鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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黒死牟は努力した分だけしか強くならないとか嘆いてましたが、私はソレに引っかかりを感じました。
普通の人は努力してもその二割三割程しか成果得られません。
ちょっと訓練してその倍以上の力を手に入れるのは、なんちゃって努力系のラノベぐらいです。もし他の隊士が聞けば贅沢言うんじゃねえって怒ると思うんですよね。
皆さんはどう思います?


贅沢言うんじゃねえっ!

 縁壱、私はお前になりたかった。

 

 何故いつもお前だけがいつもいつも特別なのか。

 

 生まれながらにお前は全てを持っていた。

 呼吸も、透き通る世界も、痣も、全てはお前のお零れに過ぎない。

 私はお前の持つものが欲しくてたまらない。どれか一つでもお前に並びたい。

 唯一無二の太陽のように、お前に焦がれて手を伸ばし、消し炭になるまでもがき苦しんだ。

 だが、それでもお前には届かない。

 

 私はお前の兄だ。

 継国家の長男として努力をしたつもりだ。

 兄として弟であるお前を守るつもりでいた。

 疎まれ、母に縋る様を憐れみ、手を差し伸べたつもりだった。

 だが、お前は最初から私の手など必要としていなかった。

 

 私は一体何のために生まれてきたのだ。

 教えてくれ、縁壱……。

 

 

 ―――下らないね。生まれた意味のある生物なんているわけがないだろ?

 

 

 針鬼……いや、葉蔵か。

 何故貴様が私の夢に現れるかは聞かない。

 だが、意味がないとはどういうことだ。そこだけは答えてもらうぞ。

 

 

 ―――言葉通りさ。生物は意味があって生まれるんじゃない。勝手に生まれるんだ。

 

 ―――道端の石に意味はあるか? ないだろ? ただそこにあるという事実しかない。人も同じだ。

 

 ―――意味とはあるんじゃなくて付けるものだ。当人で勝手にルールを作って、勝手に納得すればいい。私もそうしている。

 

 

 なら葉蔵、お前は何のために戦っている?

 

 ―――楽しむため。敵と戦い、美味い血を得て、更なる高みに近づく事。その全てが楽しいからだ。

 

 ……つまり私と同じか。お前もまた、高みを望んで太陽に手を伸ばしているのだな。

 

 ―――う~ん、ちょっと違うね。

 

 ―――私の場合、貴方のように義務感や宿命とかはない。ただ自分がしたいからやってるだけだ。

 

 ………何?

 

 ―――私が思うに、貴方は縁壱に囚われているんだ。現にその血鬼術、本来なら剣に拘らない方がもっと強くなれるんじゃないのかい?

 

 ………。

 

 

 ―――貴方は鬼だ。上弦の壱の黒死牟だ。縁壱じゃない。なら、日の呼吸に拘らず、己の血鬼術に目を向けるべきじゃないか?

 

 

 

 

 ―――太陽が爛々と空を照らすように、月が優美に輝くように、それぞれの美しさというものが存在する。

 ―――獅子が鮫のように泳げるか?逆に鮫が獅子のように走れるか? 無理だ。どれだけ強くても、生物には得意分野が存在する。

 ―――他者や周囲に拘らず己の力を存分に発揮できる分野を見極め、ソレに没頭し夢中になる。これが人生を楽しむコツだと私は考えている。

 

 

 

 ―――己を存分に表現する。そのために私は戦っているんだ。

 

 

 

 ………己自身、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あの人大丈夫かな~?)」

 

 ふと、私は黒死牟について思いだしていた。

 

 上弦のトップ3とは何度か戦ったおかげでそれなりの会話はしている。

 特に、人間時代の記憶をハッキリ覚えている童磨と黒死牟とは話も多い。

 童磨は教祖としての自分、黒死牟は剣士としての自分をよく話してくれた。

 だから気がかりなんだいね……。

 

「(私のメッセージはちゃんと伝わったかな?)」

 

 針に込めたおまじないで三人の呪いを解いてやったが、新しい呪いは掛けてない。

 彼らは完全に自由。悪く言えば野放し状態だ。

 まあ、ソレが私の望んだことなのだが。

 

