鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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レビューおじさん

 とある山奥の小屋。

 そこで一人の男が黙々と肉を食っていた。

 御膳の上に乗せられた皿に盛られた肉料理。

 野菜は勿論、米や飲み物すらない。

 ひたすら肉肉肉。

 肉以外を使わない加工されただけの肉を男は食っていた。

 

 

 

「今は……食事中だ……。後に……してくれ……」

 

 男は―――黒死牟は肉料理に手を付けながら、眼前の柱たちを一瞥した。

 

 

 

「何が食事だ!殺された隊士たちの死体を黙って見てられるような人間性を俺たちは持ちえない!」

 

 柱の一人、杏寿朗が叫ぶ。

 

 そう、黒死牟が現在食している肉は彼が狩った隊士たちのものだ。

 青い彼岸花の情報を探している際中、偶然遭遇した鬼殺隊と交戦。

 戦闘自体は最早成立しないほど圧倒的かつ迅速に終了したのだが、その場にいなかった鎹烏が残ってしまった。

 持ち主が死んだ鎹烏はすぐさま応援を産屋敷に要請し、上弦の可能性ありと考えて柱を3人も投入した。

 

 炎柱、煉獄安寿朗。

 霞柱、時透無一郎

 音柱、宇髄天元。

 

 なんと豪華なメンツだろうか。

 たとえ上弦相手でもこれだけ揃えばなんとかなりそうな気がする……。

 

 

 

 

「まさか……柱がこれほどに……揃うとは……。なかなか……有難いことである……」

 

 この鬼と対峙するまでは。

 

 力の一旦を見ずとも理解出来る圧倒的な鬼としての気配。

 同じ十二鬼月である筈の下弦たちと比べること自体が馬鹿らしいと思える程に圧倒的な格。

 一目で柱達は理解した。眼前の鬼こそ上弦の壱であると。

 食事中だというのに、重厚な様。威厳すらある。

 怖気が止まらない。あの体中の細胞が 絶叫して泣き出すような恐怖。

 しかし、だからといって引く道理はない。

 

 

「貴様が上弦であることは理解した!しかし!俺たちの悪鬼滅殺に変わりはない!!」

 

 己を鼓舞しながら、煉獄は刀を引き抜く。

 他の柱も同様である。

 鬼を相手にした以上、逃げるという選択肢は鬼殺隊に存在しない。

 まして、自分たちは柱。鬼殺隊最大の戦力である。

 たとえ相手が上弦であろうとも、引く事は決してない!

 

「此方も……抜くのが作法であるが……今は食事時……よって、しばらくはコレを使う……」

 

 

【月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍】

 

 

 突如、竜巻のような斬撃が柱達に襲い掛かる。

 ノーモーション且つノールックの攻撃。

 咄嗟に柱達はその場を跳躍。しかし。それでも避けきれない。

 空中で体を捻りながら、筋肉を無理やり動かして方向転換。

 ソレでようやく完全に避けきった。

 

「(な……何という威力! アレを一切の動作なくやってみたというのか!?)」

 

 背後を振り返って、煉獄を中心に柱達は戦慄する。

 小屋の壁は勿論、その後ろに生えていた筈の木が何本も切られていた。

 柱がここまでしなくては避けきれない程の攻撃。

 威力も速度も絶大なものであり、もしコンマ一秒でも遅ければどうなっていたかは言うまでもない。

 

「成程……この程度は……捌けるようだな……。では……少し段階を……上げよう……」

 

 

【月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮】

 

 

 上弦の壱の周囲から、月を連想させる刃が柱達目掛けて飛んできた。

 先程同様に回避するも、刃は空間に残り続けて月が満ち欠けするように効果範囲が不規則に揺らぐ。

 さらに力場には三日月型の細かい刃が無数に付いており、こちらも効果範囲や形状が常に不規則に揺らいでいる。

 そのせいで柱達は充分以上の回避行動を取らざるを得なかった。

 

「ぐ、うぅ……!」

「(速い! そして威力も高いなんて!?)」

「(一つ一つの斬撃が既に柱級の技。まさかこの鬼……)」

 

 防戦一方。

 たった一つ目の技だけでこのザマなのだ。

 次がくればどうなるのか……。

 

 黒死牟はその光景を眺めながら食事を続ける。 

 

