鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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童磨が救済に拘っていたのは、彼にはそれしかなかったからではないでしょうか。
喜怒哀楽のない空っぽな彼にとって残された唯一の動力源であり、両親が残してくれたもの。まあ、彼の生涯をみるに、遺された想いという名の呪いに見えますが。


神吹雪

「ねえ針鬼、君は俺の考えに賛同してくれたよね?じゃあ何で俺の邪魔をするのかな?」

 

 とある月夜、葉蔵は女性を背後にして童磨と戦闘を繰り広げていた。

 もう何度目も経験した血鬼術合戦。

 こちらも向こうも手札は知り尽くしており、ソレを前提として戦略をくみ上げて披露。

 それだけ見知った仲であるせいか、戦闘中におしゃべりする余裕もある。

 鬼殺隊がいたら『もっと真面目にやれ』と激怒するような光景である。

 

「死は救いという考えか。確かに少しばかり理解出来るが、ソレは一部の人だけだ。死を求めている人にのみ限定しろ」

「だからこうして俺が生きる事の無意味さを説いた後に食べようとしてるんじゃないか」

「ふざけるな」

 

 葉蔵は弾を、童磨は氷をぶつけながら話を続ける。

 

「貴様の救いの押し売りだ。頼んでもないのに思考を押し付けるな。頼んでもないものを押し売りして金を取るような強盗や詐欺師と同じだ」

 

 

 

 

「心の底から救いを求めている者にだけお前の言う救いを与えてやれ。教祖をやっているなら、弱者の心の叫びが聞こえるだろ?」

 

 

 

「心……ねぇ」

 

 ハァと、ため息を付く童磨。

 怠そうな動作だが、彼の血鬼術の猛攻は健在である。

 

「やっぱり俺には理解出来ないや……」

 

 童磨は能面のような顔で更に血鬼術の勢いを強めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまり抵抗しない方がいいよ」

 

 能面のような表情で童磨は炎鬼を見下ろす。

 

 既に決着は付いた。

 炎鬼の鬼因子は氷によって封じられ、力を制限されている。

 周囲の炎は童磨の冷気によって消されたせいで操作出来ない。

 先程のような威力の血鬼術も、先程のようなパワーも出ない。

 童磨の勝利は決まったも同然。このまま戦況を維持すれば……。

 

「(……けっこう、キツイな)」

 

 …と、いうわけではなかった。

 

 粉凍り・極寒は通常の粉凍りと比べて倍以上に鬼因子を消費する。

 威力も性能も高く、遠隔操作という破格の能力のせいで、相応のエネルギーを消耗するのだ。

 操作もかなり神経を使う上に、炎鬼との戦闘も並行しなくてはいけない。

 

 かなりキツイ。

 どこぞの誰かさんは戦闘中に三つの行動を並行してやっていたが、そんなものを一つの脳で出来る鬼はソイツぐらいである。

 

「(やっぱり、アレを使うしかないのか?……いや、未完成の技を下手に使えば負けるのは俺の方になる)」

 

 

 パチンッ。

 

 童磨が攻めあぐねていると、突如指が鳴らされた。

 

 人質が投入された。

 女子供といった世間的に弱者とされる者たち。

 ソレに気づいた童磨はすぐさま血鬼術を発動させた。

 

 

【血鬼術 積雪の蓑】

 

 

 人質に向かって扇子を扇ぐ。

 途端、人質を雪のような物が覆った。

 童磨の血鬼術である。

 中にあるものを防御するための血鬼術。

 これで人質を気にすることなく戦闘を続行出来る……とはいえない。

 

 本来、この血鬼術は童磨が自身の身を守ることを想定して開発した血鬼術である。

 人間にそのまま使用すれば、低温によって凍えてしまう為、人間用の温度に調整しなくてはいけない。

 強度は大分下がり、そう長くも持たない。よって決着を急ぐ必要がある。

 

「(俺は優しいからね。皆を救ってやるのさ。頭の悪い人間たちも平等にね)」

 

 かつて葉蔵に言われた言葉。

 救いを求めてない者に救いの手を差し伸べても、決して救われない。

 嗚呼確かにその通りだ。頭の悪いまま、道理を理解出来ないまま死んでも、不幸なままだ。

 ちゃんと命の無意味さを理解してから、死んで幸せだと思ってからではないと救いにはならない。

 そうなるまで俺が守ってやる……。

 

「ん?」

 

