鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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葉蔵の優しさと冷酷度はその日によって変わります。
というか、普通の人間ってそんなに一定の心理状態にいないと思うんですよね。
機嫌の良し悪しだったり、疲れが溜まっていたり、嫌なことがあったり。
むしろ、キャラが一切ブレることなく一定している方が不自然だと私は思います。



極みの姿

「クソクソクソ! 何故ここまで私が追い込まれなくてはいけない!?」

 

 無限城のとある一室。

 鬼舞辻無惨はFXで破産寸前のネット民みたいに焦っていた。

 

 対葉蔵として用意した分身たちが、上弦と葉蔵によって追い込まれている。

 

 あの四体の鬼は最強の力を与えた筈だった。 

 血を大量に注いで強化してやった筈だった。

 力を存分に振るえる場を与えた筈だった。

 

 鬼として最強の肉体を与えた。

 身体能力だけでも十二鬼月に匹敵する体を。

 

 鬼として最強の能力を与えた。

 上弦をも圧倒する威力と豊富な血鬼術を。

 

 鬼として最強の環境を与えた。

 力を十全に使うため特別に用意した場を。

 

 なのに何だこの醜態は!?

 この役立たず共が!!

 

「……こうなったら!!」

 

 無惨が指を鳴らす。

 瞬間、彼の眼前に複数の人間が呼び出された。

 分身たちの餌として、強化するための血肉として捕えた人間達。

 こいつ等を使えば、案外うまくいくかもしれない。

 

「……せいぜい役に立て。家畜共」

 

 口を塞がれ、手足を縛られ。グネグネと芋虫のように藻掻き、涙を流しながらウーウー唸ることしか出来ない餌共。

 こんな無様な生物が己の役に立てるのだ。当然、光栄なことであろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピイイイイイイイイイイイ!!」

 

 鳥鬼が吠えながら風を纏う。

 他のフロアの鬼達がやったように、この鬼も自身の支配する属性に己の肉体を変換させるつもりである。

 

「させるか!」

 

 

【針の流法 極細・血針の霧(マイクロブラッディミスト)

 

 

 葉蔵の極細針が散布される。

 血鬼術によって作られた弾道ミサイルからばら撒かれる極小の針。

 ミサイルは鳥鬼が己の肉体を気体化させることで避けたが、針の毒ガスは回避出来なかった。

 むしろ肉体を分解させることで鬼因子が無防備になり、通常時で喰らうよりも大きなダメージを与えられた。

 

「気体になっても無駄だ。私にはこの術があるし、貴様がその術を使うタイミングも超感覚で分かる」

 

 鳥鬼との戦闘は、葉蔵が終始有利に進んでいた。

 葉蔵はこの戦闘に置いて重要な技術を全て持っており、ソレを使いこなしている。

 暴風の中でも安定して発揮する飛行能力、全方向から迫り来る風刃の迎撃、そして圧倒的なフィジカルとアビリティで猛攻を行う本体への牽制。

 上記の内容だけでも上弦の鬼には難しいというのに、葉蔵は更に肉体の気化への対処法も持っている。

 最早葉蔵の勝利は決まったも同然である。

 

 速度と火力は若干葉蔵が不利だが、それ以外は彼が圧倒している。

 どれだけステータス上は相手が上だろうが、ソレを使いこなせないのなら恐れる必要はない。

 

 攻撃を逸らし、タイミングを見極めて。

 敵を観察し、情報を集め、戦略を練る。

 先を読み、行動を誘導し、罠に嵌めて。

 詰将棋のように着々と一歩ずつ確実に。

 

 そうすれば勝利は目の前へと自然に振りかかる……。

 

 

 

 

 パチンッ。

 

 だが、鳴らされた指がソレを邪魔した。

 

 指パッチンと同時にフロア内の気配が増えた。

 眼前の敵と己以外はいなかったはずの一室に、招いてない客が乱入したのだ。

 

 

「……なんだ?」

 

 不機嫌そうに、気配に振り向く葉蔵。

 折角楽しいところだったのに邪魔されたのだから、そりゃ機嫌も悪くなる。

 邪魔するならすぐに殺す。そのつもりだったのだが……。

 