 私は三人を解放してやりたかった。

 彼らは鬼でありながら、生前の何かに縛られている。

 己はこう在らねばならない、己はこう振舞わねばならない。そんな枷に囚われているように、私には見えた。

 見えない枷に繋がられた者は皆同じだ。同じく見えない牢獄の中をぐるぐる回るばかりで、外に出られない。

 せっかく永遠ともいえる寿命があるのに、それではあまりにつまらないじゃないか。だから、牢獄と枷に罅を入れた。

 

 そう、本来なら誰かを縛る鎖なんて存在しないんだ。

 役割や責務などないし、そんなものに従う意味もない。

 生きたいように生きればいい。

 

 善人は善人として、悪人は悪人として。

 思うがままに生きるがいい。

 その方が本人も私も楽しいに決まっている。

 

 存分に自由を堪能しろ。

 私の都合に反しない限り、許してやる。

 

 もしソレでも枷に囚われたままなら……。

 

 

 

 

 その時は私の手で解放してやろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(何故……人が……!?)」

 

 突如、海原のような部屋に送られた人間たち。

 全員鬼殺隊の隊服を着ており、雁字搦めに縛られている。

 

「……ック!」

 

 黒死牟は隊士たちを抱え、水の上を目指す。

 荒れ狂う波に上手く乗り、迫り来る鉄砲水を切り裂きながら。

 多少のダメージを受けながらも、黒死牟は隊士を陸に引き上げた。

 

 ポツンと、島どころか四畳半ぐらいしかないスペース。

 三人ぐらいなら寝ころばせるには十分……とはいえなかった。

 

 この場は荒れ狂う水によって満たされている。

 たかが六畳ほどの足場など、軽く押し流す。

 

 

【月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮】

 

 

 迫り来る津波を斬る。

 前後左右、あらゆる方向から、無軌道かつ突発に襲い掛かるそれらを。

 気絶している隊士達を背に、黒死牟は剣を振るって守ってみせた。

 

「おのれ…このような…卑劣な真似を……!」

 

 鬼の頭領とは思えないような、姑息な手を使う無かつての主人を罵る黒死牟。

 けど仕方ないね、だって無惨だから。

 

「う…う~ん………」

「こ、ここはどこ!? なんでこんなとこにいるの!?」

「って、何で俺たち縛られてるの!?てか何で鬼がいるの!?」

 

 後ろの隊士たちの目が醒めた。

 全員狼狽しているが、今の黒死牟はソレに反応を返す余裕はない。

 ただひたすらに剣を振るって波から彼らを守る。

 

「お、俺たちを守っているのか?」

「じゃ、じゃあお前も針鬼と同じ類か!?」

「………似たようなものだ」

 

 とりあえず茶を濁す。

 ここで元上弦だと言っても良い結果にはならない。

 それに、今の彼は実際に葉蔵と同じ“自由な鬼”だから嘘でもない。

 

「私から…離れるな……」

 

 黒死牟はそれからも剣を振るう。

 高波を、渦潮を、鉄砲水を。

 あらゆる形で襲い掛かる水害から、隊士たちを守ってみせた。

 

 

【月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間】

 

 

 刀を振るう度に、超常の剣術が放たれる。

 その様はまるで御伽草子の英雄。

 常人にはない神通力を振るい、怪物を討伐する“特別”な者。

 只人では到底手の届かないような、天に輝く星の如き存在である。

 

 どれだけ優れた剣の達人でも、斬撃を飛ばすなんて芸当は出来ない。

 どれだけ剣術を極めても、波を斬るなんて芸当は出来ない。

 どれだけ優れた呼吸の剣士でも、この鬼の真似は出来ない。

 

 だからだろう、隊士の一人がポツリと零してしまった。

 

 

「選ばれた奴って、こういうのを言うんだろうな」

 

 

 

「!!?」

 

 そして、ソレは集中している筈の黒死牟を振り向かせるには十分な内容だった。

 

「……笑止千万。…この程度で…選ばれた存在等とは……」

 

 フッと、鼻で笑うかのように黒死牟は言い放った。

 

 彼は知っている、神仏に愛された本物の選ばれし者を。

 御伽草子や昔話に出てくるような、絶対無敵の英雄を。

 どれだけ焦がれ、手を伸ばしても届かない太陽を。

 