 ふと、炎鬼の額部分に目が行った。

 炎の鎧に包まれていた際は気付かなかったが、その部分だけ人間の顔のようになっている。

 おそらく、人間の頃の名残だろう。

 分身達は有用な血鬼術を持つ鬼をベースにして作られたもの。

 少しぐらい元の人間のパーツがあってもおかしくはない。

 まあ、そこはいいのだ。問題は……。

 

 

 

「………こ…とは……?」

 

 その顔が琴葉に似ていることである。

 

 無論、顔の主は琴葉ではない。

 彼女は童磨がの骨も残さず喰らった。

 十数年は昔の話。よって他人の空似である。

 

「あ、あれ……?なんか…おかしいな……なんで、なんで俺、こんなに…頭が……」

 

 そのはずだが、童磨はひどく動揺していた。

 頭では分かっている、彼女の筈ではない、他人の空似だと。

 十分理解している。今は戦闘中であり、呆けている場合ではないと。

 しかし何故だ。頭が上手く回らない。不調とは無縁の筈である鬼の肉体が上手く機能してくれない。

 鬼に成るどころか、生まれて今まで感じた事のないような何か。一体コレは何だというのか……。

 

「ッグハ!?」

 

 呆けている隙に、炎鬼が童磨に爪を振り下ろした。

 気づいて咄嗟に防御しようとするも、既に遅し。

 炎を纏い、爪自体も高温を発する斬撃によって、童磨の半身は文字通り破壊された。

 極楽転生によって第二形態へと進化した童磨の頑強な肉体を、いとも簡単に砕いてみせたのだ。

 

「ック!」

 

 

【血鬼術 結晶ノ御子】

 

【血鬼術 寒烈の白姫】

 

 

 慌てて血鬼術を発動させて牽制。

 その間に急いで回復しながら距離を取る。

 徐々に修復される童磨の肉体。しかしダメージが大きいせいか、顔の部分は再生しきれず、半分だけ素顔を晒している。

 その表情には焦りが見えた。

 普段なら絶対にしない顔。

 流石の童磨もこの状況では仕方ない……。

 

「(……アレ、何で俺……慌てているんだ?)」

 

 やっと童磨は自分が慌てているという事に気づいた。

 人間の頃から感情の機微が一切ない自分が動揺している。

 無惨によって鬼にされた時も一切感情を動かさなかった自分が、初めて狼狽えている。

 一体コレはどういう事だ……?

 

「うわッ!?」

 

 咄嗟に回避行動へ出る。

 今度は相手に注意を向けていたおかげで回避に成功した。

 そして、そのせいで彼の目に入ってしまった……。

 

 

「たす……けて……。ころ、して……」

 

 助けを求める弱者の姿が。

 

 

「……そうか。じゃあ、俺が君を救ってやろう」

 

 童磨は満面の笑みでソレに応えた。

 

 極楽転生の鉄仮面が未だに再生しない右半分。

 弱点であるその部位を隠さず、彼は安心させるような優しい笑みを炎鬼に、正確に言えばその額にある女性に向ける。

 

 彼は教祖。

 救いを求める者を救う事こそ使命。

 なら、彼女を見捨てる道理などない。

 

「グオオオオオ!!」

 

 炎鬼が吠える。

 瞬間、その体内にあった粉凍り・極寒とのリンクが消えた。

 体内の温度を無理やり上げることで内部の異物を焼いたのだ。

 童磨が動揺して操作の手が止まった隙に、力を貯めて一気に放つことで、童磨の呪縛から解放されたのだ。

 

「グルウオオおおおおおおおおおおおおオオオ!!」

 

 これで炎鬼を縛る鎖はなくなった。

 炎鬼は再び思う存分に力を使える。

 それを証明するかのように、炎鬼は部屋を炎の海で包み込んだ。

 

 爆発するかのように拡がる炎。

 燃やすものはないというに、一気に周囲を燃え盛る火炎によって埋め尽くす。

 

「ぐ、うぅ……!!?」

 

 炎鬼の額にある女の顔が苦痛に歪む。

 高温が彼女の体内を焼いているのだ。

 

 炎鬼を含む無惨の分身体は素質のある鬼の肉体と血鬼術をベースにしておる。

 無惨の分身体が埋め込まれることでその肉体を乗っ取り、強力な鬼が生み出される。

 しかし、分身たちは力を完全にはコントロール出来てない。

 その膨大な力を持て余しており、時には自身にダメージを与える事があるのだ。

 術を使う度に内外共に体を焼かれ、地獄の責め苦のような苦痛を味合わされる。

 自身の身体だと言うのに、好き勝手に弄られ、他人に奪われ、そして自身の意志に関係なく戦わされれるのだ。

 彼女にとっては文字通り地獄の苦痛であろう。

 他の分身体達は元の意識なんてとっくに無くなったというのに何故彼女だけ……。

 