「!? クソボケが!!」

 

 転送されたのは、縛られた人間だった。

 数は4人。若い男女二人と、中年の男女二人。

 ソレを見た葉蔵はすぐさま血鬼術を発動させた。

 

 

【針の流法 針塊障壁(シェルターニードル)

 

 

 葉蔵は血針を捕虜に投げる。

 途端に形を変え、捕虜たちを包み込む血針。

 楯を作るのと同じ要領で、人質たちを覆う。

 貝殻のような血針のシェルターによって、人質の安全を確保した。

 

「……しばらく待ってろ。すぐ終わらせる」

 

 鳥鬼に牽制のガトリング砲を食らわせながら、葉蔵は落ちていくシェルターに声を掛ける。

 たとえこの暴風と鎌鼬の中でも、あのシェルターは簡単には壊れないが、何事にも限度は存在する。

 ウカウカしていられない。早く始末して安全な場所に避難させなくては。

 

 

 そして、ゲームを汚したクソボケにはしっかりと罰を受けてもらわなくては。

 

 

「……獣鬼豹変・極」

 

 

 葉蔵の身体に変化が起きた。

 既に獣鬼豹変している葉蔵の肉体を、更に巨大な針塊の繭が包み込む。

 普段使うソレよりも数段大きく、数段ドス黒く、数段禍々しい繭。

 暴風の中、新しい姿へと生まれ変わろうとする主人を守る。

 

「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

 

 ソレを黙って見る程、相手は甘くない。

 この世界には変身中に攻撃してはいけないなんてルールは存在しないのだから。

 

 嘴内部に風を集中させ、一気に解放。

 繭目掛けて放たれる、圧縮された嵐。

 放たれた一撃が繭に当たろうとした瞬間……。

 

 

ブォン!!

 

 突如、繭が鳥鬼の真後ろに回った。

 手足どころか、身動き一つしない筈の物体。

 それが一体何故背後にいきなり現れた?

 そんなことを考えるような余裕などないし、何より鳥鬼にはそんな思考を行うための知能もない。

 あるのはただ一つ、テリトリーに侵入した外敵を排除するという本能(プログラム)のみ。

 ソレに従って鳥鬼が攻撃しようとした途端……。

 

 

 

 

「グおおオオオオオオオオオオオオオおおオオオオオオオオオオオオオおおオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 繭を突き破って獣がその姿を現した!

 

 血のように赤黒い体毛に包まれた巨躯。

 獅子のような容姿と鹿のような角。

 前半身はネコ科、後半身は偶蹄目。

 狐に似た尻尾は炎のように赤い。

 背中は大きな翼が生えている。

 

 完全な獣としての姿。

 伝説上でよく見られる有翼の獅子。

 血鬼術によるものなのか、赤いオーラのようなものを身に纏っている。

 

「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

「グオオオおおおおオオオオオオオオオオ!!」

 

 二体の異形は同時に攻撃を開始する。

 鳥鬼は口から圧縮した竜巻を、葉蔵は口から圧縮した血喰砲をぶちかます。

 両者は互いに激突。

 竜巻は斬撃となって弾丸を引き裂こうと、弾丸は派手に爆発して風を吹き飛ばそうと、互いに殺し合う。

 

「グおおオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 葉蔵が変化する際に使用した繭の欠片が粉々に砕かれる。

 粉状となっては暴風に仰がれて流され、一瞬で散り散りになり……。

 

 

 

 BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!!

 

 辺り一面が、爆発した。

 カッと一瞬眩い光が溢れ、遅れて轟音と衝撃波が乱舞。

 一帯を支配していた暴風を一部かき消しながら相殺し合う。

 

「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

「グオオオおおおおオオオオオオオオオオ!!」

 

 それこそが突撃の合図。

 風を、弾を、斬撃を、爆撃を。

 辺り一面にばら撒きながら急接近。

 互いの距離まで近づいたと同時、激突した。

 

「ピイイイイイい!!?」

 

 勝ったのは葉蔵。

 暴風の鎧を、葉蔵の纏う赤いベールによって剝がされる。

 防御が薄くなった部位目掛け、葉蔵の角が突き刺さった。

 

 葉蔵の肉体は彼が作り出す度の針よりも高濃度であり、どの針よりも強く鋭い。

 この爪、この牙、この角こそ最強の武器!