 

 

「はあ!? ソレって嫌味かよ!!?」

 

 だが、そんなものは、彼らには関係なかった。

 

 

 

「俺らがどんだけ努力してんのか分かってんのか!?毎日毎日血反吐吐くような訓練して!毎日毎日命懸けで戦って!毎日いっつも死ぬような目に遭ってんだよ!!」

 

「どんだけ努力しても、ちょっとしか強く成らねえし!全然苦労と釣り合ってねえ!なのに鬼はちょっと人間を喰うだけでバンバン強くなりやがってさあ!不公平なんだよ!!」

 

「お前はいいよなぁ!!強くて才能あって!その上で鬼なんだろ!?本当に不公平だわ!!お前みたいなのを選ばれた存在って言うんだろ!?じゃあ俺らの分まで戦ってくれよ!!」

 

 とある隊士の恨み節。

 汚い高音で叫び散らし、嫉妬と僻みがこれでもかと籠っている。

 とても命を救った恩人ならぬ恩鬼に向ける言葉ではない。

 もし、ここでへそを曲げられたら、戦えない自分たちは死ぬしかないというのに。

 他の隊士たちは焦るが……。

 

 

 

「………ップ、アッハッハッハ!」

 

 黒死牟は機嫌を悪くするどころか、大声で笑った。

 

「何がそんなにおかしいんだよ!?」

「いや何…お前には…私が特別に…見えると思ったらな……」

 

 隊士の汚い高音の叫び声を流しながら、黒死牟はふと昔を思い出す。

 そういえば、煉獄を始めとする柱たちも自分を羨んでいたな……。

 

「下がっていろ」

 

 突然、黒死牟の纏う空気が変わった。

 刃のようにヒリつく感覚。

 その尋常ではない様子に、汚い高音の隊士も黙って彼の背中を見つめる。

 

「(今なら…出来る気がする……!)」

 

 彼が夢見ていた剣技とはまた違う血鬼術による剣技。

 人としての剣ではなく、鬼としての、異形による血鬼術。

 月の呼吸よりも人間から外れ、縁壱でも再現不可能な超常現象。

 自身の肉体から刀を鞘に納めた状態で創り出し、居合の構えを取り……。

 

 

【月の呼吸 拾漆ノ型 叢雲の月明かり】

 

 

 一閃。

 横一文字に迫り来る波を切り裂く。

 途端、その軌道が何やら揺らめいた。

 

 

 空間が切り裂かれたのだ。

 

 

 裂け目の向こうにあるのは本来の世界。

 異界の壁を斬る事で、繋ぎ目を切り開いたのだ。

 

「お前ら…早く帰れ!」

「え…ちょ、え!?」

 

 ポイっと隊士達を穴に向かって投げる黒死牟。

 何か言ってるが知らん。今はそんなことに構ってる暇はない。

 怪我してるからもっと優しくしろ? それこそどうでもいい。剣士なら気合でなんとかしろ。

 さて、これでも邪魔者はいなくなった。後はあの鬼を倒し、この部屋から出るだけである……。

 

 

『惜しいことをしたな』

 

 突如、黒死牟の脳内に声が響いた。

 無惨の声である。

 どうやら何かしらの血鬼術で声を送っているようだ。

 

『先程の技で水鬼を斬っていれば、或いは切り目からお前が逃げればよかったものを。鬼に成っても人の命を優先するか、柱でありながら産屋敷の首を私に差し出したお前が』

「そうでは…ない…ただ…出来るから…やったまで。それに…まだ切り札は…温存している」

『何?』

 

 訝しむような声を出す無惨。

 そんな彼に構うことなく、黒死牟は先程いった切り札を使うために力を集中させる。

 

 

 

 

 

「修羅転変・羅睺」

 

 

 途端、黒死牟の姿が変化した




使命とは祝福であると同時に呪いでもあると私は思うんですよね。
煉獄さんは使命があるからこそ強く胸を張って生きれたし、炭治郎も長男としての使命があるからあれほど優しくて強い人間になれました。
その使命のせいで苦しんでいたのが黒死牟です。
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