 まず、手を付けるのは主菜。

 隊士のミディアムステーキである。

 四百グラムもある肉厚のモモ肉を贅沢に使ったステーキを切ることなく、箸で摘まんで豪快にかぶりつく。

 口の中に拡がる血の味と、歯応えある肉の感触。

 表面を軽く炙っただけの簡単なものだが、絶妙な焼き加減で仕上がっており、本来の肉の旨味を見事に閉じ込めている。

 下処理は一応しているが、黒死牟の時代はそこまでちゃんとした調味料が揃ってないせいで完全には消えてない。

 だが、その臭みもまた、肉本来の味として表現されている。

 もにゅもにゅと口いっぱいに肉を頬張り、下品にならない程度に舌鼓を打つ。

 

「うむ? もう終わったか……。では次は……これにするか……」

 

 流石は鬼殺隊最強格の剣士である柱。

 気が付けば、柱達は攻撃に慣れ始めている。

 やはり一つの技だけではダメかと黒死牟は一人愚痴る。

 無論、そんなことはないのだが。

 

 最強の剣士たる黒死牟との剣戟は、たとえ直接剣を振ってない斬撃であろうとも、長年の経験によって直接振るう剣戟とほぼ遜色がない。

 そんな彼の剣戟を全て紙一重で回避、或いは防御してみせたのだ。

 数多の修羅場を潜り抜けた並外れた経験と直感と実力を併せ持つ剣士でなければ不可能な芸当である。

 

 

【月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り】

 

 

 またもや直接剣を振らずに血鬼術を発動。

 壱の型だけでも過剰な程の速度と威力があるというのに、更にその上を行く剣戟。

 それらを発動させながら、黒死牟は料理に手を出す。 

 

 次は副菜の薄切肉。

 隊士の肉をベーコンのようにスライスしたものである。

 ただ薄切りにして並べただけなので味はない。

 生姜醤油に付けて一口。

 柔らかい肉質でありながら歯ごたえはちゃんとある一品。

 臭みも生姜によって消え、醬油の塩味がいいアクセントになっている。

 これならワサビでもいいかと思いながら、黒死牟は箸を進める。

 

「あの野郎……地味に余裕こきやがって!」

「よそ見するな宇随! 次が来るぞ!」

 

 剣戟を必死に避けながら怒鳴る宇随と煉獄。

 彼らは文字通り命懸けであり、紙一重で避けている。

 コンマ一秒も緊張を解く余裕などないというのに、黒死牟は食事を楽しんでいる。

 それがまた彼らの焦燥を掻き立てる。

 

 

【月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月】

 

 

 また別の剣戟を介さない斬撃が繰り出された。

 四人を一人一人か乞うかのように斬撃が渦巻きながら襲い掛かる。

 回避は不可能。迎撃するしかないと判断した柱達は、その場で剣を振るう構えを取った。

 

 

【炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり】

 

【音の呼吸 肆ノ型 響斬無間】

 

【霞の呼吸 陸ノ型 月の霞消】

 

 

 己を取り囲む月刃を各々の技で必死に迎撃。

 その様を肴にして黒死牟は食事を続ける。

 

 汁物はつみれ汁。

 隊士の肉を月刃でミキサーのようにミンチに加工したものであり、塩胡椒で臭みを消したものである。

 黒死牟が武士だった頃には口にしたことすらなかった胡椒を使った一品。

 ピリッとしたスパイスが口の中に拡がり、食欲をより刺激する。

 

「ぐあッ!?」

「ッグ!?」

 

 傷を負う者が出始めた。というか全員である。

 腕を、足を、背中等々、全員が守り切れない箇所を負傷した。

 いくら柱とて所詮は人間。激しい運動を継続すれば疲れるし、疲労による集中力の乱れも出る。

 むしろ、こんな化物を相手にしておいて、ちゃんと五体満足で戦えるだけでも十分素晴らしい。流石は柱である。

 

「「「「はぁ…はぁ……」」」

「ほう……これも避けきるか……。では……次の出し物に……期待する……」

 

 

【陸ノ型 常世孤月・無間】

 

 

 やっと全てを迎撃して疲労している柱達に、無情にも斬撃が追加された。

 残酷なことに、今度の斬撃も先程より一レべほど引き上げられている。

 無数に振りかかり、不規則に揺らめき、高速かつ高威力で迫る月刃。

 経験と直感をフル動員させて避け、己の持つ技量を出し切って迎撃。

 相変わらずの防戦一方。本命である黒死牟は一切動いてない。

 

