鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
「……ぐ、うう……!」
鬱蒼と木が生い茂り、日中でありながら日の光が地面に届かない程の山奥。
葉蔵は傷を抑えて木にもたれかかっていた。
鬼にとって本来無縁である筈の刀傷。
首以外は直ぐに治るのに、何故未だに再生しないのか……。
「面白く…なってきたじゃないか……!」
苦悶の表情の中に、葉蔵は笑顔を浮かべた。
「■■■■■■■■■■■■■■!」
獣の距離が、人間が視認出来る範囲まで縮んだ。
数分も経たずに、山の悪路を完走する脚力。
凄まじいの一言である。
【月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾】
赤い獣―――葉蔵目掛けて黒死牟が剣を振るう。
巨大な月輪の刃。
切り払おうとするも、葉蔵は跳び超えることで回避。
木々や地面が葉蔵の代わりに轟音を立てながら薙ぎ払われ、破壊の跡を残した。
【針の流法 血針弾・連砲】
上空に跳んだ葉蔵は空中を舞いながら、銃撃を続ける。
ガトリング砲のような銃弾の嵐。
黒死牟は新しく刀を生成し、二刀流でコレを叩き落す。
激しい金属音を立て、激しい火花を飛び散らせ、激しい剣戟によって全て切り伏せてみせた。
【月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間】
スタリと、軽やかに着地した獣目掛け、無数の斬撃が迫り来る。
軌道を不規則に描き、満ち欠けを繰り返し、尚且つ緩急をつけながら。
月刃は葉蔵を切り刻まんと襲い掛かった。
【針の流法 血喰砲・散弾】
月刃を迎え撃つのは葉蔵のスプラッシュキャノン。
赤い獣の口から砲弾が撃ち出され、当たる寸前で弾け、散弾をまき散らし、全ての月刃を迎撃してみせた。
余波により無数の衝撃波が発生。大気が震え、地面が揺れる。
【月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月】
上空から黒死牟の奇襲。
葉蔵目掛け、刀を振り下ろした。
先程の撃ち合いは牽制。本命はこの一撃である。
【針の流法 血喰砲・貫通】
角の超感覚によって前もって接近を察知していた葉蔵は、慌てることなく迎撃を開始。
巨大な杭のような砲弾を打ち上げ、黒死牟の動きを牽制した。
空中で砲弾と大剣がぶつかり合う。
その血鬼術の余波により、巨大な波紋が大気に拡がった。
ただでさえ最初のやり取りで壊滅的になった山肌が更に削られる。
【針の流法―――】
【月の呼吸―――】
両鬼はそれからもぶつかり合う。
場を移動し、位置を入れ替え、近づいて、離れて。
互いの血鬼術をぶつけて、壮大な激戦を繰り広げる。
「……つ、強い……!」
「クソ……! 派手すぎだろ……! アイツ、最初は下弦ぐらいだったてのに!?」
安全圏から葉蔵たちの激戦を眺める柱達。
彼らは傷の手当てを隠達から受けながら、なんとか情報を集めようと目を凝らす。
結果、鬼の圧倒的かつ理不尽な力を目の当たりにして、恐怖を抱かざるを得なかった。
「(あんな短期間で強くなるのかよ、鬼ってのは……!)」
この中でも特に驚愕していたのは天元であろう。
彼は昔の針鬼を知っている。
当時はまだ柱になる前の己と互角程度の実力だった葉蔵を。
強いがまだ若く、成長途中の鬼。上弦に届くのはまだまだ先だろうと。
強くなりすぎる前に何かしらの首輪を付ければ共存も出来る。そう楽観視していた。
これを本当に制御出来るのか?