 

「グおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 角から伸びて侵食する葉蔵の針の根。

 内部をズタズタに引き裂きながら、鬼因子を吸収。そして更に成長速度を上げ……。

 

「ピイイイイイい!!?」

 

 ズパン!

 鳥鬼の翼が葉蔵の首を刎ね飛ばした。

 嵐を纏い、翼を硬質化させて創り出した刀。

 丸太のように太く変異した葉蔵の首を容易く斬り落としてみせた。

 だが、鬼はその程度では死なない!

 

「………!!」

 

 首なしの状態で、鳥鬼の胴体を掴む。

 ガッチリと爪を喰い込ませ、その先から針の根が伸びる。

 だが、それでも鳥鬼は抵抗しようと身体を動かした。

 

「グおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

 ブジュジュジュジュ!

 葉蔵の右肩を、鳥鬼の嘴が貫いた。

 嘴に風を纏わせ、ドリルのように貫通。

 鋭く硬い針の鎧を破壊し、肉をかき混ぜながら。

 そして更に、内部から直接ブレスをブチ当て、葉蔵の右肩を破壊したのだ。

 

「ピイイイイイい!!?」

 

 負けじと葉蔵も反撃する。

 再生させた頭部で、鳥鬼の首に噛みいた。

 牙から針の根を伸ばし、更に直接血を啜る……。

 

 

「「グゥ!?(ピィ!?)」」

 

 地面に落下した。

 あまりに必死に抵抗し過ぎて、翼を動かすのを忘れていたのだ。

 飛行がこの場で必須の項目だというのに、そんな最低限の事すらも忘却。

 それほどまでに両者は必死なのだ。

 一刻でも早く、目の前の敵を殺す事に。

 

「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

「グオオオおおおおオオオオオオオオオオ!!」

 

 悶え、暴れ、喚く。

 爪を、牙を、嘴を。互いの身体に喰い込ませ、貪るかのように攻撃する。

 

 

 

 

 

「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!?」

 

 鳥鬼の肉体が徐々に灰化していく。

 力も段々と抜けていき、風を起こせなくなった。

 だから、全てのエネルギーをこの嘴に賭ける!

 

 

 

 

 

「グオオオおおおおオオオオオオオオオオ!!?」

 

 折角再生した葉蔵の腕が、また弾け飛んだ。

 しかし彼は止まらない。

 さっさと殺すために、自身の鬼因子を針の根に注ぎ込む!

 

 

 格段に上がる針の侵攻速度。

 鳥鬼から鬼因子を略奪し、侵略を苛烈に進め……。

 

「ぴ…ピィィィ………」

 

 ・・・やがて、力尽きた。

 

 今まで耐えた反動か、先程までの抵抗がウソのように針の根が伸びる。

 瞬く間に伸びきった針の根から鬼因子が吸収され、本体である葉蔵に流れ込んだ。

 葉蔵はソレをゴクゴクゴクと、喉を鳴らしてソレを飲み干す。

 

 美味い。

 今まで飲んで来た因子の中でも一番と言ってもいい味だ。

 激戦の後の食事はいつだって最高の仕上がりになる。

 

 無我夢中で喰らう葉蔵。

 その度に鳥鬼の膨大な鬼因子が流れ込む。

 干天の慈雨のように、葉蔵の肉体を潤す。

 細胞一つ一つに行き渡り、消耗した葉蔵の鬼因子を回復させる。

 

「グルル……グアア嗚呼アアアアアアアアアアアアアア嗚呼嗚呼アアアアアアアアアアああアアア!!!!」

 

 勝利の雄たけびが、荒野中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「偶には泥臭い戦い方もアリだな」

 

 予期せぬトラブルだった。

 本来は空中戦を楽しみながら徐々に詰めるつもりだったのだが、まさかこんな形で勝敗を急ぐ羽目になるとは。

 場所が場所なので保険をかけなかったのだが、まさかあんな手を使うとは思いもしなかった。

 いや、予想はしていたが、まさか使うことはないだろうと高を括っていた。

 仮にも鬼の王として君臨する者が、あんな卑劣な手を使わないだろうと。

 だが、どうやら私の見込み違いのようだ。反省しなくては。

 まあ、あの鬼相手には保険を打っておく余裕なんて最初からないんだけど!