「(強い……! これが、上弦の力……!?)」

 

 無一郎は心が折れそうになった。

 柱の中でも特に若い彼は、精神的にブレが比較的出やすい。

 しかし、ソレを責める権利など誰にあろうか。

 

 黒死牟は以前よりも強化されている。

 無惨から血を分け与えられ、同格である葉蔵との戦闘を経て、鬼として更なる力を手にした。

 本来なら刀を介して術を行使する筈が、今では刀を振らずとも、何なら刀なしでも血鬼術が使える。

 原作でさえアレだけ追い詰めたのだから、更にレベルアップしされて絶望するなというのが無理な話である。

 

「なかなか……優美なものだ……」

 

 こくりと、徳利から注いだ稀血を酒のように呷る。

 そしてぱくりと料理を口にして、また一杯グビッと呑む。最高の組み合わせである。

 もっとも、口にしているのはただの肉と酒ではなく、人の血肉なのだが……。

 

「(今代の柱は…豊作だな……。これほどまでに…素晴らしい剣士が揃う年は……何時ぶりだろうか)」

 

 鬼殺隊のピークは自身と縁壱がいた頃だろうか。

 段々と剣士たちが育たなくなり、どれだけ嘆いたことか。

 今思えば、ソレもまた鬼に成った原因の一つであろう。

 

「(あの金髪の剣士……何やら……懐かしい……気配だ……)」

 

 懐かしい気配が、煉獄からする。

 煉獄とは初対面の筈だが、彼を知っている気がする。

 似た外見、似た剣技、そして似た闘気。

 至高の領域に近い程に練り上げられた闘気から繰り出される炎の呼吸は、かつての同僚―――初代煉獄の生き写しのようだ。

 

「(煉獄よ…お前の血と技は…途絶えなかったのか)」

 

 受け継がれるかつて仲間だった者の技と魂。

 ソレに黒死牟は何やら感慨深いものを感じた。

 

「(次に……あの小柄な剣士……。年頃は十四あたりか……。あの若さで鍛え上げられた剣技……あの身のこなし……)」

 

 流麗で美しい、独特の緩急の剣技。

 動きが読み辛く、攪乱も兼ねた技。

 風と水の呼吸を混ぜたような動作。

 自ら編み出した剣技なのだろう。

 実に素晴らしい。

 

「(最後はあの剣士……あれは……忍の動きか?……)」

 

 剣士とはまた違う体の付き方。

 大柄の肉体は一見すれば剣士に相応しそうだが、そうとは限らない。

 鍛え方やその目的の違いによっては剣士とはまた違う分野の肉体に出来上がる。

 天元がそうだ。

 

 黒死牟の目は透き通る世界によってすぐさま見抜いた。

 天元は剣士として鍛えられたのではなく、忍として練り上げられたものだと。

 なるほど、だから火薬による補助がいるのかと、黒死牟は理解した。

 だが、ソレもまた面白い。

 

 爆発を見事に制御し、その場に合った適切な剣技を披露する。

 実に豪快かつ繊細な御業。

 花火職人のようで華があるではないか。

 こういった自身が生きた時代にはない八相もまた興味深い。

 

 月刃と日輪刀がぶつかり合い、派手に火花が飛び散る。

 金属を引き裂くような音や、硬いものがぶつかり合う音が響く。

 これぞ鉄火場。いや、まるで祭りのようだ。

 

 太鼓の代わりに、剣戟が奏でる激しい金属音。

 花火の代わりに、火花が飛び散り夜を照らす。

 神楽の代わりに、剣舞が織り成す美しい演武。

 ソレらを酒の肴にするとはなんて贅沢な事か。

 

「だが……それも終わりだ……」

 

 余興はもう終わり。

 黒死牟の食事が終了した以上、彼が手を抜く理由はもう無くなってしまった。

 ここから先は、その優雅な剣技を堪能しよう。

 此方も抜かねば無作法というものだ。

 

 

 

【月の呼吸 壱の型 闇月・宵の宮】

 

 

 一振り。

 やっと、黒死牟が自ら動いた。

 振り抜いた刀は柱達の技によるエフェクトを打ち消し、己の色に染め上げ……。

 

「「「!!?」」」

 

 柱の防御を突破し、傷を刻み付けた。

 