アレは武器そのものだ。
一つ一つの武器が戦況を左右するような、強力な兵器。
武力だけでなく、諜報にも優れた血鬼術を使いこなす。
ここまで来たら一人で一つの国軍のようなものだ。
たった数年でこのレベルまで成長してみせたのだ。
これ以上放置していたらどこまで強くなるのか。
考えただけでも背筋がぞっとする。
その時、天元は思いもしなかったであろう。
この恐怖にはまだ先があるということを……。
「獣鬼豹変!」
「修羅転変!」
二体の鬼は、人外の姿へと変貌。
お互いに牙をぶつけ合い、喰い合いを続けた。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
「……僕は怖い。あの力が、人間に向けられたら……ひとたまりもないよ」
「「「・・・」」」
誰も、無一郎の言葉に反論出来なかった。
コレが人間から見た葉蔵……いや、鬼という生物である。
たとえ葉蔵が戦闘“ゲーム”狂でなくとも、世のため人のために力を使う善人だったとしても、社会が容易に受け入れることはない。
人間は本来群れる生き物だ。
太古の昔、仲間と助け合うことで人間は生存競争に生き残ってきた。
自身より大きな生物を狩り、自身より強い生物から身を守り、群れを繫栄させてきた。
仲間と助け合い、仲間を想う。これが人間の最大の武器とも言ってもいい。
だが、その想いが強すぎると、相対的に異物への排除傾向が強くなる。
群れを維持するには、群れ全体が団結される必要がある。
団結を阻害するような異物や、足を引っ張る異物は邪魔者として排除される。
そうやって人間の群れは生き残って来た。
排除するものは群れ内部だけではない。
入ろうとする異物は勿論、外部の異物も外敵として処理する。
たとえそれが、群れを害する気がなくとも、害する程の力があるというだけでも。
「じゃあ炭治郎くん、改めて聞く。……針鬼が人として生きることは可能かい?」
「ありませんね」
ぴしゃりと、炭治郎は言い切った。
「皆さんの話を聞く限り、葉蔵さんは人の道ではなく、修羅道を選んだと俺は思ってます。元からわざわざ人として生きる必要もありませんからね」
「必要がないとはどういうことかな?」
「言葉通りです。他人を必要とする理由がありません。だって自分でなんでも出来るんですから。だから、わざわざ我慢したり、しんどい思いをして他人と一緒にいる理由がないんです」
群れとは一匹で生きれないから必要なのだ。
個体で集を圧倒する力を身に着け、社会の補助がなくとも生きていける“生命体”に群れなど必要ない。
葉蔵が自ら面倒なしがらみに縛られる理由など、現段階ではないのだ。
「あの人が第一に求めるものって『自由』なんですよ。誰にも何にも縛られず、思う存分暴れたい。もしあの人に指図出来るとしたら、ソレはあの人自身ですね」
「………」
炭治郎の言葉に産屋敷は頭を抱えた。
自由を求める性格だとは気づいていたが、まさかここまで極端な性格とは思っていなかった。
手はないのか。
人間の味方にはならなくとも、害する危険を排除する手立ては……。
「あとあの人、命の線引きがはっきりしてるんです」
「線引き?ソレは俺の派手な順位付けと同じか?」
「いえ、葉蔵さんはもっと極端です。あの人は関わった距離分の優しさを見せますけど、縁も所縁もない他人にはかなり冷淡です。敵と認識した相手なんてもう人間扱いすらしませんから」
「……なるほどね。つまり彼は自身の意思にそぐわない者は簡単に殺してしまうって事かな?」
「いえ、そこは違います。あの人、器は大きいので無暗に暴力を振るいません。するとしても納得がいくような大義名分は絶対掲げますし、敵認定も今のところ鬼だけです。
ソレに、いたずらに力を振るうのはあの人の信念に反するので」
「………信念?」
思いもよらない言葉に、産屋敷は首を傾げた。
「ああ、あの人は法に縛られず、他人の決めた規則は嫌うんですけど、自分で決めたことには真摯なんですよね。信念とか正義とかというより……あの人なりの美学ってとこですかね?」
「美学……か」
産屋敷は頭を悩ませた。
美学とは聞こえはいいが、要するに正義や法を、ルール作りを個人の価値観に任せた物になる。
だが、個人のみによる正義は暴走しやすい。
例えば、美学による行動で出た犠牲を都合よく正当化する等。
ソレに、自分にとって都合の悪いものをルールにする者はいない。
例えば、喧嘩の強い者は腕力に物を言わせるルールを用いるし、金のある者は金持ちに都合のいいルールを作る。
誰が好き好んで自分に都合の悪いルールを作ると言うのか。
「あの鬼を野放しにするなんて危険すぎる! 何か手を打たなくてはならない!」
「いや、ソレは考えすぎだぜ。葉蔵さんはそう簡単に人殺すような鬼じゃねえ」
「皆、葉蔵って鬼を信用しすぎでは? いくら人を襲った前科がなくとも鬼に変わりはないはずだ。現に、その鬼は人として生きるつもりはなさそうだが?」
「そんなことはない! 俺たちは何度も葉蔵さんに救われた!」
「けどソレも結局は自分のためじゃん。偶然利害が一致しただけじゃないの?」
「だからなんだってんだ!? 利害が一緒なら何の問題もねえだろ!?」
「それじゃあ利害が反発したら敵対するってことでしょ?」
「そんなことはねえ!あの人はそんな鬼じゃねえ」
「その証拠がどこにあるんだよ!?」
どんどんヒートアップしていく柱合会議。
ソレを見て産屋敷はため息を付いた。
「……もし万が一、彼を人間に戻せればこんなに頭を悩まさなくてもいいんだけどね」
無限城。
鬼の頭領である無惨の根城。
異空間に隔離されたその場所に一つの異物がいた。
「やっと来れた……!」
異物―――葉蔵はニヤリと笑いながら、城の戸に手をかけた。
今の葉蔵がちゃんと真面目に戦えば、無惨を倒せます。
己の力だけでなく鬼殺隊や人間をフルに利用するためのコネも頭もある上に、本人ならぬ本鬼は単純な戦闘能力だけでなく、携帯電話代わりの針や自律行動のとれる針、更に姿を消す血鬼術等々、様々な情報収集に長けた能力があります。
なので一人に拘らなければ、もっと楽に無惨殺せるんですよ。
けど絶対にやりません。
だってそんな勝利を手にしても葉蔵はつまらないので。