 

「けどまあ、いいゲームだったよ」

 

 邪魔が入ったがなかなか楽しいゲームだった。

 格上との勝負なんて無惨以外には出来ないと思っていたのだが、まさかこんな機会が訪れるとは。

 嵐の中、風の刃を迎撃しながら戦うなんて、思ってもいなかった。

 おかげでなかなかハードでやりがいのあるゲームを楽しめた。

 

 風という単純でありきたりな能力。しかしだからこそ極めれば強力かつ豊富な種類の血鬼術に化ける。

 属性使いはそれなりにいたが、ここまでのレベルは初めて見た。

 アレはまさしく災害。本当に嵐と戦っていた気分だ。

 

 最後の喰い合いも良かった。

 お互い獣のように暴れるのもなかなかに乙なものだ。

 命を賭け、文字通り必死になって殺し合う。命のやり取りそのものだ。

 ああ、あんな邪魔が入らなければ、もっと楽しめたのに……おのれ無惨め!!

 

「しかしまあ……無事でよかった」

 

 チラリと針の塊―――人質の入った殻に目をやる。

 何やら中から騒いでいる声が聞こえる。

 あれだけ元気なのだから多分大丈夫だろう。……多分。

 

 いや~、あの爆発思った以上に威力あったな~。

 風を一時的に止めるために爆発を起こしたんだけど、まさかあそこまで派手に爆発するとは。

 粉状にすれば風で満遍なく拡散するし、小さいからそんなに威力無いと思っていたのだけど。

 まあ、アレはアレで面白い発見だからいいか。

 それに、新しい血鬼術の試運転も出来たから結果オーライとしよう。

 

「(さて、どうしたものか……)」

 

 針で作った即席シェルターに目を向ける。

 中には先程助けた人質が入っており、何やら呻いている。

 さて、出してやるべきかこのままにしておくべきか……。

 

 よし、放置だ。

 

 あの中が一番安全なのだ。

 もし出してもまた別の鬼に襲われる可能性がある。

 なら、あのまま中に入れてやるのが正しい判断というものだ。

 私に彼らを帰す手段があるのなら話は別なのだが、生憎ここに来るために使った鬼は既に処分されている。よって私に彼らを帰す方法はもうない。

 なら、まず無惨を倒す事に専念すべきだ。

 

 第一、今解放したら面倒なことになる。

 私は嫌だぞ? 折角助けたのに、化物だの何だの罵倒されるのは。

 別に言われても特に気にはしないが、やはりムカッと来る。

 なら、お互いのために顔を合わさないべきだ。

 安全を確保してさっさと解放しよう。

 

「もう少し大人しくしておいてくれ」

 

 もし仮に死んでも悪いのは私ではなく人質にした無惨だから。

 死んだら私じゃなくて無惨を恨んでね。

 

 




葉蔵は道が定まるまでフラフラしてました。だから何者にもなれるチャンスがあり、意見や考え方を変えることもありました。
序盤ではコレが主人公のキャラが定まってないと批判がありましたが、これもまた私の書きたかった主人公像です。

人間なんてそんな徹頭徹尾に一つの意見を貫くなんて出来ない筈なんですよ。機械じゃないんですから。

体調や気分で考え方が若干変わるなんてザラだし、何なら年を経るにつれて別人みたいに変わってくるものです。
ただ、アニメとかでソレをやると『雑味』と思われちゃうんですよね……。
例えばエヴァのシンジくん。大人になって変わったせいで批判多かったらしいし。
アレを見て『ああ、創作物のキャラは出来るだけ一つのキャラを貫かなきゃいけないんだな』って私は理解しました。

けど趣味でやってるようなものは好きにやろう。そう考えて葉蔵はあんな感じにしました。
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