「ぐ……あぁ……!?」

「クソ……! 地味に、遊んでやがったのか!?」

 

 再起不能になった者は二人。

 天元と無一郎である。

 命に別状はないが、天元は腕を折られてマトモに剣を振える状態ではない。

 無一郎はもっと悲惨だ。内臓がまろび出て今にも飛び出しそうになっている。

 

 たった一振り。

 一撃のみで勝敗を決める必殺技……ではない。

 こんなものは黒死牟にとって基本の技。

 ゲームでいえばゲージを一切消費しない通常技である。 

 ソレでこの威力である。

 

「宇随!? 時透!? おのれよくも!」

 

 仲間をやられて激高する煉獄。

 だが、特攻するような真似はしなかった。

 3人いた状態でも遊ばれていたのだ。

 このまま突っ込んでも負けるのは目に見えている

 それに、このまま放っておけば負傷している二人が危ない……。

 

「「……!!」」

 

 しかし、二人が引く事はなかった。

 咄嗟に止血や応急措置を行い、そこからさらに攻撃を仕掛ける。

 なんという気概。なんという精神力。

 

 

【月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月】

 

 

 ソレが何だ?

 

 気合や精神論で鬼を倒せるのなら、最初からこんな状況になってない。

 そんなものでは何ともならないから、鬼という脅威は今尚存在しているのだ。

 

 黒死牟という鬼は、まさしく柱達の天敵。

 柱の中でも最強クラスの剣技、経験、呼吸、そして精神。

 本来なら鬼殺隊が鬼を狩るために身に着けたアドバンテージを全て有し、尚且つ従来の柱達を圧倒している。

 もし仮に黒死牟を人間の状態に戻しても、一対一という条件ではあるが、彼には勝てないであろう。

 そんな化物が鬼の肉体と血鬼術を有し、更に無惨から血を限界まで分け与えられ、葉蔵との模擬戦でその力を使いこなしている。

 どうやってこれほどまでに強くなった化け物を相手取れと言うのだ。

 

「次は……お前たちか……」

 

 この鬼から逃げきる未来が想像出来ない。

 先程の一撃で理解した。

 眼前の鬼の剣戟は柱級。最上位である悲鳴嶼行冥をも超える技量だと。

 よって理解してしまった、自分たちでは勝てないと。

 

「(クソ、こんな時にあの鬼がいれば……!)」

 

 柄にもなく、煉獄は心中だけではあるものの、他人の力を当てにしてしまった。

 

 針鬼。

 既に上弦の鬼を二体も倒したと言われ、無惨と対峙して生き残った可能性のある鬼。

 あの鬼ならば、上弦の壱にも匹敵するのか……。

 

 

 

 

 

【針の流法 血針弾】

 

 

 何処からか、針の弾丸が飛んできた。

 

 技の余波によって悉く木屑と化した山小屋。

 吹き抜けどころか原型すら保ってない元壁を通り抜け、黒死牟へと向かう。

 

「む!?」

 

 しかし、そんなものが黒死牟に通用するはずが無く。

 悉く彼の剣技によって薙ぎ払われてしまった。

 だがソレでいい。

 この弾丸は牽制。

 あくまでも黒死牟を柱達から引き離すためのものだから。

 

「あ……あの弾丸は!?」

「もしかして……アレが?」

 

 黒死牟が弾丸の相手をしているうちに、ちゃっかりと距離を空けて避難する柱達。

 もう、彼らが戦う必要はない。

 彼らは助かったのだ。

 神や仏の手ではなく、鬼の針弾によって。

 

 

「遂に来たか……!」

 

 獰猛な笑みを浮かべながら、黒死牟は山奥へと目を向ける。

 人間の目では暗闇しか見えないが、上弦の文字が刻まれた黒死牟の目は確と捉えた。

 木々の間を液体の如くスルスル潜り抜け、風の如き凄まじい速度で走り抜ける一匹の獣を。

 血のように赤い体毛を纏い、燃え盛る烈火のような鬣を靡かせ、絶え間なく銃弾を吐く鬼の姿を。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 赤い獣の咆哮が、山中に響き渡った。

 




黒死牟は無一郎が自分の子孫とは気づいてません。
というのも、もう彼は自分の家に興味がないので見落としてしまったのです。
では、何故あそこまでお家の長男に拘った黒死牟がその未練を捨てたか。
それは、後程に。
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