「……惨いな、無惨様は」

 

 心苦しそうに、童磨は泣きそうな顔をした。

 辛いだろう、苦しいだろう、早く楽になりたいだろう。

 いいよ、その望みは俺が叶えてあげる。救ってやるよ。

 

「(けど、あの凄まじい炎をどう対処するべきか……)」 

 

 童磨は苦笑いを浮かべる。

 

 彼にはもう時間も手段も残されていない。

 極楽転生と粉凍り・極寒によって大分力を消耗してしまった。

 再び粉凍り・極寒を炎鬼に盛る余力も、極楽転生を維持する体力も残されてはいない。

 詰み。このままではそう長くしないうちに童磨は倒れる……。

 

「……是非もなし、か」 

 

 フッと笑い、扇子を持つ両手を前に交差させ、四股を踏むように構える。

 莫大に膨れ上がる鬼の力。

 青みを帯びた銀色の光となり、童磨を中心にして円柱状に溢れ出る。

 

「ハァ~………」

 

 呼吸を整え、氷点下まで落ち着かせた思考によって膨大な力を支配下に置く。

 増幅、圧縮、調整。繰り返し、繰り返し…。

 

「グルウオオおおおおおおおおおおおおオオオ!!」

 

 童磨の異変を本能で察知したのか、炎鬼もまた力を

 四肢を踏みしめ、顎を限界まで広げて童磨に向ける。

 途端、炎鬼の牙に炎が集約されだした。

 力を溜めているのだ。

 

 これから放たれるのは今までの比にならない程の大技。

 この一撃を以てして、眼前の敵を焼き払う。

 

「まだ完成には程遠いけど……仕方ない」

 

 今から使う技は文字通りの必死技。

 針鬼という宿敵を倒すために、彼を真似て開発した奥義。

 本人は何のリスクもなく使っていた技だが、自分はそのレベルには到達できなかった。

 だが、やるしかない。なんとしてでも成功させるしかないのだ。

 

 相手は強い。

 数度しか経験がない格上との戦闘。

 だが敗北は出来ない。許されない。

 もう自分だけの戦いではないのだ。

 守るべきものが、救うべきものがいる。

 己の使命を全うするためにも、なとしてでも勝利しなくてはならない。

 たとえ、この身を犠牲にすることになっても。

 

「グオオオオオおオオオオオ!!」

 

 炎鬼の口から、灼光が溢れた。

 

 無理やり圧縮されてプラズマ化した炎。

 ビリビリと雷光を纏い、熱光線となって童磨に迫り来る。

 最早、ソレは自然現象の炎ではない。

 地獄の業火である。

 

 

「……いくよ」

 

 自身の死が迫っても無表情……いや、目に冷徹な闘気を秘めて眼前の敵を睨みつける。

 

 ビュオオと、童磨の周囲を冷気が渦巻く。

 ピキピキと、童磨の足元が冷気で凍て付く。

 ホワホワと、童磨の背後に冷気の後光が差す。

 より冷たく、より眩く、より大きく、より強く…。

 

 

 これから放つのは自然現象の冷気ではない。

 弱者を救う御仏の奇跡。

 正真正銘、必死の一撃である。

 

 

 

 

 

【血鬼術 冬尽きの抱擁】

 

 

 発動した瞬間、部屋の温度が消えた。

 

 

 

 吹き荒れる極寒の吹雪。

 炎鬼の熱線を一切の拮抗なく吹き飛ばし、一切の抵抗を許さず熱気を冷気へと変えた。

 

 圧倒的。

 比べる事すら馬鹿らしい程の火力差。

 あちらが灼熱地獄の業火だとするのなら、こちらは大紅蓮地獄。

 地獄としての格がまるで違う。

 もっとも、童磨のソレはあくまでも救うための技なのだが。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 

「ぐ…あぁ……」

 

 熱した鉄のような毛皮と爪牙が。

 溶岩のように滾る筋肉と鼓動が。

 燃え盛る烈火のような鬼の力が。

 吹雪によって一瞬で凍り付いた。

 

 

 

 

 

「あ、りがと……」

 

「どういたしまして」

 

 

 吹雪の中、童磨は微笑みながら砕けた。

 

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