自分にない美点を持っているとソレに惹かれます。その想いが強ければ憧れとなり、もっと強くなると欠点が見えなくなってしまいます。まるで夢でも見ているかのように

その人に憧れ……やがて妄信へと変わってしまう」

「………!?」

 

 そういわれて伊黒はハッとした。

 

 確かに、あの頃の伊黒はないものばかりだった。

 力もない。自由もない。美しさもない。

 汚い血と亡霊に呪われた囚人だった。

 だから葉蔵に惹かれた。

 

 強く、美しく、そして自由なあの鬼に。

 自分もああなりたいと願った。

 だが、今はその必要はない。

 

 力を得た。仲間を得た。居場所を得た。

 圧倒的な力も、人間離れした美しさも、人間を超えた自由もない。

 憧れとはまた違う形だが、伊黒は確かに欲しいものを得たのだ。

 

 もう伊黒が葉蔵に憧れる“囚われる”理由はない。

 

「そういうことです。一度憧れから卒業したら、今度は客観的に見えてしまうんですよ。まるで夢から醒めたように」

「……」

 

 伊黒はやっと納得した。

 ああそうだ、自分は確かに夢を見ていた。

 葉蔵に自己投影して、強くて自由な自分を。

 けど、もうその必要はない。夢はもう十分だ。

 

「………そういう、ことか。てっきり俺は、あの人がこの数年間で他の鬼と同じような存在になったと思っていたが、違うのか。………良かった」

「はい。変わったのは葉蔵さんじゃなくて、伊黒さんの葉蔵さんを見る視点といったところですね」

 

 伊黒が葉蔵と出会った瞬間を知らないので断言は出来ないが。

 上記の言葉を吐きそうになったが、炭治郎は堪えた。

 

「では、針鬼は死体には無関心だが、生きた人間は今まで通り助ける。そしてこの数年間、特に残虐性や冷酷性が強くなったわけではない。そういうことでいいんだね?」

「はい。まあそんな感じですかね」

「………一つ、いいか?」

 

 今度は義勇が手を挙げて発言した。

 

「おや、珍しいね、義勇が率先して発言するなんて。それで、一体なんだい?」

「はい、お館様。実は、俺も葉蔵さんに会いました」

「そうだったのか。それで義勇には大庭葉蔵がどんな鬼に映ったのかな?」

「はい、俺はあの人が、人命を第一にする鬼に視えました」

「ああ、ソレは俺も同意見だ」

「俺もだ」

 

 義勇だけでなく実弥や本来柱ではない筈なのに参加を許された錆兎も手を挙げる。

 

「俺も葉蔵さんと任務で会って協力したけど、あの人滅茶苦茶効率的に倒していたぞ? ソレも楽しむような時間もなしに」

「俺の時もだ。というか鬼退治に掛かった時間、一分もなかったぞ?」

「……なにがあったか、説明してくれるかな?」

 

 三人は事の顛末をゆっくりと話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無限城の一室。そこで無惨は一体の死体を弄っていた。

 

「よくやったぞ、屍鬼。お前は私の役に立ったのだ」

 

 無惨の前にある死体。ソレは屍鬼の操っていた元ゾンビ

 屍鬼が死んだ以上、ただの死体に戻るのだが、今はどうでもいい。重要なのは死体の中身だ。

 

 手を刃物のように硬質化させ、ブチュリと突っ込む。

 グチャグチャと肉を裂く嫌な音を立て、一つの針を取り出した。

 

「遂に……遂に奴を倒す手がかりを手に入れた……!」

 

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